まさか「好き」とは思うまい

和泉臨音

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番外編

【各務side】きみと「恋」するおれの未来 ―後編―

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「そういえば今日会社でお菓子もらってね。これ見て」

 そう言って取り出してきたのは透明な箱に入った水色やピンク色した透き通った塊だ。

琥珀糖こはくとう?」
「えええ! 各務くん知ってるの?!」

 そんな驚くことでもないだろというくらい驚く恋人におれが驚いてしまう。
 最近SNSで流行ってるとかいう砂糖菓子だ。ゼミの女子が配っていて貰ったことがある。

「俺はじめて見たから最初お洒落な置物かなにかだと思っちゃってさ、これしかも和菓子なんだって」
「らしいな、おれも良く知らないけどネットで流行ってるって言ってた」
「ふふ、各務くんのほうがやっぱり流行りモノは詳しいね」

 彼は楽しそうに笑いながら箱を開けて淡い緑色の琥珀糖を一摘みする。そのままそれをおれに差し出してきた。
 せっかくなのでありがたくいただくことにする。ついでに彼の指も舐めてやったら耳まで真っ赤になった。
 ほんと、誘ってんだが天然なんだか。
 羞恥のせいか挙動不審になっているのが可愛くて、イタズラ心が芽生えてしまったおれは彼の頬を両手で固定するとそのまま口付けた。薄っすらと開かれた唇を割り開き、貰った琥珀糖の欠片を舌で彼の口に押し込む。

「……んむぅ……んっ!」
「甘くて美味いよ」

 予想外だったのか、うむむっと変な声を発しつつ慌てて口を離した彼は抗議の視線を向けて来た。
 どう考えても甘い雰囲気出してきたのはあんただろうが。

「ほら、あんたも食べてみなよ」

 おれもピンク色の琥珀糖を一つ摘むと彼の口元に差し出す。エロい雰囲気になるかと思えばどこまでも健全な彼は、おれの指に触れないように器用に食べるとしゃりしゃりもぐもぐと咀嚼した。

「……なんか、お砂糖食べてるみたい」
「ぶっ」

 食感と味に驚いたのか、何度か瞬きをして不思議そうな顔をする恋人におれは見事に毒気を抜かれてしまった。

 この人にとっては何気ないことなんだろう。
 初めて会った時もそうだ。おれは上京したばかりで知り合いもおらず、具合が悪くてもどうしたらいいのか判らず半ば途方に暮れていた。だけど通りかかった彼に声をかけられて持ち直すことができた。ちなみにこの時人生初インフルエンザになっていた。
 助けてもらって、気になりだして……自分でもおかしいと思いつつ、ストーカーみたいに街で姿を探して、これは恋だなって気付いて、相手男なのにと葛藤したのに、さも当たり前のようにおれの気持ちを受け入れてくれた。

 どこまでも自然体だから、ガチガチに構えていたおれが馬鹿らしく思えてくる。
 情けないところを見せたくないのは変わらない。だけどこの人ならおれの悩みを解決してくれるんだろう。そう思ったら自然と声を発していた。

「…………。……就活が、うまくいかなくて」

 おれがボソリと呟けば彼は視線を琥珀糖からおれに向ける。静かに続きをまってくれる。おれは一呼吸おいてから話を続けた。
 情けなくてみっともない話だけど、でも彼ならバカにしたりしないだろう。

「先輩が会社を立ち上げるから来ないかって誘われてて」
「え! すごいっ!」
「そりゃ先輩は凄いから……」
「あ、先輩もだけど誘われる各務くんも優秀ってことでしょ? すごいね! と、あ、ごめん話の腰を折っちゃって」

 どうぞ続けてください、となぜかやたら丁寧に促されつつ、おれはまとまらない心の内をなんとか言葉にする。

「条件も悪くはないんだけど会社としては安定してないし、でもこのままどこにも就職できなかったらって思うと……どうしたらいいのかわかんなくって」

 先輩の会社に就職すれば丸く収まる気はする。だけどそれでいいのかという不安感が拭えない。楽な方へ逃げてないか? それでこの人と対等に同居できるだけの稼ぎが得られるのか? 将来性は? でもせっかく先輩が誘ってくれたのだ断るのは悪いんじゃないか。
 考えても同じことの堂々巡りだ。

「うん。それならさ、まず各務くんがどうしたいのか考えてみない? 良い悪いとか、すべき、じゃなくって」
「………?」
「例えば、そうだな……先輩と一緒に働きたい?」
「いや、別に」
「今、履歴書出してる会社には働きたい人はいる?」
「……特定の誰かってのはないけど、気になる技術を持ってるトコ希望してるから、人っていうかアレを開発するまでに至った経緯とかは聞いてみたい」

 おれの答えに彼はにこりと嬉しそうに笑う。

「うん、それならこのままもう少し就活頑張ろう」
「でも……っ」
「決まらない不安は大きいし、断られると自分が否定されてる気はすると思う。だけどやらないで諦めるよりやりきって諦めた方が後悔しない……って、なんかのテレビで言ってた」

 すごく真面目な顔で良いこと言ったのに、最後にネタばらしして照れたように笑う姿に、自然とおれも気が抜けてしまう。

「たとえ会社が各務くんを必要としないって言っても、俺には必要だし、たぶん誘ってくれた先輩もそうだと思うよ。すぐに返事してって言われたわけじゃないんでしょ?」

 そう言われれば……先輩からは特にいつまでに返事くれとは言われていない。もしかして就活が上手く行ってないおれに気を使って声をかけてくれたんだろうか。

「各務くんは真面目だから、いろんなこと考えちゃうと思うんだけど、大丈夫だよ」

 ふと手に触れる冷たい感触に、いつの間にか俯いていたおれは顔を上げた。
 優しくて頼りになる恋人がおれの手を両手で握りながらまっすぐ見つめてくる。

「先輩には就活終わるまで返事待ってもらえるよう話してみたらいいよ、きっと大丈夫だから」
「……迷惑、じゃねぇの、それ?」
「優秀な人材を確保したいなら、待ってもらえるよ」
「でも、他で使えねぇって言われてるのに」
「そんなのは採用者との相性とか運もあるから気にしても仕方ないって。新卒は学歴に重きを置くところも多いし、うちの学校だとなかなか……ね」

 おれの手を握ったり離したりしながら乾いた笑いを浮かべる。

「あんたも、もしかして苦労した?」
「俺というか、就活は痛い目みてる人の方が多いんじゃないかな。俺もまあ、決まったの年明けてからだったし」
「そっか……」

 それでもこの人はちゃんと働いてて、毎日しっかり生きている。

「なんか、あんたに話すとおれの悩みが馬鹿みたいに感じるな」
「それは俺が各務くんの役に立ててるってこと?」

 少し不安そうに見上げてくる大切な人を安心させたくて、おれは思わず抱きしめるとそのまま床にゴロリと横になった。
 手は冷たいが抱きしめると暖かくて、柔らかくはないけど物凄く安心する。

「……悠希ゆうきさんがすげぇってこと」

 ぎゅっと抱きしめたまま耳元で囁やけば、ビクリと体をこわばらせる。そして顔だけでなく耳や首まで真っ赤にして、おれのことを睨みつけてきた。

「な、名前呼ぶのびっくりするから、前もってちゃんと言ってくれないと」

 困る……と、真っ赤になってモジモジしながらクレームをつけてきた。
 なんだよそれ、どんな状況だよ。
 思わずおれは吹き出して笑い続けた。

 それから、悠希のアドバイス通りに先輩に返事を待ってもらえないか話したところ、交渉するまでもなく「おっけー」と軽く言われた。さらに「希望先の内定取れるといいな!」なんて激励までされてしまった。あまりにおれに都合良すぎて吃驚してしまう。

 彼にその事を報告すれば「そんなものだよ」とこともなげに言われてしまった。
 普段はほんわかしてて迂闊で危なかっかしい人だけど、こういう時に年上なんだなって痛感する。

 いつかおれも彼をちゃんと支えられるようになりたい。まだまだ経験も足りないし悩んでしまうことも多いけど。

 とりあえず第一歩として、しっかり就活はやりきったと報告できるように頑張ろう。
 きっと結果がどうであれ、彼は褒めてくれるだろう。自分のことのように得意げに喜ぶ彼を想像して、おれは残り少ない大学生活を懸命に送るのだった。

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