泣き鬼の花嫁

志波 連

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24 戦犯

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「牛尾殿はその者をご存じなのか?」

 経久の声に高信が頷いた。

「我らの腐った性根を叩き負ったものにござります」

 高信は政久が無くなった時のことを話した。

「ふんっ」

 経久は鼻を鳴らしただけで何も言わず、視線をまた政久の亡骸に戻した。
 九月とは言えさすがに三日も経つと腹部に膨れが見える。
 愛しい息子をこのまま腐らせるわけにはいかないと経久は思った。

「処理は済んだのか?」

「はい。残しているのは桜井と大山だけのござります」

 それを証明するように、夜風が血の匂いを運んできた。

「明日の朝、政久を荼毘にふす。奴らは屋敷に放り込んで政久を弔った火で燃やせ。桜井と大山は生きたままその火の中に磔にせよ」

「はっ」

 予想できていたこととはいえ、経久の決定は苛烈なものだった。
 国久の差配で着々と準備が進む。
 戦に従っていた領主たちは、机上の準備を命じつつ、残して逝くことになる家族や家臣に手紙を書いた。
 小さな灯りの下でじっと巻紙を睨んでいる小松伊十郎に木村喜平が声を掛けた。

「小松様、ご当主様がお呼びでございます」

「そうか」

 小松はずっとどこで間違ったのかを考え続けていた。
 政久の行動は戦場における武将としては正しいとは言えない。
 しかし、あの戦況の中での行動だったと考えれば責められるものでもないのだ。

「やはり敵の出方を待ったのが間違いか」

 できるだけ犠牲を出したくないという政久の考えに賛同したのは小松も同じだ。
 敵と味方に分かれたとはいえ、それぞれに親も子もいるのである。
 欲に目がくらんで裏切った一人の男のせいで、あたら命を散らすのを良しとしなかった政久の言動は、心から同意できりものだった。

「そういえば俺は刀を待たぬが良いのか?」

「ええ、そのままでお越しくださいとのことです」

「そうか。まあもしもの時なのであればお前がその小刀を貸してくれ」

 木村がグッと歯を食いしばったのが闇夜の中でもわかった。

「そんなことにはなりませんよ」

 小松はそれに返事をせず、小物が松明で照らす足元を見た。

「そういえば佐次郎の様子はどうじゃ」

「あの者は動くのもままならぬのに、権左とかいう者の亡骸まで這っていったそうですよ。自分が悪かったのだと声をあげて泣いていたと聞きました。流星は佐次郎の側にいます」

「傷の具合は?」

「顔の半分は爛れて腐ったように潰れています。どうやら目を切られたようで、涙を出す管が壊れてしまったのか、ずっと見えない目から涙を流しているそうです」

「泣き鬼か……俺は右京に何と詫びれば良いのだろうか」

 その言葉に木村は返事ができなかった。
 経久が待つ陣幕に入ると、安藤宇九衛門と牛尾高信もいた。

「来たか。木村助右ヱ門も呼びに行かせておるでのぉ。暫し待て」

 木村は腿に受けた傷が元で高熱を出していると聞いている。
 小松はあの状態で落馬もせず後退しながらも指揮をとり続けた木村を思った。

「連れてきました」

 国久の声だ。
 その後ろには兵に両脇から抱えられながらも片足を引きずりながら歩く助右ヱ門の姿があった。

「木村殿……」

 小松の声に頷くだけで返事をした木村助右ヱ門が、経久の前に崩れるように座った。

「ご当主様……此度は……」

 木村の声を無視した経久が口を開いた。

「失態の戦犯はだれか? それを聞かせてもらいたい」

 経久の声に四人は背筋を伸ばした。
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