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第一章 俺とあきらの異常な日常
1-(4) 境界線
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経済的余裕。
両親の言っていたその言葉の意味がよく分かった土曜日だった。
父さんの書斎だった部屋には、もとからあった机と本棚のほかに新しいベッドと新しいタンスが置かれ、もちろん新しいテレビとパソコンも用意された。
それから着替えとこまごまとした生活用品、それとスマートフォンまで買いそろえて、二人はあきらをうちに迎え入れた。
子供がひとり増えるって、けっこう物入りだ。
『俺達はもう大人だ』発言は、あきらを落ち着かせるために言ったものだったけど、両親に聞かれていなくて良かったと思う。実際に俺達はまだまだ親の世話になっている。
「ここ、俺の部屋?」
キラキラと目を輝かせるあきらに、父さんと母さんは嬉しそうにうなずく。
「足りないものがあったら遠慮なく言うんだよ」
「そうよ、あきら君はうちの子なんだからね」
両親はそう言ったが、あきらは正式には倉橋家の養子にならなかった。消えた母親が戻ってきた時に、母親と同じ姓の『久豆葉あきら』のままで会いたいと本人が望んだからだ。
あきらが母親への想いを口にするのを、俺はその時初めて聞いた。
失踪して10年以上連絡のひとつも寄越さない母親なのに、あきらは当然のように再会を信じている……。
同情と憤りとやるせなさを感じたけれど、俺は何も言わなかった。何を言ってもあきらを傷付けてしまいそうで、うまい言葉が見つけられなかったからだ。
俺は子供の頃にたった一度だけ、あきらの母親に会ったことがある。癖のないまっすぐな黒髪をなびかせた気の強そうな美人だった。俺は彼女と何か約束をした気がするんだけど、どこで会ってどんな話をしたのかはさっぱり覚えていない。黒々とした深い色の瞳が俺を見つめていたことだけが、強く印象に残っていた。
「おじちゃん、おばちゃん、ありがとう」
あきらは瞳を潤ませて、父さんと母さんに抱きついた。二人とも感極まったような顔をして、ひしっとあきらを抱きしめた。
あきらの叔母である早苗はあれ以来、姿を消している。
あのボロアパートの部屋には、アルバムや手紙のような個人的な品物はひとつも残されていなかった。父さんが大家に問い合わせたところ、一ヶ月分だけ前払いされていて、もう戻って来ないなら今月中に荷物をまとめて出て行くようにと言われたらしい。ついでに襖の修理代も請求されたそうだ。
あの時早苗が置いて行ったスマートフォンには、俺の番号のほかには高校と職場の番号しか登録されていなかった。職場の方にも連絡してみたけど、彼女の行方を知っている人は誰一人見つからなかった。
あまりにも手がかりが無さ過ぎるし、タイミングが良すぎると思う。早苗はもしかしたらずっと以前から、あきらを置いて出て行く機会をうかがっていたのかもしれない。
「友哉、これからは兄弟としてあきら君と仲良くな」
父さんが涙ぐんだ顔で、俺を振り返った。
「大丈夫よね。二人とも、とっても仲がいいもの」
「ちゃんと仲良くやるよ。俺もあきらと兄弟になるのは嬉しいし」
俺が笑顔を向けると、あきらもぱっと笑顔を見せる。
「うん、俺も嬉しい! 俺と友哉が兄弟なら、当然俺がお兄ちゃんだよね。弟が出来てすげぇ嬉しい!」
「はぁ? 俺が兄に決まってんだろ」
「何言ってんの、大きい方がお兄ちゃんに決まってる」
「常識的には生まれの早い方が兄だろうが!」
「早いったって、たった三日だろー!」
「そっちだって、たった2㎝だろ!」
「うー、この前の数学の小テストは俺の方が点数良かった!」
「歴史と国語は俺が上だった!」
「じゃぁ、次の中間テストで勝負しようよ! 総合順位が上の方が勝ちってことで」
「望むところだ。勝った方が兄、それでいいな」
「おー、男と男の勝負だ」
俺達は互いに拳を作って、コツン、グッ、パチンと合図を送った。
父さんと母さんがくすくす笑っている。
「その様子じゃ何の心配もなさそうだな」
「二人とも、7時には夕ご飯にするから降りてきてね」
俺とあきらが素直にはーいと返事すると、二人はまたくすくす笑いながら階段を降りて行った。
あきらが部屋の真ん中でくるりと一回転した。
「はぁー、なんかすげー。今日からここが俺の部屋かー、おりゃー!」
叫びながら勢いよくベッドにダイブする。
「うおー、ふかふかだー」
手足をバタバタさせるあきらを見て、俺もベッドの端に腰を下ろした。
