少女漫画の当て馬キャラと恋人になったけどキャラ変激しすぎませんか??

和泉臨音

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第五章 俺の扱い雑すぎませんか??

第四話*side衛

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「バケモノ!!」


 最初に俺をそう呼んだのも女の声だった。隣の家のおばちゃんだ。

 俺は物心ついた時には不思議な記憶というか知識があった。それゆえ子どもらしくない物分りのいい、大人からすれば不思議な……いや、不気味な子どもだったと思う。
 それでも働き者の両親に明るい姉兄、頼りになる祖父母は俺にとても優しかった。

 だけど、ちいさい村のしがない農家だった俺の家族は、ある日妖魔に食い殺されてしまった。

 たった一体の妖魔の異空間に、俺の家族含めて38人が閉じ込められた。
 そのうち生き残ったのは俺と、物陰に隠れてた隣の家のおばちゃんとその孫娘の3人だけだった。

「この子はバケモノだよ! ずっと気味が悪かった、……あの化け物を呼んだのもこの子だ! 父親を殺したのを私は見たのよっ!」

 クマより体がでかくて口が2つあった犬のような妖魔が、父さんを食べている隙に俺はそいつを撃ち殺した。
 見ようによっては確かに俺が父さんを殺したように見えたかもしれない。

「キヨさん何言うてる。アレは妖魔っていう化け物で、衛はそいつを倒せる退魔って才能があるんだ。貴重な才能なんだぞ」

 才能がある? それならもっと早く武器を使えて、少なくとも最後まで俺を抱えて逃げてくれた父さんは救えたんじゃないの? 
 五歳の俺はそんなことを思いながら、大人たちの言い合いを眺めていた。

「駐在さんはあの酷い状況を見てないからそんなこと言えるんだよ! 衛はバケモノだ!!」

 村には今まで妖魔など出たことがない。だから退魔の力など知る者はいなかった。

 俺が助けた隣の家のおばちゃんと孫娘の中では俺が皆を殺したことになっていて、村中にそう言い触らした。

 俺がそもそも不気味な子どもだったからだろう。村の皆はそれを信じた。

 俺はその日からバケモノになった。

 ただ一人、村に派遣されていた駐在さんだけが俺を人間扱いしてくれた。
 だけど、彼はただの他所者でしかない。

「衛すまんな、暗いけどここで過ごしてくれ」

 どうにか俺をかばって用意してくれたのは山の中の使われなくなった貯蔵庫だ。土室は寒くて暗かった。

 食事は一日一回で、腹が減って村へ降りれば鎌やくわを持った大人たちに追いかけられた。
 俺を出歩かせないためか、猟のためか、山の中には幾つも罠が仕掛けられていて何度も捕まり痛い思いをした。

 なんで俺がこんな目に合うんだろう?


 アイツ等コソ化ケ物ダ。皆ようまニ食ワレテシマエバイイノニ


 ……毎日そう思ってしまう自分が、一番怖かった。

 だから俺は逃げ出すことにしたのだ。

 本物のバケモノになる前に。
 ……だというのに。

「バケモノっ!! 近寄らないでっ!」

 目の前の少女が怯えながら叫ぶ。
 
 先程まで俺に殴りかかってきた男たちは血まみれで足元に転がっていた。

 ああ、やり過ぎた、と思った。
 
 せっかく今まで静かに暮らしていたのに、また皆に嫌われて、追いかけ回されてしまう。
 
 過去の記憶がフラッシュバックする。


 コノ女ガ言イフラシタラ、マタ化ケ物ニサレテシマウ


 ドクリと心臓が跳ねる。

「ひぃぃぃっ!」

 俺は銃口を化け物と呼ぶ女に向けた。


 殺セ。
 ソウスレバ俺ハ化ケ物ニハナラナイ


 何かが俺の中でそう告げる。
 バケモノになったら少尉とも別れないといけない。

 そんなのは嫌だ!

 俺が内なる声に従うようにトリガーに指をかけたその時、物凄い音が背後から響いた。

「夜蝶部隊隊長、一条寺陽真だ。失礼する!」

 高らかに愛しい一条寺少尉の声が会議室内に響く。
 扉に鍵はかかっていたはずだが、音からして強引に破壊したのだろう。

 間に、合ワナカッタ
 殺セなかった。これで終わりダ

 俺の手から退魔武器けんじゅうが消える。

「衛……」

 違う。
 ちがうちがう!
 俺は人を殺さないで済んだのだ。

 ……俺は今、何をしようとしていた?

 一気に血の気が下がる。

 呆然と動かない俺の肩に少尉が上着を被せる。
 そうすればふわりと甘い香りに包まれた。

「衛、良くやったね。いい子だ」
「しょう、い……俺……」

 俺はやっぱりバケモノなんだ。

 彼女へ向けた殺意に己のことながらゾッとする。
 過去の嫌な思い出と重ね、俺は無関係な人を殺そうとした。

 大好きな一条寺少尉に、こんな醜い俺は見られたくなかった。

 こんな俺になんて触れたら、少尉まで穢れてしまうんじゃないかと怖くなる。

「……俺は、汚い、ので……触らないでください」
 
 だから優しい手を振り払う。

 本当はすがりつきたい。
 独りは嫌だ。怖い。

 だけど、俺は化け物だから、だめだ。
 少尉に迷惑はかけられない。

 こわい、こわい、コワイ

 ここからも逃げよう。
 バケモノになる前に。

 少尉に俺の本性がバレる前に逃げるのだ。

 パニックになった俺の思考は支離滅裂で、自分で制御できないというのに。

 一条寺少尉はいとも簡単に俺の混乱を鎮めた。

「……大丈夫だ。衛は汚くなんてない」

 逃げようともがく俺の動きを封じて、少尉の腕の中に強引に閉じ込められる。

「よく頑張った。それでこそ僕の衛だ」

 こんな俺を、化け物の俺を、少尉はよくやったと褒めて、くれるの?


 俺ハ、ココニ居テイイノ?


 大好きな少尉の甘い香りと穏やかな心音に、恐怖がまるで氷のように溶けていく。

「いい匂いがする……」

 温もりがただひたすら気持ちよくて、すごく安心して、ここに居ていいのだと許された気分になる。

 身分違いの恋だと判っている。
 それでも俺はわらにもすがる思いで少尉の優しさにすがりつく。

 俺が甘えるように擦り寄れば、少尉の体温が少しだけ上がった気がして。

「君、悪いが、百園曹長が来るまで土御門たちを監視していてくれ。僕は彼の手当をしに行く」
「はっ! 了解しました!」

 いつの間にか人だかりになっていた中から階級章をつけた月光隊員を見つけ少尉は声をかけると、俺の手を強く引き有無を言わせず歩き出した。

 その強引さが、今の俺には凄くありがたかった。

 
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