闇夜に道連れ ~友哉とあきらの異常な日常~

緋川真望

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序章 友哉とあきらの異常な日常

(4) 友哉の目に見えないもの 後編

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 ベッドに横たわる友哉にすがりつくようにして、ハルは深呼吸を繰り返している。目がうっとりと潤んでいて、ちょっと危ない人みたいだ。

「ハルー、変態チックなことしてないで、これからどうするか教えろよ」
「倉橋友哉成分を補充しているのだ。もうちょっと待て」
「倉橋友哉成分って……ますます変態臭いじゃん」
「うるさい。毎日この清浄な空気を吸って暮らしているお前に言われたくない」
「清浄な空気を吸いたいなら、自分で結界作ればいいでしょ」
「結界で作り出す清らかな空間は、無色透明でパキパキに硬いのだ。倉橋友哉の周囲を流れる空気は、パステル絵の具で描かれた絵本のように柔らかくて温かい。……あ……ちょっと涙出てきた……」

 ハルはそっと指先で目尻を拭っている。

 車の中で眠ってしまった友哉は、軽くゆすっても目を覚まさなかったので、俺が抱き上げてホテルに入った。大浴場と大宴会場が売りの古い観光ホテルだったが、除霊済みのおかげで居心地は悪くない。

 ここは5階のデラックスツインという部屋だったが、あまりデラックスな感じはしない。ベッドとベッドの間にあるサイドテーブルには、年季の入った内線電話が乗っていて、型の古いテレビと、部屋の隅に小さな冷蔵庫がある。窓から見えるのはこのホテルの別館のコンクリートの壁で、山も田んぼも見えない。田の神に追われる身としては、無機質なコンクリートにむしろ安心感を覚えたけれど。

「最近の倉橋友哉の様子はどうだ?」
「ん-、あまり変わりないかな」
「何か足りないものは無いか? 欲しがっているものは?」
「はは、雪彦おじさんと同じこと言ってる」
「仕方なかろう。本人に聞いても、何も欲しがらないのだ」
「数ヶ月ごとに引っ越しするから、荷物は少ない方がいいんだよ。それに、毎回知らない土地に行けるってだけで、友哉はすごく満足してるし」

 俺はハルの反対側からベッドに腰かけ、友哉の手を握った。
 ハルが表現したように、柔らかな空気がぬくぬくと俺を包み込んでくる。

「あはっ、ほんとにパステルだ」
「そうだろう? 倉橋友哉は会うたびにきれいになるな」

 ハルの言う「きれい」は見た目のことではない。
 俺やハルや雪彦には分かるが、力の無い人には分からない美しさだ。

「なぁハル、もうこれ以上友哉に無理はさせるなよ」
「分かっている。あれはもう完全消去することに決めた」

 あまりにあっさりと言うので、少し心配になる。

「あれって、もとは神様だったものなんだよね? そんな簡単に消去できるのかよ」
「昇華させるより簡単だぞ」
「そういうものなの?」
「ああ。昇華させるには、信仰されていた当時のままにお祀り申し上げ、元神様に満足していただいてから手順通りに解体しなければならなかった。この地域は完全に信仰がすたれてしまっているから、下調べにも時間がかかっていてな。あれは田から山まで七つの鳥居と七つの祠を持っているということまでは分かったが、まだ儀式の全貌は分かっていないのだ。だが、消去させるだけならもう調べる必要もない。物理と霊力の力押しで済む」
「霊力は分かるけど、物理って?」
「ブルドーザーとかショベルカーとかの重機だな。鳥居も祠もご神体ごと全部潰す」
「まじ? 反撃されたりしない?」
「もちろんされるが、こちらも教団総出で対抗するさ。我らは本来、悪霊退治が専門だからな」

 土地の神として崇められてきた存在を、そのまま神として昇華させるか、悪霊として退治するのかをハルの一存で決めてしまう。それはどこか傲慢な気がするけど、あれは友哉の目に映らなかった。つまり意思疎通の出来ない、悪意の塊ということだ。祓ってしまうことに反対する理由はない。

