まさか「好き」とは思うまい

和泉臨音

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番外編

あいも変わらず「愛」を囁く

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「っ!!? 各務かがみくんの頭が大変なことに……っ!」
「あんた、ときどき失礼な事言うよな」

 朝、いつも通りコンビニで労働にいそしむ各務くんの元を訪れれば、そこには黒髪の各務くんがいた。

 もう一度言おう。黒髪の各務くんである。

 金髪各務くんは襟足が長くヤンキーぽかったのに対し、黒髪各務くんの髪はスッキリと短くて、真面目な好青年に見える。想定外のイメチェンにうっかり動揺して頭が大変とか言ってしまったが、大変なのは俺の頭の方である。
 髪型が変わるとだいぶ印象が変わるなぁ黒髪もかっこいいなぁとうっとりと見惚れている間に、各務くんは素早く会計を済ませてくれた。

「あっと、ごめんね。その髪の色も似合ってるね」
「……そう?」
「うん。あ、そうだ、今夜会える?」

 俺がコソリと問いかければ、各務くんは一瞬考えたもののすぐに小さく頷いた。

 それにしても朝から良いものを見せてもらった。黒髪各務くん、金髪より幼く見えるのに落ち着いた雰囲気があるから大人っぽかった。何を言ってるか分からないが、俺もわからない。二律背反とはこの事か。でも、とにかく可愛くて格好良かった。

 職場に着く頃にはバイトを終えた各務くんから待ち合わせ時間の連絡が来ていた。定時であがればちょうどいい時間だ。今日は残業しないようにとっとと仕事を片付けよう。よし今日も頑張れる。
 各務くんは一日の活力になるなぁなんてしみじみしていたら、まきさんに「何か良いことでもあった?」と聞かれてしまった。

 今日は魚料理が美味しい居酒屋で食事をすることにした。夕飯時なのでガヤガヤと居酒屋特有の喧騒の中、向い合せに座り酒を飲む。半個室なので人目があまり気にならないことと、料理や酒の種類が多いので俺たちは最近よく利用していた。

「……それで、あんたは何て答えたの?」

 嫌な予感がするんですけど変なこと言ってねぇよな? と表情で訴えてくる各務くんに俺はにこやかに答える。

「通勤途中で可愛いもの見たんですって答えた」
「アァ?」
「嘘は言ってない」

 槇さんは「それは良かったわね」と笑顔で飴をくれて、特に追求せず納得してくれた。だが各務くんは納得できないようで、ギロリと睨んでくる。

「……。……かわいいってなんだよ」

 各務くんは視線をお刺身に落とすと、前髪を弄りながらボソリと呟く。迫力のある睨みの後に、しょんぼりと小さくなってしまうギャップに俺の心臓が鷲掴みにされた。

 本当に各務くんはぜんぶ可愛くて仕方ない。

「可愛いは可愛いだよ。各務くんだって俺に言うじゃないか」
「あんたはかわいいだろ」
「各務くんだって可愛いよ」

 お互い一歩も譲らず睨み合う……というよりは見つめ合う。黒髪の各務くん、めちゃくちゃ良いなぁ。俺が自然と顔を緩ませていれば、各務くんが呆れたように視線をそらしてチューハイを飲み始めた。

「はぁ~、各務くん好き」
「ぶっ!」

 思わず心の声が音になり口から飛び出てしまった。俺の呟きに各務くんは飲んでいたチューハイを吹き出しかける。

「っ! あんたなぁっ突然何言い出すんだよっ!」
「えへへ、ごめん。つい感情が声になっちゃった」
「……はぁ、まあいいけど」

 各務くんはそう言うと俺の発言を警戒しながらグラスを傾ける。そんなに怯えなくたっていいじゃないか。地味に傷つくよ。

「黒くしたのってやっぱり就活関係?」

 場の雰囲気を変えるべく、俺は話題を変えることにした。
 年末年始も過ぎて、希望する業種にもよるけど大学三年生は就職活動を本格的に開始する。人によっては四年生の時は学業より就活の方が忙しくなるくらいだ。
 各務くんもそれなりに就職活動を始めているらしい。なにか人生の先輩としてアドバイスできたらなぁと思ってはいるが、今のところ特に求められていない。ちょっと寂しい。

 各務くんは小さな溜め息をつくと、唐揚げを一つ食べてから答える。

「そう。学校のキャリアに行くと毎回髪の毛のこと言われるから、面倒になって染めた」
「へぇ、綺麗に染まってるね。黒にするの難しいって聞いたことあるけど。あ、でも普通の色とは違う?」

 眼の前に座る各務くんに手を伸ばせば、各務くんもこちらへ頭を出してくれる。
 そっと髪の毛を掴み居酒屋の薄暗い明かりで観察する。

「ちょっと緑入ってる。まあ企業に面接行くときは地毛になってるから問題ない」
「そっか、偉いね」

 俺は差し出されている各務くんの頭をヨシヨシと撫でた。

「…………あのさ、前から言おうと思ってたんだけど、おれのことガキ扱いするの止めてくんね?」
「は? えっ?」

 各務くんは撫でている俺の手にスルリと頭を擦り寄せてから、その手を取って指先に口付けた。

「なんかムカツク」
「え、いや、子ども扱いしてるつもりはないよ。いとしいなって思うからこう、撫でるのも愛情表現的な??」

 反射的に手をひこうとしたらしっかりと掴まれ握りしめられる。

「……ほんとに?」
「本当だよ。……多分だけど、各務くんが俺に感じてる可愛いと同じ感覚だよ」

 各務くんは俺のことを可愛いと言うが、子どもっぼいとは思っていないだろう。だって、アレをしている時が一番可愛いって言ってくるし。

 指を絡めるように手を握られたまま視線をあげれば、口元に笑みを浮かべる各務くんと視線があった。

「ふーん、そう。ならいい」

 俺の手をにぎにぎしながら、笑顔になりそうな顔をどうにか引き締めている各務くんが物凄く可愛い。思わず俺がニヤけてしまった。

 その後は美味しいご飯とお酒を堪能しつつ、各務くんの春休みに長めの旅行をしようかという話になった。どうせなら温泉リベンジをして各務くんと一緒に入りたい。

 その話をしたら「あんたのそれは天然なの? 煽ってんの?」とまた睨まれてしまった。なんでだ??

 優しい各務くんが俺の希望を断るわけはなく、黒髪も見慣れた春休みに温泉旅行リベンジを果たした。もちろん個室風呂付きである。気兼ねなく二人で過ごすのだと意気込んでいれば、うっかりといろいろ盛り上がってしまい、逆上のぼせるという失態を冒してしまった。
 二人でのんびり温泉に浸かりリフレッシュするという俺の夢とは程遠い展開になってしまったけど、これはこれで楽しい思い出になったので良しとする。

 各務くんは旅行先でも可愛くて、物凄くエロくて、格好良かった。
 
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