19 / 38
18話 旅の途中の会話
しおりを挟む
「じゃあ、出発するね。本当に今までありがとう。行くよ! シロツノ!」
「ひ、ひひん……」
村人達に見送られながら、ディモはシロツノの手綱を引っ張り出発する。荷馬車に乗っているヘレーナは燻製肉を齧りながら遠くを見ており、二人と一頭は門をくぐる。ディモは見送りとして集まってくれた村人達に手を振りながら、目的地に向かって旅立っていった。
「ディモが居なくなるんだね」
「大丈夫だよ。神剣のヘレーナ様が一緒だからね。安心していられるよ」
「でも、あの笑顔が見れなくなると……」
「「「寂しくなるね……」」」
小さくなっていくディモの姿を見送りながら、商店街の店主達は寂しそうな顔をしていた。この一〇年は常にディモと一緒だった。苦しい生活をしながらも笑顔が絶えないディモは商店街のアイドルであり、子供や孫みたいな存在だった。今までの事を思い出しながらしんみりとしていた一同が視線を向けると、ディモがこちらが見えているかどうか分からない距離から飛び跳ねながら手を振っており、その可愛らしい姿に一同は微笑ましさと同時に涙も出てくるのだった。
「それにしてもディモは可愛いねー。おい。ちゃんと駄馬として働くんだよ。ディモの命令は絶対だからな」
「ひひん!」
「分かってるならいいんだよ」
村を振り返りながら一所懸命に手を振っているディモを涎が出そうな表情で眺めていたヘレーナだったが、急に真面目な顔になるとシロツノを小突きながら命令していた。小突くにしてはかなりの威力があったようで、シロツノは痛みで涙目になりながら何度も頷きながら返事をする。
「そういえば、お前は野菜が好きなのかい?」
「ぶるる」
何気に聞いたヘレーナの質問にシロツノはかぶりを振って否定する。彼の好物は魔物の肉であり、もしくは魔石だった。肉や魔石から魔力を吸収し、それを循環させる事で身体強化や雷撃に利用していた。何気にヘレーナは自分が食べていた魔物の燻製肉をシロツノに近付ける。
「ぶるるるる」
「これが欲しいのかい?」
「ひひん!」
嬉しそうに尻尾を振りながら燻製肉を食べようとしたシロツノだったが、直前で取り上げられてヘレーナが食べてしまう。恨めしそうな顔をしたシロツノが身体を揺すって抗議をしていると、それに気付いたディモが頬を膨らませて注意を始めた。
「お姉ちゃん! シロツノを虐めちゃダメだからね! それに馬に肉を上げちゃダメなんだよ!」
「ディモ。これは一角馬だから魔物なんだよ。だから野菜よりも肉や魔石が好物なのさ」
「そうなの? シロツノ?」
ディモがシロツノの前に回って確認する。大きく頷いた事に驚きながら懐から燻製肉を取り出した。
「食べる? わぁぁ。本当に食べた! じゃあ、お姉ちゃんは、シロツノの好物を知ってて、意地悪して、燻製肉を、上げなかったの?」
「い、いや。ち、違うんだよ。ディモ。お姉ちゃんがそんな事をする分けないじゃないか。知らなかったんだよ」
「お姉ちゃんが肉好きと言ったのに?」
「ぶひひひひぃぃ」
「ごめんなさい。おら! なに笑ってんだよ。シロツノ! いや、違うんだよ。ディモ。本当にごめんなさい」
美味しそうに燻製肉を食べているシロツノを見ながらディモがヘレーナにお説教を始める。その様子を見て笑っているシロツノに声を荒げようとすると、ディモがさらに頬を膨らませて腰に手を当てながらヘレーナを睨む。ヘレーナは冷や汗をかきながら何度も謝るのだった。
◇□◇□◇□
「森の中に入ってきたし、夜になってきたから食事にしようか」
「そうだね。シロツノは木につないでおいた方がいい? それとも自由にさせた方がいい?」
「自由にさせておこう。逃げはしないよ。もし逃げたら地の果てまで追いかけて後悔させるから」
「ぶるるるるる」
「お姉ちゃん。冗談でもそんな事を言ったらダメだよ。シロツノが怖がるでしょ」
ヘレーナが軽く睨むとシロツノは慌てたように首を振って逃げない事を主張する。それをみてディモは笑いながらシロツノを荷馬車から離す。自由になったシロツノはディモの顔を軽く舐めて感謝を伝えると森の中に消えていった。
「あの野郎。私のディモを舐めやがって。帰ってきたら馬刺しにしてやる!」
「なに言ってるの。可愛いじゃない。僕がご飯の準備をするから、お姉ちゃんは寝床の準備をお願い」
冗談を言っていると思っているディモが笑いながら話す。ヘレーナにしたら本気の発言だったが、肩をすくめると素直に寝床の準備を始めた。食事は肉を中心として堅パンにスープが用意された。ヘレーナはあっという間に食べきると、今日の訓練の話を始める。
「よし。ご飯も食べてお腹いっぱいになったから、もう少ししたら剣の訓練を始めようか」
「そうだね。僕はもっと強くなってお姉ちゃんの助けがなくても戦えるようにならないとね!」
「えっ? お姉ちゃんがいらない? そ、そ、そ、それじゃあ、剣の修行は無しにして今日は早く寝ようか?」
「なに言ってるの。お姉ちゃんがいらないなんてあり得ないよ。僕はお姉ちゃんと一緒に戦えるようになりたいの! そのためにはいっぱい練習しないと! お姉ちゃんみたいに格好良く戦いたいんだ!」
「なに? その発言なに? 私の事を殺しに来てるの? 失神しちゃうよ?」
目をキラキラさせて気合いを入れるディモに、ヘレーナは感動のあまり倒れそうになりながらなんとか鼻血が出ないように耐えきった。気合いが入ったディモが剣を装備して立ち上がると、ヘレーナはそれまでの表情を一変させて真剣な顔になる。
「ディモがそこまで言うなら、しっかりと鍛えてやらないとね。まずは狩りから始めようか」
ヘレーナは立ち上がりながらディモに修行の内容を伝えるのだった。
「ひ、ひひん……」
村人達に見送られながら、ディモはシロツノの手綱を引っ張り出発する。荷馬車に乗っているヘレーナは燻製肉を齧りながら遠くを見ており、二人と一頭は門をくぐる。ディモは見送りとして集まってくれた村人達に手を振りながら、目的地に向かって旅立っていった。
「ディモが居なくなるんだね」
「大丈夫だよ。神剣のヘレーナ様が一緒だからね。安心していられるよ」
「でも、あの笑顔が見れなくなると……」
「「「寂しくなるね……」」」
小さくなっていくディモの姿を見送りながら、商店街の店主達は寂しそうな顔をしていた。この一〇年は常にディモと一緒だった。苦しい生活をしながらも笑顔が絶えないディモは商店街のアイドルであり、子供や孫みたいな存在だった。今までの事を思い出しながらしんみりとしていた一同が視線を向けると、ディモがこちらが見えているかどうか分からない距離から飛び跳ねながら手を振っており、その可愛らしい姿に一同は微笑ましさと同時に涙も出てくるのだった。
「それにしてもディモは可愛いねー。おい。ちゃんと駄馬として働くんだよ。ディモの命令は絶対だからな」
「ひひん!」
「分かってるならいいんだよ」
村を振り返りながら一所懸命に手を振っているディモを涎が出そうな表情で眺めていたヘレーナだったが、急に真面目な顔になるとシロツノを小突きながら命令していた。小突くにしてはかなりの威力があったようで、シロツノは痛みで涙目になりながら何度も頷きながら返事をする。
「そういえば、お前は野菜が好きなのかい?」
「ぶるる」
何気に聞いたヘレーナの質問にシロツノはかぶりを振って否定する。彼の好物は魔物の肉であり、もしくは魔石だった。肉や魔石から魔力を吸収し、それを循環させる事で身体強化や雷撃に利用していた。何気にヘレーナは自分が食べていた魔物の燻製肉をシロツノに近付ける。
「ぶるるるる」
「これが欲しいのかい?」
「ひひん!」
嬉しそうに尻尾を振りながら燻製肉を食べようとしたシロツノだったが、直前で取り上げられてヘレーナが食べてしまう。恨めしそうな顔をしたシロツノが身体を揺すって抗議をしていると、それに気付いたディモが頬を膨らませて注意を始めた。
「お姉ちゃん! シロツノを虐めちゃダメだからね! それに馬に肉を上げちゃダメなんだよ!」
「ディモ。これは一角馬だから魔物なんだよ。だから野菜よりも肉や魔石が好物なのさ」
「そうなの? シロツノ?」
