24 / 101
24 戦犯
しおりを挟む
「牛尾殿はその者をご存じなのか?」
経久の声に高信が頷いた。
「我らの腐った性根を叩き負ったものにござります」
高信は政久が無くなった時のことを話した。
「ふんっ」
経久は鼻を鳴らしただけで何も言わず、視線をまた政久の亡骸に戻した。
九月とは言えさすがに三日も経つと腹部に膨れが見える。
愛しい息子をこのまま腐らせるわけにはいかないと経久は思った。
「処理は済んだのか?」
「はい。残しているのは桜井と大山だけのござります」
それを証明するように、夜風が血の匂いを運んできた。
「明日の朝、政久を荼毘にふす。奴らは屋敷に放り込んで政久を弔った火で燃やせ。桜井と大山は生きたままその火の中に磔にせよ」
「はっ」
予想できていたこととはいえ、経久の決定は苛烈なものだった。
国久の差配で着々と準備が進む。
戦に従っていた領主たちは、机上の準備を命じつつ、残して逝くことになる家族や家臣に手紙を書いた。
小さな灯りの下でじっと巻紙を睨んでいる小松伊十郎に木村喜平が声を掛けた。
「小松様、ご当主様がお呼びでございます」
「そうか」
小松はずっとどこで間違ったのかを考え続けていた。
政久の行動は戦場における武将としては正しいとは言えない。
しかし、あの戦況の中での行動だったと考えれば責められるものでもないのだ。
「やはり敵の出方を待ったのが間違いか」
できるだけ犠牲を出したくないという政久の考えに賛同したのは小松も同じだ。
敵と味方に分かれたとはいえ、それぞれに親も子もいるのである。
欲に目がくらんで裏切った一人の男のせいで、あたら命を散らすのを良しとしなかった政久の言動は、心から同意できりものだった。
「そういえば俺は刀を待たぬが良いのか?」
「ええ、そのままでお越しくださいとのことです」
「そうか。まあもしもの時なのであればお前がその小刀を貸してくれ」
木村がグッと歯を食いしばったのが闇夜の中でもわかった。
「そんなことにはなりませんよ」
小松はそれに返事をせず、小物が松明で照らす足元を見た。
「そういえば佐次郎の様子はどうじゃ」
「あの者は動くのもままならぬのに、権左とかいう者の亡骸まで這っていったそうですよ。自分が悪かったのだと声をあげて泣いていたと聞きました。流星は佐次郎の側にいます」
「傷の具合は?」
「顔の半分は爛れて腐ったように潰れています。どうやら目を切られたようで、涙を出す管が壊れてしまったのか、ずっと見えない目から涙を流しているそうです」
「泣き鬼か……俺は右京に何と詫びれば良いのだろうか」
その言葉に木村は返事ができなかった。
経久が待つ陣幕に入ると、安藤宇九衛門と牛尾高信もいた。
「来たか。木村助右ヱ門も呼びに行かせておるでのぉ。暫し待て」
木村は腿に受けた傷が元で高熱を出していると聞いている。
小松はあの状態で落馬もせず後退しながらも指揮をとり続けた木村を思った。
「連れてきました」
国久の声だ。
その後ろには兵に両脇から抱えられながらも片足を引きずりながら歩く助右ヱ門の姿があった。
「木村殿……」
小松の声に頷くだけで返事をした木村助右ヱ門が、経久の前に崩れるように座った。
「ご当主様……此度は……」
木村の声を無視した経久が口を開いた。
「失態の戦犯はだれか? それを聞かせてもらいたい」
経久の声に四人は背筋を伸ばした。
経久の声に高信が頷いた。
「我らの腐った性根を叩き負ったものにござります」
高信は政久が無くなった時のことを話した。
「ふんっ」
経久は鼻を鳴らしただけで何も言わず、視線をまた政久の亡骸に戻した。
九月とは言えさすがに三日も経つと腹部に膨れが見える。
愛しい息子をこのまま腐らせるわけにはいかないと経久は思った。
「処理は済んだのか?」
「はい。残しているのは桜井と大山だけのござります」
それを証明するように、夜風が血の匂いを運んできた。
「明日の朝、政久を荼毘にふす。奴らは屋敷に放り込んで政久を弔った火で燃やせ。桜井と大山は生きたままその火の中に磔にせよ」
「はっ」
予想できていたこととはいえ、経久の決定は苛烈なものだった。
国久の差配で着々と準備が進む。
戦に従っていた領主たちは、机上の準備を命じつつ、残して逝くことになる家族や家臣に手紙を書いた。
小さな灯りの下でじっと巻紙を睨んでいる小松伊十郎に木村喜平が声を掛けた。
「小松様、ご当主様がお呼びでございます」
「そうか」
小松はずっとどこで間違ったのかを考え続けていた。
政久の行動は戦場における武将としては正しいとは言えない。
しかし、あの戦況の中での行動だったと考えれば責められるものでもないのだ。
「やはり敵の出方を待ったのが間違いか」
できるだけ犠牲を出したくないという政久の考えに賛同したのは小松も同じだ。
敵と味方に分かれたとはいえ、それぞれに親も子もいるのである。
欲に目がくらんで裏切った一人の男のせいで、あたら命を散らすのを良しとしなかった政久の言動は、心から同意できりものだった。
「そういえば俺は刀を待たぬが良いのか?」
「ええ、そのままでお越しくださいとのことです」
「そうか。まあもしもの時なのであればお前がその小刀を貸してくれ」
木村がグッと歯を食いしばったのが闇夜の中でもわかった。
「そんなことにはなりませんよ」
小松はそれに返事をせず、小物が松明で照らす足元を見た。
「そういえば佐次郎の様子はどうじゃ」
「あの者は動くのもままならぬのに、権左とかいう者の亡骸まで這っていったそうですよ。自分が悪かったのだと声をあげて泣いていたと聞きました。流星は佐次郎の側にいます」
「傷の具合は?」
「顔の半分は爛れて腐ったように潰れています。どうやら目を切られたようで、涙を出す管が壊れてしまったのか、ずっと見えない目から涙を流しているそうです」
「泣き鬼か……俺は右京に何と詫びれば良いのだろうか」
その言葉に木村は返事ができなかった。
経久が待つ陣幕に入ると、安藤宇九衛門と牛尾高信もいた。
「来たか。木村助右ヱ門も呼びに行かせておるでのぉ。暫し待て」
木村は腿に受けた傷が元で高熱を出していると聞いている。
小松はあの状態で落馬もせず後退しながらも指揮をとり続けた木村を思った。
「連れてきました」
国久の声だ。
その後ろには兵に両脇から抱えられながらも片足を引きずりながら歩く助右ヱ門の姿があった。
「木村殿……」
小松の声に頷くだけで返事をした木村助右ヱ門が、経久の前に崩れるように座った。
「ご当主様……此度は……」
木村の声を無視した経久が口を開いた。
「失態の戦犯はだれか? それを聞かせてもらいたい」
経久の声に四人は背筋を伸ばした。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる