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ロージー逝く
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バンッと大きな音を立てて乱暴に開かれた二つの扉からほぼ同時に二人の神官が飛び出してきた。
二人は顔を見合わせて頷き合う。
「聞こえたか」
「はい。ティナロア嬢が戻られると」
「ロージーの息子は?」
「一緒にいるはずです」
「すぐに確認してくれ。私はティナロア嬢の部屋に行く」
「かしこまりました」
二人は足早に足早に歩を進めながら、二手に分かれつ駆け寄るシスターたちにテキパキと指示を出していく。
オルフェウス大神官がティナの寝かされている部屋のドアを開くより早く、フェルナンド神官がロージーの部屋に飛び込んだ。
「ノックもせずに失礼しました」
ロージーが優しいほほえみを浮かべながら応えた。
「ティナロア様がお目覚めですか?」
「・・・はい。そのように神の啓示を受けました」
「そうですか。ご無事でお戻りなのですね。よかった・・・よかったです。さあアラン、いよいよお別れの時が来ましたね。これまであなたと過ごせた時間は私にとってとても幸福な時間でした。これは神からのギフトです。そして身代わりとなってくださったティナロア様がご無事に戻られた・・・母はこれ以上の喜びを知りません」
涙を浮かべながらアランが応じた。
「はい。母上・・・お別れするのは辛いですがこれも定め・・・どうか心安らかに。神からいただいた時間を胸に、あなたの息子はまっすぐに生きていくことを誓います」
「それでこそ私の息子。アラン・・・私は誰よりあなたを愛しています。それを今まで伝えられず申し訳なかったと反省しています」
「いいえ、母上。私は理解していますよ?そして母上の妹であるマダムラッテももちろんです・・・母上・・・いえ!母さん。愛しています。これまでもこれからも・・・誰より」
「ありがとうアラン。でもね、母の望みは私以上に愛する人をあなたが見つけることですよ」
「母さん・・・これはまた・・・重たい宿題だ」
「あなたなら幸せになれますよ。安心なさい」
二人の会話を黙って聞いていたフェルナンドの頬を涙が伝う。
そして静かに口を開いた。
「ロージー・・・いえ、聖女ロージー様。心残りはございませんか?」
「はい。フェルナンド神官様。私の心は湖のごとく静かです。神への感謝と皆様への感謝、そして私のために力を貸してくださった真の聖女たるティナロア様への感謝・・・私の最愛の息子、アランへの感謝・・・それしかございません」
「まだ時間はあるようです。皆を呼びましょう。ゆっくりお別れを・・・」
「ありがたいことでございます」
シスターや教会の使用人たちが一人ずつロージーのベッドに近寄り手を取り合って別れを惜しむ。
アランはそんな母を誇らしく感じながらも、やがて来る永遠の別れに心を引き裂かれていた。
そんなアランの肩を優しくフェルナンドが抱き寄せる。
「あなたのお母様は素晴らしい方ですね」
「はい。私の誇りであり私の愛の全てです」
「あなた方親子に関われたことは私の誇りです」
「ありがとうございます。フェルナンド神官様」
最後の一人が涙を流しながら部屋を辞した。
アランがロージーの枕元に近寄った。
「ああ・・・私のアラン・・・私の息子・・・愛しているわ。あなたの母になれたことを心からうれしく思います。これから母は最後の慈悲を与えてくださった神に心から使えていきますから・・・安心して見送ってくださいね?」
「母さん・・・愛しています。愛しています。そして感謝しています。どうぞ心安らかに」
アランの頬をロージーが枯れた掌で撫でた。
見つめあう二人に後悔の念は皆無だった。
「フェルナンド神官様。本当にこれまでありがとうございました。オルフェウス大神官様やティナロア様にお別れをいう時間はあるのでしょうか」
「すぐに呼んできましょう」
扉のところで待機していたシスターに目くばせをしたフェルナンド神官はロージーの枕元に跪いた。
「ロージー・・・いえ、ロージー聖女様。あなたは私の憧れです。どうぞ心安らかに」
「ありがとうございます。フェルナンド神官様。あなたのこれからが神の光に包まれていることを心よりお祈りいたします」
フェルナンド神官がロージーの手を握り泣いていた時、オルフェウス大神官に抱きかかえられたティナが部屋に入ってきた。
「ティナロアお嬢様・・・」
「ロージー様・・・戻ってきてよかったのでしょうか?心置きなく過ごされましたか?」
「もちろんでございます。ティナロアお嬢様のおかげでアランとも皆さんとも充実した時間を持つことができました。感謝してもしきれるものではございません。ご苦労されたのではありませんか?」
「いいえ、苦労などはありませんでしたよ」
「それなら良かった・・・この先がどんなに茨の道であろうと神の思し召しです。喜んで参ります。そしてオルフェウス大神官様・・・今までお導き下さり本当にありがとうございました」
オルフェウス大神官が優しい笑顔で応えた。
「ロージー・・・神のもとへ行くあなたを羨ましいと言えば語弊があるでしょうか・・・どうぞ心安らかに・・・」
オルフェウス大神官の言葉に微笑みで応えたロージーがアランに手を伸ばす。
何も言わずただ泣きながらロージーの手をン握るアラン。
完全に理解しあえた二人に間にもはや言葉は必要なかった。
「母さん・・・」
「アラン・・・元気で・・・」
ロージーは静かに目を閉じた。
その手を握ったまま自らの額に押し当てているアランは母の息が止まったことを感じた。
