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63 千手観音
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「よねこはいくつになる?」
「年が明けたら七つですわい」
「七つ……」
杣人衆と伊十郎が顔を見合わせた。
「どういう意味なんかのぉ」
「ようわからんけんど、この子は年が明けたら神通力が失せるんかもしれんですのぉ」
「なるほどな」
「それと千手観音様を表す文字が気になりますのぉ」
伊十郎が頷きながら言う。
「千手観音といえば、千の腕を持ち、その全てに目があると言われとる仏様じゃ。全てを見渡し慈悲の心で救いの手を……」
伊十郎は最後まで言わずよねこの側に座った。
「よねこ、大丈夫か? 喉は乾いておらんか?」
うっすらと目を開けたよねこがこくんと頷いた。
よねこの叔父である男が、竹筒を取り出した。
「さっき汲んできた水じゃけぇ。自分で飲めるか?」
差し出された竹筒から、器用に水を飲むよねこ。
半分ほど飲んだその竹筒を佐次郎の方へ差し出した。
びっしりと汗をかいた顔を顰めて痛みに耐えている佐次郎は、それに気づかない。
よねこが体を捩って、その水を佐次郎の顔に掛けた。
「ああ……よねこ。ありがとうなぁ、危うく三途の川を渡ろうとしとったわい。水はまだあるか?」
空になった竹筒を叔父の方へ差し出すよねこ。
「ああ、わかった。すぐに汲んでくるけぇ。もうちっと待っとってください」
「すまんのぉ」
佐次郎が肩で息をしながら言った。
「とんでも無いですけぇ。すぐ戻りますけぇね」
駆け出した男を追って吉松と時蔵も走り出た。
一緒に水を汲むつもりなのだろう。
急に静かになった小屋の入口に、ちんまりと座っている老婆が独り言のように呟き始めた。
「梅は生まれた時から神様に捧げられると決まっとった娘です。わしが泣こうが叫ぼうが、決まっとるものはどうしようもないのですよ。あの子は小さい頃から不思議な子じゃったです」
誰も声を出さず老婆の話しに聞き入っている。
「急に森に入ったか思うたら、怪我した大きな蛇を引き摺って戻ってきてのぉ。その蛇はしばらくうちの屋根裏に棲みついとったですよ。夜中に何やら話し声がすると思うたら、その蛇と梅が話しよったこともあります」
その時のことを思い出したのか、老婆がへにょりと笑った。
「話しよる言うてもね、意味のない言葉じゃけ聞き取ることもできんかったです。そのうち蛇はおらんようになってねぇ。大きな抜け皮が残っとりました。その皮を梅が怪我人の傷に貼ったのですよ。そしたらみるみる治ってねぇ。もうだめじゃろうと言われとったのに助かったんですよぉ」
「怪我が治る?」
「へぇ、煙草で血を止めてそれを貼るんですよ。ありゃあ持ってくるんですけんど、生憎もう残っとりません」
一瞬浮かんだ希望が霧のように消える。
「そうか……もう無いんか」
伊十郎が傍目にわかるほどがっくりと肩を落とした。
丁度目を覚ましたよねこが伊十郎の着物の裾を引いて何かを伝えようとしている。
「どうした? 腹でも減ったか?」
首を振るよねこ。
「喉が渇いたんか?」
よねこが引いていた着物から手を離し、佐次郎の頬に触れた。
伊十郎はしゃがんでよねこが触れている佐次郎の顔を見る。
まだ痛むのか、顔中にびっしりと汗をかいたまま目をギュッととじている佐次郎。
「佐次郎? 痛そうじゃのぉ……どうしたらええんじゃ」
松吉が手拭いで佐次郎の汗を拭ってやった。
その後ろから流星がぬっと首を差し込み、伊十郎の着物を嚙んで引っ張る。
「なんじゃ? 今度は流星か? 何を言いたいんかのぉ」
