【完結】(自称)モブ令嬢は見た

黒幸

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4 メリーとハリー

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「え? あ? ウ、ウィステリア嬢?」
「サマンサ。そのような面倒な呼び方は必要ないですわ。ああ。そうね。面倒な喋り方も不要よ。よくって? エスメラルダさん」
「は、はい? しかし、でも……」
「今のを聞いたでしょ? 貴女も共犯なの。諦めなさい」

 ええ、実に楽しそうデスネ。
 私もウレシイデス。
 胃がチクチクと痛くなってきそうで本当、ウレシイデス。
 頭の中で片言になるほど、言い知れない恐怖を今まで感じたことはない。
 つまり、イマガソレ。

「大叔父はね……異性に愛情を抱けない人だったの。彼が好きだったのは可愛らしい男の子だけ。男の子を愛でるのが彼の唯一の慰みでしたのよ」
「そ、それではまさか?」
「ええ。そのまさかなのよ、エスメラルダさん。大叔父ヒューゴのの」

 稀代の種蒔き王として知られる王様。
 石を投げたら、ヒューゴ王の子に当たるなんて言われ方もしていた人がまさか過ぎて、声も出ない。

「で、でしたら、王子と呼ばれた方々は一体……えぇ? ま、まさか?」
「エスメラルダさん。貴女の想像されていることは半分正解で半分不正解かしら? 大叔父は可愛らしい男の子を愛でることが唯一の慰みではあったけれど……そこに性的な意味は一切、なかったの。不思議と邪気はない方だったそうだから?」
「は、はあ」

 ヒューゴ王の御寵愛を受けた方が諸王子だったとは驚くべき事実だと思う。
 それもただ、人として愛すると……。
 実の子ではないのに王子として、認知したというのも不思議ではあるけど、それが彼の考えた愛とでも言うのかしら。
 もっともその度の外れた仁愛と言うべきものが、回り回って現代の闇に繋がったのだとすると業が深い。

「正当なる王家の血とやらを重視したら、大叔父と血の繋がりがある私しかいないの。だから、私に白羽の矢が立ったの。これが許せるかしら? いいえ、許せないわ。私は……自由に生きたいの。もっと広い世界を見て、色々なことを勉強したいの。分かるわね? エスメラルダさん」
「は、はい。分かりました。そういうことでしたら、ええ」

 そう答えることしかできない。
 それ以外の答えは期待されてないし、許されないと思った。
 有無を言わさずとはこういうことなのだと変に納得もしている。
 彼女の瞳に宿る燃え盛る激しい炎を見てしまったから……。

 麗人よろしく涼やかな笑みを浮かべているけど、目が笑ってない。
 とにかく怖い。
 もしかしたら、自覚がないだけで怖い人ではないかもしれないけど、確証はないのだ。

「貴女にはそうね。うちのハルトと組んでもらおうと思っているのだけど。いいわよね?」
「は、はい。喜んで」
「そう? あまりに反応が良すぎるのもよろしくなくってよ? お分かりいただけて?」
「え、えぇ? はい、サマンサ様」
「様付けもいらないのだけど、まぁ、仕方ないかしら」
「はい?」

 ウィステリア嬢呼びでは微かに眉間にしわが寄ることに気付いた。
 ではどうすべき?
 ここで気軽に「はぁい、サミー」とフランクに呼べる度胸はないし、さすがにチャレンジ精神旺盛過ぎだろう。
 無難に様付けで呼べば、角は立たないはず。
 そう考えたのだけど、これも微妙に彼女の気に召さなかったようだ。
 でも、フランクにと言われても格上の令嬢を呼び捨てに出来る度胸は持ち合わせてない。
 申し訳ないけど、様付けでしか呼べない……。

「ハルト。レディをお送りして」
「はい、お嬢様」
「次に会うのは一つ目の障害を越えた時。それまでごきげんよう。エスメラルダさん」
 
 傍観している間に何かが終わって、何かが始まった。
 私の意思を無視して、話が進んでいるのは気のせい?

 例の人狼の青年の名前がハルトでサマンサ様付きの執事見習いであること。
 サマンサ様の計画に協力する共犯者の一人であること。
 私も共犯者にされたこと。

 ここまで勝手に進んでしまった。
 おまけにサマンサ様の言うがまま、彼に寮まで送ってもらった。
 ウィステリア家のリムジンでは目立つから、二人乗りの小型乗用車を出してくれる気の利かせ方はさすが執事の卵と言うべきだろう。

「まあ、なんというか。あんたも巻き込まれて、お気の毒様だな」
「はぁ。全く、その通りです。でも、中堅貴族のしがない令嬢なので仕方ないのです」
「あんた、見かけより……いや、何でもない。あんたとは気が合いそうだ」
「あの一ついいでしょうか。私はあんたという名前ではないので」
「ああ。すまない。つい……な。じゃあ、あんたは何と呼べばいいかな? ああ、ごめん。また、言っちまった。エスメラルダは長くてな。俺はハリーでいいぞ」

 いきなり、あんた呼ばわりされるから、身構えたけど悪い人ではないかもしれない。
 良くも悪くも素直な人と言ったところ?

「そうですね、ハリー。エミーでもメルでもメリーでも好きなのでかまいませんよ」
「あんた、やっぱり……いや、悪い。じゃあ、メリーさん」
「それ、やめてもらっていいですか?」
「メリーさんは嫌だったか。すまない」
「メリーが嫌なのではなくて。その……メリーさんだと妙な気がするから?」
「そこなのか?」
「ええ、そこですけれど何か?」

 格式高い公爵家のお屋敷に獣人……それも人狼がいて、驚いた。
 人狼は血の気の多い性質の者が多いと聞いていた。
 だから、思わず怖がってしまったけど、そういう考えは迷信に過ぎないのだ。
 ハルト――ハリーは言葉遣いこそ、決してよろしくないけど、いい人なのは間違いない。
 それに気兼ねなく、喋ることができる相手なのも分かった。
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