「あきら、明日も学校休みだし、夜にいっぱいゲームできるな」
「ほんと? 夜にゲームしていいの?」
「勉強終わったら、あとは自由時間だろ」
「そっかー、で、なにやる?」
「ふっふっふ、ドラゴンハンターのⅢを買ってある」
「うっわ、マジ最高! じゃぁさじゃあさ、今夜は徹夜にチャレンジしてみていい?」
「あきらには無理だろ。すぐ寝るくせに」
「いいじゃん、もしも寝ちゃっても、明日もずーっとここにいれるんだし」
「確かにな。じゃぁ、せっかくだから、こっちの部屋の新しいテレビにプレグラつなごうか」
「いいねー、大画面」
「あ、それと、もしプレグラが欲しかったらあきら用にも同じの買ってもらうか? 」
「ううん、どうせ一緒に遊ぶんだし一台あればいいよ。コントローラーはふたつあるし」
「そりゃそうか。よっし、じゃぁ、今日は夜中にこっそり何か食べながらやろう」
「夜中に?」
「ああ、夜食にサンドイッチでも作るよ」
「すげー。俺、夜中にゲームをするのも夜食を食べるのも初めてだ。楽しみ過ぎる」
あきらは少し興奮しているのか、新しい枕をぎゅうぎゅう抱きしめている。
今まで何度も俺の部屋に泊まったことがあるけれど、いつも迫りくる『あれ』の気配に怯えていて遊ぶどころじゃなかったからだ。
「あきらってさ、なんか普通に素直だよな」
「なんだよそれ」
「だって、ドラマとかでこういうシチュエーションだとさ、なんつうか、ちょっと思春期こじらせた感じに拗ねたりするじゃん」
「あー、はいはい。あれだろ、同情するんじゃねーよ! とか?」
「そうそう、俺のことなんかほっとけよ! とか」
「あはは、それすっごく青春ドラマっぽい!」
「青春ドラマみたいな展開じゃん。友達と兄弟になるなんて」
「はは、言えてる」
あきらはポスポスと軽く枕を叩いて、元の位置に戻した。
「ん-でもさ、今さらじゃん。俺はもう十年以上もおばちゃんとおじちゃんのお世話になってるし、友哉のことはよーく知ってるし、俺のこともよーく知られすぎてて、こじれる余地がないっつーか」
「まぁな。今までだって兄弟みたいな感じだったもんな」
「そういうこと、ま、俺がお兄ちゃんだけど」
「まだ言うか」
何だか無性に笑いが込み上げてきて、俺とあきらは馬鹿みたいに笑いあった。
体中に巻かれた包帯が無ければ、普通の、一般的な、何の問題も無い高校生みたいだなと、頭の片隅で思っていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あー、やっぱりかー」
一週間後、大型連休のただなかに、港にあるフェリー乗り場の赤い文字看板の前で、あきらはがっかりした声を出した。
もとは漁師町だったここら辺はまだかなり昭和な風景が残っている。けれど、その一角がじわじわと開発されてきていて、にょっきりと立つタワーマンションがものすごく場違いな雰囲気を醸し出していた。
二人とも歩きやすい格好で、背中にリュックを背負っている。
首元や袖の間から白い包帯が見えるけど、あきらはもうすっかり元気そうだ。俺は耳から頭へかけて巻かれた包帯を隠すように、大きめのパーカーを着てフードをかぶっていた。
「全便欠航ってなんでだよー」
チケット売り場に理由を聞きに行っても、あまり意味は無いだろう。天候悪化の予報が出ているとか、エンジントラブルだとか原因は色々と有り得るけど、俺達がここを立ち去ればその原因は取り除かれる。きっと俺達がここに留まっている限り、いつまでも『欠航』の文字は消えないんだと思う。
俺は地図を広げてフェリー乗り場のところに赤ペンで×印をつけた。
茶色がかった髪を潮風になびかせ、あきらが覗き込んでくる。
「市内循環バスだと全部のバス停に行けたけど、電車では御前と一乃峰の間しか移動できなかったから、俺達はやっぱ御前市から出られないってことかなぁ」
「いや、一乃峰駅は実は隣の三乃峰市にほんのちょっとはみ出しているんだ」
俺はあきらに分かりやすいように指で地図の上をなぞってみせる。
「おお、ほんとだ」
「だから俺達を閉じ込める境界線は、市と市の境じゃないってことだ。まずはどこまで行けるのか正確に知りたい」
「うん、でもバスも電車も試したし……」
「タクシーも試してみる」
「え? 俺、金無いよ」
「大丈夫。お年玉を貯めてあるからそれを使う」
「いいの? 友哉は欲しいものとかないの?」
「うーん、市外に出られたらあのテーマパークに行ってみたいけど」
「それは俺も行きたい」
「でもこのままだと、どうせ効くかどうかも怪しい魔除けグッズをまた買っちゃうだけだと思うし。『あれ』の攻略のために有効活用した方がずっといいだろ」
