魔物をお手入れしたら懐かれました -もふプニ大好き異世界スローライフ-

うっちー(羽智 遊紀)

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18 / 50
2巻

2-2

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 3.歓迎会だったはずだよね?


 スラちゃん1号が「本来なら、ちびスラちゃんを渡すなんて認められませんが、和也様が言うなら仕方ありませんね。ですが、大事にしなければ許しませんよ? 私の可愛い分体ですから」と触手を動かして伝えると、アマンダとルクアに近づく。
 ルクアはスラちゃん1号の意図を読み取れず、殺気さえ感じていた。彼女は青い顔でちびスラちゃんγを抱きしめ、恐る恐る和也に確認する。

「あ、あの。エンシェントスライム様は何を言っておられるので……」
「ちびスラちゃんを大事にしてねって!」
「もちろんです! ちびスラちゃんガンマちゃんは大事にしますよ! 配下ではなく親友です! ね、ガンマちゃん」

 ちびスラちゃんγは「仕方ねえなー。特別に親友になってやんよ」との感じで、ルクアの腕の中で何度も弾んだ。
 スラちゃん1号はルクアに近づくと、タオルでちびスラちゃんγを拭き始めた。

「お? スラちゃん1号もいいテクニックを持ってるね! じゃあ、俺から五回以上グルーミングを受けてる子は、スラちゃん1号にグルーミングをしてもらうように! 物足りなかったら、スラちゃん1号が終わった後に俺のところに来たらいいよ」

 和也がそう言うと、五回以上グルーミングされている者達は残念そうな顔をしたものの、スラちゃん1号を試してやるよと言わんばかりに並び始めた。

「じゃあ、それ以外の子は俺のところねー」

 ちびスラちゃんγとちびスラちゃんωは、和也に五回以上グルーミングしてもらっているので、スラちゃん1号のもとに向かうためにアマンダとルクアから離れていく。
 一方、アマンダは和也の方に向かっていった。

「ではよろしくお願いします!」
「お、まずはアマンダさんだね! ブラッシングだけだからねー。ん? ちょっと髪がいたんでるよ。毛先はカットするね。いでよ! 万能グルーミング! はい、椅子に座ってねー」

 緊張した面持ちで和也の前に座ったアマンダの髪を見て、和也は眉根を寄せる。そして万能グルーミングとハサミやブラシと霧吹きを作りだすと、カッティングを始めた。
 霧吹きで髪を濡らし、毛先をカットしつつ、傷んでいる箇所にはスラちゃん1号特選のポーションを振りかけていく。完全に間違った使い方だが、和也は気にすることなく作業を続ける。

「ふわぁぁぁぁ。なんですか、この感じは? ブラシを通されるたびに幸せが満ち溢れてきます。マウントはこんな素晴らしいことをやってもらっていたのですか。和也様のために生きようと思うのも納得です」
「今回は、ブラッシングと毛先をカットしただけだけど、それでも気持ちいいでしょ? 全身をしっかりグルーミングすると、みんな疲れ果てちゃうんだよね。今のところスラちゃん達くらいかな? 俺の全力グルーミングを受けても大丈夫なのは」

 幸せそうにしているアマンダを見ながら、和也も嬉しそうにする。
 彼の横ではスラちゃん達が「当然です! 和也様と出会ってから寵愛ちょうあいを受けているのですよ!」と言わんばかりに触手を動かしていた。


「つ、ついに私の番ですね! さあ、よろしくお願います! 和也様」

 一時間ほど待たされたルクアが嬉しそうな顔で和也の前にやって来た。和也の周りには満足げな表情を浮かべてくつろいでいる者達がおり、アマンダも椅子に座って自分の髪を何度も触りながらウットリとしている。
 アマンダがルクアに話しかける。

