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皇帝は良い人よ?
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「それでは出発しよう」
キアヌ第二王子を団長とするアルベッシュ帝国訪問団がユリア第一王子と聖女ナサーリアたちに見送られ旅立った。
アルベッシュ帝国との国境までは約三日の行程だ。
王都からならティナの故郷を通るより南に迂回した方が早い。
水害が発生する農村部を視察しながら移動できるのもこのルートを選ぶ利点だった。
「この川が氾濫するのか」
「上流は深く細い川なのに、下流に行くと浅く広い川になるのも氾濫しやすい原因と思われます」
キアヌの言葉にロバート伯爵が応えた。
ティナがふとか言葉に出す。
「河川敷を広くとって氾濫時の予備河川にするのも有りですね」
二人が同時にティナを見た。
「予備河川とは?」
「通常時は公園とか簡単な農作地として利用できる土地のことです。一般的には河川敷と呼ばれますね。水位が急激に上がっても危険水域まで達するスピードを抑えられます」
「なるほど・・・緩やかに溢れさせるということか・・・そうできれば避難時間も稼げるな」
キアヌはティナの意見に賛同の意を示す。
ロバートが遠慮がちに言う。
「それは最終手段でしょうね。それを作るとなると現在の農地を大きく犠牲にする必要が出ます。やはり一番は元凶を絶たないと」
「もちろんです。それが一番ですね。すみません、弱気になったわけではないのですが・・・」
キアヌが弁護する様に言った。
「いくら元凶を正したからといっても氾濫が無くなるわけではないし、第二第三の備えは無駄ではなかろう?」
「それはもちろんです。長い目で見た対策も必要なことです」
「ここを予備河川とするならわが国だけで対応できる案件となる。それは今回の交渉が上手くいった後の事としよう。今は目の前の難敵だな」
ロバートとティナは同時に頷いた。
ティナの胸にはアーレントが抱かれている。
今はすやすやと眠っているが、起きたら会議どころではなくなる。
アーレントのご機嫌を伺いながら訪問団のサミット会議は続いた。
「ティナ嬢はまず市場の声を集めるといっていたな」
「ええ、皇帝の鶴の一声が決定打ではありますが、無茶な税金に跳ね返るなら頓挫する可能性もありますからね。まずはハーベスト様の人気を知る方が良いかと・・・」
「うん。もしも国民に受け入れられていないなら人集めにも苦労するだろう。現状は把握できているか?」
ロバートが書類をめくりながら答えた。
「支持率は徐々に上がっているようです。あれだけの好戦家がこの数年まったく動いていませんからね。噂によると戦争はもうしないと公言しているとか」
「へぇ~心変わりする何かがあったのかな」
ティナが思いついたように言った。
「ハーベスト様は領地に駐屯されていた時、それこそ川の氾濫による地盤崩落で怪我をされていますからね。怪我すると痛いって理解されたのではないでしょうか?」
ティナは無責任なことを言って笑った。
「ははは・・・だとしたら存外御しやすい御仁かもしれんが。私の知る限りかの方は一筋縄では行くまいよ?」
「そうですか?とっても優しい素直で可愛らしい方でしたよ?」
「・・・そう思っているのはあなただけだろう」
そう言いながらキアヌとロバートはうんうんと頷いた。
川の状況や農村の現状を視察しながら馬車は予定通り進んでいく。
この山を下れば国境検問所というところまで来た。
一行は先ぶれも出し、アルベッシュ帝国から訪問受け入れの回答も貰っているので、検問に懸念は無い。
先に入国している騎士からは滞在場所の確保に成功した旨の報告も届いている。
「入国したら、私はまずは挨拶に登城するべきだろうか」
「それは翌日以降にしましょう。今日のところはゆっくり風呂に浸かって手足を伸ばして眠りましょうよ」
珍しくロバートが砕けた口調で言った。
キアヌは笑って同意した。
「そうだな、急がば回れだ。焦った様子を見せてしまうと足元を掬われる」
そう言って笑いあう二人を見ながらティナは思った。
(ハーベストって曲者扱いなのね・・・可愛そうに)
