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最終話 悪徳国王の末路
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(さあ、始めるとするか)
その夜、僕は城に忍び込みいくつかの道具に仕込みをすませる。
――翌日。
王家では上級貴族など国の主だった者達を集めて儀式が行われていた。
「皆の者! 勇者マーカス・レッジは魔神王の城にて消息不明となった! 追跡調査も行ったが所在は掴めなかったため第七代目勇者マーカス・レッジは死亡したものと認定する!」
室内からザワザワとざわめきが広がっていった。
「静まれ!」
「だが、我が国は勇者のひとりが死んだとて大きな問題ではない! 勇者が居なければ勇者を認定して育てれば良いのだ!」
国王の言葉にその場に居る者達に緊張が走る。
王家の勇者認定は神の名において絶対の契約として与えられる使命で、その人の家柄や人格、男女や年齢さえも全く考慮されずに指名され、逃げる事は不可能であった。
指名の方法は、儀式の間に置かれている巨大な水晶体に王家の契約が封印された勇者の首輪を捧げて王が勅命を出すだけで契約が施行される事になる。
そしてこの場には国の主だった者達が集まって儀式を見ているので、誰が次の勇者に選抜されたかすぐに国中へ広がるのであった。
「では儀式を行う。今度の勇者には魔神王の討伐に加えて前勇者の生死確認をしてもらうとするか。なに、失敗したならばまた次の勇者を指名すれば良いだけよ」
王の発言に参戦恐々の貴族達だったが、王は涼しい顔で言い放った。
「なに、この勇者選抜は王家の者は選ばれないようになっておるから心配するな。もし、お前達の誰かが選ばれたならすぐに子供に家督を譲ることだな。でないと家長を失った家は取り潰しになるからな」
部屋の空気が一気に重くなり皆が一斉に祈りだした。
自分が選ばれませんにように――と。
「よし! 勇者選抜儀式を始める!」
王が魔力を伴った杖を振りかざして王家の制約文を読み上げた。
「我が国に害する悪魔を倒すべく、我が国の剣となり、その身の全てを国の為に捧げる忠実な下僕となる勇者を選抜したまえ!」
「勇者強制契約!」
王の力ある言葉に反応した魔力が水晶体に吸い込まれていき、やがてひとりの人物を映し出した。
――そこに映っていたのは……。
ザワザワ……そこにいる者達全員が息を飲んだ。
「な、なぜだ!? なぜ我の顔が映し出されているんだ!!」
王は目の前で起こった事にわなわなと両の手を頬に充てて叫ぶしか出来なかった。
「王家の秘術は王家には適用されないはず! たとえ我が選ばれようとも我に契約は無効になるはずだ!」
そう叫ぶ王の首には契約の首輪がはめられていた。
「こんなもの解除してくれるわ!」
王は契約の解除しようと叫ぶが何も反応しない。
それどころか、輝きを増して王の体を拘束した。
その時、声も出ない周りの貴族達の後ろからひとりの男の声が聞こえた。
「これはこれは、勇者認定おめでとうございます。国王様……いえ、もう勇者様とお呼びした方が宜しいですかね」
そこには先ほど死亡認定されたはずの元勇者マーカス・レッジが立っていた。
「マーカス・レッジ!? これは貴様の仕業か!」
国王が叫ぶ。
「はて、なんの証拠があってそのような事をおっしゃられるのか分かりかねますが元・勇者としてアドバイスをひとつ差し上げようと思いましてね」
「な、なにを……」
体の自由が効かない国王がうめく。
「以前魔神王に会った時に言われたのですが、貴方のやり方には大層不満を持っていました。魔神王が邪魔と言われるのならば貴方自身が直接対峙されてはいかがでしょうか?」
「ま、魔神王と話したのか!? まさか、奴の下にくだったのではないな!?」
「魔神王とは和解しただけですよ。お互いが不干渉でいるようにしたいと言ってましたよ」
「そのような戯言を真に受けたのか! この人類の敵めが!」
「何を言っても無駄ですよ」
叫ぶ元国王を見下ろしながら僕は宰相に告げる。
「魔神王はこちらが攻めぬ限り不干渉とする旨を言っていた。今の国政を守りたいならそれを忘れてはならない」
その言葉に宰相は静かに頷くとその場に居た貴族達に宣言する。
「この場に居る元国王はこれから魔神王の元へと向かわれる。次代の王は若き王子となるゆえ私を含め皆で支えてやるように」
その言葉に貴族達は頷き若き王子へ忠誠を誓った。
元国王はその日のうちに魔神王の元へ送り出されその後、姿を見た者は居なかった。
「――マーカスさん。やっぱり行ってしまわれるのですか?」
勇者を辞めた僕が所属ギルドの変更をするために顔を出すとアリサが残念そうにそう言う。
「あんなことがなければこの街でもっと活躍出来たでしょうに」
「すまない、約束をしてしまったからな」
「残念ですが冒険者の方は自由にギルドの所属を変える権利があります。新しい所でも頑張ってくださいね」
「ああ、これまでありがとう」
僕は書類をアリサから受け取ると彼女にお礼を言ってギルドを出る。
空は青く澄んでおり暖かくなってきた風を受けながら僕は北へと足を向けた。
ー 完 ー
その夜、僕は城に忍び込みいくつかの道具に仕込みをすませる。
――翌日。
王家では上級貴族など国の主だった者達を集めて儀式が行われていた。
「皆の者! 勇者マーカス・レッジは魔神王の城にて消息不明となった! 追跡調査も行ったが所在は掴めなかったため第七代目勇者マーカス・レッジは死亡したものと認定する!」
室内からザワザワとざわめきが広がっていった。
「静まれ!」
「だが、我が国は勇者のひとりが死んだとて大きな問題ではない! 勇者が居なければ勇者を認定して育てれば良いのだ!」
国王の言葉にその場に居る者達に緊張が走る。
王家の勇者認定は神の名において絶対の契約として与えられる使命で、その人の家柄や人格、男女や年齢さえも全く考慮されずに指名され、逃げる事は不可能であった。
指名の方法は、儀式の間に置かれている巨大な水晶体に王家の契約が封印された勇者の首輪を捧げて王が勅命を出すだけで契約が施行される事になる。
そしてこの場には国の主だった者達が集まって儀式を見ているので、誰が次の勇者に選抜されたかすぐに国中へ広がるのであった。
「では儀式を行う。今度の勇者には魔神王の討伐に加えて前勇者の生死確認をしてもらうとするか。なに、失敗したならばまた次の勇者を指名すれば良いだけよ」
王の発言に参戦恐々の貴族達だったが、王は涼しい顔で言い放った。
「なに、この勇者選抜は王家の者は選ばれないようになっておるから心配するな。もし、お前達の誰かが選ばれたならすぐに子供に家督を譲ることだな。でないと家長を失った家は取り潰しになるからな」
部屋の空気が一気に重くなり皆が一斉に祈りだした。
自分が選ばれませんにように――と。
「よし! 勇者選抜儀式を始める!」
王が魔力を伴った杖を振りかざして王家の制約文を読み上げた。
「我が国に害する悪魔を倒すべく、我が国の剣となり、その身の全てを国の為に捧げる忠実な下僕となる勇者を選抜したまえ!」
「勇者強制契約!」
王の力ある言葉に反応した魔力が水晶体に吸い込まれていき、やがてひとりの人物を映し出した。
――そこに映っていたのは……。
ザワザワ……そこにいる者達全員が息を飲んだ。
「な、なぜだ!? なぜ我の顔が映し出されているんだ!!」
王は目の前で起こった事にわなわなと両の手を頬に充てて叫ぶしか出来なかった。
「王家の秘術は王家には適用されないはず! たとえ我が選ばれようとも我に契約は無効になるはずだ!」
そう叫ぶ王の首には契約の首輪がはめられていた。
「こんなもの解除してくれるわ!」
王は契約の解除しようと叫ぶが何も反応しない。
それどころか、輝きを増して王の体を拘束した。
その時、声も出ない周りの貴族達の後ろからひとりの男の声が聞こえた。
「これはこれは、勇者認定おめでとうございます。国王様……いえ、もう勇者様とお呼びした方が宜しいですかね」
そこには先ほど死亡認定されたはずの元勇者マーカス・レッジが立っていた。
「マーカス・レッジ!? これは貴様の仕業か!」
国王が叫ぶ。
「はて、なんの証拠があってそのような事をおっしゃられるのか分かりかねますが元・勇者としてアドバイスをひとつ差し上げようと思いましてね」
「な、なにを……」
体の自由が効かない国王がうめく。
「以前魔神王に会った時に言われたのですが、貴方のやり方には大層不満を持っていました。魔神王が邪魔と言われるのならば貴方自身が直接対峙されてはいかがでしょうか?」
「ま、魔神王と話したのか!? まさか、奴の下にくだったのではないな!?」
「魔神王とは和解しただけですよ。お互いが不干渉でいるようにしたいと言ってましたよ」
「そのような戯言を真に受けたのか! この人類の敵めが!」
「何を言っても無駄ですよ」
叫ぶ元国王を見下ろしながら僕は宰相に告げる。
「魔神王はこちらが攻めぬ限り不干渉とする旨を言っていた。今の国政を守りたいならそれを忘れてはならない」
その言葉に宰相は静かに頷くとその場に居た貴族達に宣言する。
「この場に居る元国王はこれから魔神王の元へと向かわれる。次代の王は若き王子となるゆえ私を含め皆で支えてやるように」
その言葉に貴族達は頷き若き王子へ忠誠を誓った。
元国王はその日のうちに魔神王の元へ送り出されその後、姿を見た者は居なかった。
「――マーカスさん。やっぱり行ってしまわれるのですか?」
勇者を辞めた僕が所属ギルドの変更をするために顔を出すとアリサが残念そうにそう言う。
「あんなことがなければこの街でもっと活躍出来たでしょうに」
「すまない、約束をしてしまったからな」
「残念ですが冒険者の方は自由にギルドの所属を変える権利があります。新しい所でも頑張ってくださいね」
「ああ、これまでありがとう」
僕は書類をアリサから受け取ると彼女にお礼を言ってギルドを出る。
空は青く澄んでおり暖かくなってきた風を受けながら僕は北へと足を向けた。
ー 完 ー
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