まさか「好き」とは思うまい

和泉臨音

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たぶん「好き」だと気付いてる

2.「そんな難しく考えなくていいのよ」

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「じゃあ、帰る。……また、明日」
「うん。バイト頑張ってね。おやすみなさい」

 それから二時間後、いつも通り各務くんが帰っていった。
 その背中を見送ってふと考える。

 お付き合いをする、というのはどういうことなのだろう。

 友達と恋人の違いはその他大勢か、ただ一人かの違いだろうか。
 いやでも親友なんてそう何人もいないし、恋人が複数の人だっている。

 肉体関係だろうか? それもなんだか違う気もする。

「うーん……」
「朝から何難しい顔してるんですか? 嫌なメールきてたりしないですよね?」
「あ、おはよう」
「おはようございまっす」

 朝、コンビニに寄って各務くんに挨拶してから出勤し、自分のPCの前で唸っていれば新人の谷内たにうちくんが声をかけて来た。

「メールはまだ見てないからわからないな」
「嘘でもきてないって言ってくださいよぉ」

 俺が谷内くんの泣きごとに苦笑しつつメールの確認をはじめたら、産休から職場復帰をしたまきさんも出勤してきた。

「特に面倒な案件はなさそうだよ。おはよう槇さん。唐突なんだけど、槇さんは旦那さんとどんなとこデートに行きました?」
「えっチーフ! ついに彼女できたの?]
「出来てません」

 彼女ではないから嘘はついてない。

「あ、俺はテーマパーク一択ですよ。夢の国です」
「カップルで行くと別れるって有名な! あの!! 夢の国に行くの?!」

 PCを立ち上げ業務開始の準備をしながら、まきさんが谷内たにうちくんの発言に大袈裟に驚いてみせる。

「そうなんですか?」

 女の子が好きそうだけど、カップルには不向きな場所なのかな。

「そんなことないですよぉ。まぁ確かに待ちが長い時に会話なくなってシラケてるカップルもいますけど」
「話が面白い相手じゃないと待ち時間とっても苦痛なのよね」
「そこは俺に任せていただければ、そのアトラクションの解説から120%楽しめるパークのまわり方まで完璧ですので」
「そこまでやられると私は引くわー」
「槇さんひどい!」

 まるで漫才のようにテンポのいい二人の会話に思わず笑う。

「じゃあどこいくんですかぁ?」
「私はスノボとかバーベキューとかよく行ったな」
「アウトドアですか。槇さんインドアなイメージありましたけど」
「旦那がそういうの好きなんだよね。スノボはいいけどバーベキューは面倒だな~って思ったけど旦那がその時だけは張り切るから、まあいっかなって」
「なるほど、ある程度相手に妥協してもらっても、誘った方が楽しめる場所がいいってことですかね」

 俺がそう結論づければ二人の視線が痛い。

「そんな難しく考えなくていいのよ」
「そうですよぉ、ここ連れてこ! って感じで選べばいいんですよ!」
「で、どんな子なの?」
「さて二人とも、始業時間になったので朝礼を開始しましょう」

 二人の視線を受けつつも、槇さんの質問には答えずに仕事の開始を宣言した。
 その後も槇さんにはいろいろと探りを入れられたが、最終的に「あまりしつこいとセクハラになりますから注意してくださいね」と黙らせることになったので、自分から話題を振った手前、少し申し訳なかった気がした。
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