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知ってたけど
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アーレントを抱いたままソファに座るキリウスを前に、ハーベストはティナを抱きしめたまま離さない。
ティナは苦笑いをしながらもされるがままになっていた。
『今はアルなの?ハーベストなの?』
『今は奴だ』
『じゃあこれは浮気?』
『いやいや・・・それくらいは許してやるよ。本当にこいつはお前のためだけに頑張っていたんだ』
『そうなの・・・じゃあ遠慮なく』
『・・・ほどほどに』
ティナはハーベストの頬にそっと手を添えた。
「ハーベスト様、アーレントを抱いてやっていただけませんか?」
ハーベストの頬にポッと朱がさした。
「うん。そうなんだが・・・何というか・・・照れる」
「まあ!ハーベスト様ったら」
そう言いながらティナはハーベストの腕をほどいてアーレントのところに向かった。
キリウスからアーレントを受け取り、抱いたままハーベストの横に座る。
「さあ、アーレント。練習したでしょ?きちんとご挨拶なさい」
「あい!はじえましゅて。わたくちは、あーえっとともうしましゅ」
ハーベストがきちんと座りなおしてアーレントに向き合った。
「ご丁寧なご挨拶痛みいる。私はアルベッシュ帝国皇帝ハーベスト・ローリエ・アルベッシュと申す。そしてアーレント、君の父親だ」
ティナとキリウスが同時に吹き出した。
「とーしゃま?」
「そうだ。父様だ。名は覚えたか?」
「え~っと・・・あーるれと?」
ハーベストがぴくっと固まった。
キリウスも驚いた顔をしている。
「なんと・・・懐かしい名を聞いたものだ!レディティナ、血は争えませんね。ハーベストは小さいころ自分の名を上手に発音できなくて『あーるれと』と言っていたのです。だからこいつの愛称は『アル』ですよ。まあ、今となっては誰もその愛称は使いませんが」
「まあ!そうですの!ふふふ・・・確かにアルって言いましたわね?(知ってたけど)」
ハーベストが少し涙ぐんでアーレントを抱き寄せた。
アーレントは少し驚いた顔を見せたが、されるがままに抱かれている。
「ああ、そうだよアーレント。よく言えたね。賢い子だ」
ハーベストに頬ずりをされてキャッキャと笑うアーレント。
キリウスも涙ぐんでいた。
「良かったなアル。お前も父親になったんだな・・・よし!アーレントは俺が直々に教育をしよう!お前に任せると暴君になりそうだからな」
「キリウス・・・その申し出、謹んでお断り申し上げよう!全て俺が教える。俺がアーレントを立派な跡継ぎに育てるから、お前が国政を回しとけ」
「いやいや・・・一番ダメなプランだろ。そうだ、せっかく顔をそろえたのだから、大切なことを決めてしまうぞ。アル!ここからは真面目な話だ。アーレントをティナ嬢にお返ししろ」
「嫌だ」
ハーベストはアーレントを左手に抱き、右手でティナを引き寄せた。
キリウスはひとつ大きなため息を吐いた。
「いいか?アーレントは間違いなくお前の子供でアルベッシュ帝国の第一王子殿下だ。しかしお前とティナロア嬢は婚姻をしていない。だから現時点ではアーレントは婚外子であり継承権順位には加われない」
「法改正しろよ」
「お前・・・終わるまで黙っとけ」
キリウスは立ち上がり執務机の引き出しから分厚い書類を出してきた。
「いろいろ調べたのだが、皇太子の独身時代に出来た子供を数年後に認知して、皇后の子供とするという前例が無いわけではない。しかしこれはあくまでも皇后との間に子ができない場合の措置であり、皇后が認めないと成立しない」
「ん?だって皇后はティナだろ?何の問題もないじゃないか」
しれっと言うハーベストに向かってキリウスは禍々しいほどの笑顔を向けた。
「だ・か・ら!お前の結婚は政略のみ!はっきり言ってティナロア嬢を正妃として迎えるのは今のままでは無理だ」
ハーベストの表情が一瞬でゆがんだ。
怒りで顔が上気している。
ティナが慌てて間に入った。
「勿論です、キリウス様。私は皇后の座など望んでもおりません。私の望みはアーレントの安全のみです。ハーベスト様も・・・そんなお顔をなさっては嫌でございますぅ~」
ティナの最後の言葉でハーベストはスッと顔を元に戻した。
それを見届けたキリウスが続ける。
「今のままでは無理だと言ったんだ。お前の気持ちは分かる。俺だって何とかしてやりたい。そこでだ・・・」
キリウスがそっと前かがみになると、ハーベストとティナも同じように屈んだ。
まるで密談をしているような三人の真ん中でアーレントは静かな寝息を立て始めた。
ティナは苦笑いをしながらもされるがままになっていた。
『今はアルなの?ハーベストなの?』
『今は奴だ』
『じゃあこれは浮気?』
『いやいや・・・それくらいは許してやるよ。本当にこいつはお前のためだけに頑張っていたんだ』
『そうなの・・・じゃあ遠慮なく』
『・・・ほどほどに』
ティナはハーベストの頬にそっと手を添えた。
「ハーベスト様、アーレントを抱いてやっていただけませんか?」
ハーベストの頬にポッと朱がさした。
「うん。そうなんだが・・・何というか・・・照れる」
「まあ!ハーベスト様ったら」
そう言いながらティナはハーベストの腕をほどいてアーレントのところに向かった。
キリウスからアーレントを受け取り、抱いたままハーベストの横に座る。
「さあ、アーレント。練習したでしょ?きちんとご挨拶なさい」
「あい!はじえましゅて。わたくちは、あーえっとともうしましゅ」
ハーベストがきちんと座りなおしてアーレントに向き合った。
「ご丁寧なご挨拶痛みいる。私はアルベッシュ帝国皇帝ハーベスト・ローリエ・アルベッシュと申す。そしてアーレント、君の父親だ」
ティナとキリウスが同時に吹き出した。
「とーしゃま?」
「そうだ。父様だ。名は覚えたか?」
「え~っと・・・あーるれと?」
ハーベストがぴくっと固まった。
キリウスも驚いた顔をしている。
「なんと・・・懐かしい名を聞いたものだ!レディティナ、血は争えませんね。ハーベストは小さいころ自分の名を上手に発音できなくて『あーるれと』と言っていたのです。だからこいつの愛称は『アル』ですよ。まあ、今となっては誰もその愛称は使いませんが」
「まあ!そうですの!ふふふ・・・確かにアルって言いましたわね?(知ってたけど)」
ハーベストが少し涙ぐんでアーレントを抱き寄せた。
アーレントは少し驚いた顔を見せたが、されるがままに抱かれている。
「ああ、そうだよアーレント。よく言えたね。賢い子だ」
ハーベストに頬ずりをされてキャッキャと笑うアーレント。
キリウスも涙ぐんでいた。
「良かったなアル。お前も父親になったんだな・・・よし!アーレントは俺が直々に教育をしよう!お前に任せると暴君になりそうだからな」
「キリウス・・・その申し出、謹んでお断り申し上げよう!全て俺が教える。俺がアーレントを立派な跡継ぎに育てるから、お前が国政を回しとけ」
「いやいや・・・一番ダメなプランだろ。そうだ、せっかく顔をそろえたのだから、大切なことを決めてしまうぞ。アル!ここからは真面目な話だ。アーレントをティナ嬢にお返ししろ」
「嫌だ」
ハーベストはアーレントを左手に抱き、右手でティナを引き寄せた。
キリウスはひとつ大きなため息を吐いた。
「いいか?アーレントは間違いなくお前の子供でアルベッシュ帝国の第一王子殿下だ。しかしお前とティナロア嬢は婚姻をしていない。だから現時点ではアーレントは婚外子であり継承権順位には加われない」
「法改正しろよ」
「お前・・・終わるまで黙っとけ」
キリウスは立ち上がり執務机の引き出しから分厚い書類を出してきた。
「いろいろ調べたのだが、皇太子の独身時代に出来た子供を数年後に認知して、皇后の子供とするという前例が無いわけではない。しかしこれはあくまでも皇后との間に子ができない場合の措置であり、皇后が認めないと成立しない」
「ん?だって皇后はティナだろ?何の問題もないじゃないか」
しれっと言うハーベストに向かってキリウスは禍々しいほどの笑顔を向けた。
「だ・か・ら!お前の結婚は政略のみ!はっきり言ってティナロア嬢を正妃として迎えるのは今のままでは無理だ」
ハーベストの表情が一瞬でゆがんだ。
怒りで顔が上気している。
ティナが慌てて間に入った。
「勿論です、キリウス様。私は皇后の座など望んでもおりません。私の望みはアーレントの安全のみです。ハーベスト様も・・・そんなお顔をなさっては嫌でございますぅ~」
ティナの最後の言葉でハーベストはスッと顔を元に戻した。
それを見届けたキリウスが続ける。
「今のままでは無理だと言ったんだ。お前の気持ちは分かる。俺だって何とかしてやりたい。そこでだ・・・」
キリウスがそっと前かがみになると、ハーベストとティナも同じように屈んだ。
まるで密談をしているような三人の真ん中でアーレントは静かな寝息を立て始めた。
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