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みんなのおうち
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暫しティナの顔をじっと見たキアヌ殿下が気を取り直して聞いた。
「なるほど・・・それで?市場にどんな店を開くの?」
「ハンバーガーショップですわ。もしも皇帝陛下が私のことを少しでも覚えていてくださるなら、必ずお耳に届くと思います。もし私の店のことが届かなかったとしたら・・・彼は暴君になり果てていると考えてよいかと存じます。それならそれでこちらのやり方も考えねばなりません」
「暴君となっていたなら・・・か。そうだね。それならこちらも作戦を練り直す必要が出るね。でもティナロア嬢の店が皇帝の耳に入るかどうかなんてわからないのではないか?」
「もちろんそうですね。彼の目が国民に向いているなら必ず入ると確信しています。まあ、これもある種の賭けですが」
「わかった。そこはあなたに委ねよう。私は小細工せずに謁見を申し込む。まあ、相当待たされることは覚悟しないとね」
「そうですね。会う算段さえつけばキアヌ殿下の独壇場でしょう?」
「おいおい・・・そんなに買いかぶってくれるなよ。変な汗が出てくる」
二人は明るく笑いあった。
にぎやかな車内が嬉しいのか、アーレントは流れゆく窓の景色に手を振ってご機嫌な様子だった。
キアヌ殿下が思い出したようにティナに言う。
「ティナロア嬢はアーレントの傍にいると言ったが・・・もしもハーベスト殿下が側室として召し上げたいと言ったらどうするの?」
「側室として・・・断りますね。アーレントのことは別としても側室や愛妾は願い下げです。それだけは譲れません。もしそうなったらアーレント付きの侍女か乳母にでもしてもらいますよ」
「ダメだと言ったら?」
「アーレントを連れて逃げます。でも・・・おそらくハーベスト様はそんなこと言わないですよ?」
「そうかい?ずいぶん皇帝陛下に信頼があるのだね」
「そうですね・・・短い間でしたが彼らとは寝食を共にした仲ですしね。それにハーベスト様の側近はなかなかに優秀な方でした。ハーベスト様が間違った方向に行きそうなら命を懸けてお諫めするほどの」
「へぇ~。あまり表舞台に名前が出ないから知らなかった。なんという名前なの?」
「キリウス・レーベン卿です。めちゃかっこいいですよ。見た目も心意気も」
「おいおい、ずいぶん褒めるじゃないか」
「だって本当に良い男でしたもん」
「へぇぇ。ティナロア嬢がそこまで言うなら相当だな。会うのが楽しみだ」
のんびりと冗談めかした会話が続く馬車を先頭にしたベルツ王国一行がアルベッシュ帝国の国境に差し掛かる。
ベルツ王国の玉印が捺された入国申請書を見た国境警備隊は恭しく門を開いた。
(始めての国ね・・・ハーベスト様の国・・・楽しみだわ)
ティナはときめきを抑えきれなかった。
一行は首都に一軒家を借りていた。
長期滞在を見越した策で、侍女やコックなど身辺を世話する人員も連れてきている。
先行して入国させた人員によって数人の使用人も現地採用されていた。
狭いながらも美しい庭のある邸宅は、後継者に恵まれず爵位を手放した貴族のタウンハウスだった。
数日前から準備を始めていたのか、屋敷内はすでに整えられており、一行はすぐに疲れをいやすことができた。
ティナはアーレントと乳母となるシスターと共に二室を与えられた。
荷ほどきを終えた頃、キアヌ殿下とロバート伯爵、ワンド伯爵がティナの部屋を訪れた。
「ティナロア嬢、部屋はどう?」
「素晴らしいですわ。こんなに立派な部屋をいただいてよろしかったのでしょうか」
「もちろんだよ。ここは主人夫婦の主寝室だったらしい。この屋敷で一番日当たりも言いそうだからアーレントにとっても良いと思ってね」
「もったいないほどです」
「それとね、シスターが使う部屋は夫人の執務室だった場所なんだが、反対側の部屋は私が使うことになっている。あの扉で繋がっているが絶対に私の方からこの部屋に入ることは無いから安心してほしい。もちろん私の部屋側の扉の前には家具を置くから」
「大丈夫ですよ?キアヌ殿下を信頼していますから」
「そういって貰えると助かるよ。もしもの時を考えると部屋は近いほうが良いと思ったんだ」
「最大限の信頼を寄せておりますわ」
「全力で守るから。ちなみにシスターの隣の部屋はロバート騎士団長の部屋だ。私の右隣はワンド伯爵の部屋だからね」
「はい。わかりました」
「私の部屋は執務室と応接室、そして寝室だ。会議は執務室を使うことにする。騎士たちや侍女たちは一階と三階を使わせるけど、不便な事も多いだろうが我慢してほしい」
その場にいる全員が頷いた。
キアヌが続けて言う。
「今日は荷ほどきとか色々あるし、それぞれでゆっくりしよう。夕食の席でまた会おうね」
そう言うとぺらぺらと手を振ってティナの部屋を出ていった。
ハロッズ伯爵もワンド伯爵もそれそれ会釈をして部屋を出た。
ティナはアーレントをベビーベッドに入れてからキングサイズのベッドにダイブした。
「はぁぁ・・・横にゴロゴロ三回転してもまだ落ちない大きさのベッド・・・凄すぎる」