 ハルは友哉のシャツをぎゅっとつかんで宙を睨んだ。

「悪霊に成り下がった分際で倉橋友哉を欲しがるとは言語道断、この蓮杖ハル様が塵ひとつ残さず消し去ってくれるわ!」
「わー、過激」

 俺がおどけて拍手すると、ハルはニヤリと唇の片端をつり上げる。

「ハルー、また悪い顔してるよ」
「なにぃ、まだ倉橋友哉成分が足りなかったか」

 ハルは軽い口調で笑ってから、友哉の胸にぽふっと頭を乗せた。
 他の女が友哉にべたべたするのは許せないが、なぜかハルが近寄るのはそこまで不快じゃない。多分、ハルの求めているものが肉欲とは無縁のものだからかもしれない。

「はぁ、愛しいなぁ、倉橋友哉。毎日会えれば良いのだがなぁ」
「ハルにはあげないよ」
「お前のものでもあるまい」
「俺のものだよ」
「は……?」
「友哉は俺のものなの。5歳の時からそうだったし、死ぬまでずっとそうだから。あ、違った。死んでからもそうだから」

 ハルは友哉の胸に頬を押し付けたまま、じとっと見上げてくる。

「倉橋友哉がそれを聞いたら何と言うか。お前の本性を教えてやりたいものだ」
「友哉は多分、なんだよそれって笑うだけだと思うけど」

 ハルはちょっと顔を上げて友哉の顔を見た。

「確かにな……」

 友哉は俺を本気で疑ったり、本気で怒ったり、本気で嫌ったりしたことが無い。幼馴染で親友で兄弟、俺と友哉は互いの存在が何よりも近いのだ。

「あけて」

 細い声がして、俺はふと窓の方を向いた。

「あけて」
「な……!」

 ぞわりと産毛が逆立つ。
 赤い帽子の女の子が、窓にべたっと両手をついて友哉を見ていた。

「あーけーてー」
「まじか、ここ何階だよ」
「5階だな」

 冷静にハルが答え、右手の人差し指と中指を立てて、窓を睨みつつベッドの前に進んだ。

「大雅、つゆくさ」

 小さく呼ぶと、式狼が友哉の左右に立つ。

「久豆葉あきら、お前にはあれがどう見える?」
「どうって、小学生くらいの女の子、みたいだけど……赤い服着て赤い帽子を被ってる」
「ほう、赤い帽子の女の子ねぇ」

 ハルが指を唇に持って行く。
 すぅっと息を吸うと、横に俺がいることを気にもせず唱え始める。

てんげんみょう……」
「痛って!」

 ビリビリと体が痺れる。
 俺の狼がきゃんと声を上げて俺の影に戻って来る。

ぎょうじんぺんつうりきしょう……」
「痛いって、ハル!」
「少しぐらい我慢しろ」

 ハルは冷たく言うと、また最初から同じ文言を唱えていく。

てんげんみょうぎょうじんぺんつうりきしょう……」
「いたたた……」

 全身にハルの声が刺さってくるのに耐えながら、友哉に寄り添う。
 窓の外の女の子の姿が、次第に崩れて泥になっていく。

「うわ、きも」

 見る間に泥人形のようになったそれは、形を保てなくなったようにグズグズと崩れて落ちていった。

 数秒、窓についた泥の手形を睨んでいたハルは、フッと力を抜いて振り返った。

「わざわざ田や山から離れた宿を選んだのにここまで来るとは……。執念を感じるな」
「車も靴も捨てて来たのに、やっぱ場所が分かっちゃうんだ」
「そうだな……倉橋友哉は清らかできれいすぎるのだ。あやつらからすると、遠くからでも光っているように見えるのだろう」

 ハルはバッグからスマートフォンを出すと、素早く操作してすぐにしまった。誰かにリンリンのメッセージを送ったらしい。

「宿を移すぞ。荷物をまとめろ」
「全部車の中だよ。今はスマホと財布しか持っていない」
「そうだったな。久豆葉あきら、その前に少し倉橋友哉を汚してやれるか?」
「汚す? 」
「倉橋友哉の光を鈍らせて、居場所が分かりにくいようにするのだ」
「って、何をする気だよ」

 ハルは愛しそうに友哉の髪を撫でる。

「そんなに難しいことではない。清らかすぎる魂をほんの少し濁らせるだけだ。ケダモノのお前なら簡単だろう」
「はあぁ? そりゃ友哉は俺に甘いから、泣いて頼めばやらせてくれるかもしれないけど、でもさぁ、そういう欲求が無い友哉にとっては、それってほぼ拷問じゃん? そんなひどいことを俺はでき……」
「何を勘違いしておる」

