39 / 43
後日談
番外編12話 カオルの恋
しおりを挟む
カオルは『あれから』女子の姿で生活することも外出することもなくなっていた。
『あれから』というのはタケルとアリスがオーストリアへと旅立ってからだ。
カオルが女の子の姿でいるようになったのは元はと言えば、母親が娘が欲しかったから、という理由だった。
半ば強制的にそうさせられていたのを本人が気に入ってしまっただけに過ぎなかった女装だが、幼馴染二人との関係が大きく影響していたのだ。
タケルはアリスのことが好き。
アリスもタケルのことが好き。
周囲の誰もがそれを分かっているのに当の本人たちがそれに気付いていないし、分かっていたとしても認めようとしない。
幼い頃から、そんな二人を見ていたカオルは二人のことが誰よりも好きだったし、幸せになってもらいたいと心から思っていた。
その為には自分が男の姿のままではアリスとの間にある壁を越えられないだろう。
ならば、自分が女子になればいいのだ。
これで壁はなくなる。
頭のいいカオルだが、変なところでポンコツなのだった。
そんな理由で小学生の頃から、女子として活動していたカオルだが見た目が完璧だった為にあっさり、受け入れられた。
むしろ女子からは好評だったのだ。
女子の姿になったカオルを最初は怪訝な顔で怪しんでいたアリスだったが元から、陽気で深く考えるより身体を動かすタイプの彼女は受け入れるのも早かった。
カオルの睨んだ通り、女子なカオルには壁がなくなったアリスは恋心を素直に語ってくれた。
本人の前に行くと正反対のことを言い出すのは相変わらずだったので頭を抱えることになるのだが……。
そんなカオルに新たな出会いが訪れたのは中学に入学してからだ。
アリスが同じクラスで仲良くなった子として、紹介されたのがスミカだった。
カオルはその時に受けた印象から、スミカは本を読むのが好きでおとなしく、あまり自分をさらけ出さない子と認識していた。
ところがその印象は付き合いが進むにつれ、誤りだと気付かされるのにさして、時間を要さなかった。
カオルは勉強だけではなく、スポーツも何でもござれな秀才である。
だが姿は女子として生活している訳だし、これといってのめり込むほど好きな競技がある訳でもない。
無理をして、運動部に所属しようとはしなかった。
意外なことにカオルが入部したのは文芸部だったのだ。
元より本が好きだったこともあり、興味本位で覗きに行ったところ、そこに見知ったスミカの姿があったから、『悪くない』選択しくらいの興味本位で選んだのだ。
放課後を文芸部で過ごすうち、カオルはスミカがおとなしそうでしっかりした印象というのは見えている部分で周りが勝手に判断しているだけだと知った。
意外と毒舌でいて、周囲を気遣い、何よりも友人との絆を大切にする優しい子だということを知り、スミカとともに時を過ごすことを楽しみにするようになった。
スミカも読書好きで話が合う同性の友達として、カオルと一緒に遊んだり、何もしないで一緒に過ごす日々を悪くないと思っているようだった。
アリスが二人にとって、共通の友人であると同時に幸せになって欲しいと願う大切な人であるのも一緒。
そんな二人が友人から、同士という特殊な関係になるのも自然なことだった。
どうすれば、あの両片思いの面倒な関係を両想いに出来るかと相談するのに二人きりなのも自然なことだったのだ。
その為、お互いを異性として意識することはなかった。
しかし、遅めの思春期を迎えたスミカが変わり始めた。
アリスの恋を応援していたスミカだが、自分が恋をするなどと考えていなかったからだ。
文学少女で本で知識を得るばかりだったスミカは恋とは自分とは関係ないものと考えるようになり、眺めて愛でることで満足するものだと思い込もうとしていた。
そんな彼女にも思春期が訪れた。
いつも側にいてくれる大切な友人を見ると胸が苦しくなることに気付いてしまったのだ。
本での知識でしか、恋愛を知らないスミカだったが、それがカオルに恋をしたからだと気付くまでにさして、時間が掛からなかった。
「あの……カオル。私……あなたのことが好きかもしれない」
「え? 僕も好きだよ」
カオルの言う好きとスミカの言う好きに違いがあることにカオルはまだ、気付いていなかった。
「その好きではなくって……その……やっぱり、無理です」
