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16 商店街の人たち
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戸惑っている間に、肉屋の親父も顔を出した。
「これ、オマケだよ。今後とも御贔屓に」
吊るされていたベーコンがソーセージと一緒に包まれている。
二人にお礼を言うが、二人とも逆に申し訳なさそうにしている。
これもトマスのお陰なのだろう……そう思ったティアナは、トマスを探して謝ろうと心に決めた。
食材をパントリーに収納していると、ルイザの声がした。
急いで店に出るティアナ。
「連れてきたよ。口は悪いけど腕はいいからさ。何でも希望を言えばいいさ。後の値段交渉は私に任せておきな!」
ルイザが笑って言う。
ルイザの横で苦笑いしているのが家具職人だろう。
「初めまして、私はこのお姐さんの幼馴染で、家具職人をしているケントといいます」
「初めまして。ルイザさんには初日からとてもお世話になっています。ティアナです。今日はお忙しいのにお時間をいただき、感謝しています」
ルイザとケントが顔を見合わせた。
「ティアナちゃん? あんたそんな言葉どこで覚えたのさ。まるで貴族の子供みたいだ」
貴族までなら良かったが、最後に子供とついた時点でがっくりと肩を落とすティアナ。
「子供……そう、ちょっと貴族の子供と関わっていたことがあって。少しだけ気取ってみました。似合いませんか?」
「うん、変だった」
「ごめんなさい」
三人でひとしきり笑った後、ケントとの打ち合わせが始まった。
ルイザは店が忙しくなったので、一足先に帰っている。
ケントが気を遣って言った。
「こんな素敵なお嬢さんと二人きりは拙いよね。出直そうか?」
「いえ、大丈夫ですよ。私は独り暮らしだし、これからも一人で生きていくのですから」
「そう? ではせめてドアを開けておこう。僕は良いけれど、君に変な噂が立っては申し訳ないからね」
「お気遣いありがとうございます」
ケントが立ち上がり、店のドアと窓を解放した。
ドアは風で閉まらないように、椅子で押さえる徹底ぶりだ。
「どんな家具を考えているのか教えてくれる?」
ティアナは先日行ったレストランの名を出しながら、その座り心地や大きさなどを説明した。
「ああ、あそこならわかるよ。僕の師匠が作ったんだ。全部同じにはできないけれど、色や装飾とか変えれば文句は言われないから。すぐにでもかかれるよ?」
そう言うと店の中を歩き回って、テーブルの配置などを考え始めるケント。
この街は良い人しかいないとティアナは思った。
「この広さで、しかも一人でやるとなると……メニューにもよるけれど、それほどたくさんの客席数はお勧めしないな。精一杯頑張っても二人掛けで5セットが上限かな」
「そんなものですか」
「だってさ、注文を聞いて、作って運ぶのを全部一人でしないといけないんだぜ? お会計もあるし、帰ったらテーブルを片づけないといけない。この広さは厨房とホールで二人から三人が理想だよ?」
「一人でやりたいので客席数を減らす方向で考えます」
「うん、あそこの窓辺に1セット、あの壁側に2セット並べて、ホールの真ん中には大テーブルをおいたらどうかな。もっといい感じになるし、小物とかジャムとかドレッシングなんかも置けば売れるよ。クッキーとかも良いんじゃない?」
「あっ、それ良いですね」
「それから、今あるテーブルセットだけど、かなり良いものだ。これなら高値で売れると思う。売り先も当てがあるから任せてくれるなら話をつけるよ?」
「お願いできますか?」
「うん、もちろん。でもね、ティアナちゃん。君は少し人を信用し過ぎるね。僕が悪い人だったらどうするの? まあ、僕の場合ルイザが入っているから絶対に悪いようにはしないけどさ。一人で生きていくなら尚更だ。まずは疑って、他の視点でも調べるようにしないとね」
「ありがとうございます。私って世間知らずで……お恥ずかしいです」
「そこも可愛いけどね」
ケントがパチンとウィンクをした。
ティアナは照れながら笑顔を浮かべたが、トマスにされたときのような胸の高ぶりは感じない。
同じ位の男性なのに何が違うのだろう……
「じゃあ数日うちに見積もりを持ってくるよ」
「見積り?」
「うん、見積書。椅子が一ついくらで、テーブルがいくらですよっていう書類」
「はい、わかりました。お待ちしています」
不思議そうな顔で帰っていくケントを見送りながら、あまりの常識の無さに溜息しか出ない。
誰に相談するわけにもいかず、ふとトマスの顔を思い浮かべた。
「だめだめ! トマスさんには奥さんがいるのよ! 絶対にダメ!」
「僕の何がダメだって?」
開け放していたドアから顔だけを覗かせて、トマスが手を振った。
「トマスさん!」
「驚いた? わざとだけど」
「どうしたんですか?」
ティアナは今にも心臓が飛び出しそうだ。
「ティアナちゃんが慌てて帰っていくから気になっちゃって。何か急用だった? それともシェリーのいう通り僕が何かしちゃったかな」
シェリーの名前を口にするトマスから視線を外した。
首を傾げながら近づいてくるトマス。
「トマスさんはシェリーさんと仲良しなんですね」
「ん~ そう見える?」
「ええ、そう見えました」
「なるほど。それは良かった。仲が悪く見えていたら大変だ。パンの売り上げにも影響が出ちゃうよ」
ティアナは無理やり笑うしかなかった。
「これ、オマケだよ。今後とも御贔屓に」
吊るされていたベーコンがソーセージと一緒に包まれている。
二人にお礼を言うが、二人とも逆に申し訳なさそうにしている。
これもトマスのお陰なのだろう……そう思ったティアナは、トマスを探して謝ろうと心に決めた。
食材をパントリーに収納していると、ルイザの声がした。
急いで店に出るティアナ。
「連れてきたよ。口は悪いけど腕はいいからさ。何でも希望を言えばいいさ。後の値段交渉は私に任せておきな!」
ルイザが笑って言う。
ルイザの横で苦笑いしているのが家具職人だろう。
「初めまして、私はこのお姐さんの幼馴染で、家具職人をしているケントといいます」
「初めまして。ルイザさんには初日からとてもお世話になっています。ティアナです。今日はお忙しいのにお時間をいただき、感謝しています」
ルイザとケントが顔を見合わせた。
「ティアナちゃん? あんたそんな言葉どこで覚えたのさ。まるで貴族の子供みたいだ」
貴族までなら良かったが、最後に子供とついた時点でがっくりと肩を落とすティアナ。
「子供……そう、ちょっと貴族の子供と関わっていたことがあって。少しだけ気取ってみました。似合いませんか?」
「うん、変だった」
「ごめんなさい」
三人でひとしきり笑った後、ケントとの打ち合わせが始まった。
ルイザは店が忙しくなったので、一足先に帰っている。
ケントが気を遣って言った。
「こんな素敵なお嬢さんと二人きりは拙いよね。出直そうか?」
「いえ、大丈夫ですよ。私は独り暮らしだし、これからも一人で生きていくのですから」
「そう? ではせめてドアを開けておこう。僕は良いけれど、君に変な噂が立っては申し訳ないからね」
「お気遣いありがとうございます」
ケントが立ち上がり、店のドアと窓を解放した。
ドアは風で閉まらないように、椅子で押さえる徹底ぶりだ。
「どんな家具を考えているのか教えてくれる?」
ティアナは先日行ったレストランの名を出しながら、その座り心地や大きさなどを説明した。
「ああ、あそこならわかるよ。僕の師匠が作ったんだ。全部同じにはできないけれど、色や装飾とか変えれば文句は言われないから。すぐにでもかかれるよ?」
そう言うと店の中を歩き回って、テーブルの配置などを考え始めるケント。
この街は良い人しかいないとティアナは思った。
「この広さで、しかも一人でやるとなると……メニューにもよるけれど、それほどたくさんの客席数はお勧めしないな。精一杯頑張っても二人掛けで5セットが上限かな」
「そんなものですか」
「だってさ、注文を聞いて、作って運ぶのを全部一人でしないといけないんだぜ? お会計もあるし、帰ったらテーブルを片づけないといけない。この広さは厨房とホールで二人から三人が理想だよ?」
「一人でやりたいので客席数を減らす方向で考えます」
「うん、あそこの窓辺に1セット、あの壁側に2セット並べて、ホールの真ん中には大テーブルをおいたらどうかな。もっといい感じになるし、小物とかジャムとかドレッシングなんかも置けば売れるよ。クッキーとかも良いんじゃない?」
「あっ、それ良いですね」
「それから、今あるテーブルセットだけど、かなり良いものだ。これなら高値で売れると思う。売り先も当てがあるから任せてくれるなら話をつけるよ?」
「お願いできますか?」
「うん、もちろん。でもね、ティアナちゃん。君は少し人を信用し過ぎるね。僕が悪い人だったらどうするの? まあ、僕の場合ルイザが入っているから絶対に悪いようにはしないけどさ。一人で生きていくなら尚更だ。まずは疑って、他の視点でも調べるようにしないとね」
「ありがとうございます。私って世間知らずで……お恥ずかしいです」
「そこも可愛いけどね」
ケントがパチンとウィンクをした。
ティアナは照れながら笑顔を浮かべたが、トマスにされたときのような胸の高ぶりは感じない。
同じ位の男性なのに何が違うのだろう……
「じゃあ数日うちに見積もりを持ってくるよ」
「見積り?」
「うん、見積書。椅子が一ついくらで、テーブルがいくらですよっていう書類」
「はい、わかりました。お待ちしています」
不思議そうな顔で帰っていくケントを見送りながら、あまりの常識の無さに溜息しか出ない。
誰に相談するわけにもいかず、ふとトマスの顔を思い浮かべた。
「だめだめ! トマスさんには奥さんがいるのよ! 絶対にダメ!」
「僕の何がダメだって?」
開け放していたドアから顔だけを覗かせて、トマスが手を振った。
「トマスさん!」
「驚いた? わざとだけど」
「どうしたんですか?」
ティアナは今にも心臓が飛び出しそうだ。
「ティアナちゃんが慌てて帰っていくから気になっちゃって。何か急用だった? それともシェリーのいう通り僕が何かしちゃったかな」
シェリーの名前を口にするトマスから視線を外した。
首を傾げながら近づいてくるトマス。
「トマスさんはシェリーさんと仲良しなんですね」
「ん~ そう見える?」
「ええ、そう見えました」
「なるほど。それは良かった。仲が悪く見えていたら大変だ。パンの売り上げにも影響が出ちゃうよ」
ティアナは無理やり笑うしかなかった。
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