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31 真実を知りたい
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約束通りランチタイムが終わった頃、ウィスとトマスがやってきた。
今日のメニューはビーフミートパイとクルミパンの野菜サンドだ。
焼きたての香ばしい匂いが食欲をそそる。
「クルミパンだったからミンスミートパイにはしなかったの」
ティアナが恥ずかしそうな顔で誰にともなく言った。
ウィスが不思議そうな顔をする。
「ん? 誰がミンスミートパイが好きなんだ?」
トマスが満面の笑みで答えた。
「僕だよ。クリスマスじゃなくても食べたいくらい好きなんだ」
「あの甘いのが? トマスって変わってるなぁ」
「そうかな。あれは母が良く作ってくれたんだ。うちは片親で貧乏だったからほとんど肉は入ってなくて、僕とシェリーとサムで山に行って拾って来た木の実で作ってくれたんだよ」
「へぇ、そりゃなんだか旨そうだな」
「シェリーは僕の母からパン作りを習ったんだ。シェリーのお母さんは体が弱かったから」
ララがチラッとティアナを見て口を開いた。
「シェリーはわかるけどサムって誰?」
トマスがにっこりと笑った。
「同じ幼馴染だよ。僕らは三人とも片親でね、父親はみんな戦争で亡くなったから自然と一緒にいることが多かった。サムが僕よりひとつ下で、シェリーはそのもう一つ下さ。二人とも子分みたいなもんだったね」
ウィスがララの顔を見てから続けた。
「サムってのはこの街にはいないのかい? 会ったことが無いような気がする」
トマスは困った顔をした。
「うん、サムは王都の中心部に住んでるよ。すごく良い奴なんだけど事情があって……」
「事情って何? もし困ってるならできることがあるかもしれないわ」
「え?」
トマスがミートパイを手に持ったまま目をまるくした。
「私って実は凄いのよ。貴族にも顔が利くしね。それで? 事情って何?」
「それは僕の口からは言えないよ。ちょっと混みいってるんだ。でもシェリーと僕がサムに助けられたというのだけは言える」
「気になるわね……私の親友の将来もかかってるから。今日の夜とかシェリーさんと来れない? できればそのサムさんって人も来てほしいんだけど」
「今夜? それは構わないけど。後でシェリーに聞いておくよ。でも多分サムは無理かな」
「そう、だったら二人で来て。何が食べたい? ティアナが作るから何でも言って」
「そうだなぁ……久しぶりにエビのマヨネーズ焼きなんていいな」
「オッケー、じゃあ約束ね」
ララはどんどん話を進めていく。
ティアナはエビのマヨネーズ焼きのレシピを記憶の中から探した。
大きなミートパイを三個も平らげたうえに、野菜サンドも残さず食べたトマスに、お母さんの夕食だと言ってミートパイを持たせるララ。
礼を言って出て行くトマスを見送りながら、ウィスが口を開く。
「どうしたのララ、いやに強引だったね。君らしくない」
ララは何も言わず肩を竦めて見せた。
そしてその夜。
「いらっしゃい、待ってたわ。お顔を見るのは久しぶりですね、シェリーさん」
ララがきっちり場を仕切っている。
ティアナはおろおろとしながらも調理の手は止めず、大ぶりなエビをマヨネーズソースに浸しながら丁寧に焼いていた。
エビの頭と殻で作った甘めのソースも準備している。
「お招きありがとう。これはお土産よ」
シェリーが差し出したのは、シェリーの店でも評判の林檎パンだ。
芯をくり抜いた林檎の中に砂糖をたっぷり詰めて、バターでふたをしたものをパン生地で包んで焼いてある。
「うれしい! これ大好きなのにいつも売り切れてるんだもん」
「手が込んでるから大量には作れないのよ。言ってくれたらお取り置きするから」
「うん、今度からそうするね」
ララとシェリーが盛り上がっている間に、ウィスとトマスによって料理が運ばれてくる。
ティアナがとっておきのワインを出すと、トマスがすかさず栓を抜いた。
中央の大テーブルを五人で囲み、レモンの風味が食欲をそそるエビのマヨネーズ焼きが乗った皿が置かれた。
「乾杯!」
五人がグラスを合わせると、ウィスが口火を切った。
「実は報告があるんだ」
ララの顔をちらっと見たウィスが続ける。
ティアナは各自の皿にエビを取り分けるのに忙しい。
「僕とララは結婚します!」
トマスとシェリーは驚きながらも手を叩き、口々におめでとうと連呼する。
照れた笑顔で礼を言うウィスは本当に幸せそうだった。
「その前に店を移転することになったんだ。ここの斜め前の雑貨屋が閉めるのは知ってるだろう? あそこを買うことにした」
トマスが驚いた顔をする。
「買うって……よくそんな金があったなぁ。花屋ってそんなに儲かるのか?」
ウィスが肩を竦めた。
「いや、僕じゃなくてララが買うんだよ。それで僕に貸してもらうことになってるんだ。もちろん家賃は払うよ?」
シェリーが聞く。
「今の店は賃貸なの?」
「いや、あそこは僕名義だよ。そこは売らずに貸すことになったんだ。その家賃をそのままララに払う」
「それなら実質ウィスの出費は無いってことね? そりゃ良い話だわ。今度は何屋さんになるのかしら」
ウィスに代わってララが答えた。
「1階の店舗部分は未定なのだけれど、二階の住居部分はキースさんに貸すことになったのよ。実家が遠いらしくて通勤が大変だから、寮に入るのだけれど、息抜きの別宅が欲しいんですって」
シェリーが感嘆の声を出す。
「さすがパラディンね。高給取りだわ」
トマスが不機嫌そうな声を出した。
今日のメニューはビーフミートパイとクルミパンの野菜サンドだ。
焼きたての香ばしい匂いが食欲をそそる。
「クルミパンだったからミンスミートパイにはしなかったの」
ティアナが恥ずかしそうな顔で誰にともなく言った。
ウィスが不思議そうな顔をする。
「ん? 誰がミンスミートパイが好きなんだ?」
トマスが満面の笑みで答えた。
「僕だよ。クリスマスじゃなくても食べたいくらい好きなんだ」
「あの甘いのが? トマスって変わってるなぁ」
「そうかな。あれは母が良く作ってくれたんだ。うちは片親で貧乏だったからほとんど肉は入ってなくて、僕とシェリーとサムで山に行って拾って来た木の実で作ってくれたんだよ」
「へぇ、そりゃなんだか旨そうだな」
「シェリーは僕の母からパン作りを習ったんだ。シェリーのお母さんは体が弱かったから」
ララがチラッとティアナを見て口を開いた。
「シェリーはわかるけどサムって誰?」
トマスがにっこりと笑った。
「同じ幼馴染だよ。僕らは三人とも片親でね、父親はみんな戦争で亡くなったから自然と一緒にいることが多かった。サムが僕よりひとつ下で、シェリーはそのもう一つ下さ。二人とも子分みたいなもんだったね」
ウィスがララの顔を見てから続けた。
「サムってのはこの街にはいないのかい? 会ったことが無いような気がする」
トマスは困った顔をした。
「うん、サムは王都の中心部に住んでるよ。すごく良い奴なんだけど事情があって……」
「事情って何? もし困ってるならできることがあるかもしれないわ」
「え?」
トマスがミートパイを手に持ったまま目をまるくした。
「私って実は凄いのよ。貴族にも顔が利くしね。それで? 事情って何?」
「それは僕の口からは言えないよ。ちょっと混みいってるんだ。でもシェリーと僕がサムに助けられたというのだけは言える」
「気になるわね……私の親友の将来もかかってるから。今日の夜とかシェリーさんと来れない? できればそのサムさんって人も来てほしいんだけど」
「今夜? それは構わないけど。後でシェリーに聞いておくよ。でも多分サムは無理かな」
「そう、だったら二人で来て。何が食べたい? ティアナが作るから何でも言って」
「そうだなぁ……久しぶりにエビのマヨネーズ焼きなんていいな」
「オッケー、じゃあ約束ね」
ララはどんどん話を進めていく。
ティアナはエビのマヨネーズ焼きのレシピを記憶の中から探した。
大きなミートパイを三個も平らげたうえに、野菜サンドも残さず食べたトマスに、お母さんの夕食だと言ってミートパイを持たせるララ。
礼を言って出て行くトマスを見送りながら、ウィスが口を開く。
「どうしたのララ、いやに強引だったね。君らしくない」
ララは何も言わず肩を竦めて見せた。
そしてその夜。
「いらっしゃい、待ってたわ。お顔を見るのは久しぶりですね、シェリーさん」
ララがきっちり場を仕切っている。
ティアナはおろおろとしながらも調理の手は止めず、大ぶりなエビをマヨネーズソースに浸しながら丁寧に焼いていた。
エビの頭と殻で作った甘めのソースも準備している。
「お招きありがとう。これはお土産よ」
シェリーが差し出したのは、シェリーの店でも評判の林檎パンだ。
芯をくり抜いた林檎の中に砂糖をたっぷり詰めて、バターでふたをしたものをパン生地で包んで焼いてある。
「うれしい! これ大好きなのにいつも売り切れてるんだもん」
「手が込んでるから大量には作れないのよ。言ってくれたらお取り置きするから」
「うん、今度からそうするね」
ララとシェリーが盛り上がっている間に、ウィスとトマスによって料理が運ばれてくる。
ティアナがとっておきのワインを出すと、トマスがすかさず栓を抜いた。
中央の大テーブルを五人で囲み、レモンの風味が食欲をそそるエビのマヨネーズ焼きが乗った皿が置かれた。
「乾杯!」
五人がグラスを合わせると、ウィスが口火を切った。
「実は報告があるんだ」
ララの顔をちらっと見たウィスが続ける。
ティアナは各自の皿にエビを取り分けるのに忙しい。
「僕とララは結婚します!」
トマスとシェリーは驚きながらも手を叩き、口々におめでとうと連呼する。
照れた笑顔で礼を言うウィスは本当に幸せそうだった。
「その前に店を移転することになったんだ。ここの斜め前の雑貨屋が閉めるのは知ってるだろう? あそこを買うことにした」
トマスが驚いた顔をする。
「買うって……よくそんな金があったなぁ。花屋ってそんなに儲かるのか?」
ウィスが肩を竦めた。
「いや、僕じゃなくてララが買うんだよ。それで僕に貸してもらうことになってるんだ。もちろん家賃は払うよ?」
シェリーが聞く。
「今の店は賃貸なの?」
「いや、あそこは僕名義だよ。そこは売らずに貸すことになったんだ。その家賃をそのままララに払う」
「それなら実質ウィスの出費は無いってことね? そりゃ良い話だわ。今度は何屋さんになるのかしら」
ウィスに代わってララが答えた。
「1階の店舗部分は未定なのだけれど、二階の住居部分はキースさんに貸すことになったのよ。実家が遠いらしくて通勤が大変だから、寮に入るのだけれど、息抜きの別宅が欲しいんですって」
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