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小話 おかしな間取りの家
前編*side衛
しおりを挟む「衛、少し時間はあるかい?」
退勤しようと隊長席で仕事に励む一条寺少尉に挨拶をしたところ、そんな風に声をかけられた。
今日の少尉は夜勤なので夕食に誘ってくるなんてことはないはずで、少尉に誘われなければ俺の生活には予定などほぼ無い。とっとと帰って鍛錬でもしようかなと思っていたけど、なにか残業でも頼まれるんだろうか?
「はい。とくに予定もありませんので問題ありません。お手伝い出来ます」
「ああ、紛らわしい言い方をしてしまったね。仕事ではないんだ」
そう言うと机から何やら図面を取り出した。
見たところ一軒家の間取り図のようである。
不思議に思いながら眺めていれば、形の良い少尉の長い指がとある箇所を指さした。
「此処の部屋なんだが、どう思う?」
そもそもなんの図なのか判らなかったが、多分どなたかの邸宅なのだろう。
伯爵家ともなれば不動産も多いはずだ。
指で示された部屋は二階の中央に位置し、周りは壁で覆われている。窓はない。倉庫か押し入れのように見える。
しかし、少尉は部屋だと言った。
ゾワリと背筋に悪寒が走る。
なんとなく前世のホラー番組を思い出した。事故物件で変な間取りの家がある……そういう話だ。
もしかして少尉が邸宅を購入しようと思って内見したが変な部屋があって気になっている、ということだろうか。
だけど俺が怖いと思ったのは前世のホラー番組を思い出したからではない。
単純に幼少期の土室に押し込められた嫌な過去を思い出したからである。
「気味が……悪いです」
俺がどうにか声を出して言えば、机から顔を上げた一条寺少尉の顔が一瞬怪訝そうに歪んだ。
「なんの部屋か、分かるのかい?」
「勘ですが、閉じ込めるための座敷牢か何かではないでしょうか。窓もありませんし、部屋に囲まれているのに入口が一つなのは利便性が悪すぎるので」
俺の答えに少尉がふむっと思案気に指を顎にあてる。
ちょっと嫌な記憶を思い出してしまったが、所作一つ一つが格好いい少尉を見つめて心の平安を保つことにした。
はぁ、本当に一条寺少尉は目の保養になるな。少尉をずっと見つめていられたら絶対に幸せなのだけど、現状勤務中と休みが被ったときのデートくらいしか一緒にいる時間はない。
いやいやそれでも充分贅沢だとは思うけど、少尉が甘やかしてくるのでどんどん貪欲になってしまう。
「衛はこの部屋に入りたいと思うかい?」
「まさか!!」
ほわほわとした気持ちになっていたところに突然言われ、思わず食い気味に否定しまった。
少尉が目を見開き驚いている。
「あ、あの、すみません。俺、むかし土室で生活していた時期があって、窓がない部屋って、その、凄く、怖くて……」
「そうか」
「あの、そもそもこの邸宅は何なんでしょうか?」
購入予定だというなら、こんな不気味な家は買わない方がいい。
そう進言しようと思ったのに、少尉の回答は意外なものだった。
「ああ、これは僕たちの新居の建築予定図だ」
「は?」
さらりと答えた少尉は戸惑う俺を見て、少し首を傾げてから何かを思い出したように頷いた。
そんな動作すら格好いいってどういうことなんだよ。いちいち少尉の一挙手一投足にトキメク俺もどうかと思うけど。とにかく見惚れている場合ではない。
「あの、それはどういう……」
「そういえばまだ衛には話していなかったね。近くに土地を買ったのでそこに衛との家を建てようと思っているんだ。ほら、僕も君も隊寮住まいだろう?」
「そうですが、あの、家を建てるなんてそんな」
お金は俺にはありません。
先程とは違う寒気に襲われながら、俺はじっと少尉を見つめた。
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