「早くルクアもしてもらいなさいな。この世の幸せを感じることができるわよ」
「それほどですか? 確かに楽しみにしておりますが……」

 期待と不安が半々のルクアだったが、和也の手が髪に触れた瞬間、それだけでビクリと震えてしまう。

「ほわぁぁぁぁ。な、なんですのこの心地よさは……」
「ふははははー。そうじゃろうそうじゃろう。俺のテクニックにかかれば、皆が骨抜きになるのだー」

 和也は変なキャラになりながら、ブラッシングを続けていく。ルクアは恍惚こうこつの表情を浮かべつつ呟く。

「ああ、これは人をダメにしますね。いえ、私は魔物ですけど」
「だろー。頑張ったら、俺の神髄しんずいのグルーミングをしてあげ――」

 和也が言い切る前に、ルクアは発言をさえぎる。そして彼女は和也の手をぎゅっと握ると、勢いよく詰め寄る。

「頑張ったらグルーミングですって? もちろん頑張りますわ! 何をすればいいんですの? 領地から人員を派遣すれば? それともお父様と一緒に砦の運営をすればいいのですの? ああ! ブラッシングを止めないでくださいませ!」

 いつの間にか、ルクアの喋り方は令嬢チックになっていた。

「わわ。手を握られたらブラッシングができないじゃん。お手伝いをしてくれるならなんでもいいよー。後はマウントさんと相談してくれたらいいから」

 和也は困ってしまったものの、ルクアの手を優しくほどくと、笑顔でブラッシングを続けるのだった。


    ❖ ❖ ❖


 一方その頃、スラちゃん1号の方は――
「ふっふっふ。私のテクニックもなかなかでしょう? 和也様の動きを再現していますからね。本家本元の和也様には遠く及びませんが」と触手を動かして弾んでいた。
 スラちゃん1号の周囲には、そのテクニックに負けて悔しそうながらも満足げな表情で、犬獣人、猫獣人、土竜一族が転がっていた。
 和也はそんな様子を面白そうに眺め、久しぶりに見かけた土竜一族に尋ねる。

「あれ、こっちに来てたの? 街道工事を一族総出でやってると聞いていたけど。そういえば最近グラモも見てないよね?」

 土竜一族の数名が顔を見合わせて相談を始める。

「おい、どうする?」
「たまたま拠点にいて和也様のブラッシング話を聞いたから勢いで参加しちゃったけど、ヤバかったか?」
「仕方ないだろ! 和也様のブラッシングだぞ! 我慢できるわけないだろ!」
「まさかスラちゃん1号様に回されるとは思わなかったけどな」

 しびれを切らした和也が割って入る。

「ねーねーってばー。面白そうな話なら俺も交ぜてよー」
「し、失礼しました。我らは街道工事の材料が足りなくなって拠点に寄っただけなのです。それとお気にされていたグラモ様ですが、現在は魔王城に向かわれております」

 土竜一族達はさらに、グラモは魔王マリエールに課せられた借金の一部を返済するために魔王城へ戻っていることを伝えた。

「え? グラモって借金があったの?」
「ええ、魔王様の諜報部隊から抜けられる時に多額の借金を……」
「そうなんだ。そこまでしてこっちに来てくれたんだね。それで、借金返済の目処めどは立ってるの?」

 心配そうに尋ねる和也に、土竜一族の者達は感謝の表情を浮かべながらも、自分達は詳しい金額は知らないと伝えた。

「申し訳ありません。情報をお伝えできなくて」
「気にしなくて良いよ。俺に協力できることはある? グラモや皆にはお世話になっているからね」

 和也の言葉を聞いて、一同は泣きそうになった。

「お気持ちだけで――」

 遠慮がちに感謝を伝えてきた土竜一族の言葉を遮るように、ルクアがちびスラちゃんγを抱きかかえた状態で話しかける。

「あの、和也様。そこまでお気になさらなくても大丈夫かと」
「え? どういう意味?」
「和也様がマリエール様へお渡ししている土産みやげで十分かと思います。なぜなら――」
「こら、ルクア! 待ちなさい」

 そう言って遮ったのは、アマンダである。
 和也による魔王へのお土産攻勢は金額にすると天文学的な額に達しており、それを和也に認識させない方が良いと話し合いが行われていた。そして、魔王領としては釣り合いが取れるお返しを提示することになっていたのだが……
 アマンダが具体的な金額は言わずにふんわりとそのことを伝えると、和也は呑気に言う。

「そうなの? 俺のお土産ってそんなに価値があるんだ」
「え、ええ。そ、そうですわね。おーほっほっほ!」

 アマンダは和也に引きつった笑いで応える。
 そしてルクアに「どうしてくれるのよ、この馬鹿娘が。これで気を良くした和也様のお土産攻勢が強まったら!」と言わんばかりの視線を向けた。
 すると、和也はさらりと告げる。