「あはは、確かに」
もう一度、二人で地図の上に目を落とす。
俺達の住む御前市は一応東京の郊外と呼べなくもないところにあって、頑張って早起きして始発に乗れば某有名テーマパークに日帰りで遊びに行けるくらいの距離にある。
俺とあきらはもちろん行ったことが無いけれど、たまにクラスメイトから、かわいいパッケージのチョコレートをお土産にもらうことがあった。正直うらやましくて、『あれ』を攻略したあかつきには、絶対に二人でそのテーマパークに遊びに行こうと思っている。
そう、攻略だ。
『呪いをとく』って言うとなんだか怖いので、俺は『あれを攻略する』と言い換えている。
その攻略の第一歩として、俺は御前市の詳細な地図を買った。地図は思っていたより高かったけれど、どこにも出かけられない俺はお小遣いもお年玉も使う機会が無いからどんどん貯まっている。だから、攻略のための軍資金はけっこうあるのだ。
改めて御前市を地図で見てみると、正方形に近い形をしていた。でも、北と南に山があるせいで、人の住む地域は東西に細長い。西へ行くほど田んぼと畑が多くなり、東へ行くほど賑やかになってそれなりに大きな繁華街と港がある。
俺達の家と小・中・高校は真ん中より西側にあって、かなり長閑な環境にあった。西側に住んでいる子供は、東側の繁華街へ行くことを『マチへ行く』と言う。おしゃれな店でおしゃれな服を選ぶのも、ちょっと背伸びしてカフェや映画館に行くのも、西側の子供は全部マチで初めて経験する。
子供の頃はバスに乗って『マチへ行く』というだけで、ものすごい大冒険だった。高校生になった今では、同級生達が渋谷、原宿、表参道だのとキラキラした場所へ繰り出す中で、俺達はいまだにマチ以上に遠い所へ行ったことが無い。ここから出られない俺とあきらにとっては、東京だろうがニューヨークだろうが同じくらいに遥かな異世界だった。
「とりあえず、今日はどこに行こうか? 東側はフェリー乗り場より先に行けないみたいだから、西側はどこまで行けるのか探ってみるか? 北と南は登山つうかハイキングコースを歩くことになるだろうから今は無理かな」
「なんで? ハイキングいいじゃん」
「いや、もうちょっと怪我が治ってからじゃないと山道は無理だろ」
「ええ、俺はぜんぜん平気だよ。友哉って怪我の治りが遅いよなー」
「お前が異常に早いんだよ」
「そうかなぁ」
あきらは空に向かって大きく両腕を上げて、うーんと伸びをした。
「今日、すっげーいい天気!」
「ああ、こんなに快晴なのにフェリーが止まるって何なんだろうな」
「な、な、友哉、良いこと思いついた。まずはお弁当食べよー」
あきらはペシペシと自分のリュックを叩いた。
その中には、母さんが用意した俺とおそろいの弁当箱が入っている。
「もう腹減ったのか?」
「だってせっかくここまで来たんだから、海を眺めながら食べたいじゃんか。あっ、絶景ポイント発見!」
「は?」
「ほら、あそこの堤防! 堤防の端っこまできょーそー! よーい、ドン!」
と言うなり、あきらはリュックの紐をつかんでわーっと走り出した。
「お、おい」
あんなに走ったら弁当のおかずはきっとグチャグチャだ。やっぱりあきらの中身は小学生のままだと思いながら仕方なく追いかける。
海に突き出した堤防の先端付近には、何人か釣り糸を垂らしている人達がいる。あきらはその人達のいる方へ向かって軽やかに走っていき、ふいに弾かれるように後ろへ転んだ。
「うあ!」
あきらのあげた声に、釣り人が何事かと振り返るのが見えた。
「あきら!?」
ゆっくり走っていた俺はびっくりして速度を上げる。
うずくまったあきらのすぐそばまで来たところで、俺も思わず声を上げた。
「え、なん、え?」
前に進めない。
あきらがぽかんとした顔で、両手を前に出す。そしてパントマイムみたいに、手のひらを横にすべらせていく。
俺も同じように両手を前に出した。
「あ……?」
「なにこれ、空気の壁みたい」
あきらの言葉は、この現象をうまく表している。何か硬いものがあるわけじゃないのに、そこに強い圧力を感じて前に行けない。まさに空気の壁だ。
「どうした、坊主」
一人のおじさんが釣竿を置いて、こっちに歩いてくる。
座り込んで呆然と動かないあきらを心配してくれたらしい。
「なんだか顔色悪いぞ。具合悪いなら病院連れて行くか?」
おじさんの後ろから、他の釣り人も気がかりな様子でこちらに近づいて来る。
会ったばかりなのに、すごく親切な人達だ。
「い、いえ、大丈夫です。これはちょっとしたその……」
なんて言おうか?
