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第四章 友哉とあきらの見えない日常
4-(5) どこまで隠すか
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どこまでを告げて、どこまでを隠すか。
友哉にすべては曝け出せない。
一乃峰や鹿塚山でファンクラブの女達が遭難したことも、命令ひとつで男に腕を切らせたことも、大勢の人間を肉壁として使ったことも、巻き添えで友哉の両親や吉野、ミコッチが怪我をしたことも、全部友哉には教えられないことだ。
俺の望みは今まで通りに友哉に愛され続けること。
だから俺を怖がらせてはいけない。
俺に疑いを持たせてもいけない。
本性を見せてはいけないんだ。
ダイニングでは叢雲と碧空が周囲を警戒するようにのっそりと歩いていた。
「悪いね。怖いかも知れないが、佐藤さんと山田さんには聞かれたくない話だから見張らせているんだ」
二匹を目で追いかける友哉に、向かいに座った雪華は言った。
戻ってきた時には意気消沈という顔をしていたから、結局、銀箭とかいう狼には逃げられてしまったらしい。
「あ、怖いんじゃないです。見えるということが嬉しくてつい見ちゃうだけで」
友哉は湯呑を両手で包むように持って、宙を見て笑った。
前にいる雪華も隣にいる俺も友哉の目には映らない。誰よりも近い存在は俺のはずなのに、友哉に見えるのは四つ足の獣だけだ。
俺に狐の耳やシッポが生えていたら、友哉の目に映ることが出来たのかな。
恨めしい目で見つめても、狼は超然と歩いている。
「友哉君、式狼が見えることについて何か思い当たることは無いかな。親族に霊能者がいるとか、大賀見家のように憑き物筋の者がいるとか」
「いえ。うちはいたって平凡な家庭だったので……父さんにも母さんにも、そんな能力のようなものはありませんでした」
友哉が過去形を使うのは、父親が俺の服を脱がそうとしたという嘘を信じたからだろう。あの家で暮らし続けていればいずれ嘘が嘘じゃなくなっただろうけど、あの父親はまだそこまでには至っていなかった。嘘をついたのは、友哉にはもう帰る家が無いのだと思わせたかったからだ。
倉橋家の居心地は別に悪くなかったけれど、俺はもう友哉を両親のもとに返すつもりは無かった。
あそこに戻れば、いやでも常識的に動かなければならなくなる。友哉の生活全般の世話は母親がすることになるだろうし、友哉を盲学校のようなところへ入学させて、俺は元通りに御前高校へ通えと言われるだろう。それはすごく嫌だった。俺は友哉のいない高校へなんて行きたくないし、友哉の身の回りのサポートは誰にも任せたくない。友哉の帰る場所は、俺の所だけでいいんだ。
雪華は友哉に親戚のことや、出身地や先祖のことを聞いていた。友哉はひとつひとつ丁寧に答えているけど、やっぱり式狼が見える理由は分からないようだった。
「失明したことで、第六感でも働くようになったんでしょうか」
飲み終わったお茶の湯呑を手のひらでころころと動かしながら、友哉は首を傾げている。
俺はその手から湯呑を受け取ってコトッとテーブルに置いた。
「あのさ、友哉は子供の頃から『あれ』が見えていたんじゃない? 空気がゆらゆらしているように見えるって言ってたよね」
友哉はハッとした顔をした。
「そっか、あの空気の歪み! 『あれ』の正体は式狼だったんだから、目が見えなくなるずっと前から、俺には式狼がぼんやりと見えていたってことだ」
「空気の歪み?」
「はい。『あれ』に襲われた時にはいつも、ゆらゆらしたものがあきらに取り付いているように見えて、必死に腕を振り回していたんです」
「なるほど」
雪華が顎をさすって何か考えている。
「子供の頃からというと、何歳くらいからか分かるかい?」
「ええと……いつから見えていたんだろ? あきらと出会ったのは5、6歳くらいだった気がするんですけど。だよな?」
「うん、5歳だったよ。初めて出会ったのは家の近くの公園だった。そこで俺は『あれ』に襲われてしまって、友哉が助けようとして俺に飛びついてきたんだ。それで、二人一緒に噛み傷だらけになったんだよ」
友哉は少し口を開けてこっちに顔を向けた。
「へぇ、よく覚えているなぁ」
「そりゃ嬉しかったもん。助けに飛び込んでくれた友哉はヒーローみたいだったから」
「はは、ヒーローって大げさだな」
