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「猫になれ~! まはりくまはりたやんばらやんやんや~ん!」
サリーが指先をロバートに向けると、ぼよんとした靄のなかから、エメラルドグリーンの長毛種猫が出現した。
「「おおおおおおおおおお~」」
この二人は前世で双子だったのかもしれないとサリーは思った。
「この猫は……あの猫か?」
「そうです。この猫はあの猫なのです」
「シューンは知っているのか?」
「いいえ、ご存じありません。知っているのはここにいる人間とフレッツ伯爵のみです」
「フレッツ伯爵? 先生もご存じなのか。ああ、だからあの日、猫を引き取って行かれたのだな?」
「ええ、ちなみにトーマ様はフレッツ伯爵が変身した姿です。騙したようになってしまってすみません。シューン殿下のためだったのです」
「なるほど。トーマがフレッツ伯爵だというのはものすごく納得できるよ。むしろ安心した。それに、シューンの学友として様々な改革もしてくれた。お陰でシューンの成績はぐんぐん上がっている」
「ええ、そのお陰で、サルーン伯爵の手の者をあぶりだせたのです」
「5歳児だと油断するのだな?」
「ええ」
顎に手を当てて頻りに感心しているイース殿下の横で、近衛隊長が驚きの声を出した。
「凄いな……リーサルウェポンだ。例えば全軍をネズミに変身させれば、簡単に敵城に潜入させられるじゃないか」
サリーは片眉を上げて苦い顔をした。
「無理ですね。変身を解くためには、私が呪文を唱える必要があります。私も一緒に変身して敵城に潜入すれば可能でしょうが、私ははっきり言って運動音痴ですし、足も遅く、とろいです。たぶん一番最初に死にます」
イースがガタンと音をさせて立ち上がった。
「サリーは行かせない! サム! 二度と口にするな!」
「御意」
近衛隊長はサムって言うんだ……とサリーはぼんやり考えていた。
「あのぉ、そろそろ戻ってもよろしいですか?」
ロバート猫が口を開く。
「なんと! 変身しても言葉が操れるのか」
「そうみたいです」
「それはますます……」
サム隊長の声に、ギロッとにらみを利かせるイース。
「ああ、戻ってくれ。全面的に信用する。そしてこの秘密は墓場まで持っていくことを誓う」
イースが腰の長剣を握り金丁した。
サム隊長も同様の方法で誓いを立てた。
「近衛隊長、申し訳ありませんが服を……」
「ああ、そうだったな。なんと下着まで全てか……だとすると潜入させても素っ裸ということか……ダメだな」
衝立の向こうにロバートの脱ぎ散らかしを運んでやったサム隊長が戻りながら呟いた。
「最近の若者はあんな柄の下着を好むのか?」
サリーがしれっと答えた。
「さあ? ライラの趣味じゃないですか?」
衝立の向こうでガタンという音がしたが、全員がまるっと無視した。
イースが口を開く。
「それでサリーの前世での息子というのは?」
「ええ、私……ずっとシューン殿下が転生した息子だって思っていたのですが、神の使いに違うと言われました。名前も同じだったんですよ? 齢も同じ……瞬……瞬に会いたいです」
「そうか……同じということは5歳か。ん? サリーは18だよな? 随分早い出産だったのだな」
「殿下……いくら何でも12歳で子供は産みませんから。しかも私って初潮が遅かったので……あっ、ごめんなさい。この世界はこういう話をしないんでしたね」
「あっ、それはそうなのだが……あちらではアケスケに話すのか?」
「ええ、10歳位から男女の体の違いなどは学校で教えますよ? こちらで言う閨教育のような感じでしょうか。もちろん実践教育はありません」
「学校で……すごいな」
「話が逸れましたね、前世の私は26歳で死にました。瞬を産んだのは21歳の時です。父親はいません。妊娠したとわかった時に逃げられたので、一人で育てました」
「それは……苦労したのだな」
「そうですね、でも楽しかったですよ?」
「楽しいか……サリーらしいな」