 バシッと頭を叩かれた。

「痛って!」
「誰も犯せなどと言ってはいない」
「え」
「お前の穢れた体液を飲ませるくらいで良いのだ」
「体液? はぁ? 体液とかいやちょっと、ほんとにそんなこと出来ないって」
「このスカタン!」
「痛った! つかスカタンってなに?」
「スカタンはスカタンだ! このまぬけ! 何やら下品なことを思い浮かべたらしいが、まったく違うぞ! 血液だ、血液でいい。ほんの数滴の血を飲ませるだけで、十分に汚れる。お前はケダモノの血を引いているからな」
「じゃぁ初めからそう言ってよ」
「お前がおかしな方向に想像したのが悪い」

 清らかな友哉を汚すとか体液を飲ませるとか言われたら、普通はそういう行為を思い浮かべると思うけれど、そんなことを言うとまたケダモノだと責められるだけなのでやめておいた。

「えっとじゃぁ、刃物ある?」
「自前で立派な牙を持っているだろう?」

 ハルは冷蔵庫を開けてミネラルウォーターを取り出し、俺の手に持たせた。

「指を噛んで、これに数滴たらせば良い」
「ハル、なんか冷たくない?」
「お前に優しくする必要があるか?」
「ひどい」
「倉橋友哉がきちんと手綱を握っていると思えばこそ、お前のような半妖を見逃してやっているのだ。退治しないだけで十分に優しいと思わないか?」
「へいへい、ハル様はお優しいことで」

 俺はペットボトルのふたを開けると、右の人差し指を尖った犬歯でプツリと噛んだ。指先を飲み口の上に持って行って、血をたらす。
 ぽとん、ぽとん、赤い液体が水に溶けていく。

「あきら」

 ふいに友哉の声に呼ばれた。

「あきら、怪我をしたのか?」
「え、友哉?」

 いつの間に目を覚ましたのか、ベッドの上に体を起こして、友哉は焦ったようにこっちに両手を伸ばしてくる。

「なんで? 血の臭いがする……!」
「え、分かるの? まぁちょっと指先切っただけでそんなにたいした傷じゃな……」

 言いながら近づくと、ベッドの上に立ち上がった友哉が急いでこちらへ来ようとしてぶつかり、ペットボトルを弾いた。

「あっ」

 ベッドの上に落ちたそれは、びしゃっと布団を濡らして転がっていく。
 自分も濡れたのに友哉はそのまま俺の手をつかんできて、ひどく動揺したように瞳をさまよわせた。

「どうしてだ」
「え、なにが?」
「何も見えない、真っ暗だ……!」
「え!?」
「あきら、大丈夫か? また『あれ』が……」
「ちょっと友哉、どうしたの?」
「『あれ』に襲われたのか?」

 友哉は何かから俺を守るように覆いかぶさってくる。

「倉橋友哉? どうした?」

 ハルが声をかけると、友哉の体がビクッと硬直した。
 見開かれた目がまた不安定に揺れて、急にハッとしたように俺から手を離した。

「……ハルさん……?」
「うむ、蓮杖ハルだ。あやつはとりあえず祓ったから、しばらく大丈夫だぞ」
「あ、俺」

 友哉がすとんと気が抜けたみたいにベッドに座り込む。蒼ざめていたその頬が、みるみる赤くなっていく。

「俺、夢を見ていたのか……」

 困ったように頬を押さえて、友哉は苦笑いした。

「うわ、こんなに盛大に寝ぼけたの初めて」

 俺とハルは顔を見合わせ、床まで転がったペットボトルを見る。
 血を混ぜた水はこぼれてしまった。

「ええと、夢って?」
「それより、あきら、どこを怪我したんだ?」
「ああ、右の人差し指だよ。こんなのなめときゃ治るから……」
「どれ、こっちに見せろ……っても、見えないんだけど」

 友哉は俺の右手を取ると、手探りで人差し指をつかんでためらいもなく口に含んだ。血を舐め取るように軽く吸うと、指をつかんだまま俺に言った。

「俺のスマホ取ってくれるか」
「う、うん」

 びっくりしながら渡すと、友哉はブック型のスマホカバーのカードポケットから絆創膏を取り出して、器用に指に巻いてくれた。

「痛くないか」
「え? えっと、大丈夫」

 俺とハルはまた顔を見合わせる。
 とにかく、血を飲ませるという目的は果たしたけれど。
 今ので効果があるのか確かめたくて目配せすると、ハルはなぜか少し赤面しながらうなずいた。

