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早急にゼロアが神官を務める教会の土地と家屋の購入を進めることに決めたティナには無駄な時間など全くなかった。
購入手続きと同時に改装工事の詳細を決める必要もある。
気持ちばかり焦るティナにとって事故の加害者であるケヴィンの存在はありがたい。
「おはようございます、ティナさん。今日は改装業者を連れてきましたよ」
いつもの明るい調子でケヴィンが病室を訪れた。
毎日のリハビリの効果も出てきており、病院内であれば歩行補助器を使って自由に移動できるようになっている。
ゆっくりと立ち上がって自分を迎えてくれたティナを見て、ケヴィンは涙を流して喜んでいた。
「ああ、ティナさん。ご自身だけで立てるようになったのですね。良かった・・・良かったです」
「ありがとう。ケヴィンさん・・・そんなに喜んでいただけるとなんだか照れ臭いわ」
「いいえティナさん。私はあなたの葬儀の心配までしていた時期があるのですよ?生きていてくれるだけでも嬉しいのに、確実に回復しているあなたを見ることがどんなに嬉しいか・・・神様、感謝します」
(いやいや・・・もともとは神の我が儘が原因だから。感謝するだけ無駄ですよ?ケヴィン)
心の中で神への冒涜の言葉を並べ立てていたティナは気を取り直してケヴィンに微笑んだ。
「ケヴィンさん、早速ですが改装の話をしても良いですか?」
「勿論です。こちらはうちの傘下の建築会社の者でヘラルドと言います。腕は確かですし的確なアドバイスもできるので信用していただいて大丈夫です」
「まあ頼もしい!ヘラルドさん。よろしくお願いしますね」
ティナが差し出した手を握りながらヘラルドが紳士の礼をとった。
「お話しは伺っていましたがお美しいレディですね。お力になれるよう全力で頑張ります。早速ですがなにか特殊なご要望があるとか」
「ええ、そうなのです。実は・・・」
ティナは自分の体を長期間保管できる部屋を確保する必要があったので、換気や防湿性、空調設備など様々な課題を抱えていた。
もちろん体を保存とは言えないので、珍しい鳥を飼っていることにしている。
「なるほど・・・エサの心配は無いのですね?」
「ええ、そこは大丈夫です。それはもう立派な給餌器がありますから。但し小さくてもいいので給水できる場所はは欲しいです」
無理難題ともいえるような条件を並べながらティナは少し不安になっていた。
しかしヘラルドは眉一つ動かさず問題点をクリアしていく。
(流石だわ・・・安心できそう)
「概ねのことは把握しました。ご期待に添えると思います。窓も扉も二重にして全てに内鍵もつけるのですね?」
「ええ、留守の間はその部屋に絶対に誰も入らない構造にしてください。その他の場所は管理者を雇って掃除をしてもらおうと思っています」
「よほど重要なものを保管されるようですね。金庫も備え付けますか?」
「そうですね。少し大き目の金庫もその部屋にお願いします」
工事日程や必要な経費は早急に持ってくると言い残してヘラルドは帰っていった。
残ったケヴィンがニコニコと笑いながらティナに言った。
「ティナさん、先日のルビーのブローチですがオークションに出してはどうかと思うのです」
「オークションですか」
「ええ、何人かの好事家に見せたのですが欲しいという方ばかりで、それならいっそオークションを利用すればもっと高値が付くのではないかと思いまして」
「なるほど。その辺りは詳しくないのでお任せしても良いですか?」
「勿論です。信頼には信頼で応えますので安心してくださいね」
「ええ。ケヴィンさんのことは信用しています」
「おそらくですが・・・今回の家や土地、改装費まで全て賄ってもかなり余る位にはなると思いますよ。というか・・・私が欲しい位なのですが」
「まあ、ケヴィンさんなら格安でお譲りしますよ?」
「いえいえ、譲っていただけるにしても正当な価格で購入しますよ。実は・・・私の恋人があのブローチに一目惚れしてしまって・・・」
「ああ、なるほど。(うん。ご年配には似合うシックなデザインかも)そういう事ですか(恋人っておいくつなのかしら)でもケヴィンさん、実はもっと良いモノを持っていますので・・・落ち着いたらお見せしますね(一度二人のデート姿を見てみたい)」
「本当ですか!あのブローチより価値のあるとは・・・楽しみです。お待ちしていますね」
「ええ、ケヴィンさんとは長いお付き合いをい願いしたいので」
「こちらこそです、ティナさん」
嬉しそうな顔のまま手を振るケヴィンを見送りながらティナはゼロアと顔を合わせない方法を考えた。
「うん・・・やっぱり変装かな・・・ご近所なのに挨拶も交わさないのは不自然だもんね」
そもそもゼロアがティナを覚えているかどうかだが、そこには考えが及ばないティナだった。
家関連のことは概ね決まったので、後はリハビリとあちらの世界に持ち込むアイテムの選定だけとなり、少し気持ちに余裕のできたティナは深い眠りに落ちて行った。
ーーーーーーーーーーーーーーー
順調に全ての予定が進んでいき、ティナがあちらの世界に帰る予定日まであと十日となった。
今日は外出許可を得て家を見に行く事になっている。
例によってケヴィンが迎えに来た。
「さあ、行きましょうティナさん。快適な移動ができる車を用意しましたよ」
杖だけで歩けるようになったティナをエスコートするようにケヴィンが手を差し出す。