立ちくらみ? 熱中症? いやまだぜんぜん暑くないし。
「えっと、貧血ぎみなので、休めば大丈夫です。……大丈夫だよな?」
苦しい言い訳をして見下ろすと、あきらもこくりとうなずいて立ち上がった。
「ぜんぜんだいじょーぶ」
「そうか? 遠慮しなくていいんだぞ」
「うん、おじさん達ありがと。もう平気」
ニカッと歯を見せて笑うあきらを見ておじさん達は安堵したらしく、口々に気をつけろよと言いながら堤防の先端の方へ戻って行った。
その後ろ姿を目で追いかける。彼らは何の抵抗もなく、俺達が行けなかった見えない壁の向こうへと歩いて行く。
「あー……これって……つまり、境界線なのか……」
かすれた声であきらが弱く呟く。
「ああ。こんなにはっきりと存在するんだな」
ほかの釣り人の前には何の障害物も無いというのに、俺達の前にだけ見えない空気の壁が立ちふさがる。閉じ込められているという現実を突きつけられた気がして、なんだか息が苦しくなってくる。
「友哉、戻ろう」
あきらはぐいっと俺の腕をつかんだ。
「あ、ああ、そうだな」
あきらに引っ張られるようにしてフェリー乗り場の前まで戻ると、俺はまた堤防の先に目を向ける。
俺達が行けない向こう側。
俺達を拒む境界線の壁。
あきらはまだ俺の腕をつかんでいて、その力がけっこう強くて痛いくらいなんだけど、俺は振り払わずにそのままにさせていた。
きっとあきらもショックを受けているから。
「なぁ、あきら……」
「うん。これでひとつだけはっきり分かったじゃん」
「え、何が」
「今まで電車とかバスとか、あとフェリーとかが止まったりして、有り得ないほどの運の悪さでここから出られないだけかもしれないって、ちょっと淡い期待があったんだけどさ。まぁ、それは違うってはっきり分かった」
「そうだな、運は関係ない。何かの大きな力で、くっきりと境界線が引かれているんだ」
「うん、すごく大きな力だね……」
あきらは俺の両手をぎゅうっと握ってきた。
「怖いのか、あきら」
「うん、怖い。友哉もでしょ」
俺もあきらの手を同じくらい強く握り返す。互いが互いの命綱みたいに。
「俺はずっと……子供の頃からずっと怖いよ」
「俺もおんなじ」
あきらはなぜか、俺を見てニコッと笑った。
「俺、友哉と暮らせてすごく嬉しいんだ」
「なんだよ、いきなり」
「おじちゃんとおばちゃんもすごく優しいし、友哉といると楽しいし。毎日授業が終わって、倉橋のあの家に帰っていいんだって思うとすごく安心するよ。だからこれから先もずっと、ずっとずーっと大人になっても、俺は友哉のお兄ちゃんとして友哉を守っていくよ」
「あきら……」
一瞬感動しそうになったけど、俺は聞き捨てならない言葉に気付いてピクリと眉を上げた。
「んん? ちょっと待て。何をしれっと兄貴面しているんだ。俺の方が兄だろう?」
「ええ、まだそれ言う?」
「それはこっちのセリフだ!」
つないでいるあきらの手を乱暴にはずして、リュックから地図を出すと、俺は堤防の真ん中あたりに赤ペンでぐいぐいと線を引いた。
「まずは、東の端がここってことだよな」
「うん」
「ちゃんと確かめよう。この境界線がどこにどういう風に引かれているのか。丸いのか四角いのか、まさかの星型なのか、本当にどこにも抜け道が無いのか」
「俺もちゃんと知りたい。でも、今はそれよりも」
「それよりも?」
「なんかめちゃくちゃ腹減ってきたー。おばちゃんのお弁当早く食べよう」
「はぁ? 相変わらずだなお前」
平常運転のあきらにホッとしながら、もう一度地図を見る。
堤防の絶景ポイントで食べるのは不可能だったから、せめて景色の良いところを近場で探したい。
「ええと、じゃぁここは? すぐ近くに公園がある」
「いいね、公園でお昼なんて遠足みたいじゃん。海を見ながら食べられるかな」
「少し高台になっているから、海も見えるんじゃないか」
俺達は公園に向かってゆるい坂道を登り始めた。
少し前を歩くあきらの髪が、揺れるたびに日の光を反射してキラキラしている。もしかしたら、あきらの父親というのは外国人なのかもしれない。あきらの髪は、日本人の黒髪とはだいぶ質感が違うような気がした。
「本日のっ、お弁当のっ、おっかっずっわっ、なんじゃろなっ」
あきらは変な節を付けながら、坂道をぴょんぴょん跳ねていく。
「母さん、今朝ピーマンの肉詰め作っていたぞ」
「うっ、ぴーまん……」
急に足を止め、あきらは情けない顔で俺を振り返った。
「なんだよあきら、高校生になってもまだピーマンだめなのか」
「いや、大丈夫。ピーマンぐらい食べられないこともないこともないかも知れない」
「どっちだよ」
「ううーん」
あきらが心底困った顔をするから、俺はついつい笑ってしまう。