「俺にとってはヒーローだったの! 今でもはっきりと覚えてる。俺は嬉しくてお礼がしたくて、でも何も持っていなかったから、血の出ている友哉の腕を舐めてあげたんだ。そしたら、友哉もお返しに俺の手の傷を舐めてくれたんだよ」
「舐めた?」
「うん、舐めた」
「犬みたいに?」
「いやいや、誓いの口付けみたいにって言ってよー」
「だって俺、鼻水たらしたクソガキだっただろ?」
「そんなことないよ、友哉はめちゃくちゃカッコ良かったって!」
「うわ、思い出フィルターかかってるなぁ」
「いやいや何のフィルターもかかってないって。覚えてないの?」
「覚えていない」
「そんなぁ、俺にとっては美しき思い出なのに」
「ウツクシキって、そりゃあきらは綺麗な子だっただろうけど」
「友哉だって、昔からずっときれいだったよ」
「はは、そんなこと言われたことがないよ」
子供の頃から友哉に近づく女の子を俺が徹底的に排除してきたから、友哉は同世代の女の子とはほとんど話もしたことが無い。そのせいで、友哉は自分の容姿をかなり悪いものだと思い込んでいる。
「ほんとのほんとに友哉はきれいだよ」
誰よりきれいな友哉は自分の価値を知らずに苦笑した。
「はいはい、ありがとな」
俺達の話を聞いていて、何か思いついたように雪華は顔を上げた。
「もしかしたら、友哉君はあきらの眷属というように認識されてしまったのかもしれないね」
「けんぞく、ですか」
「ああ。血を舐めあったことで、二人の間に何かしらの強いつながりが出来たのかもしれない。道切りの結界もあきらをターゲットにしたものだったのに、友哉君も出られなかったんだろう?」
「はい、出られませんでした」
「君があきらの眷属ならば、この世ならざるものが見えてもおかしくはない。あきらは大賀見家の中でも特別な子供だから」
「特別な子供?」
友哉が瞬きをする。
「ああ、あきらは……」
俺は制止するようにバッと手を伸ばし、ぎろりと雪華を睨んだ。
まさか『半分あやかしだから』などと言うつもりじゃないだろうな、と。
雪華は唇をひきつらせて、分かっているというように片手を上げた。
「あきらは歴史ある大賀見家の当主の子だからね」
「大賀見家の」
友哉は何か考えるように視線を宙にさまよわせた。
その顔が何かを不安に思っているような気がして、俺は友哉の手を触った。その指先がピクリと動く。
「どうした?」
「俺の眷属って言われるの、嫌?」
「なんでだよ、嫌なわけがない。眷属っていうのは身内とか従者って意味だろ。まぁ従者って言うのは時代劇みたいで馴染まないけどさ」
「うん、友哉は従者じゃなくて、俺のお兄ちゃんだよね」
「そうそれ。『あきらの眷属』って言われると、血のつながった兄弟になれたみたいでなんか嬉しいよ」
「うん……俺も嬉しい」
でも、友哉はさっき一瞬不安そうな顔をしていた。
無意識だったのかもしれないけれど。
「友哉君があきらの眷属だからといって、今までと何かが変わるわけじゃないから安心しなさい。ただ、もしかしたら式狼のほかにも何か見えるかもしれない。その時はすぐに相談して欲しい。素人の君には良いものか悪いものかの判断も出来ないだろうし」
「はい、分かりました」
友哉はふと、何かを思い出すように目線を上に向けた。
見えなくなっても、友哉の目はよく動く。嬉しければ目を細めるし、驚けば目を見開くし、つらければ目を伏せるし、悲しければ以前と同じように涙を流す。
友哉が俺を見てくれない分、俺は友哉の顔を四六時中見つめるようになった。今まで通りに友哉の表情は豊かなのに、俺と視線が合うことだけは無い。
「あの、俺、知り合いの左肩辺りがゆらゆらしているのを見たことがあるんですが」
「知り合い?」
「俺とあきらが入っていたオカルト研究部の部長なんですけど」
吉野に取り憑いていたあの小鬼のことか。
臍の緒の封印がとかれた二ヶ月前から俺には色々なものが見えるようになっていたけれど、そのことを友哉には言っていない。でも、式狼を見ることが出来る俺が、あの小鬼が見えないというのは不自然かもしれない。
どこまで告げて、どこまで隠すか、嘘つき狐は線引きに忙しい。
「あー、そういえば俺も? 吉野部長の左側にぼんやりしたものを見たことがあるかも?」
「ほんとか?」
「うん、気のせいかと思っていたけど、友哉も同じものを見たんだね」
「あきらも感じたんなら、やっぱり吉野部長には何かが憑いていたんだ。あれっていったい何なんだろう? 吉野部長は大丈夫なのかな」
