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19 話 ディモの特訓?
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「じゃあ、狩りを始めようかね。ディモは狩りをした事があるかい?」
「ないよ! でも、お姉ちゃんに会う前に強敵のスライムを倒したよ! 怪我をして癒しの魔石を使っちゃったけど……」
「ふふふ。スライムが強敵ね。ん! け、怪我! 傷は? どこかに傷は付いてないかい?」
「ちょ、ちょっとやめて! 服を脱がさないで! お姉ちゃん! やめて!」
怪我をしたとの報告にヘレーナは焦った様子でディモの身体をベタベタと触る。見た目の部分には傷がない事を確認すると、服を脱がし始める。慌てたのはディモである。突然、血走った目になったヘレーナから逃げるように荷馬車の後ろに隠れると、頭だけを出して真っ赤な顔で唸って怒りを表現する。
「うぅぅぅぅ!」
「可愛い! 唸っているディモも可愛い! ああ。私に正確に似姿を描ける能力があればいいのに!」
「いいから! そんな事より、早く訓練をしようよ! 僕の傷なんて探さないでさ!」
ディモの真剣な顔に、ヘレーナも真面目な顔になると小さく頷いて説明を始める。
「これから魔物を探しに行くよ。魔物との実戦経験をしてもらう。基本的な探索はお姉ちゃんがするけど、戦いはディモが一人で戦うんだ。よっぽど危険だとお姉ちゃんが判断しない限りは助けないからね」
「分かったよ! お姉ちゃん!」
力強く拳を握ると気合を入れたディモと、その姿を心のフォルダに保存したヘレーナの二人は、森の中を探索し一〇分ほどで一匹の魔物を見つける。最初の実戦経験としては丁度いい相手と判断したヘレーナは相手に気付かれないように小さな声で指示を出した。
「よし! あいつにしよう。行け! ディモ!」
「無理、むり、ムリ、無理ぃぃぃ! お姉ちゃん! 僕は強敵はスライムだよ! 彼となら互角の戦いが出来るレベルなんだ! あんな神話の世界に登場する神獣相手に戦いなんて出来ないよ!」
「えっ? あれがディモの中での神獣クラス? さっきのスライムの話は冗談じゃないの? ちょっ、ちょっと? もう一度確認するけど、ディモにとってスライムは?」
「強敵と書いてライバルと読むよ!」
「そ、そのままだね。とにかく、ディモにとってはこいつは倒せるレベルではないと?」
「お姉ちゃんじゃないと誰にも倒せないよ!」
「いやいや。お姉ちゃんが剣になった時は、ディモはもっと強い敵を倒したよ?」
体長五〇センチメートルほどのくま型魔物を遠目に見ながら、二人は意見をぶつけ合っていた。村から近い森にいる魔物で繁殖力の多さから害獣指定されており、猟師がこずかい稼ぎで狩っているレベルだった。
「どうしょうかね? コグマモドキ以上に弱い魔物か……」
「わ、分かったよ! 僕、頑張ってみるよ! お姉ちゃん!」
魔物の強さで言えば、スライムに狩られる事もあるコグマモドキのため、ヘレーナが他の魔物の選定に悩んでいると、ディモは魔王に戦いを挑む村人のような悲愴な顔をしながら剣を握りしめた。そして、ヘレーナが止める間もなく気合の入った声を出しながら突撃を開始する。
「やぁぁぁぁ!」
全力で走りながら、ディモはヘレーナに教えてもらった剣術をイメージしながらコグマモドキに剣を振るう。だが、付け焼き刃で技量が身に付くわけもなく、剣を振り下ろすタイミングも勢いも滅茶苦茶であった。
「きゅい! きゅきゅきゅ!」
突然、背後から攻撃をされたコグマモドキは、最初は驚きのあまり硬直していたが、ディモの技量を感じると鼻を鳴らしながら戦闘態勢に入った。
「うわぁぁぁ! つ、角が出たよ! お姉ちゃん! 最終兵器だ!」
「コグマモドキは襲ってきた敵には角を使って突撃攻撃をしてくるよ。良かったじゃないか。敵だと思われてるよ。それにその角は先端は丸いから、攻撃されても少し痛いくらいだから安心しな」
コグマモドキが威嚇の声を上げながら角を出して突撃してくる。ディモは慌てて転げるように回避すると、なんとか体を起こして改めて剣を構えてコグマモドキを睨みつけながら言い放った。
「負けないんだからね!」
「きゅぅおおおお!」