喋れないよねこと馬の流星が何かを必死で伊十郎に伝えようとしている。
「年が明けたら七つですわい」
「七つ……」
杣人衆と伊十郎が顔を見合わせた。
「どういう意味なんかのぉ」
「ようわからんけんど、この子は年が明けたら神通力が失せるんかもしれんですのぉ」
「なるほどな」
「それと千手観音様を表す文字が気になりますのぉ」
伊十郎が頷きながら言う。
「千手観音といえば、千の腕を持ち、その全てに目があると言われとる仏様じゃ。全てを見渡し慈悲の心で救いの手を……」
伊十郎は最後まで言わずよねこの側に座った。
「よねこ、大丈夫か? 喉は乾いておらんか?」
うっすらと目を開けたよねこがこくんと頷いた。
よねこの叔父である男が、竹筒を取り出した。
「さっき汲んできた水じゃけぇ。自分で飲めるか?」
差し出された竹筒から、器用に水を飲むよねこ。
半分ほど飲んだその竹筒を佐次郎の方へ差し出した。
びっしりと汗をかいた顔を顰めて痛みに耐えている佐次郎は、それに気づかない。
よねこが体を捩って、その水を佐次郎の顔に掛けた。
「ああ……よねこ。ありがとうなぁ、危うく三途の川を渡ろうとしとったわい。水はまだあるか?」
空になった竹筒を叔父の方へ差し出すよねこ。
「ああ、わかった。すぐに汲んでくるけぇ。もうちっと待っとってください」
「すまんのぉ」
佐次郎が肩で息をしながら言った。
「とんでも無いですけぇ。すぐ戻りますけぇね」
駆け出した男を追って吉松と時蔵も走り出た。
一緒に水を汲むつもりなのだろう。
急に静かになった小屋の入口に、ちんまりと座っている老婆が独り言のように呟き始めた。
「梅は生まれた時から神様に捧げられると決まっとった娘です。わしが泣こうが叫ぼうが、決まっとるものはどうしようもないのですよ。あの子は小さい頃から不思議な子じゃったです」
誰も声を出さず老婆の話しに聞き入っている。
「急に森に入ったか思うたら、怪我した大きな蛇を引き摺って戻ってきてのぉ。その蛇はしばらくうちの屋根裏に棲みついとったですよ。夜中に何やら話し声がすると思うたら、その蛇と梅が話しよったこともあります」
その時のことを思い出したのか、老婆がへにょりと笑った。
「話しよる言うてもね、意味のない言葉じゃけ聞き取ることもできんかったです。そのうち蛇はおらんようになってねぇ。大きな抜け皮が残っとりました。その皮を梅が怪我人の傷に貼ったのですよ。そしたらみるみる治ってねぇ。もうだめじゃろうと言われとったのに助かったんですよぉ」
「怪我が治る?」
「へぇ、煙草で血を止めてそれを貼るんですよ。ありゃあ持ってくるんですけんど、生憎もう残っとりません」
一瞬浮かんだ希望が霧のように消える。
「そうか……もう無いんか」
伊十郎が傍目にわかるほどがっくりと肩を落とした。
丁度目を覚ましたよねこが伊十郎の着物の裾を引いて何かを伝えようとしている。
「どうした? 腹でも減ったか?」
首を振るよねこ。
「喉が渇いたんか?」
よねこが引いていた着物から手を離し、佐次郎の頬に触れた。
伊十郎はしゃがんでよねこが触れている佐次郎の顔を見る。
まだ痛むのか、顔中にびっしりと汗をかいたまま目をギュッととじている佐次郎。
「佐次郎? 痛そうじゃのぉ……どうしたらええんじゃ」
松吉が手拭いで佐次郎の汗を拭ってやった。
その後ろから流星がぬっと首を差し込み、伊十郎の着物を嚙んで引っ張る。
「なんじゃ? 今度は流星か? 何を言いたいんかのぉ」
喋れないよねこと馬の流星が何かを必死で伊十郎に伝えようとしている。
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