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ティナとテラ

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ことの一部始終を沈黙のまま見守ったティナはその場でへたり込んでしまった。
あわててハーベストが駆け寄り抱き上げる。
ティナは胸の前で手を握りしめ泣いてしまった。

「ああ・・・ティナ・・・かわいそうなティナ。もう大丈夫だから・・・泣かないで」

ハーベストが抱き上げた手に力を込めた。
ティナは横抱きにされたままハーベストに抱きしめられる格好になってしまった。

「あの男が・・・私は既に自分のものだと・・・こ・・・怖い・・・」

「気にしてはダメだ!ティナ。あなたは誰のものでもない!ティナ・・・絶対に守るから!」

「怖いです・・・あんな男に・・・テラを・・・ああ、どうすればいいのでしょう」

「ティナ・・・テラは納得してるのです。しかもそれで自分の望みが叶うとさえ言っている。あなたは気に病んではダメだ」

「‥‥‥ハーベスト様、私・・・テラと話を・・・するべきだと思います」

「あなたがそう言うのなら止めませんが・・・でも今さら予定を変えることはできませんし、してはいけません。もう動き出しているのですよ?」

「私は自分が助かりたいために酷いことを押し付けているのではないでしょうか・・・」

ハーベストはひとつ大きく息を吐いてロビーの椅子にティナを座らせた。
すぐそばにはテラもビスタもキリウスもいる。
他の騎士たちも心配顔で留まっていた。
キリウスが泣きじゃくるティナを見て騎士たちに引き上げるよう指示を出した。

「お前たちご苦労だったな。留守の間も上手くやってくれた。あとは大丈夫だから休んでくれ」

騎士たちはティナに慈愛の視線を向けつつそれぞれの部屋に引き取っていった。
少し落ち着いたティナが立ち上がりテラに抱きつく。

「ティナ様?まあ、ティナ様ったら子供みたい。私は上手くできていましたか?頑張ったつもりなんですが」

「ええ、ええテラ。大したものだわ!私だったらあんなに上手く相手はできなかった。凄いわテラ!いいえ、ティナロアお嬢様」

「ホンモノにそう言ってもらえると嬉しいですね。でもねティナ様、本当に気にし過ぎです。もし私を身代わりに立てていると考えているなら違いますよ?私はチャンスを掴んだと思っているのですから」

「チャンス?」

「ええ、だってそもそも私は既に娼婦として買われた身なのですよ?店に出れば誰かもわからない男に抱かれる体なのです。そう、誰かに必ず。ですからそれがジャルジュだと言うだけで私にとっては何も変わらないのです。なのにこのお話しを頂いたお陰で、たくさんお金も頂けて、しかも毎晩不特定多数の男に好き勝手にされなくて済むのですから。私にとっては万々歳!ですよ?」

「テラ・・・」

「ほんとティナ様は考え過ぎです。娼婦なんてそんなものです。お金を得る手段っていうだけです。命までとられるわけじゃないもの。でもあの時に私が娼婦になるという道を選ばなかったら私だけじゃなく妹の命も無くなっていたでしょう・・・それがどうです?伯爵令嬢になりきるだけで私はたった数か月のお勤めで開放されますし、妹は学校にもいけるのですよ!感謝しかありません」

ハーベストがそっとテラからティナを引き剥がし自分の膝に抱き寄せた。

「ティナ・・・あなたの気持ちはわかります。辛いですよね?でもあの男はすぐにテラにも手を出せなくなります。マダムが何やら計画をお持ちのようでしたから。そうだろう?テラ」

テラが悪人のような笑顔で応えた。

「ええ、たぶん腹上死か溺死か・・・もしかしたら強盗に襲われるかもしれませんね」

ハーベストとキリウス、そしてテラが口角を上げて笑った。
ビスタは聞こえないふりをしているが頬がひくひくと動いている。

「・・・」

ティナは黙って俯いた。
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