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さあ作戦開始

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アーレントはすくすくと育ち、万年寝不足状態のティナにも少し余裕が出てきた。

『お疲れさん。今日は珍しく夜泣きしたな』

『あら、久しぶりね。あなたのかわいいアーレントはとっても元気よ』

『ああ、知ってる。毎日見てるもん』

『いたの?気づかなかった』

『かなり疲れてるようだったから話しかけなかった。でもずっと一緒にいたよ』

『そうだったんだ。どう?少しは大きくなったでしょ?』

『それはアーレントの話?それともお前のおっぱいの話?』

『あんた・・・』

『ティナって怒った顔もかわいい』

『もういいわ・・・で?今日は何の用事なの?』

『今年の冬には疫病が流行るぞ。疫病といってもインフルエンザだが。マスクと消毒液の準備を始めた方がよさそうだ。それとなんと言ったかな・・・予防?衛生管理?』

『そうなの。もうあまり時間は無いわね。じゃあアルから大神官に「お告げ」をしておいてよ。動きやすくなるから』

『了解!今日にでも二人には聞かせておこう。ティナに指示しておいたってことでいい?』

『いいわ。アーレントもシスターたちに懐いてるから、私が動いても大丈夫ね』

『そうか・・・まあ俺もそばにいるし。頑張れよ、ママ』

『任せといて!』

神の気配が消えてすぐにバタバタと足音が廊下に響き、オルフェウスとフェルナンドが現れた。

「ティナさん。神からご指示があったと?」

「まあ!オルフェウス様もフェルナンド様も。もうお話があったのですか?私もたった今ご指示を承ったところです」

「ええ、なんでもこの冬に流行る病気を予防せよとの事でした」

「はい。この冬に流行る病はとても酷い風邪だそうです。病気のもとになる目に見えないものをあらかじめ防ぐ努力と、体内に取り込まない努力を広めなくてはなりません」

「具体的な方法をお聞きになったのですね?」

「はい。承りました。まずは貴族の代表の方と平民の代表の方に、それぞれ説明する必要がありそうです」

「わかりました。貴族の方はハロッズ侯爵にご相談いたしましょう」

オルフェウスがすぐに請け負った。

「平民の方々には私の方からお声掛けをいたしましょう」

フェルナンドも力強く応えた。

「それでは詳しいお話を・・・シスターイリア、アーレントをお任せしても?」

ティナが近くにいたシスターに声をかけた。

「もちろんです。聖女ティナロア様。心からご奉仕いたします」

「・・・よろしくお願いします。それと聖女というのは・・・」

オルフェウスが苦笑いをしながらティナに言った。

「ティナ、あきらめてください。アーレント様の神々しさを前に跪かない人間はいませんよ。そしてあなたはアーレント様のご母堂だ。仕方ないでしょう?」

ティナは黙って天井を見上げた。
神がニコニコ笑って親指を立てていた。
アーレントをシスターイリアに渡し、三人は部屋を出て大神官の執務室に向かった。

「まず大切なのは予防するという概念を植えつけることです。この目に見えない病気のもとのことは病原菌というそうです。これを徹底的に排除するのが大切です」

「病原菌・・・初めて聞く単語ですね」

ハーベストが顎に手を当てて難しい顔をした。

「病原菌というのは生きています。そして口や鼻から体内に入り込んで発症させます。人から人へ感染していき大流行を引き起こすそうです。いわゆる飛沫感染ですね。咳やくしゃみで広がるのです」

「咳やくしゃみですか」

「ええ、そこで有効なアイテムがこれ。マスクといいます」

ティナはあらかじめ手縫いしておいたマスクを机の上に出した。
オルフェウスとフェルナンドがまじまじと見ている。

「これはティナさんが作ったのですか?」

「はい。天使達が指導してくださいました」

「なんと!天使様が・・・」

「ええ、とっても簡単ですからすぐに作れます。たくさん作って無料配布したいのですがいかがでしょう」

「ミサの度に配るのも良いですね。街でおこなう奉仕活動でも配れそうです。しかし財源が問題ですね」

「ええ、そこで貴族の方々にご協力をいただければと・・・」

「なるほど、ではマスクを作る作業と貴族の方々への依頼を同時進行させましょう。とりあえずのお金は教会の予備費から。見たところそれほど高価な布では無いようですし、何とかなると思います」

オルフェウスは即決した。

「もう一つ大事なことがあります。それは予防です。衛生管理を徹底し除菌する事です」

ティナが真剣な顔で二人に言う。

「除菌?」

「はい。消毒液を日常的に使用する習慣を浸透させるのです」

「消毒?」

「それは・・・」

ティナは消毒という考えを説明し、消毒液の作り方を教えた。
オルフェウスもフェルナンドも感心して聞いていた。
説明し終えたティナに向かってオルフェウスが微笑みながら言った。

「ティナさん。あなたはやっぱり聖女ですよ」

三人は役割分担を決め早速動き出した。
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