まさか「好き」とは思うまい

和泉臨音

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いつでも「好き」が溢れてる

6.「かわいい」

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 食事が終わりに近づけば段々緊張してきた。食後の珈琲の味は正直良くわからなかったが多分美味しかったと思う。
 俺たちは食事を終えるとほぼ無言でふかふかの絨毯が敷かれた廊下を部屋へ向かって歩いた。

 部屋は無難にツインルームだ。
 ダブルにするという選択肢もあったがここは無難に攻めることにした。
 窓からの景色はとても綺麗で、海を行き交う船の明かりがキラキラと煌めいている。海側の眺望の良い部屋にしたので明るくなってからの景色もいいに違いない。室内の照明は薄暗く、落ち着いており高級感が漂っていた。

「先にシャワー使う?」
「へぁっ? え、あ、え、各務くんからどうぞっ!!!」

 部屋に入りこの後はどうしたものかと立ち尽くしていれば、突然真横から声を掛けられ驚いてしまった。
 そんな俺に各務くんは呆れ顔だ。

「あんたちょっと意識しすぎじゃね?」
「ぐぅっ……」

 ぐうの音しかでない。
 呆れ顔の各務くんは苦笑すると俺の頬を優しく撫でる。

「……変なこと言っちゃったなって、ずっと後悔してた。あんたはあんたらしくしててくれればいいし、無理させたくない。だから、気にしないでいいから」

 ジッと俺を見つめてくる瞳は慈愛に満ちているように見える。俗物のような俺と違って各務くんのなんて清廉潔白なことか。垣間見せる荒々しい様子を見ていなければ聖人君子だと思ってしまう。

 だけど俺も男だし、今の俺なら各務くんがかなりの自制心で俺に接してくれているんだろうと判る。

「無理はしてないよ。いや、俺が言っても信憑性ないかもだけど。なんというか温泉に誘った時は今ほど各務くんにキスしたいとか、そういうこと思ってなくて……」

 俺はしっかりと各務くんを見つめて言葉を紡ぐ。
 心臓が緊張でバクバクする。
 下手に取り繕って大人だからと完璧を装うより、素の自分を曝け出した方が各務くんは安心してくれるだろう。
 大学生相手に甘えるなという話だけど、年齢とか性別とかとりあえず横に置いておくことにする。それでどうなるかはその時次第だ。

「だけど今はもっと各務くんに触りたいとおもっ……うわっ」

 ちゃんと各務くんを見つめていたはずなのに、あっという間に俺はベッドに転がっていた。
 ギシリとベッドのスプリングを軋ませ各務くんが乗り上げてくる。
 先程までの慈愛に満ちた瞳はどこへやら、今までで見たことがないほど各務くんの瞳はギラついていた。

 普段の睨みなど可愛く感じるほど迫力があり、本能的に逃げられないと感じる強い視線に俺の身体は硬直する。

 恐怖のような、高揚のような、ぞくっと背筋になんだかわからない感覚が走り抜けた。

「………もっとあんたに、触っていいの?」
「うん、いいよ」
「……ほんとに?」
「ここで嘘つくほど俺、酷い人間じゃないけど」

 瞳はギラついてるのにどこか怯えた動物みたいにこちらを疑う各務くんが可愛いくて、思わず笑ってしまった。

「かわいい……」

 俺の心が声になったのかと思ったけど、呟いたのは各務くんだった。

「可愛いのは各務くんだよ」

 俺も負けじと言い返して、覆いかぶさる各務くんの頭を引き寄せ口付ける。
 いつもならこれで各務くんはトマトのように真っ赤になって固まるのだが、今夜は違った。
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