まさか「好き」とは思うまい

和泉臨音

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ちゃんと「好き」だと伝えたい

7.「おれそんなこと言った記憶ねぇけど?」

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 情けない俺の態度に呆れたのか、深いため息とともに身体を起こした各務くんがやっと体を解放してくれた。ただし、手は繋いだままである。

「あんたさ、自分はあおってくるくせにこっちが同じことすると過剰に反応するの酷くねぇ?」
「え?」
「デートって、わざわざ言葉にして言われると……照れるだろ?」

 正面に立つ各務くんは照れたように視線を外して、不貞腐れたように吐き捨てた。

「いや俺は耳元で話されたのがくすぐったいと言うか、ゾワってしただけで……」
「は?」
「あれ、ということは各務くんはデートって言われると照れるってこと?」
「……」

 無言は肯定ということだろう。なんという可愛さだろう。デートって言葉だけで照れるなんて。

 またもやニヤけてしまった俺の顔が気に入らなかったのか、各務くんは舌打ちをすると、ギロリと睨みつけてきた。

「デートって言葉が恥ずかしいんじゃないからな!」
「うんうん」
「あんた判ってないだろ……」

 呆れたように言う各務くんと繋いでいる手に俺はもう片方の手を添え両手で握る。

「あ、でも今後は人前では言わないようにするし、大丈夫だよ」
「あ? なんで?」

 各務くんが怪訝そうに目を細める。

「なんでって、この前他人に聞かれたら嫌だって言ってたでしょ。あの時は俺の配慮が足りなかったって反省し……」
「? おれそんなこと言った記憶ねぇけど?」

 各務くんの手を両手で握ったまま俺は首を傾げる。あれでも確かに「こんなところで言うな」って言ってたはずだけど。
 悩む俺と同じく、俺がデートに誘った時を思い出していたのか、各務くんが小さく「あれか……」と呟いた。そう多分各務くんが思い出したそれだよそれ。
 俺が視線を向ければ各務くんのなんとも表現しがたい微妙な顔があった。

「あれは……そうじゃなくて」

 あー…とかうー…とか言いつつ、各務くんは空いてる手で自分の頭を抱えている。俺は大人しく各務くんの言葉を待った。

「……単純に好きなやつに面と向かってデートに誘われたから、照れただけっつうか……いや普通言わねぇだろデート行こうって、改めて言うか? 今までそんな風に言ったことなかっただろ。だいたいあんたさ、自分が恥ずかしいこととか、平然と言ったりしたりしてる自覚ないよな? いい加減、自覚しろよ。こっちは対応に困るんだよっ!」

 覚悟が決まったかのようにギロリと眼光鋭く俺を睨みながら各務くんが強い口調で言い放つ。状況的には俺が脅されているようにしか見えないが、各務くんの言ってることはただただ可愛いだけである。だって俺の行動に反応し、照れて困惑しているんですと自己申告しているだけだ。とても可愛いと言わざるを得ない。
 それはさておき、具体的にどの行動が恥ずかしい行動なのか俺に自覚は勿論ない。しかし温泉旅行を無自覚に誘ったのは申し訳ないことをしたと思っているので、大なり小なり俺はやらかしているのだろう。一応迂闊なことはしないよう気をつけてはいるんだけど、各務くんの様子を見るに成果はなさそうだ。

 思わず思考の海に飲まれて固まってしまった俺に気付いた各務くんが、真っ赤になりつつもわたわたと慌てだした。キツく言い過ぎたと思ったのだろう。もちろん俺は怯えてなどいない。

「……各務くんって、本当にかわいいね」
「っ?!! ァア?」

 慌ててフォローしようとする各務くんにうっかり俺は考えていたことを口に出してしまい、本日一番低い声で威圧され鋭い視線で睨まれた。
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