念のため同行する看護師と一緒にティナは病室を後にした。
購入手続きと同時に改装工事の詳細を決める必要もある。
気持ちばかり焦るティナにとって事故の加害者であるケヴィンの存在はありがたい。
「おはようございます、ティナさん。今日は改装業者を連れてきましたよ」
いつもの明るい調子でケヴィンが病室を訪れた。
毎日のリハビリの効果も出てきており、病院内であれば歩行補助器を使って自由に移動できるようになっている。
ゆっくりと立ち上がって自分を迎えてくれたティナを見て、ケヴィンは涙を流して喜んでいた。
「ああ、ティナさん。ご自身だけで立てるようになったのですね。良かった・・・良かったです」
「ありがとう。ケヴィンさん・・・そんなに喜んでいただけるとなんだか照れ臭いわ」
「いいえティナさん。私はあなたの葬儀の心配までしていた時期があるのですよ?生きていてくれるだけでも嬉しいのに、確実に回復しているあなたを見ることがどんなに嬉しいか・・・神様、感謝します」
(いやいや・・・もともとは神の我が儘が原因だから。感謝するだけ無駄ですよ?ケヴィン)
心の中で神への冒涜の言葉を並べ立てていたティナは気を取り直してケヴィンに微笑んだ。
「ケヴィンさん、早速ですが改装の話をしても良いですか?」
「勿論です。こちらはうちの傘下の建築会社の者でヘラルドと言います。腕は確かですし的確なアドバイスもできるので信用していただいて大丈夫です」
「まあ頼もしい!ヘラルドさん。よろしくお願いしますね」
ティナが差し出した手を握りながらヘラルドが紳士の礼をとった。
「お話しは伺っていましたがお美しいレディですね。お力になれるよう全力で頑張ります。早速ですがなにか特殊なご要望があるとか」
「ええ、そうなのです。実は・・・」
ティナは自分の体を長期間保管できる部屋を確保する必要があったので、換気や防湿性、空調設備など様々な課題を抱えていた。
もちろん体を保存とは言えないので、珍しい鳥を飼っていることにしている。
「なるほど・・・エサの心配は無いのですね?」
「ええ、そこは大丈夫です。それはもう立派な給餌器がありますから。但し小さくてもいいので給水できる場所はは欲しいです」
無理難題ともいえるような条件を並べながらティナは少し不安になっていた。
しかしヘラルドは眉一つ動かさず問題点をクリアしていく。
(流石だわ・・・安心できそう)
「概ねのことは把握しました。ご期待に添えると思います。窓も扉も二重にして全てに内鍵もつけるのですね?」
「ええ、留守の間はその部屋に絶対に誰も入らない構造にしてください。その他の場所は管理者を雇って掃除をしてもらおうと思っています」
「よほど重要なものを保管されるようですね。金庫も備え付けますか?」
「そうですね。少し大き目の金庫もその部屋にお願いします」
工事日程や必要な経費は早急に持ってくると言い残してヘラルドは帰っていった。
残ったケヴィンがニコニコと笑いながらティナに言った。
「ティナさん、先日のルビーのブローチですがオークションに出してはどうかと思うのです」
「オークションですか」
「ええ、何人かの好事家に見せたのですが欲しいという方ばかりで、それならいっそオークションを利用すればもっと高値が付くのではないかと思いまして」
「なるほど。その辺りは詳しくないのでお任せしても良いですか?」
「勿論です。信頼には信頼で応えますので安心してくださいね」
「ええ。ケヴィンさんのことは信用しています」
「おそらくですが・・・今回の家や土地、改装費まで全て賄ってもかなり余る位にはなると思いますよ。というか・・・私が欲しい位なのですが」
「まあ、ケヴィンさんなら格安でお譲りしますよ?」
「いえいえ、譲っていただけるにしても正当な価格で購入しますよ。実は・・・私の恋人があのブローチに一目惚れしてしまって・・・」
「ああ、なるほど。(うん。ご年配には似合うシックなデザインかも)そういう事ですか(恋人っておいくつなのかしら)でもケヴィンさん、実はもっと良いモノを持っていますので・・・落ち着いたらお見せしますね(一度二人のデート姿を見てみたい)」
「本当ですか!あのブローチより価値のあるとは・・・楽しみです。お待ちしていますね」
「ええ、ケヴィンさんとは長いお付き合いをい願いしたいので」
「こちらこそです、ティナさん」
嬉しそうな顔のまま手を振るケヴィンを見送りながらティナはゼロアと顔を合わせない方法を考えた。
「うん・・・やっぱり変装かな・・・ご近所なのに挨拶も交わさないのは不自然だもんね」
そもそもゼロアがティナを覚えているかどうかだが、そこには考えが及ばないティナだった。
家関連のことは概ね決まったので、後はリハビリとあちらの世界に持ち込むアイテムの選定だけとなり、少し気持ちに余裕のできたティナは深い眠りに落ちて行った。
ーーーーーーーーーーーーーーー
順調に全ての予定が進んでいき、ティナがあちらの世界に帰る予定日まであと十日となった。
今日は外出許可を得て家を見に行く事になっている。
例によってケヴィンが迎えに来た。
「さあ、行きましょうティナさん。快適な移動ができる車を用意しましたよ」
杖だけで歩けるようになったティナをエスコートするようにケヴィンが手を差し出す。
念のため同行する看護師と一緒にティナは病室を後にした。
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