「どうだろ? でも家族全員無病息災って言っていたから守り神みたいなものじゃない?」
「そうならいいけど……。俺、何かがおかしいと思ったのに、その事を吉野部長に言わなかった。どうしよう、あれがもし悪いものだったら……」
心配そうな顔をする友哉を見て、雪華が俺に合図を送ってくる。
俺は苦い顔をして、渋々うなずいた。
雪華はほっとしたようにうなずき返し、友哉に言った。
「気になるなら、今度その子をここへ呼ぼうか。私が見て判断するよ」
「本当ですか? ありがとうございます、雪彦さん」
友哉の顔がパッと明るくなる。
雪華は微笑ましいものを見るように優しい顔をした。
これまでさんざん『あれ』によって友哉を痛めつけてきた張本人のくせに、雪華は手のひらを返したように頼れる保護者を気取っている。
なんとなく面白くなくて、俺は口を尖らせる。
友哉のことを知れば知るほど、誰もが友哉を好きになってしまう。
妖狐の力を使う俺とは違って、友哉は本物の人たらしだ。
「あの、もうひとり友達を呼んでもいいですか」
「ああ、もちろんかまわないよ」
「友達って、もしかしてミコッチのこと?」
友哉がこくりとうなずく。
「吉野部長と御子神にはお礼を言わないと。あの日救急車が通れる道まで俺を運んでくれたんだろ?」
「うん、あの時二人がいてくれてすごく助かった」
「俺はもう家にも帰れないし、学校にも……多分行けないだろうし、きっと心配していると思う」
「そうだよね。俺から二人に連絡しておくよ」
「うん、頼む。ありがとな」
俺は心の中で、唸りながら頭を抱えた。
あの二人は俺の本性を知っている。友哉に会わせる前にあの二人とはきちんと話をしておかなければならなくなった。友哉に何を話していいか、何を話してはいけないのかを徹底的に分からせておかないと。
溜息が出そうなのを必死にこらえる。吉野は簡単に操れるけれど、どんな力にも影響を受けないミコッチは手強い。ミコッチ本人ではなくて、周りから攻めていくのがいいかも知れない。ミコッチの攻略方法をめまぐるしく考えていると、急に友哉が大きく深呼吸した。
「雪彦さん」
雪華に呼びかけ、すっと背筋を伸ばす。
「雪彦さん。俺、雪彦さんに聞きたいことがあるんです」
姿勢を正す友哉につられて、雪華もしゃんと背筋を伸ばした。
「聞きたいこととは」
「二ヶ月前の呪詛って何ですか」
雪華がぎくりとして、顔をこわばらせた。
「なんの、ことかな」
「目はまったく見えませんが、耳はちゃんと聞こえます。二ヶ月前に命じられて呪詛を作った、呪詛返しにあったと、そういうことを雪彦さんは言っていました。呪詛というのは俺とあきらに関係があることですよね」
ぴりっと空気が緊張する。
友哉は髪をかきあげて、欠けてしまった右耳を露わにした。
雪華は食い入るようにそれを見る。
「その傷は」
「これは二ヶ月前に負った傷です。俺は耳を喰いちぎられました。あの時の『あれ』は……ええと式狼というんですよね、あの時の式狼は今までで一番強くてしつこくて、とても怖いものでした」
友哉が髪から手を離すと、ぱさりと髪が落ちかかって耳の傷を隠した。
傷を隠すために髪を伸ばしていたのだと気付いたようで、雪華がつらそうに顔を歪める。
「二ヶ月前、あきらの叔母さんが失踪したんです。木箱を開けてから」
「木箱……」
「黒い箱にはとても怖い式狼が入っていました。あの黒い箱は、雪彦さんが作った呪詛だったんですね」
雪華は返事をしない。
「あなたにそれを作るようにと命じた人がいるのなら、犯人が分からないと言うのは嘘だということになります。本当は誰があきらを呪っているのか、あなたは知っている。そうじゃありませんか?」
友哉の疑いは雪華に向いている。
でも、ここで本当のことは言えない。
俺を攻撃していたのは大賀見家の一部の誰かなどではなく、大賀見家全体の総意によるものだった。
狙われていた理由も跡継ぎ争いなんてものではなく、俺が大賀見家の脅威になるような妖狐だったからだ。
「返事が無いのは肯定ですか? あなたに命令出来る人ということは、一族の中で地位の高い人ということになるんでしょう?」
どこまでを告げて、どこまでを隠すか。
俺が半分狐のあやかしで、ひどい嘘つきで、人の命などなんとも思っていない化け物だということは友哉に知られてはならない。
俺は雪華と目を合わせた。
雪華は分かっていると言うように、うなずいた。
「命じたのは大賀見家当主、大賀見道孝様の奥様だ」
「奥様……?」
奥様?
奥様なんてどっから出てきた?
