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第五章 俺の扱い雑すぎませんか??
第一話*side衛
「日凪衛! なぜあなたなんかが夜蝶部隊に居るのですか!?」
月光隊本部基地の廊下を歩いていたところ、俺は行く手を複数人の隊員に塞がれた。
その中から一人の少女が前に出る。
長い金髪を三つ編みにした、青い瞳の美少女だ。
階級章は曹長。百園曹長と同じだが、この子に功績はない。ただ伯爵家のご令嬢というだけで第弐部隊の班長を努めている。
何故言い切れるのかと言うと、この美少女はある意味月光隊で有名であり、かつ少女漫画『月光乙女は帝都に舞う』にも登場していたからだ。
名前は土御門さくら。
自称、一条寺少尉の婚約者だ。
「あの、藪から棒になんのお話でしょうか……?」
「貴様! さくら様に対して頭が高いぞ!」
「そうだそうだ!」
俺が一言発すれば、壁のようにさくらの後ろに並ぶ隊員たちが一斉に罵声を浴びせてくる。
月光隊名物、土御門さくら親衛隊だ。
正確には第弐部隊土御門班班員なんだが……そう呼ぶ人は少なく、面倒事に巻き込まれたくない隊員たちは基本的にこの軍団には近寄らない。
例えば今俺が絡まれているが、これを助けてくれる人はいないだろう。
なぜならさくら至上主義であり彼女の言葉に絶対服従の男たちには常識が通用しないからだ。
彼女が俺を殺せといえば実行する。
そんな狂信者の群れに飛び込みたい人間など普通はいない。
もちろん俺もご遠慮したい。
出来れば穏便にことを済ませたいのだが……。
さくらが手を上げれば親衛隊がピタリと黙る。
「あなたの態度が目に余ると言っているのよ、日凪衛。どうせ汚い手を使って陽真様に取り入ったのでしょう? 汚らわしい男」
まるでゴミでも見るような目で俺を見るさくらの言葉に既視感がわく。
ああ、これ、漫画でおとめが言われていた台詞じゃないか?!
漫画ではおとめは女子だし、なんとなく色仕掛けで一条寺少尉に取り入ったんだろうといった感じだったけど。
……俺、男だけど? 男の俺でも同じことをこの子は言うのか??
いやまあ確かに俺はおそれ多くも、少尉と恋人だし、男とか女とか関係ないかもしれない。百園曹長だって同性の恋人がいるので、上流階級では珍しくないのかもしれないけど。
いや、でも、え? 待って欲しい。
「何も言い返せないのかしら? いいわ、話したくなるようにしてあげる。みんな、日凪を連れて来て頂戴」
「はい! さくら様!!」
無言で佇み記憶の引き出しを漁りまくっていた俺に痺れを切らしたのか、さくらは吐き捨てるように言うと踵を返して立ち去った。
残されたのは俺と、屈強な親衛隊の面々である。
ちなみにこの人たちはそれなりに強い。さくら自身に功績はないが、土御門班はそれなりに強いことで有名なのだ。それもこれも崇拝するさくらのために全身全霊で戦ってるからなのだろう。
「おいっ! こっちへ来い!!」
「痛っ」
「ハハッ貧弱だな。暴れると足の骨をへし折るぞ」
後ろ手に捻り上げられて、思わず声を漏らせば至近距離で物騒なことを囁かれた。むわりとした汗の臭いがして、思わず顔を背ける。夜蝶部隊の面々は三枝先輩が多少暑苦しいが、他の面々は涼やかというか、少尉なんていい匂いすらするというのに。
親衛隊に囲まれれば、特有の男臭さを感じてしまい居心地が悪い。
さくらはよくこんな環境で耐えられるな。少しばかり尊敬する。
「オラッ、とっとと歩け!」
バシンっと尻を叩かれ思わず睨めば、下卑た笑いを返されてゾワリと悪寒が走った。漫画と同じで、若干違う。
おとめもさくらに目をつけられて拉致されるが、彼女は街に買い物に出た時に親衛隊に気絶させられ、連れ去られるのだ。
それに比べて俺の扱い、雑過ぎではないだろうか?
でもそうだよな、親衛隊はさくらが好き=女子が好き、な集まりなのだ。男の俺を丁寧に扱うはずはない。だとすれば、この後の展開も違っているのだろう。
それなら良かったと俺が思ったその瞬間を見計らったように、尻を鷲掴みにされた。
「ほぉっわっ?!??」
思わず変な声を出した俺の尻をグニグニと揉みしだきながら、親衛隊の中でも体のでかい男が鼻息荒く顔を近づけてきた。
「ふへへ、あの一条寺少尉が夢中だっていう名器か、楽しみだなぁ」
いや、待って。待ってくれ。
そんなAVみたいな台詞、漫画にはなかっただろ??
「ヒヒッ、怯えてるぜコイツ」
「どうせ少尉以外の便所にもなってるんだろ」
「孤児で無能だもんな。ケツ使うしか能はねぇよなぁ」
「さくら様の命令だからな。俺たちが使いまわして壊してやるから、楽しませてくれよ」
俺の扱いが雑だ。
雑すぎる。
確かに俺はモブだ、だけどおとめの展開と差がありすぎじゃないか?
いやまあ確かにキラキラした少女漫画の主人公とは違って、どうせ俺はやられ役のモブだ。……だけど、モブだけど、今は一条寺少尉の恋人なのだ。
そんな簡単にヤられる訳にはいかない。
「……わかったよ」
全員、ブチのめす。
俺を雑に扱ったこと、後悔させてやるからな。
俺の言葉をどう捉えたのか知らないが親衛隊の面々は、その後もずっと楽しそうに笑っていた。
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