ディモとコグマモドキの死闘は十五分ほど続き、体力の尽きたコグマモドキの動きが鈍ったタイミングに、ディモの剣が偶然刺さり勝負がつくのだった。
「強敵だったライバルよ。君は神獣と言われるだけはあった……」
荒い息をなんとか整えたディモが、血糊を布で拭いて剣を納める。そして、倒したコグマモドキに向かって語り掛けていた。ディモ大好きなヘレーナだが、コグマモドキに苦戦している状況に頭を抱えていた。
「あれ? 私が剣になって身体を操っている時は動けたよね? じゃあ、ポテンシャルはあるよね? 練習の時も筋は良かったのになぜ?」
「どう! お姉ちゃん! 僕の強さは?」
首を傾げながら分析をしているヘレーナに近付いてきたディモは満面の笑みで感想を求める。ヘレーナは生まれて初めて言葉に詰まるのだった。
◇□◇□◇□
「じゃあ、今日の所はこれくらいにしようか。後は……。ん?」
ヘレーナはディモへの感想をなんとか誤魔化しながら伝えていた。そして、今日の訓練は終了と伝えようとした時に遠くから数頭の大型魔物が近付いて来るのを感じる。このままだと自分達と荷馬車へ直撃されるのが分かったヘレーナは抜剣すると、ディモに向かって叫んだ。
「大きな魔物がこっちに来てる! お姉ちゃんは今から倒しに行ってくるから、軽食を作って待っててくれるかい?」
「分かった! サンドイッチを作って待ってるね。お酒も用意しておくよ! 気を付けて行ってらっしゃい!」
ディモの言葉にヘレーナは嬉しそうな顔で頷くと気配がする方に駆け出した。走り始めて数分。前方から獣の咆哮が聞こえる。その声は威嚇と言うよりも悲鳴に近く感じた。疑問に思いながらその場で立ち止まると剣を肩に担いで確認する。
「なにを怯えてるんだ? 何かから逃げてる?」
「ぐらぁぁぁぁ!」
徐々に近付いてくるのを観察していたヘレーナに魔物が正気を失った目で襲い掛かってくる。大型の魔物は熊のようであり、体長は二メートルほどもあった。叫びながら腕を振るってくるのをサイドステップで躱すと横薙ぎの一撃で前足を切断する。
「ぎゃぁぁぁぁ」
「うるさい」
痛みのあまり叫びながらのたうち回っていた大型の魔物に無造作に近付くと、眉間に剣を突き立てた。動かなくなった事を確認したヘレーナは剣を引き抜きながら、把握している残りの魔物に向かって死を撒き散らす為に向かうのだった。
「ないよ! でも、お姉ちゃんに会う前に強敵のスライムを倒したよ! 怪我をして癒しの魔石を使っちゃったけど……」
「ふふふ。スライムが強敵ね。ん! け、怪我! 傷は? どこかに傷は付いてないかい?」
「ちょ、ちょっとやめて! 服を脱がさないで! お姉ちゃん! やめて!」
怪我をしたとの報告にヘレーナは焦った様子でディモの身体をベタベタと触る。見た目の部分には傷がない事を確認すると、服を脱がし始める。慌てたのはディモである。突然、血走った目になったヘレーナから逃げるように荷馬車の後ろに隠れると、頭だけを出して真っ赤な顔で唸って怒りを表現する。
「うぅぅぅぅ!」
「可愛い! 唸っているディモも可愛い! ああ。私に正確に似姿を描ける能力があればいいのに!」
「いいから! そんな事より、早く訓練をしようよ! 僕の傷なんて探さないでさ!」
ディモの真剣な顔に、ヘレーナも真面目な顔になると小さく頷いて説明を始める。
「これから魔物を探しに行くよ。魔物との実戦経験をしてもらう。基本的な探索はお姉ちゃんがするけど、戦いはディモが一人で戦うんだ。よっぽど危険だとお姉ちゃんが判断しない限りは助けないからね」
「分かったよ! お姉ちゃん!」
力強く拳を握ると気合を入れたディモと、その姿を心のフォルダに保存したヘレーナの二人は、森の中を探索し一〇分ほどで一匹の魔物を見つける。最初の実戦経験としては丁度いい相手と判断したヘレーナは相手に気付かれないように小さな声で指示を出した。
「よし! あいつにしよう。行け! ディモ!」
「無理、むり、ムリ、無理ぃぃぃ! お姉ちゃん! 僕は強敵はスライムだよ! 彼となら互角の戦いが出来るレベルなんだ! あんな神話の世界に登場する神獣相手に戦いなんて出来ないよ!」
「えっ? あれがディモの中での神獣クラス? さっきのスライムの話は冗談じゃないの? ちょっ、ちょっと? もう一度確認するけど、ディモにとってスライムは?」
「強敵と書いてライバルと読むよ!」