「しょうがないな。せめて一個は頑張って食べろ。残りはピーマンだけ俺が食べてやるから」
「ほんと? おばちゃんには内緒ね」
「ああ、内緒だ」
俺がこぶしを握って差し出すと、あきらもこぶしを握ってコツンとぶつけてくる。ぐっと指を握り合い、手を広げてパチンと合わせる。
コツン、グッ、パチン、子供の頃からの俺達の友情の合図。
ちょっと照れたように笑って、あきらはまた走り出した。
天気のいい休日に海の見える公園で弁当を食べる。それって、本当に遠足みたいだ。俺とあきらは少しの間だけ、本来の目的を忘れて遠足気分を味わった。
両親の言っていたその言葉の意味がよく分かった土曜日だった。
父さんの書斎だった部屋には、もとからあった机と本棚のほかに新しいベッドと新しいタンスが置かれ、もちろん新しいテレビとパソコンも用意された。
それから着替えとこまごまとした生活用品、それとスマートフォンまで買いそろえて、二人はあきらをうちに迎え入れた。
子供がひとり増えるって、けっこう物入りだ。
『俺達はもう大人だ』発言は、あきらを落ち着かせるために言ったものだったけど、両親に聞かれていなくて良かったと思う。実際に俺達はまだまだ親の世話になっている。
「ここ、俺の部屋?」
キラキラと目を輝かせるあきらに、父さんと母さんは嬉しそうにうなずく。
「足りないものがあったら遠慮なく言うんだよ」
「そうよ、あきら君はうちの子なんだからね」
両親はそう言ったが、あきらは正式には倉橋家の養子にならなかった。消えた母親が戻ってきた時に、母親と同じ姓の『久豆葉あきら』のままで会いたいと本人が望んだからだ。
あきらが母親への想いを口にするのを、俺はその時初めて聞いた。
失踪して10年以上連絡のひとつも寄越さない母親なのに、あきらは当然のように再会を信じている……。
同情と憤りとやるせなさを感じたけれど、俺は何も言わなかった。何を言ってもあきらを傷付けてしまいそうで、うまい言葉が見つけられなかったからだ。
俺は子供の頃にたった一度だけ、あきらの母親に会ったことがある。癖のないまっすぐな黒髪をなびかせた気の強そうな美人だった。俺は彼女と何か約束をした気がするんだけど、どこで会ってどんな話をしたのかはさっぱり覚えていない。黒々とした深い色の瞳が俺を見つめていたことだけが、強く印象に残っていた。
「おじちゃん、おばちゃん、ありがとう」
あきらは瞳を潤ませて、父さんと母さんに抱きついた。二人とも感極まったような顔をして、ひしっとあきらを抱きしめた。
あきらの叔母である早苗はあれ以来、姿を消している。
あのボロアパートの部屋には、アルバムや手紙のような個人的な品物はひとつも残されていなかった。父さんが大家に問い合わせたところ、一ヶ月分だけ前払いされていて、もう戻って来ないなら今月中に荷物をまとめて出て行くようにと言われたらしい。ついでに襖の修理代も請求されたそうだ。
あの時早苗が置いて行ったスマートフォンには、俺の番号のほかには高校と職場の番号しか登録されていなかった。職場の方にも連絡してみたけど、彼女の行方を知っている人は誰一人見つからなかった。
あまりにも手がかりが無さ過ぎるし、タイミングが良すぎると思う。早苗はもしかしたらずっと以前から、あきらを置いて出て行く機会をうかがっていたのかもしれない。
「友哉、これからは兄弟としてあきら君と仲良くな」
父さんが涙ぐんだ顔で、俺を振り返った。
「大丈夫よね。二人とも、とっても仲がいいもの」
「ちゃんと仲良くやるよ。俺もあきらと兄弟になるのは嬉しいし」
俺が笑顔を向けると、あきらもぱっと笑顔を見せる。
「うん、俺も嬉しい! 俺と友哉が兄弟なら、当然俺がお兄ちゃんだよね。弟が出来てすげぇ嬉しい!」
「はぁ? 俺が兄に決まってんだろ」
「何言ってんの、大きい方がお兄ちゃんに決まってる」
「常識的には生まれの早い方が兄だろうが!」
「早いったって、たった三日だろー!」
「そっちだって、たった2㎝だろ!」
「うー、この前の数学の小テストは俺の方が点数良かった!」
「歴史と国語は俺が上だった!」
「じゃぁ、次の中間テストで勝負しようよ! 総合順位が上の方が勝ちってことで」
「望むところだ。勝った方が兄、それでいいな」
「おー、男と男の勝負だ」
俺達は互いに拳を作って、コツン、グッ、パチンと合図を送った。
父さんと母さんがくすくす笑っている。
「その様子じゃ何の心配もなさそうだな」
「二人とも、7時には夕ご飯にするから降りてきてね」
俺とあきらが素直にはーいと返事すると、二人はまたくすくす笑いながら階段を降りて行った。
あきらが部屋の真ん中でくるりと一回転した。
「はぁー、なんかすげー。今日からここが俺の部屋かー、おりゃー!」
叫びながら勢いよくベッドにダイブする。
「うおー、ふかふかだー」
手足をバタバタさせるあきらを見て、俺もベッドの端に腰を下ろした。
「あきら、明日も学校休みだし、夜にいっぱいゲームできるな」
「ほんと? 夜にゲームしていいの?」
「勉強終わったら、あとは自由時間だろ」
「そっかー、で、なにやる?」
「ふっふっふ、ドラゴンハンターのⅢを買ってある」
「うっわ、マジ最高! じゃぁさじゃあさ、今夜は徹夜にチャレンジしてみていい?」
「あきらには無理だろ。すぐ寝るくせに」
「いいじゃん、もしも寝ちゃっても、明日もずーっとここにいれるんだし」
「確かにな。じゃぁ、せっかくだから、こっちの部屋の新しいテレビにプレグラつなごうか」
「いいねー、大画面」
「あ、それと、もしプレグラが欲しかったらあきら用にも同じの買ってもらうか? 」
「ううん、どうせ一緒に遊ぶんだし一台あればいいよ。コントローラーはふたつあるし」
「そりゃそうか。よっし、じゃぁ、今日は夜中にこっそり何か食べながらやろう」
「夜中に?」
「ああ、夜食にサンドイッチでも作るよ」
「すげー。俺、夜中にゲームをするのも夜食を食べるのも初めてだ。楽しみ過ぎる」
あきらは少し興奮しているのか、新しい枕をぎゅうぎゅう抱きしめている。
今まで何度も俺の部屋に泊まったことがあるけれど、いつも迫りくる『あれ』の気配に怯えていて遊ぶどころじゃなかったからだ。
「あきらってさ、なんか普通に素直だよな」
「なんだよそれ」
「だって、ドラマとかでこういうシチュエーションだとさ、なんつうか、ちょっと思春期こじらせた感じに拗ねたりするじゃん」
「あー、はいはい。あれだろ、同情するんじゃねーよ! とか?」
「そうそう、俺のことなんかほっとけよ! とか」
「あはは、それすっごく青春ドラマっぽい!」
「青春ドラマみたいな展開じゃん。友達と兄弟になるなんて」
「はは、言えてる」
あきらはポスポスと軽く枕を叩いて、元の位置に戻した。
「ん-でもさ、今さらじゃん。俺はもう十年以上もおばちゃんとおじちゃんのお世話になってるし、友哉のことはよーく知ってるし、俺のこともよーく知られすぎてて、こじれる余地がないっつーか」
「まぁな。今までだって兄弟みたいな感じだったもんな」
「そういうこと、ま、俺がお兄ちゃんだけど」
「まだ言うか」
何だか無性に笑いが込み上げてきて、俺とあきらは馬鹿みたいに笑いあった。
体中に巻かれた包帯が無ければ、普通の、一般的な、何の問題も無い高校生みたいだなと、頭の片隅で思っていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あー、やっぱりかー」
一週間後、大型連休のただなかに、港にあるフェリー乗り場の赤い文字看板の前で、あきらはがっかりした声を出した。
もとは漁師町だったここら辺はまだかなり昭和な風景が残っている。けれど、その一角がじわじわと開発されてきていて、にょっきりと立つタワーマンションがものすごく場違いな雰囲気を醸し出していた。
二人とも歩きやすい格好で、背中にリュックを背負っている。
首元や袖の間から白い包帯が見えるけど、あきらはもうすっかり元気そうだ。俺は耳から頭へかけて巻かれた包帯を隠すように、大きめのパーカーを着てフードをかぶっていた。
「全便欠航ってなんでだよー」
チケット売り場に理由を聞きに行っても、あまり意味は無いだろう。天候悪化の予報が出ているとか、エンジントラブルだとか原因は色々と有り得るけど、俺達がここを立ち去ればその原因は取り除かれる。きっと俺達がここに留まっている限り、いつまでも『欠航』の文字は消えないんだと思う。
俺は地図を広げてフェリー乗り場のところに赤ペンで×印をつけた。
茶色がかった髪を潮風になびかせ、あきらが覗き込んでくる。
「市内循環バスだと全部のバス停に行けたけど、電車では御前と一乃峰の間しか移動できなかったから、俺達はやっぱ御前市から出られないってことかなぁ」
「いや、一乃峰駅は実は隣の三乃峰市にほんのちょっとはみ出しているんだ」
俺はあきらに分かりやすいように指で地図の上をなぞってみせる。
「おお、ほんとだ」
「だから俺達を閉じ込める境界線は、市と市の境じゃないってことだ。まずはどこまで行けるのか正確に知りたい」
「うん、でもバスも電車も試したし……」
「タクシーも試してみる」
「え? 俺、金無いよ」
「大丈夫。お年玉を貯めてあるからそれを使う」
「いいの? 友哉は欲しいものとかないの?」
「うーん、市外に出られたらあのテーマパークに行ってみたいけど」
「それは俺も行きたい」