アーレントはご機嫌な顔でゆるゆると眠り続けている。
キアヌ第二王子を団長とするアルベッシュ帝国訪問団がユリア第一王子と聖女ナサーリアたちに見送られ旅立った。
アルベッシュ帝国との国境までは約三日の行程だ。
王都からならティナの故郷を通るより南に迂回した方が早い。
水害が発生する農村部を視察しながら移動できるのもこのルートを選ぶ利点だった。
「この川が氾濫するのか」
「上流は深く細い川なのに、下流に行くと浅く広い川になるのも氾濫しやすい原因と思われます」
キアヌの言葉にロバート伯爵が応えた。
ティナがふとか言葉に出す。
「河川敷を広くとって氾濫時の予備河川にするのも有りですね」
二人が同時にティナを見た。
「予備河川とは?」
「通常時は公園とか簡単な農作地として利用できる土地のことです。一般的には河川敷と呼ばれますね。水位が急激に上がっても危険水域まで達するスピードを抑えられます」
「なるほど・・・緩やかに溢れさせるということか・・・そうできれば避難時間も稼げるな」
キアヌはティナの意見に賛同の意を示す。
ロバートが遠慮がちに言う。
「それは最終手段でしょうね。それを作るとなると現在の農地を大きく犠牲にする必要が出ます。やはり一番は元凶を絶たないと」
「もちろんです。それが一番ですね。すみません、弱気になったわけではないのですが・・・」
キアヌが弁護する様に言った。
「いくら元凶を正したからといっても氾濫が無くなるわけではないし、第二第三の備えは無駄ではなかろう?」
「それはもちろんです。長い目で見た対策も必要なことです」
「ここを予備河川とするならわが国だけで対応できる案件となる。それは今回の交渉が上手くいった後の事としよう。今は目の前の難敵だな」
ロバートとティナは同時に頷いた。
ティナの胸にはアーレントが抱かれている。
今はすやすやと眠っているが、起きたら会議どころではなくなる。
アーレントのご機嫌を伺いながら訪問団のサミット会議は続いた。
「ティナ嬢はまず市場の声を集めるといっていたな」
「ええ、皇帝の鶴の一声が決定打ではありますが、無茶な税金に跳ね返るなら頓挫する可能性もありますからね。まずはハーベスト様の人気を知る方が良いかと・・・」
「うん。もしも国民に受け入れられていないなら人集めにも苦労するだろう。現状は把握できているか?」
ロバートが書類をめくりながら答えた。
「支持率は徐々に上がっているようです。あれだけの好戦家がこの数年まったく動いていませんからね。噂によると戦争はもうしないと公言しているとか」
「へぇ~心変わりする何かがあったのかな」
ティナが思いついたように言った。
「ハーベスト様は領地に駐屯されていた時、それこそ川の氾濫による地盤崩落で怪我をされていますからね。怪我すると痛いって理解されたのではないでしょうか?」
ティナは無責任なことを言って笑った。
「ははは・・・だとしたら存外御しやすい御仁かもしれんが。私の知る限りかの方は一筋縄では行くまいよ?」
「そうですか?とっても優しい素直で可愛らしい方でしたよ?」
「・・・そう思っているのはあなただけだろう」
そう言いながらキアヌとロバートはうんうんと頷いた。
川の状況や農村の現状を視察しながら馬車は予定通り進んでいく。
この山を下れば国境検問所というところまで来た。
一行は先ぶれも出し、アルベッシュ帝国から訪問受け入れの回答も貰っているので、検問に懸念は無い。
先に入国している騎士からは滞在場所の確保に成功した旨の報告も届いている。
「入国したら、私はまずは挨拶に登城するべきだろうか」
「それは翌日以降にしましょう。今日のところはゆっくり風呂に浸かって手足を伸ばして眠りましょうよ」
珍しくロバートが砕けた口調で言った。
キアヌは笑って同意した。
「そうだな、急がば回れだ。焦った様子を見せてしまうと足元を掬われる」
そう言って笑いあう二人を見ながらティナは思った。
(ハーベストって曲者扱いなのね・・・可愛そうに)
アーレントはご機嫌な顔でゆるゆると眠り続けている。
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