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第二章 初デートのはずなのになんでこうなった??
第一話*side衛
帝都、桃京。
トウキョウであって東京ではない。そんな架空の都市がある世界。
いや、架空ではなくて俺にとってはここが現実世界である。
少女漫画『月光乙女は帝都に舞う』の舞台は世界大戦の起きていない大正時代だ。
戦争をしていない代わりに妖魔という謎の生物相手に、人類は一丸となって戦っている。
俺はこの世界が漫画だと知ることのできる時空からここへ生まれ変わったようだ。
何の変哲もないモブキャラ確定の俺だが、退魔と呼ばれる超能力のような力がある。退魔の力はそれなりに貴重なので、妖魔と戦うために設立されたヒロインが活躍する国軍、月光隊に所属することができた。
といってもヒロインにお近づきになることもなく、月光隊員のモブとして生きていくつもりだったのだが。
「非番の日は和装なんだね。新鮮だな」
その月光隊の先輩隊員であり、所属している部隊の隊長である一条寺陽真少尉が、それはもう誰もが振り返る美貌を蕩けさせ、待ち合わせの時計台の下へやって来た俺を出迎えてくれた。
俺の服装は和装と言ってもいわゆる書生スタイルだ。
この国ではまだ洋服を仕立てる店が少なく、上流階級や一部の制服に起用されているくらいである。
「はい。洋服は手に入りにくいので」
一条寺少尉は皇族の流れをくむ伯爵家の次男だ。
それだというのに手足が長く金髪にアイスブルーの瞳と到底日本人には思えない容姿をしている。
それもそのはず、少尉は漫画の中では当て馬だがヒロインを支える重要なキャラなのである。
黒目黒髪でコマの端にちょろっと入り込むような、その他大勢のモブの俺とはそもそも存在が違う。
自然と放つ輝きが違うのだ。
「それなら今度一緒に仕立てに行こう。ああ、でも和装の衛も捨てがたい……困ったな」
「お気持ちだけで十分です。少尉は洋服がお似合いですね」
にこにこ笑顔の一条寺少尉が俺の言葉にピクリと頬を引きつらせた。
なにか変なことを言っただろうか? と思ったときには少尉の端正な顔が至近距離にある。
ふわりと感じる甘い香りに思わず俺は後ずさろうとしたが、背に手を回され阻止された。
「……衛。何度も言っているけど仕事の時以外は名前で呼んでほしい。僕たちは恋人なんだよ?」
妙に距離の近い俺達の姿に通行人たちが好奇の目を向けてくる。
その視線にぞわりと嫌悪感で鳥肌が立った。
人の目にさらされるのは苦手だ。
だというのになぜか主要キャラである一条寺陽真とモブの俺、日凪衛はお付き合いすることになり、注目を浴びる少尉が側にいるとなると当たり前のように俺にも視線が集まってしまう。
「あの、少尉、少し離れて……」
「陽真だよ、はるま。ほら、言ってみて」
俺の状況など気付かず……いや、もしかしたら俺が嫌がっていることに気付いていて気付かないフリをしてそうな少尉が、うっとりした声で俺に詰め寄る。
5センチくらい少尉の方が身長は高いが、なんというか体の厚みが俺と少尉では異なる。がっしりと体を抱き込まれてしまうと俺は抜け出すことが不可能だ。
……いや、ぶん殴ったりして頑張れば逃げられる、けど。
幸せそうに微笑み、期待の眼差しを向けるアイスブルーの瞳は凄く嬉しそうに輝いていて、それを見てしまうと仕方ないなぁと絆されてしまうのだ。
だって、俺なんかをこんなに愛してくれる物好きは後にも先にも一条寺少尉くらいだろう。
「…………。……陽真様、離れて、ください」
「ふふ、いい子だ。今日は名前で呼ぶんだよ。いいね?」
「……はい」
俺に名前で呼ばれるのがそんなに嬉しいのか、背後に花が舞う幻覚でも見えそうなほど浮かれて見える一条寺少尉の姿に呆気に囚われてしまう。
本当にこの人は俺のことが好きなんだろうな……と実感して、ムズムズする。
やっと離れてくれた少尉だったが、さり気なく俺の手を引き歩き出した。
周りの視線がやはり怖くて、少尉の手を振り払って隠れてしまいたかったのに、楽しそうな少尉の時間に水を差すのは申し訳なくて我慢することにした。
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