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こっちでは17歳ですがあっちでは32歳でしたから

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ドレスを売ったお金で平民の男性が着る服や靴を何セットか購入して屋敷に向かう。
家主がいなくなった屋敷は廃墟のような寂しさが漂っている。

(これじゃダメね。お金をためて何とかしなくちゃ!)

ターゲットが来るまで半年しかないと思うとボーっとする間も惜しい。

「リア!リア!来て頂戴。ビスタも一緒にね!」

「はいお嬢様」

二人だけ残った使用人が足早に応接室に来た。
この家にたったひとつ残されたソファーに座りティナは二人にも座るよう促した。
初めは遠慮していた二人だが、何度も勧められて居心地が悪そうに並んで腰を掛けた。

「まず、確認しておきたいの。あなたたち二人が残ってくれた理由は何かしら?」

戸惑いながらもビスタが口を開いた。

「私はお嬢様がお生まれの時からずっとお世話をさせていただいていましたので。ティナロアお嬢様に対する仕打ちに胸が潰れそうな思いでした。この先はもっと過酷な運命となるかもしれませんが・・・」

リアが続いて口を開く。

「お嬢様・・・もしかして記憶が無くなっているのではありませんか?」

ティナはドキッとしたがリアの言葉に乗っかることにした。

「そうなの・・・実は昨日酷い目に遭って強く頭を打ったみたい。ほとんど何も覚えてないのよ・・・だからもしも親しく仕えていてくれたのなら申し訳なく思うわ」

「いいえ、とんでもございません。むしろあんな記憶は無くなった方がお嬢様のためだと思います・・・では改めまして自己紹介したほうが良さそうですね?」

ティナはにこっと笑った。
リアという娘はなかなか使えそうだ。

「ええ、お願いするわ」

「私はお嬢様の御身の回りのお世話をさせていただいておりました。こちらにいるビスタは私の叔父です。両親は早くに亡くなりましたがビスタおじさんが引き取ってくれてここで働くようになりました」

「そう・・・苦労したのね。じゃあご親戚とかはビスタだけなの?」

「はい。ですが婚約者がおりまして・・・ジャンといいます。街のレストランで働いています。お金をためて結婚しようと約束しているのですがなかなか・・・」

「まあ!それは素晴らしいわ!頑張って早く一緒に暮らせるといいわね」

リアは頬を染めて頷いた。

「大体わかったわ。二人は信用してよい人たちなのね。嬉しいわ味方がいて。ではこれからの計画を話すわね」

ティナは自分が市場の食堂に働きに行くことを話した。
二人は危険だからと反対したが結局は折れるしかないと悟り口をつぐんだ。
賄いが出るから食事は自分たちのだけで良いと伝え、仕事には男装していくので大丈夫だと納得させた。

「もともとあまり女らしい体形じゃないから問題ないと思うわ。二人には徹底してやってほしいことがあるの。家主が居なくなったからといってもここは伯爵家の屋敷。最低限の体裁は保ちたいと思ってるわ。屋敷内はもちろんだけど外回りも徹底的に掃除して欲しいのよ」

二人は顔を見合わせた。

「もちろん二人だけじゃ大変だと思うけど、全てを毎日やる必要は無いわ。とりあえずエントランスとロビーは常に清潔にお願い。高貴な方がいついらしても恥ずかしくないように」

困ったような笑顔を浮かべビスタが言った。

「承知いたしました。掃除と風呂の用意だけなら楽な仕事でございます」

「そうね、ビスタ叔父さん。頑張ろうね」

リアが楽しそうに言う。

「あっ!いくら二人だけの食事といってもあまり質素なものばかりじゃダメよ。ちゃんと栄養をとってね。さあ!心機一転よ、生まれ変わって頑張るわ!」

昨夜の残りのシチューとライ麦ブレッドを三人で分け合って食べた後、それぞれ明日に備えて早寝をした。
明日から新しい人生が始まると思うとティナは少しワクワクしていた。

「おはようございます!」

男装したティナが店に入ると厨房から昨日の女性が顔を出した。

「ああ、あんたかい・・・昨日とはまるで雰囲気が違うね・・・まあ、ここらじゃその格好の方が安全だ。名前はどうする?男の名前の方がいいだろう?」

「あっ・・・そうですね・・・ロアでどうでしょう」

「ロアか。わかったよ。あたしはこの店の女将でリンダっていうんだ。旦那はイーサン。まあ旦那さんと女将さんって呼べばいいさ。頑張りなよ!」

「はいっ!」

三十分もしないうちに徐々に客が入ってきた。
市場で働く男たちはとにかく良く食べる。
旦那さんはひっきりなしにパンを焼き、女将さんは手を休めることなく注文された料理を作っていく。
ティナは各テーブルに置かれたパン用のバスケットがカラにならないように配るだけでも忙しい。
料理の種類はさほど多くないし、ほとんどの客が日替わりメニューを注文するので思ったほど混乱は無かった。
前世の経験からテキパキと仕事をこなすティナを見て厨房の二人は頷きあう。

「あんた、いい人が来てくれたじゃないか」

「ああ、そうだな。できればずっといてほしい人材だ」

休憩なしで昼過ぎまで走り回ったティナは暖簾を下げると同時に蹲ってしまった。

(さすがにキツイ・・・ここでは17歳だけどホントは32歳なのよね・・・)

しゃがみ込むティナの腕をとって立たせた女将さんが声をかけた。

「ご苦労さん!期待以上だったよ。あんたなかなか慣れたもんだねぇ。さあ食事にしよう」

焼きたてのパンと今日の日替わりメニューがテーブルに並んでいる。

「ありがとうございます!お腹すきましたぁぁ」

「ああ、たんとおあがり。あんた細すぎるからしっかりお食べよ」
焼きたてパンも料理もなんというおいしさだろう。
久々にしっかり食べたティナは感動していた。

「そういやあんた。叔父さんの面倒見てるんだって?感心だね。大変だろうけど頑張るんだよ。なんなら余った料理やパンを持って帰ってやりなよ。いいだろ?あんた」

「ああ、もちろんだ。今日の働きぶりを見てたら何の文句も無いさ」

「ありがとうございます。助かります」

明日持ってくれば良いからと大き目の蓋つき容器に料理をたっぷり入れてくれたご主人とパンを包んでくれた女将さんに礼を言いながら店を出たのは午後2時だった。
今から帰れば二人の夕食前には渡せると思ったティナは少し急ぎ足で戻った。
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