神剣少女は魔石を産み出す少年を愛でる

うっちー(羽智 遊紀)

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18話 旅の途中の会話

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「じゃあ、出発するね。本当に今までありがとう。行くよ! シロツノ!」

「ひ、ひひん……」

 村人達に見送られながら、ディモはシロツノの手綱を引っ張り出発する。荷馬車に乗っているヘレーナは燻製肉を齧りかじりながら遠くを見ており、二人と一頭は門をくぐる。ディモは見送りとして集まってくれた村人達に手を振りながら、目的地に向かって旅立っていった。

「ディモが居なくなるんだね」

「大丈夫だよ。神剣のヘレーナ様が一緒だからね。安心していられるよ」

「でも、あの笑顔が見れなくなると……」

「「「寂しくなるね……」」」

 小さくなっていくディモの姿を見送りながら、商店街の店主達は寂しそうな顔をしていた。この一〇年は常にディモと一緒だった。苦しい生活をしながらも笑顔が絶えないディモは商店街のアイドルであり、子供や孫みたいな存在だった。今までの事を思い出しながらしんみりとしていた一同が視線を向けると、ディモがこちらが見えているかどうか分からない距離から飛び跳ねながら手を振っており、その可愛らしい姿に一同は微笑ましさと同時に涙も出てくるのだった。

「それにしてもディモは可愛いねー。おい。ちゃんと駄馬として働くんだよ。ディモの命令は絶対だからな」

「ひひん!」

「分かってるならいいんだよ」

 村を振り返りながら一所懸命に手を振っているディモをよだれが出そうな表情で眺めていたヘレーナだったが、急に真面目な顔になるとシロツノを小突きながら命令していた。小突くにしてはかなりの威力があったようで、シロツノは痛みで涙目になりながら何度も頷きながら返事をする。

「そういえば、お前は野菜が好きなのかい?」

「ぶるる」

 何気に聞いたヘレーナの質問にシロツノはかぶりを振って否定する。彼の好物は魔物の肉であり、もしくは魔石だった。肉や魔石から魔力を吸収し、それを循環させる事で身体強化や雷撃に利用していた。何気にヘレーナは自分が食べていた魔物の燻製肉をシロツノに近付ける。

「ぶるるるる」

「これが欲しいのかい?」

「ひひん!」

 嬉しそうに尻尾を振りながら燻製肉を食べようとしたシロツノだったが、直前で取り上げられてヘレーナが食べてしまう。恨めしそうな顔をしたシロツノが身体を揺すって抗議をしていると、それに気付いたディモが頬を膨らませて注意を始めた。

「お姉ちゃん! シロツノを虐めちゃダメだからね! それに馬に肉を上げちゃダメなんだよ!」

「ディモ。これは一角馬だから魔物なんだよ。だから野菜よりも肉や魔石が好物なのさ」

「そうなの? シロツノ?」

 ディモがシロツノの前に回って確認する。大きく頷いた事に驚きながら懐から燻製肉を取り出した。

「食べる? わぁぁ。本当に食べた! じゃあ、お姉ちゃんは、シロツノの好物を知ってて、意地悪して、燻製肉を、上げなかったの?」

「い、いや。ち、違うんだよ。ディモ。お姉ちゃんがそんな事をする分けないじゃないか。知らなかったんだよ」

「お姉ちゃんが肉好きと言ったのに?」

「ぶひひひひぃぃ」

「ごめんなさい。おら! なに笑ってんだよ。シロツノ! いや、違うんだよ。ディモ。本当にごめんなさい」

 美味しそうに燻製肉を食べているシロツノを見ながらディモがヘレーナにお説教を始める。その様子を見て笑っているシロツノに声を荒げようとすると、ディモがさらに頬を膨らませて腰に手を当てながらヘレーナを睨むにらむ。ヘレーナは冷や汗をかきながら何度も謝るのだった。

 ◇□◇□◇□

「森の中に入ってきたし、夜になってきたから食事にしようか」

「そうだね。シロツノは木につないでおいた方がいい? それとも自由にさせた方がいい?」

「自由にさせておこう。逃げはしないよ。もし逃げたら地の果てまで追いかけて後悔させるから」

「ぶるるるるる」

「お姉ちゃん。冗談でもそんな事を言ったらダメだよ。シロツノが怖がるでしょ」

 ヘレーナが軽く睨むとシロツノは慌てたように首を振って逃げない事を主張する。それをみてディモは笑いながらシロツノを荷馬車から離す。自由になったシロツノはディモの顔を軽く舐めて感謝を伝えると森の中に消えていった。

「あの野郎。私のディモを舐めやがって。帰ってきたら馬刺しにしてやる!」

「なに言ってるの。可愛いじゃない。僕がご飯の準備をするから、お姉ちゃんは寝床の準備をお願い」

 冗談を言っていると思っているディモが笑いながら話す。ヘレーナにしたら本気の発言だったが、肩をすくめると素直に寝床の準備を始めた。食事は肉を中心として堅パンにスープが用意された。ヘレーナはあっという間に食べきると、今日の訓練の話を始める。

「よし。ご飯も食べてお腹いっぱいになったから、もう少ししたら剣の訓練を始めようか」

「そうだね。僕はもっと強くなってお姉ちゃんの助けがなくても戦えるようにならないとね!」

「えっ? お姉ちゃんがいらない? そ、そ、そ、それじゃあ、剣の修行は無しにして今日は早く寝ようか?」

「なに言ってるの。お姉ちゃんがいらないなんてあり得ないよ。僕はお姉ちゃんと一緒に戦えるようになりたいの! そのためにはいっぱい練習しないと! お姉ちゃんみたいに格好良く戦いたいんだ!」

「なに? その発言なに? 私の事を殺しに来てるの? 失神しちゃうよ?」

 目をキラキラさせて気合いを入れるディモに、ヘレーナは感動のあまり倒れそうになりながらなんとか鼻血が出ないように耐えきった。気合いが入ったディモが剣を装備して立ち上がると、ヘレーナはそれまでの表情を一変させて真剣な顔になる。

「ディモがそこまで言うなら、しっかりと鍛えてやらないとね。まずは狩りから始めようか」

 ヘレーナは立ち上がりながらディモに修行の内容を伝えるのだった。
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