「で、では、行こうか」
「そうだね」
「どこか行くのか?」
「うん。友哉、ここにもあれが出たからまだ宿を変えるんだって。新しいスニーカー、ここにあるから」

 友哉の手を導いて、ベッド横に置かれたスニーカーに触らせる。

「うちのものが買ってきたからデザインは気に入らないかも知れないが、サイズはあっているはずだ」

 俺も友哉もハルに足のサイズを教えたことは無いんだけど、きっと雪彦からの情報なんだろう。

「俺はあんまりファッションとかに興味が無いので大丈夫です。ありがとうございます」

 ハルの方へ頭を下げて、友哉はスニーカーに足を入れる。
 失明する前は量販店の無難な服ばかりを着ていた友哉だけど、今着ているのは雪彦から贈られた数万円もするブランドもののポロシャツだ。雪彦も俺も値段を教えないので、友哉はそれを量販店の安物だと信じている。

「体調はどう? 歩ける?」
「ああ、大丈夫だ」

 友哉は立ち上がると、右手を前へ出した。俺はその手を取って、自分の腕をつかませる。

「着替えも買わなくちゃね。パンツも無いし」
「あ……! しまった、2時になったら引っ越しの業者が来ちゃうぞ」
「大丈夫だ。それもうちの教団で預かって置く。お前達はもうあのアパートへは近寄らない方が良いだろう」
「え、でもまだ近田さん夫婦と横山さんが」
「他の能力者に協力してもらうから、心配するな。倉橋友哉はまず自分の命を優先しろ」
「命って、そんな大げさな」

 友哉はあれの声が聞こえないから、自分の置かれた状況をあまり理解していない。だが、俺もハルも友哉が一番危ないということをわざわざ口にしなかった。
 友哉が怖がるところは見たくないからだ。

 ハルは友哉の肩にそっと手を置く。

「悪いが他の地域でもうひとつ、倉橋友哉に頼みたい案件があるのだ。あのアパートのことは中途半端で気になるだろうが、私に任せて、まずは体調を整えてくれないか」
「えっと、はい、分かりました」

 途惑った様子で、友哉はうなずいた。



 部屋を出て俺と一緒に廊下を歩きながら、友哉がふと思い出したようにくすっと笑った。

「なぁに? 思い出し笑い?」
「うん、自分でもおかしくって。さっき一瞬、自分がどこにいるのか分からなかったから」
「寝ぼけたっていうやつ? 何の夢を見てたの?」
「高校生だった頃のあきらと俺」
「高校生? なんで高校生?」
「だよな。俺ら、高校生だったのはたった数ヶ月だけだったのに」

 友哉はさらりと言ったけど、少し前を歩いているハルが痛ましそうな顔で友哉を振り返った。

「多分、あのアパートで女子高生に会ったからかもなぁ」
「そっか、あの制服、俺らの母校とちょっと似てたよね」
「ああ。夢の中では目が見えていて、しかもフルカラーだったから、起きた時に真っ暗でめっちゃ焦った。血の臭いがしてたし」

 俺は感情が溢れてこないように、ちょっと息を吸ってから答えた。

「……びっくりさせてごめんね」
「いや、傷が浅くて良かった」
「うん」
「あんな夢を見るとすごく不思議だ。今は『あれ』に襲われることも無いし、御前みさき市を出て色んな場所に住めるし、色んな人にも出会える。こんなに自由になれるなんて、あの時は思いもしなかったよな」
「うん……」

 俺は、友哉の目が見えなくなるなんて思いもしなかった。
 こんなことになるのなら、あのまま御前みさき市に閉じ込められていても良かったのに。

「あっ、別にあの頃が不幸だったわけじゃないけどさ」
「うん……」

 友哉は失明してしまっても体が弱くなってしまっても、現在の自分達は幸福であると本気で思っている。
 現実を受け入れられていないのは俺の方だった。

「高校生だった期間って、なんかすっげぇ怒涛の日々だったけど、今思うと楽しいことばかり思い出すんだよな。もう3年……いや4年前か、懐かしいなぁ。ま、あの頃も今も、俺はあきらと一緒にいるだけで毎日楽しいよ」
「うん、俺もー。あ、エレベーター来たよ」

