契約勇者は自由を求める 〜勝手に認定された勇者なんて国王様に全てお返しいたします〜

夢幻の翼

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第1話 強制契約勇者と魔神王

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 豊かな森の恵みを受けた緑の王国と呼ばれるゼクシオ王国王城の謁見の間では王国騎士団長による報告が行われていた。

「報告いたします。六代目勇者、ガードラ・ギルスの死亡が確認されました」

 騎士団長の報告に眉をピクリと上げた国王が不機嫌な表情のままため息をつく。

「またか、今回の勇者は本当に使えない奴だったな、魔神王どころか手下の魔物にあっさりと殺されてしまうとは……。まあ、別に良い。死んでしまったならば次の勇者を認定してやれば良いだけの事だ。明日、勇者選定の義を執り行なうので準備をしておくように」

「はっ!」

 国王の命令に深々と頭を下げ部屋を退室する騎士団長をふてぶてしい表情で眺めながら国王がつぶやいた。

「次は少しはマシな奴が選ばれれば良いが……」

 ――翌日、王城では選定の儀式が行われていた。

「魔神王の脅威がある限り我が国の発展は無い! 六代目勇者は敵の罠にかかり命を落としたが尊い犠牲の元で我が国が成り立っている事に祈りを捧げる」

 国王は儀式の前文を読み上げて大きな水晶球の前で呪文を唱え始める。

「我が国に害する悪魔を倒すべく、我が国の剣となり、その身の全てを国の為に捧げる忠実な下僕となる第七代目勇者を選抜したまえ!」

勇者強制契約ギアス!」

 王の力ある言葉に反応した魔力が水晶体に吸い込まれていき、やがてひとりの人物を映し出していた。

 ◇◇◇

 数日後、ゼクシオ王国王都本部冒険者ギルド。

 ――からんからん。

 ギルドのドア鐘がいつもの調子で室内に鳴り響く。

「ガザルク王都支部の冒険者ギルドへようこそ第七代目勇者マーカス・レッジ様」

 ギルドの受付嬢がそう言って丁寧なお辞儀をする。

「アリサさん。その話し方はやめていつも通りにして欲しいんだけどな」

 アリサと呼ばれた受付嬢は俺がいち冒険者であった時にいつも世話を焼いてくれた顔なじみで気を使わなくてもいい関係が心地よかったのだが先日の勇者選定の儀式で俺が勇者認定されたことにより、まるで腫れ物に触るかのような扱いになってしまった。

「それは無理なお話です、マーカス様は第七代目勇者に認定されましたので私どもが気軽に話しかけることは失礼にあたりますからご容赦ください」

 再度深くお辞儀をしたアリサは困った顔をしながら俺にそう告げた。その表情を見た俺は何も言えなくなり「行ってくる」とだけ言い残してギルドを出た。

(それもこれも国王が俺を勇者認定なんかしたせいだ。今は従っているふりをしているがいつか見てろよ)

 俺は平穏な日々を奪われた恨みを聞こえないように吐きながら指定された場所を目指して駆けて行った。

 ――魔神王討伐の旅は苦難を極め何度も命を落としそうになったが運と努力と勇者の能力で成長を続け、ついには魔神王の城へと辿り着いていた。

(魔神王を倒せば勇者から開放されると聞いているが本当なのだろうか?)

 勇者認定の際に説明された内容を頭の中で整理しながら城の内部へと歩を進めるが城の最深部の魔神王の間へと乗り込んだ俺は愕然とする。

「何だ? 魔神王なんてどこにも居ないじゃないか!」

 その部屋は四方を壁に囲まれた場所で麗美な飾りも無い簡素な部屋に玉座だけがポツンと鎮座してあった。

(情報が間違っていたのか?)

 俺は焦りながらも集めた情報の整理をしてこの部屋で間違いない事を確信する。

(魔神王は既に討伐されたか若しくは別の場所に移動したのか?)

 俺がそう結論づけようとした時、突然目の前に立派な二本の角を有した魔神王が姿を現した。

「そこの者、我を探していたようだが何用だ?」

 魔神王はいきなりこちらを襲ってくるといった事もなく冷静な態度でそう尋ねてくる。

「お前が魔神王か?」

「だとしたらどうする?」

「国王の命によりお前を討伐させてもらう」

「ふむ、なるほど。そなたが人間の勇者とやらか。なぜにお前たちは我に剣を向ける? 我がお前たち人間に何かしたとでもいうのか?」

「何をしたか……だと?」

「そうだ。我ら魔神族は自らの領地から出て他を侵略する事はしない。特にお前たち人間のように脆弱な者をいたぶる趣味は無い」

 確かに魔神族が住んでいる地域から魔素にあてられた獣が魔獣となり、人の住む地域へと入り込んで多少の被害はあるものの魔神族が直接攻め込んで来て村や町を襲った事実はない。

「人間の王が我らを恐れ勝手に我が領地に侵攻していているだけではないのか」

 魔神王はつまらないものでも見るかのように俺を見下ろしてそう告げる。

(言われてみればそうかもしれないな。あの傲慢な国王のことだ、勇者の強制契約の儀式を悪用して魔神族の領地を奪わんと考えていても違和感はない)

「だがそういう俺もその契約に縛られていてお前と戦わなければならないんだ」

 俺はそう言って首にはめられている契約の首輪を見せる。

「ふん。まったく人間というものは欲深いものだ。自らの意思で戦いに来た者ならば相手をしてやるのもまた一興だが他人に強制されて来た者など戦う気にもならぬ。ほれ、これで良かろう?」

 魔神王がそう言って指をパチンと鳴らすと俺の首から『コトン』と音をたてて契約の首輪が床に落ちた。

「は?」

「その首輪が邪魔をしていたのだろう? それがなければお前が我と戦う必要もないと思うが違うか?」

「いや……違わないな。俺はたった今、あんたと戦う必要は無くなったわけだ」

「そうか、ならば城の外でまで魔法で送ってやろう。我も度々お前のような者の相手をしてやるほど暇ではないのだ」

 俺は魔神王の言葉の意図を汲んですぐさま返事を返す。

「わかった。暫く王都には近寄らず俺の勇者契約が解除されたことは国王に知られないようにしよう。そうすれば俺の死亡認定がされるまでは次の勇者は現れることはないからあんたに迷惑をかける事も無いだろう」

「ほう、なかなか頭の切れる人間のようだ。名はなんと申す?」

「マーカス・レッジ」

「憶えておこう。出来ることならばこのつまらん争いに終止符を打てる手段を期待しておるぞ」

「何が出来るかは分からないが、いざという時には諸悪の根源をあんたの目の前に連れてくる方法を考えておくからそっちで好きにしてくれ」

 俺が魔神王にそう告げると彼は口角を上げてニヤリと笑い転送の魔法を俺にかけたのだった。
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