「俺のお土産にそれほど価値があるなら、グラモの借金を少しでも減らしてもらおうかな」
「は?」
「ひっ! お、お母様……ごめんなさい……」

 唖然とする母娘。アマンダが震えながら言う。

「あ、あの。和也様。その――」
「あっ、そうだよね。プレゼントくらいじゃ全然足りないよね」
「え?」

 アマンダは「そんなことをしては、グラモのためにならない」と言おうとしたのだが、和也は手を打ちながらとんでもないことを言いだす。

「ちょっと待ってね。スラちゃん1号。今回の報告会で納品されたやつでグラモの借金返済に回せそうなのはあるかな?」
「あ、あの! ちょっと待ってください!」

 和也とスラちゃん1号が用意しようとしたのは、グラモの借金返済というレベルではなく、本格的に交易ができる量だった。
 そして、次々と品が用意されていくさまを、アマンダとルクアは呆然と眺めるのだった。



 4.和也の暴走が始まる


 マウントが両頬をさすりながら歩いている。

「はー。ひどい目に遭った。嫁さんと娘に殴られて気絶するとは……俺も焼きが回ったものだぜ。しかもよくわからねえが、気絶している最中に宴会が始まってるじゃねえか。こうなったらストレス解消がてら腹いっぱいに食ってやる」

 ブツブツ言いながら歩いていると、宴会場となっている食堂から部下達が慌ただしそうに走ってくる。マウントは一人を捕まえて確認する。

「おい、バタバタしているようだが、何かあったのか?」
「あっ、マウント様! 急ぎ和也様のもとへ向かってください。アマンダ様がお待ちです」

 その部下はマウントと話しながら、走り回る別の部下に声をかける。

「おい! そっちじゃない。積載量よりも小回りが利く馬車を用意しろ! それと護衛の数は三十ほど確保しておけ。他の作業は止めて構わん。安全確保以外の要員は総動員だ。それではマウント様、急いでおりますので失礼します」
「お、おい。俺の命令なしに動くとは……また、和也殿が何かしたのか? また、コイカの糸やオリハルコンを山ほど土産に渡すとか言いだしたんじゃないだろうな?」

 鬼気迫ききせまる様子で去っていった部下を眺めながら、マウントは背筋に嫌な汗をかいていた。
 マウントが改めて周りを見渡すと、宴会をしているはずなのに、旅立ちの準備をしている者が多く、装備も一線級の物を着込んでいた。

「あいつらどこに行くんだ? 戦場か、超重要人物の護衛か、貴重な荷物を運ぶのか……どちらにせよ、結構な装備じゃねえか。アマンダが指示を出したのか?」

 何が起こっているのか理解できないまま食堂にやって来たマウントは、室内のさらに異常な光景に呆気に取られる。
 部屋の中央では和也が楽しそうに何かを作っており、その横ではスラちゃん1号が和也に道具を手渡したり、和也の汗を拭いたりしていた。その周辺では、ちびスラちゃん、犬獣人、猫獣人、土竜一族が、そうしてでき上がった品物を運びだしている。
 そして部屋の隅では、ルクアがアマンダにアイアンクローをかけられていた。

「おい、何があったんだよ? 和也殿は何を作ってるんだ? この戦場のような騒ぎはなんだ? それとルクアにアイアンクローをしているのはなぜだ? そもそも、この騒動はアマンダの指示で――」

 マウントの呟きを聞きつけたアマンダが声を上げる。

「は? 私が指示するわけないでしょうが! ふざけたことを言っているのは誰よ! ……なんだ、貴方じゃない。ちょうど良かったわ」

 ルクアにかけていたアイアンクローを解くと、アマンダはマウントに顔を向けた。

「この子のお陰で、魔王様の胃壁に痛恨つうこんのダメージが行くことになるわ」
「何があったんだよ」

 そのまま倒れたルクアは気絶していた。魔王領では高嶺たかねの花と呼ばれているルクアだったが、今やその面影はない。口から泡を吐いて、白目を剥いていた。

「生きてるよな?」
「当然よ。お腹を痛めて産んだ子よ。大事にしてるからアイアンクローで我慢したんじゃない」

 アマンダは冷たくそう答えると、近くにいた兵士にルクアを奥の部屋に運ぶように伝える。一部始終を見ていた兵士は震えながら頷くと、ルクアを担いで逃げ去っていった。
 マウントがアマンダに尋ねる。