ディモがシロツノの前に回って確認する。大きく頷いた事に驚きながら懐から燻製肉を取り出した。
「食べる? わぁぁ。本当に食べた! じゃあ、お姉ちゃんは、シロツノの好物を知ってて、意地悪して、燻製肉を、上げなかったの?」
「い、いや。ち、違うんだよ。ディモ。お姉ちゃんがそんな事をする分けないじゃないか。知らなかったんだよ」
「お姉ちゃんが肉好きと言ったのに?」
「ぶひひひひぃぃ」
「ごめんなさい。おら! なに笑ってんだよ。シロツノ! いや、違うんだよ。ディモ。本当にごめんなさい」
美味しそうに燻製肉を食べているシロツノを見ながらディモがヘレーナにお説教を始める。その様子を見て笑っているシロツノに声を荒げようとすると、ディモがさらに頬を膨らませて腰に手を当てながらヘレーナを睨む。ヘレーナは冷や汗をかきながら何度も謝るのだった。
◇□◇□◇□
「森の中に入ってきたし、夜になってきたから食事にしようか」
「そうだね。シロツノは木につないでおいた方がいい? それとも自由にさせた方がいい?」
「自由にさせておこう。逃げはしないよ。もし逃げたら地の果てまで追いかけて後悔させるから」
「ぶるるるるる」
「お姉ちゃん。冗談でもそんな事を言ったらダメだよ。シロツノが怖がるでしょ」
ヘレーナが軽く睨むとシロツノは慌てたように首を振って逃げない事を主張する。それをみてディモは笑いながらシロツノを荷馬車から離す。自由になったシロツノはディモの顔を軽く舐めて感謝を伝えると森の中に消えていった。
「あの野郎。私のディモを舐めやがって。帰ってきたら馬刺しにしてやる!」
「なに言ってるの。可愛いじゃない。僕がご飯の準備をするから、お姉ちゃんは寝床の準備をお願い」
冗談を言っていると思っているディモが笑いながら話す。ヘレーナにしたら本気の発言だったが、肩をすくめると素直に寝床の準備を始めた。食事は肉を中心として堅パンにスープが用意された。ヘレーナはあっという間に食べきると、今日の訓練の話を始める。
「よし。ご飯も食べてお腹いっぱいになったから、もう少ししたら剣の訓練を始めようか」
「そうだね。僕はもっと強くなってお姉ちゃんの助けがなくても戦えるようにならないとね!」
「えっ? お姉ちゃんがいらない? そ、そ、そ、それじゃあ、剣の修行は無しにして今日は早く寝ようか?」
「なに言ってるの。お姉ちゃんがいらないなんてあり得ないよ。僕はお姉ちゃんと一緒に戦えるようになりたいの! そのためにはいっぱい練習しないと! お姉ちゃんみたいに格好良く戦いたいんだ!」
「なに? その発言なに? 私の事を殺しに来てるの? 失神しちゃうよ?」
目をキラキラさせて気合いを入れるディモに、ヘレーナは感動のあまり倒れそうになりながらなんとか鼻血が出ないように耐えきった。気合いが入ったディモが剣を装備して立ち上がると、ヘレーナはそれまでの表情を一変させて真剣な顔になる。
「ディモがそこまで言うなら、しっかりと鍛えてやらないとね。まずは狩りから始めようか」
ヘレーナは立ち上がりながらディモに修行の内容を伝えるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
あなたはダンジョン出禁ですからッ! と言われた最強冒険者 おこちゃまに戻ってシェルパから出直します
サカナタシト
ファンタジー
ダンジョン専門に、魔物を狩って生計を立てる古参のソロ冒険者ジーン。本人はロートルの二流の冒険者だと思っているが、実はダンジョン最強と評価される凄腕だ。だがジーンはある日、同業の若手冒険者から妬まれ、その恋人のギルド受付嬢から嫌がらせを受けダンジョンを出入り禁止にされてしまう。路頭に迷うジーンだったが、そこに現れた魔女に「1年間、別人の姿に変身する薬」をもらう。だが、実際には「1歳の姿に変身する薬」だった。子供の姿になったジーンは仕方なくシェルパとなってダンジョンに潜り込むのだが、そんな時ダンジョンい異変が起こり始めた。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる