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74 疑い
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「聞いた話よりずいぶん早かったですのぉ」
呟くようにそう言った佐助が二郎を見た。
目が合うとニヤッと笑う二郎。
「わしも雇われとはいえ曾我衆としての矜持ぐらいはありますけぇね」
伊十郎が顔を顰めた。
「恩をあだで返すとはこのことじゃ。何が矜持か。そんなもんクソくらえじゃ!」
松吉がだらんと腕を降ろしている二郎の襟首を捻りあげる。
「まあ待て。わしが逆の立場でも同じことをしたじゃろうて。信じたわしらが甘かった」
伊十郎が二郎に言う。
「お前……曾我衆の棟梁か」
口角を上げるだけで何も言わない二郎。
東の森の中が騒がしくなっているのが小屋の中からでもわかる。
「始まったようじゃな。要するに曾我衆の奴らはこいつを取り返しに来たいうことじゃろう。恐らくは何らかの連絡手段があり、それが為されなんだことで駆け付けたということか。ははは! これは一本取られたのぉ」
国久が豪快に笑った。
佐助が時蔵と松吉に命じて、二郎の体を戸板に括りつけた。
何も言わずにそれを見ている伊十郎の横で、春乃がそっとよねこの目を掌で覆う。
「いずれにせよ流星は絶対に渡さん。出せ!」
国久の一言で、時蔵と松吉が二郎を括りつけた戸板を盾のようにして小屋を出た。
「そこで良い。その杭に括りつけろ」
護衛するために共に出た伊十郎がにらみを利かす中で、二郎が貼り付いた戸板が杭に立てかけられて固定された。
「そんなことをしても無駄じゃ! わしが死ねば次の棟梁が立つだけじゃけ。曾我衆は永遠じゃけ!」
二郎が大声をあげる。
それは近くにいる仲間に己の覚悟を知らしめているようにも見て取れた。
「放っておけ」
その時、東の森から一騎が駆け寄ってきて、大きな声で報告を始めた。
「鎮圧しました。敵兵はわずか六名でしたわい」
「ご苦労。曾我衆の姿はあったか?」
「ありません」
国久と伊十郎が顔を見合わせる。
「西じゃったか……俺の勘も鈍ったものじゃ」
「いやいや、意外と敵兵と同じ姿になっておるだけかもしれません」
東の森から次々に新宮党の面々が戻ってきた。
「西に向かいますか?」
暫し考えた国久が全員を集めて指示を出す。
「三つに分かれて鶴翼の陣形で囲め。伊十郎は中央に入れ」
まさに桜井を攻めた時と同じ陣構えだ。
「承知!」
伊十郎が片袖を脱いでもろ肌を見せる。
「春乃、暫し待っておれ。佐次郎を頼む」
「畏まりました」
それぞれが小屋を離れていく。
残ったのは国久と佐助と春乃とよねこ、そして老婆だけとなった。
「さて、よねことやら。そろそろその腕は抜いても良かろう。見ればご法度のけばけば草もあるしな」
よねこが春乃の顔を凝視した。
頷く春乃。
「今抜いたら、臓物がまろび出るそうなです。もう二日もあれば腹の内側の皮が出来上がるけぇ、もう少し待ってくれと言うとります」
「あと二日? それはあと二日で毛利が来るいうことか?」
よねこがぶんぶんと首を横に振った。
それを見ている国久の目は、獲物を射殺しそうなほどに鋭い。
呟くようにそう言った佐助が二郎を見た。
目が合うとニヤッと笑う二郎。
「わしも雇われとはいえ曾我衆としての矜持ぐらいはありますけぇね」
伊十郎が顔を顰めた。
「恩をあだで返すとはこのことじゃ。何が矜持か。そんなもんクソくらえじゃ!」
松吉がだらんと腕を降ろしている二郎の襟首を捻りあげる。
「まあ待て。わしが逆の立場でも同じことをしたじゃろうて。信じたわしらが甘かった」
伊十郎が二郎に言う。
「お前……曾我衆の棟梁か」
口角を上げるだけで何も言わない二郎。
東の森の中が騒がしくなっているのが小屋の中からでもわかる。
「始まったようじゃな。要するに曾我衆の奴らはこいつを取り返しに来たいうことじゃろう。恐らくは何らかの連絡手段があり、それが為されなんだことで駆け付けたということか。ははは! これは一本取られたのぉ」
国久が豪快に笑った。
佐助が時蔵と松吉に命じて、二郎の体を戸板に括りつけた。
何も言わずにそれを見ている伊十郎の横で、春乃がそっとよねこの目を掌で覆う。
「いずれにせよ流星は絶対に渡さん。出せ!」
国久の一言で、時蔵と松吉が二郎を括りつけた戸板を盾のようにして小屋を出た。
「そこで良い。その杭に括りつけろ」
護衛するために共に出た伊十郎がにらみを利かす中で、二郎が貼り付いた戸板が杭に立てかけられて固定された。
「そんなことをしても無駄じゃ! わしが死ねば次の棟梁が立つだけじゃけ。曾我衆は永遠じゃけ!」
二郎が大声をあげる。
それは近くにいる仲間に己の覚悟を知らしめているようにも見て取れた。
「放っておけ」
その時、東の森から一騎が駆け寄ってきて、大きな声で報告を始めた。
「鎮圧しました。敵兵はわずか六名でしたわい」
「ご苦労。曾我衆の姿はあったか?」
「ありません」
国久と伊十郎が顔を見合わせる。
「西じゃったか……俺の勘も鈍ったものじゃ」
「いやいや、意外と敵兵と同じ姿になっておるだけかもしれません」
東の森から次々に新宮党の面々が戻ってきた。
「西に向かいますか?」
暫し考えた国久が全員を集めて指示を出す。
「三つに分かれて鶴翼の陣形で囲め。伊十郎は中央に入れ」
まさに桜井を攻めた時と同じ陣構えだ。
「承知!」
伊十郎が片袖を脱いでもろ肌を見せる。
「春乃、暫し待っておれ。佐次郎を頼む」
「畏まりました」
それぞれが小屋を離れていく。
残ったのは国久と佐助と春乃とよねこ、そして老婆だけとなった。
「さて、よねことやら。そろそろその腕は抜いても良かろう。見ればご法度のけばけば草もあるしな」
よねこが春乃の顔を凝視した。
頷く春乃。
「今抜いたら、臓物がまろび出るそうなです。もう二日もあれば腹の内側の皮が出来上がるけぇ、もう少し待ってくれと言うとります」
「あと二日? それはあと二日で毛利が来るいうことか?」
よねこがぶんぶんと首を横に振った。
それを見ている国久の目は、獲物を射殺しそうなほどに鋭い。
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