雪華を見ると、任せておけというように片方の口角を釣り上げた。
「当主の奥様は大変嫉妬深い人でね。彼女は不倫した夫を許すことが出来ず、不倫相手もその息子も心底憎んでいる。被害妄想もひどくて、あきらが自分の子供を蹴落として当主の座を狙っていると思い込んでいるんだよ」
「どうしてですか? あきらは自分の父親が誰かも知らなかったんですよ。そんな家の当主の座なんて、あきらが欲しがるわけがないでしょう」
「ああ、もちろん分かっている。でも彼女はあきらを調べて、貧しく複雑な家庭の中でもきちんと育っていることを知った。学校でも成績が良好で常に人気者であるあきらに、どうやら相当な危機感を持ってしまったようなんだ。彼女の息子は虚弱で凡庸だから、いずれあきらに引きずり降ろされてすべてを奪われるなどと思い込んでしまった」
「そんな……」
友哉の手が俺を探すようにこちらへ差し出される。その手を握ると、少し震えていた。
「あきらは今までケンカのひとつもしたことが無いんです。争いごとなんて好みません。すごく穏やかな性格をしているんです。あきらは誰かを蹴落としたり誰かの大事なものを奪ったりできる人間じゃない。本当に、すごく優しいのに」
握った手に力が加わり、友哉は悔しそうな顔をした。
「友哉、俺大丈夫だよ」
「だってひどい誤解をされているから」
「うん、友哉が分かってくれていればいいよ」
胸の奥がほわっと温かくなって微笑むと、雪華は何か言いたそうな目で俺を見ていた。うまく騙しているとでも言いたいのかもしれない。
でも、友哉と二人でいる時は、俺の中から憎しみや殺意が溶けて無くなる。友哉の前では、俺は優しく穏やかでいられるんだ。それは別に嘘じゃない。
「申し訳ない……。私は彼女の父親に返しきれない恩があって、呪詛を作ることを断り切れなかった。でも、あの日病院であきらと会って直接話してみて、バカなことしたと自分の間違いを悟った。当主にもすべてを打ち明けて、あきらを保護することにしたんだ」
友哉の俺の手を握る力が少し弱まった。
「そうだったんですか……」
「今は当主の道孝様がきちんと目を光らせている。奥様もこれ以上バカな真似はしないだろう」
「はい。あきらが安全ならそれでいいんです」
乗り切ったのか?
矛盾点はもうないよな?
雪華と二人、目配せをする。
「あの、それともうひとつ」
「まだ、疑問が?」
友哉が何を言うのかと、俺と雪華は軽く緊張する。
「呪詛返しっていうのは」
話題が俺達の嘘からそれたので、ほんの少し力が抜けた。
「呪詛というものは、破られれば術者に返って来る。それを呪詛返しという」
「返されるとどうなるんですか」
「自分がかけた呪詛を自分で受けることになる。返されたものは数倍の威力になっているから、最悪、死ぬこともある」
雪華は無意識のように、自分の頭に巻かれた包帯に触れる。
初めて会った時からボロボロだったが、そのわけが分かった。
この男は自分のかけた呪詛を返されてこんな有様になっているんだ。
「あの……二ヶ月前のあの時、俺達は確かに必死に抵抗したけれど、お祓いの術なんて使えませんし、腕を振り回して騒いでいただけです。あれで呪詛を返したということになるんですか?」
「あの黒い箱に込めた呪詛は『あきらを殺す』というものだった。でも、友哉君が身をていしてあきらを庇ったために、呪詛は成就しなかった」
俺の体を抱えこむようにして、大丈夫だと繰り返していた友哉。
体中に噛みつかれても、俺から離れなかった友哉。
あの日、命懸けで守られた記憶は鮮明に残っている。
「呪詛が成就しないと呪詛返しにあうってことですか」
「ああ、そうだ。今では成就しなくて良かったと心から思っているよ」
「はい……。でも、雪彦さんはひとりで呪詛返しを受けたんですよね。あんなに強くて怖いものを、ひとりで」
「因果応報だよ、仕方がないことだ」
「でも、命じられてやったことなんですよね。それで、あなたは足を」
「ああ……そうか。友哉君は耳がいいな」
雪華は自分の足を見下ろした。
友哉は視力に頼らなくても、雪華がボロボロなことに気付いていたらしい。
「俺はあきらを庇って呪詛を返したことは何も後悔していません。でも、なんていうか……」
自分の行動で結果的に傷つけた相手に対して罪悪感があるみたいで、友哉は顔を下へ向ける。
「ねぇ、友哉。友哉があの時助けに来てくれなかったら俺はどうなっていたか分からない。やっぱり友哉は俺のヒーローだよ」
つないでいる手をにぎにぎと動かすと、友哉はずっと握りっぱなしだったのを思い出したようにぱっと手を離した。
照れたように、頬がちょっと赤くなる。
「助けに行くのは当たり前だろ、兄弟なんだから」