「それで? 和也殿は何を作ってるんだよ?」
「横断幕よ」
「は? なんでまたそんな物を?」

 思ってもみない答えが返ってきて、マウントが混乱していると、横断幕が作られるに至った経緯をアマンダは説明した。

「なんと……それで和也殿が横断幕を作っているのか」

 経緯というほどでもなかった。グラモの借金話を聞いた和也が、なぜか「グラモの借金は俺が払うので許してください」という横断幕を作りだしたらしいのだ。
 それに加えて、借金を返済するために、コイカの糸で作った服、オリハルコンで作ったアクセサリー、ミスリル等が大量に用意されたということを、アマンダは付け加えた。

「ちなみに横断幕もコイカの糸で作られているわ」
「今、運びだしてるやつか。十人がかりで運んでるようだが、どうすんだよ、あれ?」
「私に聞かないでよ。マリエール様が気絶程度で済めばいいけどね」

 マウントが運ばれていく横断幕を見ながら呆然と呟くと、アマンダは考えることを放棄したように抑揚のない口調で答えた。
 そこへ和也が声をかけてくる。

「あれ? マウントさんじゃん! もう大丈夫なの? 聞いてよー。グラモがさー借金をしてるっていうんだけど、俺のもとに来たからなんだよ。だったら俺が助けてあげるしかないよね! マリエールさんは俺の作ったアクセサリーやコイカの糸が気に入ったみたいだから、いっぱい作って少しでも借金を減らそうっていう作戦なんだよ。いい考えだと思わない?」

 和也を支持するようにスラちゃん1号が「本当に和也様はお優しいですね。私達も全力で応援します。他には魔物の肉も一緒に渡してはどうでしょうか? 倉庫に在庫がたくさんありますよ」と触手を動かして伝えてくる。

「それだ! それもいっぱい渡そう。これでちょっとでもグラモが楽になったらいいよね。じゃあ肉の在庫を確認してくる! マウントさんとアマンダさんも、後でグラモについて相談に乗ってよ」

 和也はテンション高くそう叫ぶと、スラちゃん1号と一緒に肉が保管されている倉庫に走っていった。
 取り残された二人は、和也達の背を見ながら呆然としていた。

「おい、どうすんだよ。伝説の肉まで渡されたら魔王様はどうなるんだ?」
「知らないわよ。貴方なら止められたの? あの嬉々とした顔で肉を運ぼうとしている和也様を」
「いや、無理だな。マリエール様とフェイに色々と頑張ってもらおうか」
「そうね……」

 二人は和也の後を追うことにし、地下倉庫にやって来た。しかし、暴走している和也を止めるすべはもちろん持たずに、眺めることしかできなかった。
 作業に夢中になっている和也のもとにトーリが飛んでくる。そのまま和也の肩に止まると、トーリは和也にささやくように鳴いた。

「くるる」
「あっ。トーリもお手伝いに来てくれたの? 偉いねー。マリエールさんへの借金返済の物を選ぶから一緒に選んでくれると助かるなー」
「るるる」

 トーリは飛び立って肉の場所に降り立つと、肉をつつき始めた。

「なるほど。こっちのお肉も一緒に渡した方がいいんだね! さすがはトーリ! マリエールさんの好みを熟知しているね」
「るる」
「いやいや。トーリがそんなことをわかってるわけないだろう。和也殿は何を言って――な、なんだよ。やめろ! つつくな! おいアマンダ助けてくれ」

 マウントの言葉が心外だったのか、トーリがマウントに向かってくちばし攻撃を始める。トーリはマウントの監視役でもあるので、彼が安易に反撃できるわけもない。
 助けを求められたアマンダの視線は、次々と運びだされる肉に釘付けで、いったいどれだけの価値があるのかを推し量っていた。
 和也とスラちゃん1号は、楽しそうに冷凍された肉を運びだしていく。ちなみにその肉は氷属性のちびスラちゃんとセットになっており、ちびスラちゃんによって荷馬車が冷凍車になり、長時間であっても問題なく運べるのだ。
 やっとのことでトーリの攻撃から逃れたマウントが、和也達に質問する。