「でもこのままだと、どうせ効くかどうかも怪しい魔除けグッズをまた買っちゃうだけだと思うし。『あれ』の攻略のために有効活用した方がずっといいだろ」
「あはは、確かに」
もう一度、二人で地図の上に目を落とす。
俺達の住む御前市は一応東京の郊外と呼べなくもないところにあって、頑張って早起きして始発に乗れば某有名テーマパークに日帰りで遊びに行けるくらいの距離にある。
俺とあきらはもちろん行ったことが無いけれど、たまにクラスメイトから、かわいいパッケージのチョコレートをお土産にもらうことがあった。正直うらやましくて、『あれ』を攻略したあかつきには、絶対に二人でそのテーマパークに遊びに行こうと思っている。
そう、攻略だ。
『呪いをとく』って言うとなんだか怖いので、俺は『あれを攻略する』と言い換えている。
その攻略の第一歩として、俺は御前市の詳細な地図を買った。地図は思っていたより高かったけれど、どこにも出かけられない俺はお小遣いもお年玉も使う機会が無いからどんどん貯まっている。だから、攻略のための軍資金はけっこうあるのだ。
改めて御前市を地図で見てみると、正方形に近い形をしていた。でも、北と南に山があるせいで、人の住む地域は東西に細長い。西へ行くほど田んぼと畑が多くなり、東へ行くほど賑やかになってそれなりに大きな繁華街と港がある。
俺達の家と小・中・高校は真ん中より西側にあって、かなり長閑な環境にあった。西側に住んでいる子供は、東側の繁華街へ行くことを『マチへ行く』と言う。おしゃれな店でおしゃれな服を選ぶのも、ちょっと背伸びしてカフェや映画館に行くのも、西側の子供は全部マチで初めて経験する。
子供の頃はバスに乗って『マチへ行く』というだけで、ものすごい大冒険だった。高校生になった今では、同級生達が渋谷、原宿、表参道だのとキラキラした場所へ繰り出す中で、俺達はいまだにマチ以上に遠い所へ行ったことが無い。ここから出られない俺とあきらにとっては、東京だろうがニューヨークだろうが同じくらいに遥かな異世界だった。
「とりあえず、今日はどこに行こうか? 東側はフェリー乗り場より先に行けないみたいだから、西側はどこまで行けるのか探ってみるか? 北と南は登山つうかハイキングコースを歩くことになるだろうから今は無理かな」
「なんで? ハイキングいいじゃん」
「いや、もうちょっと怪我が治ってからじゃないと山道は無理だろ」
「ええ、俺はぜんぜん平気だよ。友哉って怪我の治りが遅いよなー」
「お前が異常に早いんだよ」
「そうかなぁ」
あきらは空に向かって大きく両腕を上げて、うーんと伸びをした。
「今日、すっげーいい天気!」
「ああ、こんなに快晴なのにフェリーが止まるって何なんだろうな」
「な、な、友哉、良いこと思いついた。まずはお弁当食べよー」
あきらはペシペシと自分のリュックを叩いた。
その中には、母さんが用意した俺とおそろいの弁当箱が入っている。
「もう腹減ったのか?」
「だってせっかくここまで来たんだから、海を眺めながら食べたいじゃんか。あっ、絶景ポイント発見!」
「は?」
「ほら、あそこの堤防! 堤防の端っこまできょーそー! よーい、ドン!」
と言うなり、あきらはリュックの紐をつかんでわーっと走り出した。
「お、おい」
あんなに走ったら弁当のおかずはきっとグチャグチャだ。やっぱりあきらの中身は小学生のままだと思いながら仕方なく追いかける。
海に突き出した堤防の先端付近には、何人か釣り糸を垂らしている人達がいる。あきらはその人達のいる方へ向かって軽やかに走っていき、ふいに弾かれるように後ろへ転んだ。
「うあ!」
あきらのあげた声に、釣り人が何事かと振り返るのが見えた。
「あきら!?」
ゆっくり走っていた俺はびっくりして速度を上げる。
うずくまったあきらのすぐそばまで来たところで、俺も思わず声を上げた。
「え、なん、え?」
前に進めない。
あきらがぽかんとした顔で、両手を前に出す。そしてパントマイムみたいに、手のひらを横にすべらせていく。
俺も同じように両手を前に出した。
「あ……?」
「なにこれ、空気の壁みたい」
あきらの言葉は、この現象をうまく表している。何か硬いものがあるわけじゃないのに、そこに強い圧力を感じて前に行けない。まさに空気の壁だ。
「どうした、坊主」
一人のおじさんが釣竿を置いて、こっちに歩いてくる。
座り込んで呆然と動かないあきらを心配してくれたらしい。
「なんだか顔色悪いぞ。具合悪いなら病院連れて行くか?」
おじさんの後ろから、他の釣り人も気がかりな様子でこちらに近づいて来る。
会ったばかりなのに、すごく親切な人達だ。
「い、いえ、大丈夫です。これはちょっとしたその……」
なんて言おうか?