そう言って、友哉は空中に握りこぶしを作った。
俺もこぶしを作ってそれにコツンとぶつけ、指と指をぐっと握り合って、手を広げてパチンと合わせる。
コツン、グッ、パチン、友情の合図。
視線が合わなくても息を合わせて合図しあう俺達を見て、雪華は眩しそうに目を細めた。
「もう誰に命じられても、けしてあんな馬鹿なことはしない。私は保護者としてあきらと、そして友哉君を守りたいと思っている。信じて欲しい」
「はい」
友哉は叢雲と碧空の方に顔を向けた。
「叢雲と碧空があきらと俺を守ってくれようとしているのは、ちゃんと感じます。だから、彼らを使う雪彦さんも本気で俺達を守ってくれようとしているのは伝わっています。俺は雪彦さんを信じます」
友哉はきれいな笑顔を見せた。
雪華は一瞬、呆けたように友哉に見惚れた。
「ありがとう……」
嬉しそうに言う雪華の目は、少しだけ潤んでいた。
友哉にすべては曝け出せない。
一乃峰や鹿塚山でファンクラブの女達が遭難したことも、命令ひとつで男に腕を切らせたことも、大勢の人間を肉壁として使ったことも、巻き添えで友哉の両親や吉野、ミコッチが怪我をしたことも、全部友哉には教えられないことだ。
俺の望みは今まで通りに友哉に愛され続けること。
だから俺を怖がらせてはいけない。
俺に疑いを持たせてもいけない。
本性を見せてはいけないんだ。
ダイニングでは叢雲と碧空が周囲を警戒するようにのっそりと歩いていた。
「悪いね。怖いかも知れないが、佐藤さんと山田さんには聞かれたくない話だから見張らせているんだ」
二匹を目で追いかける友哉に、向かいに座った雪華は言った。
戻ってきた時には意気消沈という顔をしていたから、結局、銀箭とかいう狼には逃げられてしまったらしい。
「あ、怖いんじゃないです。見えるということが嬉しくてつい見ちゃうだけで」
友哉は湯呑を両手で包むように持って、宙を見て笑った。
前にいる雪華も隣にいる俺も友哉の目には映らない。誰よりも近い存在は俺のはずなのに、友哉に見えるのは四つ足の獣だけだ。
俺に狐の耳やシッポが生えていたら、友哉の目に映ることが出来たのかな。
恨めしい目で見つめても、狼は超然と歩いている。
「友哉君、式狼が見えることについて何か思い当たることは無いかな。親族に霊能者がいるとか、大賀見家のように憑き物筋の者がいるとか」
「いえ。うちはいたって平凡な家庭だったので……父さんにも母さんにも、そんな能力のようなものはありませんでした」
友哉が過去形を使うのは、父親が俺の服を脱がそうとしたという嘘を信じたからだろう。あの家で暮らし続けていればいずれ嘘が嘘じゃなくなっただろうけど、あの父親はまだそこまでには至っていなかった。嘘をついたのは、友哉にはもう帰る家が無いのだと思わせたかったからだ。
倉橋家の居心地は別に悪くなかったけれど、俺はもう友哉を両親のもとに返すつもりは無かった。
あそこに戻れば、いやでも常識的に動かなければならなくなる。友哉の生活全般の世話は母親がすることになるだろうし、友哉を盲学校のようなところへ入学させて、俺は元通りに御前高校へ通えと言われるだろう。それはすごく嫌だった。俺は友哉のいない高校へなんて行きたくないし、友哉の身の回りのサポートは誰にも任せたくない。友哉の帰る場所は、俺の所だけでいいんだ。
雪華は友哉に親戚のことや、出身地や先祖のことを聞いていた。友哉はひとつひとつ丁寧に答えているけど、やっぱり式狼が見える理由は分からないようだった。
「失明したことで、第六感でも働くようになったんでしょうか」
飲み終わったお茶の湯呑を手のひらでころころと動かしながら、友哉は首を傾げている。
俺はその手から湯呑を受け取ってコトッとテーブルに置いた。
「あのさ、友哉は子供の頃から『あれ』が見えていたんじゃない? 空気がゆらゆらしているように見えるって言ってたよね」
友哉はハッとした顔をした。
「そっか、あの空気の歪み! 『あれ』の正体は式狼だったんだから、目が見えなくなるずっと前から、俺には式狼がぼんやりと見えていたってことだ」
「空気の歪み?」
「はい。『あれ』に襲われた時にはいつも、ゆらゆらしたものがあきらに取り付いているように見えて、必死に腕を振り回していたんです」
「なるほど」
雪華が顎をさすって何か考えている。
「子供の頃からというと、何歳くらいからか分かるかい?」
「ええと……いつから見えていたんだろ? あきらと出会ったのは5、6歳くらいだった気がするんですけど。だよな?」
「うん、5歳だったよ。初めて出会ったのは家の近くの公園だった。そこで俺は『あれ』に襲われてしまって、友哉が助けようとして俺に飛びついてきたんだ。それで、二人一緒に噛み傷だらけになったんだよ」