「あの和也殿……ちびスラちゃんごと運んだら地下倉庫の管理はどうするので? このままだと地下倉庫にある肉が腐ってしまいますよ?」

 スラちゃん1号が触手の動きで答える。

「氷属性を持っているちびスラちゃんは、あの子以外にも数匹いますので問題ありません。そろそろ分裂して増やそうと思っていたので、ちょうど良かったのです」

 そう伝えながら、スラちゃん1号は別の触手で持っている燻製くんせい肉を馬車に積み込んでいた。アマンダがため息をついて言う。

「……もう諦めましょう」
「だな。和也殿、俺も手伝いますよ。こうなったら徹底的に載せてしまいましょうぜ!」
「だよね! それくらいはした方がいいよね。グラモのためだからね」

 マウントとアマンダが諦めて手伝いを申し出てくれたことに、和也は嬉しそうに頷いた。



 5.魔王城での一コマ


 一方その頃、魔王城での謁見えっけんを前に、騒ぎの渦中かちゅうの人物であるグラモが何者かに絡まれていた。

「グラモ殿。少しは借金返済はできているのですかな? 一族すべてで逃げだすとは我が一族にはできませんなー。お陰で我ら一族が諜報部隊に任命されました。ようやくマリエール様から正しく評価されたので、そこは感謝しておりますよ」
「……どなたでしたかな?」

 グラモに親しげな雰囲気を装って近づいてきたのはコウモリ一族の長、トッバである。
 あたかも初めて会ったかのように首を傾げるグラモに、トッバは青筋あおすじを立てながらもなんとか笑顔を作った。

「はっはっは。面白い冗談だな。お前が無の森の盟主とやらのもとに逃げ込んだから、俺達が後釜あとがまになったんだよ。今まで俺達に任されていたのは空の偵察だけだったが、今やすべてを任されている。やっと俺達の一族を評価してもらえたんだ。地面しか掘れないお前達とは出来が違うんだよ」
「……こんなレベルが低い長がいる一族が隠密部隊を率いられるのか? それともマリエール様は何か考えが?」
「おい、何を小声で言っている?」
「いえ、別に何も。それはおめでとうございます」

 グラモとトッバのやりとりを、謁見の間につどった魔族達が眺め、こそこそと話し合っている。

「暇な諜報部達は楽でいいな」
「そうですな。四天王のマウント殿も無の森に逃げたという噂もあるしな」
「魔王様は何を考えているのだ? 無の森の盟主など搾取して使い捨てにすればいいのだ」
「いや、生かさず殺さずでいいでしょう。あの場所で採れる資源は有用ですからな」

 しばらくして、魔王マリエールと四天王筆頭であるフェイが入ってくる。マリエールは一同を鋭く見渡すと、ゆっくりと口を開いた。

「集まってくれた諸君。なぜ諸君が、この場に呼ばれたかわかっているか?」

 代表して、その場にいた中でも最も高位な魔族が返答する。

「いえ、私程度ではマリエール様が何をお考えかなど思い至りません。領地経営で忙しい中、我々が呼ばれた理由を教えてほしいものですな」
「いや、なに、貴君らが無の森の盟主殿に危害を加えると聞いたのでな。釘を刺しておこうかと思ったのだよ。我の『無の森の盟主への干渉を禁じる』との命令を無視するとは、魔王も軽く見られたものだ」
「……ぐぅ。マ、マリエール様。そ、そのようなことは――」
「ほう。まだ言うか?」

 突如として謁見の間に殺気が充満し、返答していた魔族は腰が抜けたようにへたり込んだ。
 マリエールがつまらなそうに周囲を見回すと、マリエールの隣にいたフェイも同じように冷徹れいてつな眼差しを向ける。
 マリエールが再度口を開く。

「何か勘違いをしているようだな。今までお前を好きにさせていたのは害がなかったから。ただ、それだけなのだよ。いつでも潰せる。代わりなんてどこにでもいる」

 続いてフェイが言う。

「安心しなさい。代わるのは貴方達だけよ。良かったわね。血は絶えないですよ。そして今日、貴方達を呼んだのは、先ほど魔王様からあったように無の森の盟主である和也殿へ干渉をしようとしたから。さすがにこれは我慢できないわ。それにしてもトッバ」

 唐突に、トッバに質問が向けられる。

「は、は……」

 マリエールの殺気で呼吸もままならず、トッバは苦しそうに返事をする。


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