「そ、そのままだね。とにかく、ディモにとってはこいつは倒せるレベルではないと?」
「お姉ちゃんじゃないと誰にも倒せないよ!」
「いやいや。お姉ちゃんが剣になった時は、ディモはもっと強い敵を倒したよ?」
体長五〇センチメートルほどのくま型魔物を遠目に見ながら、二人は意見をぶつけ合っていた。村から近い森にいる魔物で繁殖力の多さから害獣指定されており、猟師がこずかい稼ぎで狩っているレベルだった。
「どうしょうかね? コグマモドキ以上に弱い魔物か……」
「わ、分かったよ! 僕、頑張ってみるよ! お姉ちゃん!」
魔物の強さで言えば、スライムに狩られる事もあるコグマモドキのため、ヘレーナが他の魔物の選定に悩んでいると、ディモは魔王に戦いを挑む村人のような悲愴な顔をしながら剣を握りしめた。そして、ヘレーナが止める間もなく気合の入った声を出しながら突撃を開始する。
「やぁぁぁぁ!」
全力で走りながら、ディモはヘレーナに教えてもらった剣術をイメージしながらコグマモドキに剣を振るう。だが、付け焼き刃で技量が身に付くわけもなく、剣を振り下ろすタイミングも勢いも滅茶苦茶であった。
「きゅい! きゅきゅきゅ!」
突然、背後から攻撃をされたコグマモドキは、最初は驚きのあまり硬直していたが、ディモの技量を感じると鼻を鳴らしながら戦闘態勢に入った。
「うわぁぁぁ! つ、角が出たよ! お姉ちゃん! 最終兵器だ!」
「コグマモドキは襲ってきた敵には角を使って突撃攻撃をしてくるよ。良かったじゃないか。敵だと思われてるよ。それにその角は先端は丸いから、攻撃されても少し痛いくらいだから安心しな」
コグマモドキが威嚇の声を上げながら角を出して突撃してくる。ディモは慌てて転げるように回避すると、なんとか体を起こして改めて剣を構えてコグマモドキを睨みつけながら言い放った。
「負けないんだからね!」
「きゅぅおおおお!」
ディモとコグマモドキの死闘は十五分ほど続き、体力の尽きたコグマモドキの動きが鈍ったタイミングに、ディモの剣が偶然刺さり勝負がつくのだった。
「強敵だったライバルよ。君は神獣と言われるだけはあった……」
荒い息をなんとか整えたディモが、血糊を布で拭いて剣を納める。そして、倒したコグマモドキに向かって語り掛けていた。ディモ大好きなヘレーナだが、コグマモドキに苦戦している状況に頭を抱えていた。
「あれ? 私が剣になって身体を操っている時は動けたよね? じゃあ、ポテンシャルはあるよね? 練習の時も筋は良かったのになぜ?」
「どう! お姉ちゃん! 僕の強さは?」
首を傾げながら分析をしているヘレーナに近付いてきたディモは満面の笑みで感想を求める。ヘレーナは生まれて初めて言葉に詰まるのだった。
◇□◇□◇□
「じゃあ、今日の所はこれくらいにしようか。後は……。ん?」
ヘレーナはディモへの感想をなんとか誤魔化しながら伝えていた。そして、今日の訓練は終了と伝えようとした時に遠くから数頭の大型魔物が近付いて来るのを感じる。このままだと自分達と荷馬車へ直撃されるのが分かったヘレーナは抜剣すると、ディモに向かって叫んだ。
「大きな魔物がこっちに来てる! お姉ちゃんは今から倒しに行ってくるから、軽食を作って待っててくれるかい?」
「分かった! サンドイッチを作って待ってるね。お酒も用意しておくよ! 気を付けて行ってらっしゃい!」
ディモの言葉にヘレーナは嬉しそうな顔で頷くと気配がする方に駆け出した。走り始めて数分。前方から獣の咆哮が聞こえる。その声は威嚇と言うよりも悲鳴に近く感じた。疑問に思いながらその場で立ち止まると剣を肩に担いで確認する。
「なにを怯えてるんだ? 何かから逃げてる?」
「ぐらぁぁぁぁ!」
徐々に近付いてくるのを観察していたヘレーナに魔物が正気を失った目で襲い掛かってくる。大型の魔物は熊のようであり、体長は二メートルほどもあった。叫びながら腕を振るってくるのをサイドステップで躱すと横薙ぎの一撃で前足を切断する。
「ぎゃぁぁぁぁ」
「うるさい」
痛みのあまり叫びながらのたうち回っていた大型の魔物に無造作に近付くと、眉間に剣を突き立てた。動かなくなった事を確認したヘレーナは剣を引き抜きながら、把握している残りの魔物に向かって死を撒き散らす為に向かうのだった。
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