立ちくらみ? 熱中症? いやまだぜんぜん暑くないし。
「えっと、貧血ぎみなので、休めば大丈夫です。……大丈夫だよな?」
苦しい言い訳をして見下ろすと、あきらもこくりとうなずいて立ち上がった。
「ぜんぜんだいじょーぶ」
「そうか? 遠慮しなくていいんだぞ」
「うん、おじさん達ありがと。もう平気」
ニカッと歯を見せて笑うあきらを見ておじさん達は安堵したらしく、口々に気をつけろよと言いながら堤防の先端の方へ戻って行った。
その後ろ姿を目で追いかける。彼らは何の抵抗もなく、俺達が行けなかった見えない壁の向こうへと歩いて行く。
「あー……これって……つまり、境界線なのか……」
かすれた声であきらが弱く呟く。
「ああ。こんなにはっきりと存在するんだな」
ほかの釣り人の前には何の障害物も無いというのに、俺達の前にだけ見えない空気の壁が立ちふさがる。閉じ込められているという現実を突きつけられた気がして、なんだか息が苦しくなってくる。
「友哉、戻ろう」
あきらはぐいっと俺の腕をつかんだ。
「あ、ああ、そうだな」
あきらに引っ張られるようにしてフェリー乗り場の前まで戻ると、俺はまた堤防の先に目を向ける。
俺達が行けない向こう側。
俺達を拒む境界線の壁。
あきらはまだ俺の腕をつかんでいて、その力がけっこう強くて痛いくらいなんだけど、俺は振り払わずにそのままにさせていた。
きっとあきらもショックを受けているから。
「なぁ、あきら……」
「うん。これでひとつだけはっきり分かったじゃん」
「え、何が」
「今まで電車とかバスとか、あとフェリーとかが止まったりして、有り得ないほどの運の悪さでここから出られないだけかもしれないって、ちょっと淡い期待があったんだけどさ。まぁ、それは違うってはっきり分かった」
「そうだな、運は関係ない。何かの大きな力で、くっきりと境界線が引かれているんだ」
「うん、すごく大きな力だね……」
あきらは俺の両手をぎゅうっと握ってきた。
「怖いのか、あきら」
「うん、怖い。友哉もでしょ」
俺もあきらの手を同じくらい強く握り返す。互いが互いの命綱みたいに。
「俺はずっと……子供の頃からずっと怖いよ」
「俺もおんなじ」
あきらはなぜか、俺を見てニコッと笑った。
「俺、友哉と暮らせてすごく嬉しいんだ」
「なんだよ、いきなり」
「おじちゃんとおばちゃんもすごく優しいし、友哉といると楽しいし。毎日授業が終わって、倉橋のあの家に帰っていいんだって思うとすごく安心するよ。だからこれから先もずっと、ずっとずーっと大人になっても、俺は友哉のお兄ちゃんとして友哉を守っていくよ」
「あきら……」
一瞬感動しそうになったけど、俺は聞き捨てならない言葉に気付いてピクリと眉を上げた。
「んん? ちょっと待て。何をしれっと兄貴面しているんだ。俺の方が兄だろう?」
「ええ、まだそれ言う?」
「それはこっちのセリフだ!」
つないでいるあきらの手を乱暴にはずして、リュックから地図を出すと、俺は堤防の真ん中あたりに赤ペンでぐいぐいと線を引いた。
「まずは、東の端がここってことだよな」
「うん」
「ちゃんと確かめよう。この境界線がどこにどういう風に引かれているのか。丸いのか四角いのか、まさかの星型なのか、本当にどこにも抜け道が無いのか」
「俺もちゃんと知りたい。でも、今はそれよりも」
「それよりも?」
「なんかめちゃくちゃ腹減ってきたー。おばちゃんのお弁当早く食べよう」
「はぁ? 相変わらずだなお前」
平常運転のあきらにホッとしながら、もう一度地図を見る。
堤防の絶景ポイントで食べるのは不可能だったから、せめて景色の良いところを近場で探したい。
「ええと、じゃぁここは? すぐ近くに公園がある」
「いいね、公園でお昼なんて遠足みたいじゃん。海を見ながら食べられるかな」
「少し高台になっているから、海も見えるんじゃないか」
俺達は公園に向かってゆるい坂道を登り始めた。
少し前を歩くあきらの髪が、揺れるたびに日の光を反射してキラキラしている。もしかしたら、あきらの父親というのは外国人なのかもしれない。あきらの髪は、日本人の黒髪とはだいぶ質感が違うような気がした。
「本日のっ、お弁当のっ、おっかっずっわっ、なんじゃろなっ」
あきらは変な節を付けながら、坂道をぴょんぴょん跳ねていく。
「母さん、今朝ピーマンの肉詰め作っていたぞ」
「うっ、ぴーまん……」
急に足を止め、あきらは情けない顔で俺を振り返った。
「なんだよあきら、高校生になってもまだピーマンだめなのか」
「いや、大丈夫。ピーマンぐらい食べられないこともないこともないかも知れない」
「どっちだよ」
「ううーん」
あきらが心底困った顔をするから、俺はついつい笑ってしまう。
「しょうがないな。せめて一個は頑張って食べろ。残りはピーマンだけ俺が食べてやるから」
「ほんと? おばちゃんには内緒ね」
「ああ、内緒だ」
俺がこぶしを握って差し出すと、あきらもこぶしを握ってコツンとぶつけてくる。ぐっと指を握り合い、手を広げてパチンと合わせる。
コツン、グッ、パチン、子供の頃からの俺達の友情の合図。
ちょっと照れたように笑って、あきらはまた走り出した。
天気のいい休日に海の見える公園で弁当を食べる。それって、本当に遠足みたいだ。俺とあきらは少しの間だけ、本来の目的を忘れて遠足気分を味わった。
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