友哉は少し口を開けてこっちに顔を向けた。
「へぇ、よく覚えているなぁ」
「そりゃ嬉しかったもん。助けに飛び込んでくれた友哉はヒーローみたいだったから」
「はは、ヒーローって大げさだな」
「俺にとってはヒーローだったの! 今でもはっきりと覚えてる。俺は嬉しくてお礼がしたくて、でも何も持っていなかったから、血の出ている友哉の腕を舐めてあげたんだ。そしたら、友哉もお返しに俺の手の傷を舐めてくれたんだよ」
「舐めた?」
「うん、舐めた」
「犬みたいに?」
「いやいや、誓いの口付けみたいにって言ってよー」
「だって俺、鼻水たらしたクソガキだっただろ?」
「そんなことないよ、友哉はめちゃくちゃカッコ良かったって!」
「うわ、思い出フィルターかかってるなぁ」
「いやいや何のフィルターもかかってないって。覚えてないの?」
「覚えていない」
「そんなぁ、俺にとっては美しき思い出なのに」
「ウツクシキって、そりゃあきらは綺麗な子だっただろうけど」
「友哉だって、昔からずっときれいだったよ」
「はは、そんなこと言われたことがないよ」
子供の頃から友哉に近づく女の子を俺が徹底的に排除してきたから、友哉は同世代の女の子とはほとんど話もしたことが無い。そのせいで、友哉は自分の容姿をかなり悪いものだと思い込んでいる。
「ほんとのほんとに友哉はきれいだよ」
誰よりきれいな友哉は自分の価値を知らずに苦笑した。
「はいはい、ありがとな」
俺達の話を聞いていて、何か思いついたように雪華は顔を上げた。
「もしかしたら、友哉君はあきらの眷属というように認識されてしまったのかもしれないね」
「けんぞく、ですか」
「ああ。血を舐めあったことで、二人の間に何かしらの強いつながりが出来たのかもしれない。道切りの結界もあきらをターゲットにしたものだったのに、友哉君も出られなかったんだろう?」
「はい、出られませんでした」
「君があきらの眷属ならば、この世ならざるものが見えてもおかしくはない。あきらは大賀見家の中でも特別な子供だから」
「特別な子供?」
友哉が瞬きをする。
「ああ、あきらは……」
俺は制止するようにバッと手を伸ばし、ぎろりと雪華を睨んだ。
まさか『半分あやかしだから』などと言うつもりじゃないだろうな、と。
雪華は唇をひきつらせて、分かっているというように片手を上げた。
「あきらは歴史ある大賀見家の当主の子だからね」
「大賀見家の」
友哉は何か考えるように視線を宙にさまよわせた。
その顔が何かを不安に思っているような気がして、俺は友哉の手を触った。その指先がピクリと動く。
「どうした?」
「俺の眷属って言われるの、嫌?」
「なんでだよ、嫌なわけがない。眷属っていうのは身内とか従者って意味だろ。まぁ従者って言うのは時代劇みたいで馴染まないけどさ」
「うん、友哉は従者じゃなくて、俺のお兄ちゃんだよね」
「そうそれ。『あきらの眷属』って言われると、血のつながった兄弟になれたみたいでなんか嬉しいよ」
「うん……俺も嬉しい」
でも、友哉はさっき一瞬不安そうな顔をしていた。
無意識だったのかもしれないけれど。
「友哉君があきらの眷属だからといって、今までと何かが変わるわけじゃないから安心しなさい。ただ、もしかしたら式狼のほかにも何か見えるかもしれない。その時はすぐに相談して欲しい。素人の君には良いものか悪いものかの判断も出来ないだろうし」
「はい、分かりました」
友哉はふと、何かを思い出すように目線を上に向けた。
見えなくなっても、友哉の目はよく動く。嬉しければ目を細めるし、驚けば目を見開くし、つらければ目を伏せるし、悲しければ以前と同じように涙を流す。
友哉が俺を見てくれない分、俺は友哉の顔を四六時中見つめるようになった。今まで通りに友哉の表情は豊かなのに、俺と視線が合うことだけは無い。
「あの、俺、知り合いの左肩辺りがゆらゆらしているのを見たことがあるんですが」
「知り合い?」
「俺とあきらが入っていたオカルト研究部の部長なんですけど」
吉野に取り憑いていたあの小鬼のことか。
臍の緒の封印がとかれた二ヶ月前から俺には色々なものが見えるようになっていたけれど、そのことを友哉には言っていない。でも、式狼を見ることが出来る俺が、あの小鬼が見えないというのは不自然かもしれない。
どこまで告げて、どこまで隠すか、嘘つき狐は線引きに忙しい。
「あー、そういえば俺も? 吉野部長の左側にぼんやりしたものを見たことがあるかも?」
「ほんとか?」
「うん、気のせいかと思っていたけど、友哉も同じものを見たんだね」