アランは静かに立ち上がるとティナロアに向かってゆっくりと進み、力いっぱい抱きしめた。
二人は顔を見合わせて頷き合う。
「聞こえたか」
「はい。ティナロア嬢が戻られると」
「ロージーの息子は?」
「一緒にいるはずです」
「すぐに確認してくれ。私はティナロア嬢の部屋に行く」
「かしこまりました」
二人は足早に足早に歩を進めながら、二手に分かれつ駆け寄るシスターたちにテキパキと指示を出していく。
オルフェウス大神官がティナの寝かされている部屋のドアを開くより早く、フェルナンド神官がロージーの部屋に飛び込んだ。
「ノックもせずに失礼しました」
ロージーが優しいほほえみを浮かべながら応えた。
「ティナロア様がお目覚めですか?」
「・・・はい。そのように神の啓示を受けました」
「そうですか。ご無事でお戻りなのですね。よかった・・・よかったです。さあアラン、いよいよお別れの時が来ましたね。これまであなたと過ごせた時間は私にとってとても幸福な時間でした。これは神からのギフトです。そして身代わりとなってくださったティナロア様がご無事に戻られた・・・母はこれ以上の喜びを知りません」
涙を浮かべながらアランが応じた。
「はい。母上・・・お別れするのは辛いですがこれも定め・・・どうか心安らかに。神からいただいた時間を胸に、あなたの息子はまっすぐに生きていくことを誓います」
「それでこそ私の息子。アラン・・・私は誰よりあなたを愛しています。それを今まで伝えられず申し訳なかったと反省しています」
「いいえ、母上。私は理解していますよ?そして母上の妹であるマダムラッテももちろんです・・・母上・・・いえ!母さん。愛しています。これまでもこれからも・・・誰より」
「ありがとうアラン。でもね、母の望みは私以上に愛する人をあなたが見つけることですよ」
「母さん・・・これはまた・・・重たい宿題だ」
「あなたなら幸せになれますよ。安心なさい」
二人の会話を黙って聞いていたフェルナンドの頬を涙が伝う。
そして静かに口を開いた。
「ロージー・・・いえ、聖女ロージー様。心残りはございませんか?」
「はい。フェルナンド神官様。私の心は湖のごとく静かです。神への感謝と皆様への感謝、そして私のために力を貸してくださった真の聖女たるティナロア様への感謝・・・私の最愛の息子、アランへの感謝・・・それしかございません」
「まだ時間はあるようです。皆を呼びましょう。ゆっくりお別れを・・・」
「ありがたいことでございます」
シスターや教会の使用人たちが一人ずつロージーのベッドに近寄り手を取り合って別れを惜しむ。
アランはそんな母を誇らしく感じながらも、やがて来る永遠の別れに心を引き裂かれていた。
そんなアランの肩を優しくフェルナンドが抱き寄せる。
「あなたのお母様は素晴らしい方ですね」
「はい。私の誇りであり私の愛の全てです」
「あなた方親子に関われたことは私の誇りです」
「ありがとうございます。フェルナンド神官様」
最後の一人が涙を流しながら部屋を辞した。
アランがロージーの枕元に近寄った。
「ああ・・・私のアラン・・・私の息子・・・愛しているわ。あなたの母になれたことを心からうれしく思います。これから母は最後の慈悲を与えてくださった神に心から使えていきますから・・・安心して見送ってくださいね?」
「母さん・・・愛しています。愛しています。そして感謝しています。どうぞ心安らかに」
アランの頬をロージーが枯れた掌で撫でた。
見つめあう二人に後悔の念は皆無だった。
「フェルナンド神官様。本当にこれまでありがとうございました。オルフェウス大神官様やティナロア様にお別れをいう時間はあるのでしょうか」
「すぐに呼んできましょう」
扉のところで待機していたシスターに目くばせをしたフェルナンド神官はロージーの枕元に跪いた。
「ロージー・・・いえ、ロージー聖女様。あなたは私の憧れです。どうぞ心安らかに」
「ありがとうございます。フェルナンド神官様。あなたのこれからが神の光に包まれていることを心よりお祈りいたします」
フェルナンド神官がロージーの手を握り泣いていた時、オルフェウス大神官に抱きかかえられたティナが部屋に入ってきた。
「ティナロアお嬢様・・・」
「ロージー様・・・戻ってきてよかったのでしょうか?心置きなく過ごされましたか?」
「もちろんでございます。ティナロアお嬢様のおかげでアランとも皆さんとも充実した時間を持つことができました。感謝してもしきれるものではございません。ご苦労されたのではありませんか?」
「いいえ、苦労などはありませんでしたよ」
「それなら良かった・・・この先がどんなに茨の道であろうと神の思し召しです。喜んで参ります。そしてオルフェウス大神官様・・・今までお導き下さり本当にありがとうございました」
オルフェウス大神官が優しい笑顔で応えた。
「ロージー・・・神のもとへ行くあなたを羨ましいと言えば語弊があるでしょうか・・・どうぞ心安らかに・・・」
オルフェウス大神官の言葉に微笑みで応えたロージーがアランに手を伸ばす。
何も言わずただ泣きながらロージーの手をン握るアラン。
完全に理解しあえた二人に間にもはや言葉は必要なかった。
「母さん・・・」
「アラン・・・元気で・・・」
ロージーは静かに目を閉じた。
その手を握ったまま自らの額に押し当てているアランは母の息が止まったことを感じた。
アランは静かに立ち上がるとティナロアに向かってゆっくりと進み、力いっぱい抱きしめた。
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