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第55話【伯爵家からの提案】
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「やっぱり領主様に上申書を持っていったんだね」
リリスが不安そうな顔で僕を見る。
「まあ、売り言葉に買い言葉で別れたからそうなる可能性は十分あったんだけどね。
まあ、向こうの言い分だけでは判断出来ないから僕達からも事情を聞こうと言うのが目的なんだろうと思うよ」
「領主様から診療所の自粛を打診されたらどうするの?」
「内容によるけど納得出来なければ街を出る事も検討するかもしれない。
でも、領主様が全面的に薬師ギルドの言い分を認めるとは思ってないし、かと言って今と同じで自由にやらせてくれるとも思わない。
とにかく話を聞いてみない事には判断が出来ないな」
「そうね。
まずは話を聞く事にしましょう」
僕達はそう決めて領主邸へ出向く事にした。
* * *
「治癒士のナオキとリリス、領主様の呼び出しにより参りました。
取り次ぎをお願いします」
次の日の朝、僕達はふたりして領主邸の門に来ていた。
「話は通ってる。
玄関に侍女長が待機しているので彼女の指示に従うように」
門番にそう促され玄関まで進むと侍女長のミリーナが待機をしていた。
「お待ちしておりました。
こちらの応接室へお願いします」
僕達はミリーナに連れられて応接室へと向かう。
「失礼します。
ナオキ様とリリス様をお連れしました」
部屋のドアをノックし、中へ声掛けをすると返事が返ってきた。
「入りたまえ」
その声を確認するとミリーナがドアを開けて僕達を中に招き入れた。
「急な呼び出しで悪いがいくつか聞きたい事があってな。
まあ、座って話そうじゃないか」
そこには領主のアーロンド伯爵と妻のサラが待っていた。
僕達がふたりの前のソファへ腰掛けると侍女のひとりが紅茶を出してくれた。
「ありがとうございます。
それでお話と言うのはどういったものなのでしょうか?」
僕は出された紅茶を一口飲むと伯爵へ呼び出しの意図を聞いた。
「うむ。他でもないのだが、昨日街の薬師ギルドから上申書が届いてな。
内容を精査しているとそなたの診療所が薬師が担当している患者を横取りしたとあり、その数が日に日に増えてきている事により薬師が収入を確保しづらくなっているそうだ」
伯爵は上申書を片手に僕を見ながら説明していく。
「もちろん、この上申書に書かれている内容を全て信じている訳ではない。
だが、実際にサナールの薬師達の一部が厳しい状況なのは間違いないのだろう。
そこで……だ」
伯爵はそこで話を切り、サラの方を向いて目で合図をした。
「そうね。そこからは私が話を変わりましょう」
そう言ってサラが説明を引き継ぐ。
「まずは、先日の治療の件ですが特に違和感等無くて自由に動かせています。
ありがとう」
サラは軽く頭を下げる。
「さて、今回の薬師達との件ですが、私の意見を述べる前にあなた方の意見や思いを教えて貰えますか?」
サラは真剣な表情で僕とリリスに問う。
「ーーーそうですね。
正直、一方的にこちらが悪者にされた感じがあって薬師ギルドのギルマスと多少口論になりましたが何かルール決めが必要であろうと考えます。
まあ、あまりにも僕達に不利益な条件だとお断りしなければならないかもしれませんが基本的には領主様のご判断を仰ぎたいと考えます」
「私はナオキ治癒士のサポートですので彼が決めた事に従うつもりです」
僕達の意見を伯爵ならびにサラへと伝える。
「分かりました。
おおよそ想定内の考えをお持ちのようですので私の意見を述べさせて貰います。
これから話す内容は私と主人が話し合って決めた事ですが、どうしても納得出来ない時は遠慮なく意見をして良いです。
宜しいですね?」
サラの言葉に僕達が頷いた。
「まず、ひとつ。
診療所の患者受け入れの方法を変更する。
具体的には誰でも来れる体制を止めて全て斡旋ギルド経由の依頼のみにする事。
但し、命に関わる緊急時はその限りではない。
また、それによる減収が顕著に出る場合は伯爵家から補助を出すものとする」
「ふたつ。
診療所で治療を受ける患者のレベルを薬で治療出来ない者に設定する事。
この判断が難しいところなんだけど薬師ギルドに一任するしかないと思うわ。
但し、投薬から一月継続しても改善が見られない場合は患者からの申告で診療所での治療を受ける事が出来るとする」
「みっつ。
おそらく、この方法を実行すると診療所での仕事が激減すると思われるけど、伯爵家から領民に対しての患者情報の収集と斡旋ギルドへの情報提供をするのでそれをもとに家に訪問しての診療を中心に活動して欲しい」
サラはそこまで説明して「次に薬師ギルドへの指示は次のようなものよ」と続けた。
「ひとつ。
薬師ギルドは所属の薬師達に対してレベルの底上げを義務付ける。
最低限のレベルに達していない薬師は再教育するかギルドを除名する」
「ふたつ。
基本的に患者を診療した時は自らの投薬等で治療が可能かどうかの判断をし、完治が難しい場合は薬師ギルドに報告して診療所で治療が受けられるようにする事を厳守する。
なお、それにより生活に支障をきたす減収があった場合は薬師ギルドに報告し、支援を受ける事が出来るものとする。
また、薬師ギルドには伯爵家から支援金を受けられる仕組みを新たに作るものとする」
「みっつ。
薬師達が自らのプライドの為に虚偽申告をして患者を危険な目に合わせた場合は薬師の免状を取り消すものとする」
