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うれしい誤算
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もしかしたら妊娠しているかもしれないと思っただけで走ることさえ控えてしまう自分を笑いながら、ティナはウキウキとした気分を感じていた。
(家族ができるかも知れない。もう独りぼっちじゃない!)
優雅な独身貴族を気取っていた頃を思い出し、心境の変化に驚いた。
(私って・・・寂しかったのかしら)
少し感傷的な気分になったのも束の間、市場につくと焼けた肉の匂いにつられていた。
「おじさん!串焼き三本ちょうだい」
「あいよ!久しぶりだな。三日ぶりか?」
「あら、よく覚えてるわね。そう三日ぶり。なかなか出にくいのよ」
「そうか、まあどこの家も女中や下働きには厳しいからな。ほれ!おまけの一本」
「ありがとう!おじさん」
「ああ、で?いつ生まれるんだ?」
「えっ?おじさん判るの?」
「そりゃ見てりゃわかるさ。俺んとこは年子で五人いるからな」
「へぇ・・・そうねぇあと四か月くらいかな。多分」
「それにしちゃ腹が出てないな」
「うん。目立たないよね」
「まあ人によってはそんなもんだろう。医者は誰に診てもらってるんだ?」
「えっと・・・まだ診てもらってない」
「そりゃ大変だ。隠さなくちゃいけないような子なのかい?」
「そういうわけでもないけど・・・父親が急に故郷に帰っちゃって・・・連絡が取れないのよ。だから私が妊娠してることも知らないの」
「そうか・・・戦争続きだったもんなぁ・・・帰ってくれるといいな」
「うん。そうね、落ち着いたら私がこの子を連れて行くわ」
「ああ、どうなっても子に罪はないからな。大事にしなよ」
「うん。ありがとうおじさん。また来るね」
「ああ、待ってるよ」
あっという間に四本の串焼きを平らげたティナは、シスターたちへのお土産の駄菓子を買い込んで帰路についた。
「医者かぁ・・・やっぱり診てもらったほうがいいよね」
神官に相談するのが良いことは判っているが、どう話すかが問題だった。
「やっぱ大魔神の子?」
見た目だけは神々しい大魔神の姿を思い浮かべながらうっかりニヨニヨと微笑んでしまうティナ。
そんなティナを豪華な馬車が追い抜いていき、教会の中に入って行った。
「やべぇ!早く着替えなきゃ」
お腹をかばいながらも足早に部屋に戻り、大急ぎで着替えたティナは大聖堂に向かった。
見るからに高位の貴族らしい数人がステンドグラスを見ている。
(あら?今日は子供連れなのね。確か・・・ロベルト侯爵様だったかしら)
ロベルト侯爵とその妻アンは敬虔な信者であり、教会に多額の寄付をすることでも有名な貴族だった。
普段は二人だけで来るのだが、今日はかわいらしい女の子を連れている。
(両親は茶髪なのにあの子は銀色なのね・・・きれいな子)
まだまだ成人にはほど遠い年齢だろうその子は、ティナに気づいて小さく会釈した。
(あら、かわいい!ウサギのような赤い目なのね)
微笑みを浮かべ会釈を返すと、ティナはピアノの前に座った。
大聖堂のピアノは数段高い位置にある合唱隊のスペースにあり、説教をする神官を真横に見ることができる。
オルフェウスはまだ来ておらず、フェルナンドが説教台を整えていた。
「ああ、ティナさん。おかえりなさい」
「フェルナンド様。ご苦労様です。今日は何を弾きましょうか」
「お任せしますよ。いつものようにお願いします。ティナさんのピアノは心に沁みますからね。私も楽しみにしているのです」
「恐れ多いことです。今日はお子様も来られているようですから、明るい曲調にしましょうね」
「ええ、そうですね・・・ああ、ナサーリアお嬢様ですね。お元気になられたのですね。喜ばしいことです」
「ナサーリアお嬢様とおっしゃるのですね。かわいらしい方です」
「ええ、小さいころにはよく来ていただけたのですが、ここ数年体調がすぐれないとのことで久しぶりにお目にかかります」
「そうですか。おいくつなのですか?」
「確か・・・十二歳になられると思いますよ」
(十二歳といえば、もともとの世界ではまだジュニアハイスクールに通う年齢ね。でもこちらの世界ではあと数年で結婚するのね・・・幼児虐待にならないのかしら)
そんなことを考えながら楽譜を選んでいると、オルフェウス大神官が入ってきた。
(家族ができるかも知れない。もう独りぼっちじゃない!)