真っ赤な顔で脱兎の如く、走り去っていくスミカの姿を見て、ようやくカオルは気付いた。
「違う好きって、そういうことね」
ふふっと薄っすらと微笑むカオルの姿は男子生徒が見たら、好きになってしまいそうなくらいに妖しく、艶やかな美しいものだ。
幸いなことに拗らせまくって、カオルとスミカがどんなに手を回しても空回りしている幼馴染二人に比べれば、カオルは素直だったから。
🌺 🌺 🌺
「スミカ、ごめんね。こういうことは僕から、言わなきゃ、駄目だったのにね。僕は君が好きだ。付き合ってくれると嬉しいかな」
カオルは常に冷静であまり表情を変えないだけでなく、その整った顔立ちに男でもいいからと告白する男子も数知れなかった。
その度に『それで僕と君が付き合って、僕が得することがあるの?』と撃沈させていたから、氷の姫(ただし男の娘)と呼ばれていたのだ。
そんな彼にしては珍しく、その頬は赤く染まっており、語尾の言葉遣いも怪しくなっている。
「カオル……はい、お願いします」
こうして、二人は既に中学の頃から、付き合い始めていた。
ただ、恋人として付き合ってはいてもその関係や接し方が変わることはなく、一緒に本を読んだり、手を繋いで買い物に行く程度。
それ以上の関係を望んでいないという訳でもないのに清く正しい交際を続けていた。
それは高校生になっても変わらないままだ。
やがて、ようやく幼馴染二人が結ばれたことでカオルがスミカとの密やかなる関係を明らかなものとしたがそれでも変わることはなかった。
まるで金婚式を迎えた老夫婦みたいだと言われた恋人同士。
それがカオルとスミカだった。
『あれから』というのはタケルとアリスがオーストリアへと旅立ってからだ。
カオルが女の子の姿でいるようになったのは元はと言えば、母親が娘が欲しかったから、という理由だった。
半ば強制的にそうさせられていたのを本人が気に入ってしまっただけに過ぎなかった女装だが、幼馴染二人との関係が大きく影響していたのだ。
タケルはアリスのことが好き。
アリスもタケルのことが好き。
周囲の誰もがそれを分かっているのに当の本人たちがそれに気付いていないし、分かっていたとしても認めようとしない。
幼い頃から、そんな二人を見ていたカオルは二人のことが誰よりも好きだったし、幸せになってもらいたいと心から思っていた。
その為には自分が男の姿のままではアリスとの間にある壁を越えられないだろう。
ならば、自分が女子になればいいのだ。
これで壁はなくなる。
頭のいいカオルだが、変なところでポンコツなのだった。
そんな理由で小学生の頃から、女子として活動していたカオルだが見た目が完璧だった為にあっさり、受け入れられた。
むしろ女子からは好評だったのだ。
女子の姿になったカオルを最初は怪訝な顔で怪しんでいたアリスだったが元から、陽気で深く考えるより身体を動かすタイプの彼女は受け入れるのも早かった。
カオルの睨んだ通り、女子なカオルには壁がなくなったアリスは恋心を素直に語ってくれた。
本人の前に行くと正反対のことを言い出すのは相変わらずだったので頭を抱えることになるのだが……。
そんなカオルに新たな出会いが訪れたのは中学に入学してからだ。
アリスが同じクラスで仲良くなった子として、紹介されたのがスミカだった。
カオルはその時に受けた印象から、スミカは本を読むのが好きでおとなしく、あまり自分をさらけ出さない子と認識していた。
ところがその印象は付き合いが進むにつれ、誤りだと気付かされるのにさして、時間を要さなかった。
カオルは勉強だけではなく、スポーツも何でもござれな秀才である。
だが姿は女子として生活している訳だし、これといってのめり込むほど好きな競技がある訳でもない。
無理をして、運動部に所属しようとはしなかった。
意外なことにカオルが入部したのは文芸部だったのだ。
元より本が好きだったこともあり、興味本位で覗きに行ったところ、そこに見知ったスミカの姿があったから、『悪くない』選択しくらいの興味本位で選んだのだ。
放課後を文芸部で過ごすうち、カオルはスミカがおとなしそうでしっかりした印象というのは見えている部分で周りが勝手に判断しているだけだと知った。
意外と毒舌でいて、周囲を気遣い、何よりも友人との絆を大切にする優しい子だということを知り、スミカとともに時を過ごすことを楽しみにするようになった。
スミカも読書好きで話が合う同性の友達として、カオルと一緒に遊んだり、何もしないで一緒に過ごす日々を悪くないと思っているようだった。
アリスが二人にとって、共通の友人であると同時に幸せになって欲しいと願う大切な人であるのも一緒。
そんな二人が友人から、同士という特殊な関係になるのも自然なことだった。
どうすれば、あの両片思いの面倒な関係を両想いに出来るかと相談するのに二人きりなのも自然なことだったのだ。
その為、お互いを異性として意識することはなかった。
しかし、遅めの思春期を迎えたスミカが変わり始めた。
アリスの恋を応援していたスミカだが、自分が恋をするなどと考えていなかったからだ。
文学少女で本で知識を得るばかりだったスミカは恋とは自分とは関係ないものと考えるようになり、眺めて愛でることで満足するものだと思い込もうとしていた。
そんな彼女にも思春期が訪れた。
いつも側にいてくれる大切な友人を見ると胸が苦しくなることに気付いてしまったのだ。
本での知識でしか、恋愛を知らないスミカだったが、それがカオルに恋をしたからだと気付くまでにさして、時間が掛からなかった。
「あの……カオル。私……あなたのことが好きかもしれない」
「え? 僕も好きだよ」
カオルの言う好きとスミカの言う好きに違いがあることにカオルはまだ、気付いていなかった。
「その好きではなくって……その……やっぱり、無理です」
真っ赤な顔で脱兎の如く、走り去っていくスミカの姿を見て、ようやくカオルは気付いた。
「違う好きって、そういうことね」
ふふっと薄っすらと微笑むカオルの姿は男子生徒が見たら、好きになってしまいそうなくらいに妖しく、艶やかな美しいものだ。
幸いなことに拗らせまくって、カオルとスミカがどんなに手を回しても空回りしている幼馴染二人に比べれば、カオルは素直だったから。
🌺 🌺 🌺
「スミカ、ごめんね。こういうことは僕から、言わなきゃ、駄目だったのにね。僕は君が好きだ。付き合ってくれると嬉しいかな」
カオルは常に冷静であまり表情を変えないだけでなく、その整った顔立ちに男でもいいからと告白する男子も数知れなかった。
その度に『それで僕と君が付き合って、僕が得することがあるの?』と撃沈させていたから、氷の姫(ただし男の娘)と呼ばれていたのだ。
そんな彼にしては珍しく、その頬は赤く染まっており、語尾の言葉遣いも怪しくなっている。
「カオル……はい、お願いします」
こうして、二人は既に中学の頃から、付き合い始めていた。
ただ、恋人として付き合ってはいてもその関係や接し方が変わることはなく、一緒に本を読んだり、手を繋いで買い物に行く程度。
それ以上の関係を望んでいないという訳でもないのに清く正しい交際を続けていた。
それは高校生になっても変わらないままだ。
やがて、ようやく幼馴染二人が結ばれたことでカオルがスミカとの密やかなる関係を明らかなものとしたがそれでも変わることはなかった。
まるで金婚式を迎えた老夫婦みたいだと言われた恋人同士。
それがカオルとスミカだった。
0
あなたにおすすめの小説
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
厄災烙印の令嬢は貧乏辺境伯領に嫁がされるようです
あおまる三行
恋愛
王都の洗礼式で「厄災をもたらす」という烙印を持っていることを公表された令嬢・ルーチェ。
社交界では腫れ物扱い、家族からも厄介者として距離を置かれ、心がすり減るような日々を送ってきた彼女は、家の事情で辺境伯ダリウスのもとへ嫁ぐことになる。
辺境伯領は「貧乏」で知られている、魔獣のせいで荒廃しきった領地。
冷たい仕打ちには慣れてしまっていたルーチェは抵抗することなくそこへ向かい、辺境の生活にも身を縮める覚悟をしていた。
けれど、実際に待っていたのは──想像とはまるで違う、温かくて優しい人々と、穏やかで心が満たされていくような暮らし。
そして、誰より誠実なダリウスの隣で、ルーチェは少しずつ“自分の居場所”を取り戻していく。
静かな辺境から始まる、甘く優しい逆転マリッジラブ物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる