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第三章 新隊員の選抜条件おかしくないですか??
第四話*side陽真
しおりを挟む耐え忍ぶのに慣れすぎている衛が素直に話すとは思わなかったが案の定だ。
泣きそうな顔をした原因を聞き出そうとあの女との会話を問いただしたが、返ってきた答えは「同期と挨拶していた」だけである。
それであんな顔になりはしないだろう。
さてどうしようか。
強情な衛は言葉だけでは到底口を割ることはない。
そうなると身体に聞くしかないのだが、困ったことに用意が何もない。
こんなことなら潤滑油の一つや二つや五つくらい常に持ち歩いて置くべきだった。
じっと怯えたように見つめてくる衛を書棚の間の壁へと追いやり、逃げられないよう四方を囲む。
「あ、あの、一条寺少尉」
アワアワと戸惑う衛を無視して、僕は衛の上着のボタンを外した。詰め襟型の隊服は真面目な衛によく似合っていて、尚且つ彼の心を守る防具として立派に役目をはたしている。
衛にとって月光隊員だということは誉れなのだろう。
そんな衛の殻を剥がしていく。
「衛、怪我は左腕だけかい?」
シャツのボタンもすべて外し、衛の引き締まった腹筋に指を這わせながら問いかければ、衛の緊張が不意に解けたのが伝わってきた。
僕が怪我のことを聞いたから脱がされているのは性的なものでなく、医療的なものなのだと合点したのだろう。
もちろん心配はしているが、医務室できちんと手当をしたのなら僕の出る幕はない。
素直な衛を油断させるための質問だ。
「はい。一箇所だけです」
「そう、服を脱いで見せてくれる?」
「わかりました」
衛は素直に答えると、上にまとっていたものをすべて脱ぎ上半身をあらわにした。
薄暗い資料室の明かりのせいかいつもよりも卑猥に見える。
僕が衛の脱いだ服と持っていた書類を取り上げれば、衛の服からコロリと瓶が落ちた。
「これは?」
「傷口に塗るように支給された軟膏です」
「……へぇ」
僕は瓶の蓋をあけドロリと手に垂らして軟膏の粘度を確かめる。
これなら使えるな。
やはり僕と衛は結ばれる運命にあるのだと実感せざるを得ない。
僕は軟膏を自分のポケットに仕舞い、両手でゆっくりと衛の肩に触れて腕の方へ指を滑らせた。
軟膏の付いた指が触れた肌は艶めかしく光を反射している。
それすら魅力となる愛しい恋人を堪能したいのだが、腕に巻かれた真新しい包帯が目に痛い。
やはり、衛のためにも前衛強化は急務だ。
僕は無意識のうちに包帯に顔を寄せ、触れるだけの口付けをする。
衛が息を呑むのが伝わってきた。
「衛、もう一度聞くよ。彼女と何を話していたんだい?」
僕の問いかけに今度は息を止めるのが伝わってきた。
衛の態度や視線から、月代おとめに恋慕があるようには見えなかった。だが、二階堂と月代が共に居ることで、または何かを言われたことがきっかけで、心境に変化を起こした可能性はある。
僕という恋人がいながらそれは許されることではないだろう。
僕を怯えたように見つめ、唇をぎゅっと引き結ぶ衛を抱きしめてやりたい。素直に答えてくれるなら迷わず抱き締めるのに。
「ですから……挨拶と他愛もない会話で」
「そう、解った」
努めて突き放すように冷たく言えば、衛は視線を彷徨わせてから諦めたように瞼を伏せた。
追求されなくなって安堵するのかと思えばそうではない。僕が引いたことで衛は意気消沈したのだ。なるほど。これは僕に真実を暴かれたい、そういうことなのだろう。
可愛い恋人からの期待には全力で応えるべきだ。お望み通りきちんと聞き出してあげる。
だが、たとえ一瞬の浮気だとしても、僕は笑顔で許すつもりは毛頭ないから覚悟はしておくれ。
「強情な衛にはお仕置きが必要だね」
僕の言葉にヒュッと喉を鳴らす衛の姿は本当に不憫だ。
もしかすると前衛確保よりも、僕に甘えていいのだと衛に教える方がよっぽど大切で、急務なのではないだろうか。
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