「あきらも感じたんなら、やっぱり吉野部長には何かが憑いていたんだ。あれっていったい何なんだろう? 吉野部長は大丈夫なのかな」
「どうだろ? でも家族全員無病息災って言っていたから守り神みたいなものじゃない?」
「そうならいいけど……。俺、何かがおかしいと思ったのに、その事を吉野部長に言わなかった。どうしよう、あれがもし悪いものだったら……」
心配そうな顔をする友哉を見て、雪華が俺に合図を送ってくる。
俺は苦い顔をして、渋々うなずいた。
雪華はほっとしたようにうなずき返し、友哉に言った。
「気になるなら、今度その子をここへ呼ぼうか。私が見て判断するよ」
「本当ですか? ありがとうございます、雪彦さん」
友哉の顔がパッと明るくなる。
雪華は微笑ましいものを見るように優しい顔をした。
これまでさんざん『あれ』によって友哉を痛めつけてきた張本人のくせに、雪華は手のひらを返したように頼れる保護者を気取っている。
なんとなく面白くなくて、俺は口を尖らせる。
友哉のことを知れば知るほど、誰もが友哉を好きになってしまう。
妖狐の力を使う俺とは違って、友哉は本物の人たらしだ。
「あの、もうひとり友達を呼んでもいいですか」
「ああ、もちろんかまわないよ」
「友達って、もしかしてミコッチのこと?」
友哉がこくりとうなずく。
「吉野部長と御子神にはお礼を言わないと。あの日救急車が通れる道まで俺を運んでくれたんだろ?」
「うん、あの時二人がいてくれてすごく助かった」
「俺はもう家にも帰れないし、学校にも……多分行けないだろうし、きっと心配していると思う」
「そうだよね。俺から二人に連絡しておくよ」
「うん、頼む。ありがとな」
俺は心の中で、唸りながら頭を抱えた。
あの二人は俺の本性を知っている。友哉に会わせる前にあの二人とはきちんと話をしておかなければならなくなった。友哉に何を話していいか、何を話してはいけないのかを徹底的に分からせておかないと。
溜息が出そうなのを必死にこらえる。吉野は簡単に操れるけれど、どんな力にも影響を受けないミコッチは手強い。ミコッチ本人ではなくて、周りから攻めていくのがいいかも知れない。ミコッチの攻略方法をめまぐるしく考えていると、急に友哉が大きく深呼吸した。
「雪彦さん」
雪華に呼びかけ、すっと背筋を伸ばす。
「雪彦さん。俺、雪彦さんに聞きたいことがあるんです」
姿勢を正す友哉につられて、雪華もしゃんと背筋を伸ばした。
「聞きたいこととは」
「二ヶ月前の呪詛って何ですか」
雪華がぎくりとして、顔をこわばらせた。
「なんの、ことかな」
「目はまったく見えませんが、耳はちゃんと聞こえます。二ヶ月前に命じられて呪詛を作った、呪詛返しにあったと、そういうことを雪彦さんは言っていました。呪詛というのは俺とあきらに関係があることですよね」
ぴりっと空気が緊張する。
友哉は髪をかきあげて、欠けてしまった右耳を露わにした。
雪華は食い入るようにそれを見る。
「その傷は」
「これは二ヶ月前に負った傷です。俺は耳を喰いちぎられました。あの時の『あれ』は……ええと式狼というんですよね、あの時の式狼は今までで一番強くてしつこくて、とても怖いものでした」
友哉が髪から手を離すと、ぱさりと髪が落ちかかって耳の傷を隠した。
傷を隠すために髪を伸ばしていたのだと気付いたようで、雪華がつらそうに顔を歪める。
「二ヶ月前、あきらの叔母さんが失踪したんです。木箱を開けてから」
「木箱……」
「黒い箱にはとても怖い式狼が入っていました。あの黒い箱は、雪彦さんが作った呪詛だったんですね」
雪華は返事をしない。
「あなたにそれを作るようにと命じた人がいるのなら、犯人が分からないと言うのは嘘だということになります。本当は誰があきらを呪っているのか、あなたは知っている。そうじゃありませんか?」
友哉の疑いは雪華に向いている。
でも、ここで本当のことは言えない。
俺を攻撃していたのは大賀見家の一部の誰かなどではなく、大賀見家全体の総意によるものだった。
狙われていた理由も跡継ぎ争いなんてものではなく、俺が大賀見家の脅威になるような妖狐だったからだ。
「返事が無いのは肯定ですか? あなたに命令出来る人ということは、一族の中で地位の高い人ということになるんでしょう?」
どこまでを告げて、どこまでを隠すか。
俺が半分狐のあやかしで、ひどい嘘つきで、人の命などなんとも思っていない化け物だということは友哉に知られてはならない。
俺は雪華と目を合わせた。
雪華は分かっていると言うように、うなずいた。
「命じたのは大賀見家当主、大賀見道孝様の奥様だ」
「奥様……?」
奥様?
奥様なんてどっから出てきた?
