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マダムラッテの恐るべき人脈

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マダムラッテに相談してから三日、特に何の音沙汰もないままティナはステージに立ち続けている。
辞めるまでの間は隔日だったステージが毎日公演に変わり、日々ロアのファンで満席だ。
今日もプレゼントの花束や宝石が届き、スタッフが選別に忙しい。

「ロア殿、今日は5番テーブルのご令嬢ですよ。ほら御覧なさい。なんと素敵なルビーのタイピンだ」

「ホント・・・凄いですね。これってどのくらいするのでしょう・・・なんだか受け取るのが恐ろしくなってきましたよ」

「いやいや、これくらいなら大したことないと思いますよ?中堅メイドの年収位じゃないかな?」

「いや・・・マジで怖い」

受け取ったルビーのタイピンをクラバットに刺しながら震えるような仕草をするロアを見ながらバーテンが笑っている。

「さあ、ロア殿。騙すなら騙しきってあげないとね?今日も頑張ってください」

「はい。行ってきます」

前世で一世を風靡したインストゥルメンタルピアノ曲を数曲弾いた。
そして最後の一曲は「my eyes adored you」の転調前までのフレーズを間奏を入れながら繰り返して歌う。その間ずっとルビーのタイピンをくれたご令嬢を見詰めていた。
大きな拍手と共にワンステージ目を終えて楽屋に帰るとマダムラッテが待っていた。

「最後の曲・・・良かったわね。なんだか私も切ないような気持になったわ」

「ありがとうございます。マダム」

そういいながら紳士の礼でマダムの手の甲に軽いキスをした。

「ああ、本当に・・・女にしておくのがもったいないわ・・・」

そういいながら熱いまなざしを向けるマダムラッテ。
どう返せばいいのか判らず黙って頬を赤らめるティナに微笑みかけながらマダムが口を開いた。

「なかなか良い方法が見つかったのよ?ジャルジュの腐れ野郎があなたの館を娼婦館にしようとしているのは知ってるわよね?」

「はい。聞いています」

「でね、その経営を任せようとしている娼婦がいるんだけど、まあ要するにジャルジュが贔屓にしている娼婦なんだけど・・・私の知り合いなのよ」

「え?マダム・・・顔が広いですねぇ・・・」

「知り合いっていうか、私がその娼婦館のオーナーなんだけど。勿論名前は出ていないからほんの数人しか知らない事なの。ふふふ・・・驚いた顔も素敵ねロア」

ティナは開いた口が塞がらなかった。

「それでね、表向きの経営者は私の甥っ子。ジャルジュが娼婦たちをみんな引き抜いてくれるなら大儲けなのよね。そろそろ娼婦館やめようと思ってたし」

「はあ・・・」

「それがねぇ、まだ店には出していない教育途中の子の中に珍しい黒髪の子がいてね、ロアの身代わりになってもらおうかと思うの。どう?」

「どうって・・・」

「だってジャルジュがロアの顔を覚えているとは思えないでしょう?バレないと思うのよ。そもそも娼婦になるつもりで来た子だし、誰も傷つかないでしょう?」

「まあ・・・そうですね・・・」

「但し貴族令嬢らしい仕草や話し方は全然できないから、そこは付け焼刃で構わないから仕込んで欲しいのよ」

「なるほど・・・」

「全ての手続きが終わってジャルジュが乗り込んでくるまでは直接あなたは会わないようにすれば良いでしょう?できるわよね?」

「ええ、そもそも代理人としかやり取りはしないですし。まあその代理人とも2回くらいしか会っていませんしね」

「じゃあ問題ないわ。引き渡しはいつの予定なの?」

「代理人によると支払いは終わっているそうです。父がサインした領収証が届けば最短でという話になっています。おそらく今月末までには終わるのではないでしょうか」

「まあ貴族令嬢教育って言ってもまさかあのジャルジュが正式なディナーなんてするわけないし、お茶会なんてあり得ないからそう難しく考えることは無いと思うけど・・・一番は話し方でしょうね」

「その身代わりになって下さる方とはいつから会えるでしょうか?」

「明日からでも問題ないわ。少し早めに来てここでレッスンしてはどうかしら?」

「ベストですね。よろしくお願いします。っていうか・・・なんか申し訳ないな・・・あんなヒヒおやじの相手をさせるなんて」

「あら、大丈夫よ。本人はその気だし、後のフォローは同じ店の娼婦たち全員でするから」

「・・・マダム・・・本当に何から何まで・・・ありがとうございます」

「良いのよ。ティナロアお嬢さま?あなたのことは姉にも頼まれているの」

「姉?マダムのお姉さまですか?」

「ええ。姉は生まれたばかりのあなたを育てたのよ?知らないでしょうけれど。ちょっと訳があってこの街には住めなくなってね。息子を私に預けて王都に行ったのよ」

「・・・‥‥‥‥すみません。私何も知らなくて・・・」

「それは当り前よ。まさかあなたが姉の言っていたティナロアお嬢様だったとは驚きだけど、私も長年の宿題ができたようで嬉しいの。でもあなたもこの街には住めなくなるわね」

「ええ、王都に行くつもりです。当ては何も無いのですが」

「それなら姉を頼ると良いわ。甥っ子を同行させましょうね。それなら心配ないわ」

「そこまでしていただいては・・・」

「良いのよ。あの子も偶には母親に会わせないとね」

ティナは人の縁の有難さに涙が出る思いだった。
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