ティナはゆっくりと目を閉じて、ベルツ王国で過ごした最後のひと月の出来事を思い返した。
「なるほど・・・それで?市場にどんな店を開くの?」
「ハンバーガーショップですわ。もしも皇帝陛下が私のことを少しでも覚えていてくださるなら、必ずお耳に届くと思います。もし私の店のことが届かなかったとしたら・・・彼は暴君になり果てていると考えてよいかと存じます。それならそれでこちらのやり方も考えねばなりません」
「暴君となっていたなら・・・か。そうだね。それならこちらも作戦を練り直す必要が出るね。でもティナロア嬢の店が皇帝の耳に入るかどうかなんてわからないのではないか?」
「もちろんそうですね。彼の目が国民に向いているなら必ず入ると確信しています。まあ、これもある種の賭けですが」
「わかった。そこはあなたに委ねよう。私は小細工せずに謁見を申し込む。まあ、相当待たされることは覚悟しないとね」
「そうですね。会う算段さえつけばキアヌ殿下の独壇場でしょう?」
「おいおい・・・そんなに買いかぶってくれるなよ。変な汗が出てくる」
二人は明るく笑いあった。
にぎやかな車内が嬉しいのか、アーレントは流れゆく窓の景色に手を振ってご機嫌な様子だった。
キアヌ殿下が思い出したようにティナに言う。
「ティナロア嬢はアーレントの傍にいると言ったが・・・もしもハーベスト殿下が側室として召し上げたいと言ったらどうするの?」
「側室として・・・断りますね。アーレントのことは別としても側室や愛妾は願い下げです。それだけは譲れません。もしそうなったらアーレント付きの侍女か乳母にでもしてもらいますよ」
「ダメだと言ったら?」
「アーレントを連れて逃げます。でも・・・おそらくハーベスト様はそんなこと言わないですよ?」
「そうかい?ずいぶん皇帝陛下に信頼があるのだね」
「そうですね・・・短い間でしたが彼らとは寝食を共にした仲ですしね。それにハーベスト様の側近はなかなかに優秀な方でした。ハーベスト様が間違った方向に行きそうなら命を懸けてお諫めするほどの」
「へぇ~。あまり表舞台に名前が出ないから知らなかった。なんという名前なの?」
「キリウス・レーベン卿です。めちゃかっこいいですよ。見た目も心意気も」
「おいおい、ずいぶん褒めるじゃないか」
「だって本当に良い男でしたもん」
「へぇぇ。ティナロア嬢がそこまで言うなら相当だな。会うのが楽しみだ」
のんびりと冗談めかした会話が続く馬車を先頭にしたベルツ王国一行がアルベッシュ帝国の国境に差し掛かる。
ベルツ王国の玉印が捺された入国申請書を見た国境警備隊は恭しく門を開いた。
(始めての国ね・・・ハーベスト様の国・・・楽しみだわ)
ティナはときめきを抑えきれなかった。
一行は首都に一軒家を借りていた。
長期滞在を見越した策で、侍女やコックなど身辺を世話する人員も連れてきている。
先行して入国させた人員によって数人の使用人も現地採用されていた。
狭いながらも美しい庭のある邸宅は、後継者に恵まれず爵位を手放した貴族のタウンハウスだった。
数日前から準備を始めていたのか、屋敷内はすでに整えられており、一行はすぐに疲れをいやすことができた。
ティナはアーレントと乳母となるシスターと共に二室を与えられた。
荷ほどきを終えた頃、キアヌ殿下とロバート伯爵、ワンド伯爵がティナの部屋を訪れた。
「ティナロア嬢、部屋はどう?」
「素晴らしいですわ。こんなに立派な部屋をいただいてよろしかったのでしょうか」
「もちろんだよ。ここは主人夫婦の主寝室だったらしい。この屋敷で一番日当たりも言いそうだからアーレントにとっても良いと思ってね」
「もったいないほどです」
「それとね、シスターが使う部屋は夫人の執務室だった場所なんだが、反対側の部屋は私が使うことになっている。あの扉で繋がっているが絶対に私の方からこの部屋に入ることは無いから安心してほしい。もちろん私の部屋側の扉の前には家具を置くから」
「大丈夫ですよ?キアヌ殿下を信頼していますから」
「そういって貰えると助かるよ。もしもの時を考えると部屋は近いほうが良いと思ったんだ」
「最大限の信頼を寄せておりますわ」
「全力で守るから。ちなみにシスターの隣の部屋はロバート騎士団長の部屋だ。私の右隣はワンド伯爵の部屋だからね」
「はい。わかりました」
「私の部屋は執務室と応接室、そして寝室だ。会議は執務室を使うことにする。騎士たちや侍女たちは一階と三階を使わせるけど、不便な事も多いだろうが我慢してほしい」
その場にいる全員が頷いた。
キアヌが続けて言う。
「今日は荷ほどきとか色々あるし、それぞれでゆっくりしよう。夕食の席でまた会おうね」
そう言うとぺらぺらと手を振ってティナの部屋を出ていった。
ハロッズ伯爵もワンド伯爵もそれそれ会釈をして部屋を出た。
ティナはアーレントをベビーベッドに入れてからキングサイズのベッドにダイブした。
「はぁぁ・・・横にゴロゴロ三回転してもまだ落ちない大きさのベッド・・・凄すぎる」
ティナはゆっくりと目を閉じて、ベルツ王国で過ごした最後のひと月の出来事を思い返した。
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