雪華を見ると、任せておけというように片方の口角を釣り上げた。
「当主の奥様は大変嫉妬深い人でね。彼女は不倫した夫を許すことが出来ず、不倫相手もその息子も心底憎んでいる。被害妄想もひどくて、あきらが自分の子供を蹴落として当主の座を狙っていると思い込んでいるんだよ」
「どうしてですか? あきらは自分の父親が誰かも知らなかったんですよ。そんな家の当主の座なんて、あきらが欲しがるわけがないでしょう」
「ああ、もちろん分かっている。でも彼女はあきらを調べて、貧しく複雑な家庭の中でもきちんと育っていることを知った。学校でも成績が良好で常に人気者であるあきらに、どうやら相当な危機感を持ってしまったようなんだ。彼女の息子は虚弱で凡庸だから、いずれあきらに引きずり降ろされてすべてを奪われるなどと思い込んでしまった」
「そんな……」
友哉の手が俺を探すようにこちらへ差し出される。その手を握ると、少し震えていた。
「あきらは今までケンカのひとつもしたことが無いんです。争いごとなんて好みません。すごく穏やかな性格をしているんです。あきらは誰かを蹴落としたり誰かの大事なものを奪ったりできる人間じゃない。本当に、すごく優しいのに」
握った手に力が加わり、友哉は悔しそうな顔をした。
「友哉、俺大丈夫だよ」
「だってひどい誤解をされているから」
「うん、友哉が分かってくれていればいいよ」
胸の奥がほわっと温かくなって微笑むと、雪華は何か言いたそうな目で俺を見ていた。うまく騙しているとでも言いたいのかもしれない。
でも、友哉と二人でいる時は、俺の中から憎しみや殺意が溶けて無くなる。友哉の前では、俺は優しく穏やかでいられるんだ。それは別に嘘じゃない。
「申し訳ない……。私は彼女の父親に返しきれない恩があって、呪詛を作ることを断り切れなかった。でも、あの日病院であきらと会って直接話してみて、バカなことしたと自分の間違いを悟った。当主にもすべてを打ち明けて、あきらを保護することにしたんだ」
友哉の俺の手を握る力が少し弱まった。
「そうだったんですか……」
「今は当主の道孝様がきちんと目を光らせている。奥様もこれ以上バカな真似はしないだろう」
「はい。あきらが安全ならそれでいいんです」
乗り切ったのか?
矛盾点はもうないよな?
雪華と二人、目配せをする。
「あの、それともうひとつ」
「まだ、疑問が?」
友哉が何を言うのかと、俺と雪華は軽く緊張する。
「呪詛返しっていうのは」
話題が俺達の嘘からそれたので、ほんの少し力が抜けた。
「呪詛というものは、破られれば術者に返って来る。それを呪詛返しという」
「返されるとどうなるんですか」
「自分がかけた呪詛を自分で受けることになる。返されたものは数倍の威力になっているから、最悪、死ぬこともある」
雪華は無意識のように、自分の頭に巻かれた包帯に触れる。
初めて会った時からボロボロだったが、そのわけが分かった。
この男は自分のかけた呪詛を返されてこんな有様になっているんだ。
「あの……二ヶ月前のあの時、俺達は確かに必死に抵抗したけれど、お祓いの術なんて使えませんし、腕を振り回して騒いでいただけです。あれで呪詛を返したということになるんですか?」
「あの黒い箱に込めた呪詛は『あきらを殺す』というものだった。でも、友哉君が身をていしてあきらを庇ったために、呪詛は成就しなかった」
俺の体を抱えこむようにして、大丈夫だと繰り返していた友哉。
体中に噛みつかれても、俺から離れなかった友哉。
あの日、命懸けで守られた記憶は鮮明に残っている。
「呪詛が成就しないと呪詛返しにあうってことですか」
「ああ、そうだ。今では成就しなくて良かったと心から思っているよ」
「はい……。でも、雪彦さんはひとりで呪詛返しを受けたんですよね。あんなに強くて怖いものを、ひとりで」
「因果応報だよ、仕方がないことだ」
「でも、命じられてやったことなんですよね。それで、あなたは足を」
「ああ……そうか。友哉君は耳がいいな」
雪華は自分の足を見下ろした。
友哉は視力に頼らなくても、雪華がボロボロなことに気付いていたらしい。
「俺はあきらを庇って呪詛を返したことは何も後悔していません。でも、なんていうか……」
自分の行動で結果的に傷つけた相手に対して罪悪感があるみたいで、友哉は顔を下へ向ける。
「ねぇ、友哉。友哉があの時助けに来てくれなかったら俺はどうなっていたか分からない。やっぱり友哉は俺のヒーローだよ」
つないでいる手をにぎにぎと動かすと、友哉はずっと握りっぱなしだったのを思い出したようにぱっと手を離した。
照れたように、頬がちょっと赤くなる。
「助けに行くのは当たり前だろ、兄弟なんだから」
そう言って、友哉は空中に握りこぶしを作った。
俺もこぶしを作ってそれにコツンとぶつけ、指と指をぐっと握り合って、手を広げてパチンと合わせる。
コツン、グッ、パチン、友情の合図。
視線が合わなくても息を合わせて合図しあう俺達を見て、雪華は眩しそうに目を細めた。
「もう誰に命じられても、けしてあんな馬鹿なことはしない。私は保護者としてあきらと、そして友哉君を守りたいと思っている。信じて欲しい」
「はい」
友哉は叢雲と碧空の方に顔を向けた。
「叢雲と碧空があきらと俺を守ってくれようとしているのは、ちゃんと感じます。だから、彼らを使う雪彦さんも本気で俺達を守ってくれようとしているのは伝わっています。俺は雪彦さんを信じます」
友哉はきれいな笑顔を見せた。
雪華は一瞬、呆けたように友哉に見惚れた。
「ありがとう……」
嬉しそうに言う雪華の目は、少しだけ潤んでいた。
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