優雅な独身貴族を気取っていた頃を思い出し、心境の変化に驚いた。
(私って・・・寂しかったのかしら)
少し感傷的な気分になったのも束の間、市場につくと焼けた肉の匂いにつられていた。
「おじさん!串焼き三本ちょうだい」
「あいよ!久しぶりだな。三日ぶりか?」
「あら、よく覚えてるわね。そう三日ぶり。なかなか出にくいのよ」
「そうか、まあどこの家も女中や下働きには厳しいからな。ほれ!おまけの一本」
「ありがとう!おじさん」
「ああ、で?いつ生まれるんだ?」
「えっ?おじさん判るの?」
「そりゃ見てりゃわかるさ。俺んとこは年子で五人いるからな」
「へぇ・・・そうねぇあと四か月くらいかな。多分」
「それにしちゃ腹が出てないな」
「うん。目立たないよね」
「まあ人によってはそんなもんだろう。医者は誰に診てもらってるんだ?」
「えっと・・・まだ診てもらってない」
「そりゃ大変だ。隠さなくちゃいけないような子なのかい?」
「そういうわけでもないけど・・・父親が急に故郷に帰っちゃって・・・連絡が取れないのよ。だから私が妊娠してることも知らないの」
「そうか・・・戦争続きだったもんなぁ・・・帰ってくれるといいな」
「うん。そうね、落ち着いたら私がこの子を連れて行くわ」
「ああ、どうなっても子に罪はないからな。大事にしなよ」
「うん。ありがとうおじさん。また来るね」
「ああ、待ってるよ」
あっという間に四本の串焼きを平らげたティナは、シスターたちへのお土産の駄菓子を買い込んで帰路についた。
「医者かぁ・・・やっぱり診てもらったほうがいいよね」
神官に相談するのが良いことは判っているが、どう話すかが問題だった。
「やっぱ大魔神の子?」
見た目だけは神々しい大魔神の姿を思い浮かべながらうっかりニヨニヨと微笑んでしまうティナ。
そんなティナを豪華な馬車が追い抜いていき、教会の中に入って行った。
「やべぇ!早く着替えなきゃ」
お腹をかばいながらも足早に部屋に戻り、大急ぎで着替えたティナは大聖堂に向かった。
見るからに高位の貴族らしい数人がステンドグラスを見ている。
(あら?今日は子供連れなのね。確か・・・ロベルト侯爵様だったかしら)
ロベルト侯爵とその妻アンは敬虔な信者であり、教会に多額の寄付をすることでも有名な貴族だった。
普段は二人だけで来るのだが、今日はかわいらしい女の子を連れている。
(両親は茶髪なのにあの子は銀色なのね・・・きれいな子)
まだまだ成人にはほど遠い年齢だろうその子は、ティナに気づいて小さく会釈した。
(あら、かわいい!ウサギのような赤い目なのね)
微笑みを浮かべ会釈を返すと、ティナはピアノの前に座った。
大聖堂のピアノは数段高い位置にある合唱隊のスペースにあり、説教をする神官を真横に見ることができる。
オルフェウスはまだ来ておらず、フェルナンドが説教台を整えていた。
「ああ、ティナさん。おかえりなさい」
「フェルナンド様。ご苦労様です。今日は何を弾きましょうか」
「お任せしますよ。いつものようにお願いします。ティナさんのピアノは心に沁みますからね。私も楽しみにしているのです」
「恐れ多いことです。今日はお子様も来られているようですから、明るい曲調にしましょうね」
「ええ、そうですね・・・ああ、ナサーリアお嬢様ですね。お元気になられたのですね。喜ばしいことです」
「ナサーリアお嬢様とおっしゃるのですね。かわいらしい方です」
「ええ、小さいころにはよく来ていただけたのですが、ここ数年体調がすぐれないとのことで久しぶりにお目にかかります」
「そうですか。おいくつなのですか?」
「確か・・・十二歳になられると思いますよ」
(十二歳といえば、もともとの世界ではまだジュニアハイスクールに通う年齢ね。でもこちらの世界ではあと数年で結婚するのね・・・幼児虐待にならないのかしら)
そんなことを考えながら楽譜を選んでいると、オルフェウス大神官が入ってきた。
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