 三人で乗り込むと、ハルが無言で九字を切った。密閉空間だから警戒したんだろう。俺は皮膚がピリピリして不快だったが、友哉の安全の為なので我慢していた。

「倉橋友哉。その話、もう少し詳しく教えてくれるか」
「高校生の頃のことですか」
「ああ、倉橋友哉の青春時代だな」
「青春って……。ハルさんが聞いて面白いような話じゃないですよ。俺達、ほぼ毎日ゲームか勉強しかしていなかったし。な?」
「うん、そうそう」

 その頃の俺はまだ、自分が100%人間だと信じて疑わなかった。父のことも母のことも知らなかったから。

「それで良い。好いた男のことは何でも知りたいのだ」
「またそんなこと言って。俺、女性にモテるような要素、ひとつも無いのに」

 チン、と音が鳴ってエレベーターが止まり、俺達はロビーへ出た。

「倉橋友哉は自分の魅力を何も分かっていないな。そこが愛しくもあるが」
「はぁ……」

 友哉が困ったように、曖昧に笑った。
 高校生になったばかりの頃の友哉なら、女性にアプロ―チをされたら喜んだかもしれない。でも、今の友哉は、恋愛もセックスも求めていない。

「困った顔をしなくてもよい。私は時々会ってくれて、話をしてくれたらそれで良いのだ」

 ハルの運転手が近付いて来て準備が出来たことを告げる。

「うちの教団の者がチェックアウトを済ませて車も用意している。次の宿につくまで、車の中でその昔話をしてくれないか」
「まぁ、いいですけど。あきらもいいか?」

 友哉が俺の方へ顔を向けてくる。
 友哉の高校時代について話すということは、俺の高校時代もハルに話すことになる。

「うん、いいよ」

 俺達だけの思い出をハルに聞かせるのはしゃくだったけど、俺も少し聞いてみたかった。友哉の目から見たあの頃の俺達、友哉の目から見た久豆葉あきらという存在のことを。



 さっきと同じ高級外車の後部座席に並んで座ると、ハルに促されて友哉が話し出した。

「ええと、まず言っておくと高校に入学した頃は俺とあきらの身長はほとんど変わらなかったんです。目線もちょうど同じくらいで」
「それがまず言っておくこと?」
「重要だろ?」
「ええー?」
「なんだよ」
「あの頃から俺が高かったよー」
「たった2、3センチだろ! あの頃の俺は絶対あきらより大きくなると信じていたんだけどなぁ」
「あはは、まぁ俺も自分がこんなに大きくなるとは思ってなかったかも」

 こんなに身長差が大きくなったのは、友哉の成長があの時点で止まってしまったせいだ。

「だろ? 俺も思わなかった。あの『甘えた』のあきらがこんなに大きくなるなんて」
「えー、俺、甘えただった?」
「今だって『甘えた』だろ? 体がどんなに成長しても、中身はあんま変わらないし」
「うーん、まぁ反論は出来ないかも」
「あはは、認めるようになったってことは、ちょっとは大人になったかもな」

 これから高校時代の話をする……つまり自分が失明した頃の話をするというのに、友哉の声は気楽で明るかった。

「あきらと俺は家が5分ぐらいの近所だったから、小っちゃい時からずっと一緒だったんです」
「幼馴染なのか」
「そうだよー。小・中・高って同じだったし、クラスが別れても行き帰りは絶対一緒に歩いたよね」
「あきらは帰り道とか、いっつも棒切れ持って俺のちょっと前を歩いてさ。ドラゴンハンターの真似とかしてたよな」
「ドラゴンハンター! なつかしいー。ゲームもアニメも大好きだった!」
「うん、俺も。新作発売されるとクリアするまで毎日夢中でやったよな」
「でも友哉は毎日、宿題終わるまでだめだって、なんか厳しかった」
「そりゃそうだよ。成績落ちると塾へ行けって言われるかも知れないだろ。そしたら一緒に遊べなくなるからな」
「うちは塾に行く余裕なかったしねー。そっか、じゃぁ俺の為だったんだ」
「うん、一緒に冒険したかったから」
「楽しかったよねー、あれ。ドラゴンハンター今日もゆく!ってやつ」
「目指すは遥か竜の城!」
「「速度は全速、いざ参る!」」

 声を合わせて言って、俺達はくすくす笑う。
 ハルが座席の間から、笑う友哉を愛しそうに見ていた。




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