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第四章 百鬼夜行殲滅作戦
第六話*side陽真
しおりを挟む「しょう……陽真様、林檎が剥けました、どうぞ」
「ん、ありがとう」
最愛の衛が僕のベッドの横に腰掛け、僕のために器用に剥いた林檎を差し出した。
なんといい日だろうか。
ちなみに林檎は一部皮を残した飾り切りで、細長く残された皮がウサギの耳のような形になっている。可愛い。
最初見たときは驚いたが、むかし衛が体調を崩した時に家族に頼み、このように愛らしい姿に剝いて貰ったのだと教えてくれた。
衛の大切な過去の記憶を僕と共有しくれたのがすごく嬉しい。もちろんこの剥き方を僕もすぐに気に入った。
僕が小さく口を開けて甘えて見せれば、衛は甲斐甲斐しく僕の口元にウサギ林檎を添えてくれる。
一口食べれば独特の食感のあと甘酸っぱさが口の中に広がった。
「林檎は栄養がありますから、ちゃんと食べてくださいね」
まるでばあやのようなことを言う衛が本当に愛しくて、僕はだらしなく頬が緩みそうになるのを堪えて、口の中を空にしてからまた口を開け、衛に林檎を強請った。
さて、なぜ僕がベッドで衛に看病されているかというと、その理由は百鬼夜行の後始末まで遡る。
合同殲滅作戦に夜蝶部隊のみであたることは、まあ許容範囲ではあったが、あのような暴挙を起こされては見過ごすことができない。
馬車で轢き殺すつもりはなかっただろうが、負傷者をださせるつもりだったのだろう。一般人を巻き込むなど言語道断だが、あれはあの御者もグルだったと考えるのが自然だ。
なぜなら封鎖自体はきちんと行われていたことが確認できたからだ。
本来であればあの場所に月光隊員以外が入ることも出ることもできない。入ることができるとすれば、それは手引した者がいるということだ。
つまり、あの馬車は何かしらの理由をもってあの場所に存在した。
可能性が高いのは一般人を巻き込んでしまったとして、夜蝶部隊の功績に泥を塗ることだ。
御者は命までも金で買われていたに違いない。
まあ正直そのあたりはどうでもいい。
問題は、僕の衛が大怪我をするかもしれなかったことだ。
これは許されることではない。
衛に危害を与えるものは、社会的にも身体的にも二度と表舞台には出られないように粛清する。これは当然のことであり自然の摂理だろう。
僕にはそれを出来るだけの力があるのだから。
愛するものを傷付けられて黙っていられないのは血筋なのかもしれない。よく理解している薫子はいい仕事をしてくれた。
馬車の一部を切り落とし、証拠を残してくれたのだ。
それを手土産にあれやこれや出ない埃まで叩き出してやれば、気が触れてしまった可哀想な政治家とそのバカ息子が出来上がった。
最後の抵抗とばかりに僕の足を負傷させてくれたが、それが決め手となり逮捕された。全く短絡的で愚かしい人だった。
彼らの罪にはこれから更に身に覚えのない賄賂や殺人の罪も加わり、一生檻の中で生活することになるだろう。
あの一家はだいぶ太り過ぎだったから、健全になって良かったんじゃないだろうか。ああ、でも規則正しい生活は体に合わなくて、早死してしまうかもしれないね。
まあそうなっても自業自得なのだから諦めてもらおう。
僕は足を痛めたが、彼らの罪の数々を告白してくれた方々には恩を売ることもできたので、結果としてはかなり上々だった。
ただ、僕が怪我をしたと知った衛に我を忘れて泣かれるほど心配させてしまったので、それに関しては大失態だ。
僕は僕の与える快楽以外で衛の涙が溢れ出るのを見たくない。まあ、百歩譲って幸せで流してしまう感涙は許容するが。
悲しみや苦痛で泣いてほしくない。
どうしたら喜びの涙を溢れさせられるだろうか、と思案しだした僕の心など知らないはずの衛から「毎日看病しに来てもいいですか?」と真面目すぎる言葉が飛び出した。
毎日、衛が、僕の部屋へやって来る。
なるほど、これは毎日衛に歓喜の涙を流させろという神の思し召しなのだろう。間違いない。
なぜなら僕たちは恋人で、その恋人の部屋に毎日来るのだ。なにもないはずがないだろう。
恋人としての営みが起きることなど微塵も想定しないのは、純粋な衛くらいだ。
打算まみれの僕はもちろん断ることなく、衛の提案を受け入れた。
そして衛は今、僕の寝室にいる。
ちなみに僕は実家の屋敷に療養名目で一週間ほど戻ってきている。色々手を回すのにこちらの方が都合が良かったからなのだが、衛との甘い時間も寮のベッドよりはこちらの方がいい。
やはり、早く新居を手配しなくては。
百鬼夜行も無事に殲滅したし僕の負傷もあるので、夜蝶部隊は一週間ほど全員休暇とした。
なので毎日衛を泣かせても問題はない。これも神の采配と言うものだろう。
この世のすべてが僕と衛の蜜月を祝福してくれているようだ。
さて、おやつのウサギ林檎も食べ終わったし、恋人としてもっともっと、衛に甘えさせてもらうことにしよう。
僕の視線だけで次に食べたいものを汲み取ったのか、衛が耳を赤く染めて口をキュッと横に結ぶ。
「タオルとお湯、取ってきます!!」
脱兎とはこのようなことを言うのだろうか。
衛は立ち上がると素早い動作で部屋を出て行ってしまった。
「ふふ、美味しく食べてあげるから、早く戻っておいで」
僕は衛が出ていった扉を見ながら、自然と笑みを浮かべた。
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