イースは少しだけ寂しそうな顔をした。
サリーが指先をロバートに向けると、ぼよんとした靄のなかから、エメラルドグリーンの長毛種猫が出現した。
「「おおおおおおおおおお~」」
この二人は前世で双子だったのかもしれないとサリーは思った。
「この猫は……あの猫か?」
「そうです。この猫はあの猫なのです」
「シューンは知っているのか?」
「いいえ、ご存じありません。知っているのはここにいる人間とフレッツ伯爵のみです」
「フレッツ伯爵? 先生もご存じなのか。ああ、だからあの日、猫を引き取って行かれたのだな?」
「ええ、ちなみにトーマ様はフレッツ伯爵が変身した姿です。騙したようになってしまってすみません。シューン殿下のためだったのです」
「なるほど。トーマがフレッツ伯爵だというのはものすごく納得できるよ。むしろ安心した。それに、シューンの学友として様々な改革もしてくれた。お陰でシューンの成績はぐんぐん上がっている」
「ええ、そのお陰で、サルーン伯爵の手の者をあぶりだせたのです」
「5歳児だと油断するのだな?」
「ええ」
顎に手を当てて頻りに感心しているイース殿下の横で、近衛隊長が驚きの声を出した。
「凄いな……リーサルウェポンだ。例えば全軍をネズミに変身させれば、簡単に敵城に潜入させられるじゃないか」
サリーは片眉を上げて苦い顔をした。
「無理ですね。変身を解くためには、私が呪文を唱える必要があります。私も一緒に変身して敵城に潜入すれば可能でしょうが、私ははっきり言って運動音痴ですし、足も遅く、とろいです。たぶん一番最初に死にます」
イースがガタンと音をさせて立ち上がった。
「サリーは行かせない! サム! 二度と口にするな!」
「御意」
近衛隊長はサムって言うんだ……とサリーはぼんやり考えていた。
「あのぉ、そろそろ戻ってもよろしいですか?」
ロバート猫が口を開く。
「なんと! 変身しても言葉が操れるのか」
「そうみたいです」
「それはますます……」
サム隊長の声に、ギロッとにらみを利かせるイース。
「ああ、戻ってくれ。全面的に信用する。そしてこの秘密は墓場まで持っていくことを誓う」
イースが腰の長剣を握り金丁した。
サム隊長も同様の方法で誓いを立てた。
「近衛隊長、申し訳ありませんが服を……」
「ああ、そうだったな。なんと下着まで全てか……だとすると潜入させても素っ裸ということか……ダメだな」
衝立の向こうにロバートの脱ぎ散らかしを運んでやったサム隊長が戻りながら呟いた。
「最近の若者はあんな柄の下着を好むのか?」
サリーがしれっと答えた。
「さあ? ライラの趣味じゃないですか?」
衝立の向こうでガタンという音がしたが、全員がまるっと無視した。
イースが口を開く。
「それでサリーの前世での息子というのは?」
「ええ、私……ずっとシューン殿下が転生した息子だって思っていたのですが、神の使いに違うと言われました。名前も同じだったんですよ? 齢も同じ……瞬……瞬に会いたいです」
「そうか……同じということは5歳か。ん? サリーは18だよな? 随分早い出産だったのだな」
「殿下……いくら何でも12歳で子供は産みませんから。しかも私って初潮が遅かったので……あっ、ごめんなさい。この世界はこういう話をしないんでしたね」
「あっ、それはそうなのだが……あちらではアケスケに話すのか?」
「ええ、10歳位から男女の体の違いなどは学校で教えますよ? こちらで言う閨教育のような感じでしょうか。もちろん実践教育はありません」
「学校で……すごいな」
「話が逸れましたね、前世の私は26歳で死にました。瞬を産んだのは21歳の時です。父親はいません。妊娠したとわかった時に逃げられたので、一人で育てました」
「それは……苦労したのだな」
「そうですね、でも楽しかったですよ?」
「楽しいか……サリーらしいな」
イースは少しだけ寂しそうな顔をした。
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