サラはそう説明すると「どう?何か意見はあるかしら」と僕に聞いた。
リリスが不安そうな顔で僕を見る。
「まあ、売り言葉に買い言葉で別れたからそうなる可能性は十分あったんだけどね。
まあ、向こうの言い分だけでは判断出来ないから僕達からも事情を聞こうと言うのが目的なんだろうと思うよ」
「領主様から診療所の自粛を打診されたらどうするの?」
「内容によるけど納得出来なければ街を出る事も検討するかもしれない。
でも、領主様が全面的に薬師ギルドの言い分を認めるとは思ってないし、かと言って今と同じで自由にやらせてくれるとも思わない。
とにかく話を聞いてみない事には判断が出来ないな」
「そうね。
まずは話を聞く事にしましょう」
僕達はそう決めて領主邸へ出向く事にした。
* * *
「治癒士のナオキとリリス、領主様の呼び出しにより参りました。
取り次ぎをお願いします」
次の日の朝、僕達はふたりして領主邸の門に来ていた。
「話は通ってる。
玄関に侍女長が待機しているので彼女の指示に従うように」
門番にそう促され玄関まで進むと侍女長のミリーナが待機をしていた。
「お待ちしておりました。
こちらの応接室へお願いします」
僕達はミリーナに連れられて応接室へと向かう。
「失礼します。
ナオキ様とリリス様をお連れしました」
部屋のドアをノックし、中へ声掛けをすると返事が返ってきた。
「入りたまえ」
その声を確認するとミリーナがドアを開けて僕達を中に招き入れた。
「急な呼び出しで悪いがいくつか聞きたい事があってな。
まあ、座って話そうじゃないか」
そこには領主のアーロンド伯爵と妻のサラが待っていた。
僕達がふたりの前のソファへ腰掛けると侍女のひとりが紅茶を出してくれた。
「ありがとうございます。
それでお話と言うのはどういったものなのでしょうか?」
僕は出された紅茶を一口飲むと伯爵へ呼び出しの意図を聞いた。
「うむ。他でもないのだが、昨日街の薬師ギルドから上申書が届いてな。
内容を精査しているとそなたの診療所が薬師が担当している患者を横取りしたとあり、その数が日に日に増えてきている事により薬師が収入を確保しづらくなっているそうだ」
伯爵は上申書を片手に僕を見ながら説明していく。
「もちろん、この上申書に書かれている内容を全て信じている訳ではない。
だが、実際にサナールの薬師達の一部が厳しい状況なのは間違いないのだろう。
そこで……だ」
伯爵はそこで話を切り、サラの方を向いて目で合図をした。
「そうね。そこからは私が話を変わりましょう」
そう言ってサラが説明を引き継ぐ。
「まずは、先日の治療の件ですが特に違和感等無くて自由に動かせています。
ありがとう」
サラは軽く頭を下げる。
「さて、今回の薬師達との件ですが、私の意見を述べる前にあなた方の意見や思いを教えて貰えますか?」
サラは真剣な表情で僕とリリスに問う。
「ーーーそうですね。
正直、一方的にこちらが悪者にされた感じがあって薬師ギルドのギルマスと多少口論になりましたが何かルール決めが必要であろうと考えます。
まあ、あまりにも僕達に不利益な条件だとお断りしなければならないかもしれませんが基本的には領主様のご判断を仰ぎたいと考えます」
「私はナオキ治癒士のサポートですので彼が決めた事に従うつもりです」
僕達の意見を伯爵ならびにサラへと伝える。
「分かりました。
おおよそ想定内の考えをお持ちのようですので私の意見を述べさせて貰います。
これから話す内容は私と主人が話し合って決めた事ですが、どうしても納得出来ない時は遠慮なく意見をして良いです。
宜しいですね?」
サラの言葉に僕達が頷いた。
「まず、ひとつ。
診療所の患者受け入れの方法を変更する。
具体的には誰でも来れる体制を止めて全て斡旋ギルド経由の依頼のみにする事。
但し、命に関わる緊急時はその限りではない。
また、それによる減収が顕著に出る場合は伯爵家から補助を出すものとする」
「ふたつ。
診療所で治療を受ける患者のレベルを薬で治療出来ない者に設定する事。
この判断が難しいところなんだけど薬師ギルドに一任するしかないと思うわ。
但し、投薬から一月継続しても改善が見られない場合は患者からの申告で診療所での治療を受ける事が出来るとする」
「みっつ。
おそらく、この方法を実行すると診療所での仕事が激減すると思われるけど、伯爵家から領民に対しての患者情報の収集と斡旋ギルドへの情報提供をするのでそれをもとに家に訪問しての診療を中心に活動して欲しい」
サラはそこまで説明して「次に薬師ギルドへの指示は次のようなものよ」と続けた。
「ひとつ。
薬師ギルドは所属の薬師達に対してレベルの底上げを義務付ける。
最低限のレベルに達していない薬師は再教育するかギルドを除名する」
「ふたつ。
基本的に患者を診療した時は自らの投薬等で治療が可能かどうかの判断をし、完治が難しい場合は薬師ギルドに報告して診療所で治療が受けられるようにする事を厳守する。
なお、それにより生活に支障をきたす減収があった場合は薬師ギルドに報告し、支援を受ける事が出来るものとする。
また、薬師ギルドには伯爵家から支援金を受けられる仕組みを新たに作るものとする」
「みっつ。
薬師達が自らのプライドの為に虚偽申告をして患者を危険な目に合わせた場合は薬師の免状を取り消すものとする」
サラはそう説明すると「どう?何か意見はあるかしら」と僕に聞いた。
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