32 / 46
32 シェリーの告白
しおりを挟む
「そりゃ第二は容姿と実力が無いと入れない花形部署だし、王宮と教会の両方から給料が払われるから、別宅くらい簡単に借りれるだろうさ。しかも貴族だってんだから尚更だ」
シェリーがトマスの顔を驚いたように見た。
「何言ってんの。そんな第二から誘われたのに、蹴ったのは自分でしょう?」
ティアナが目を丸くした。
「え? トマスってキースと同じ第二に勧誘されるくらい優秀なの?」
苦笑いをするトマス。
「優秀かどうかは知らないけれど、確かに誘いは受けたよ。でも僕は平民だし出世の道は無いよ。それに第二に入ると遠征が多いんだ。僕はこの街が好きだからね、ここを守りたい」
ララが冷めた声を出す。
「シェリーさんと離れ難いって感じ?」
知ってるくせにわざと挑発的な発言をしたララ。
ティアナとウィスは顔を見合わせた。
「それは違うわ……違うって言うか、確かにトマスには守ってもらってる。でも理由が違うのよ……みんな好き勝手な噂をしていることは知ってるけれど、あなた達だけは、トマスを信じてやって。お願いだから」
ララがシェリーに言う。
「何か事情がありそうね。実は今日はそれを聞かせてもらいたくて招待したの。内容によっては助けることができるかもしれない」
シェリーが弾けるように顔を上げた。
「うん、わかった。全部話すね。でもそれは私が助けてほしいからじゃなくて、トマスを誤解して欲しくないからよ」
シェリーの空いたグラスにウィスがワインを注ぎ足した。
「トマスと私とサムの三人は、父親がいない子供で家も近所だったわ。幼馴染っていう関係ね。私たちは毎日教会に行って読み書きを教わったり、山に入って茸や木の実を拾うような毎日を送っていたの。トマスが一番お兄ちゃんで体も大きかったし力も強くて、私とサムはいつも守ってもらってた」
トマスらしいなとティアナは思った。
「私のお店があるでしょう?あそこは元々はサムの家があったの。私の家はその隣で、今は一階を作業場にして、二階にトマスが住んでるわ」
ここまではララの情報と一致していた。
「私たちが働く年になった頃、大通りの拡張工事が始まって、トマスの家は立ち退かなくてはいけなくなったの。トマスのお母さんは亡くなっていたから、トマスは立ち退きに応じたわ。自分は貴族の家で護衛騎士をやるから家はいらないんだって言って……立ち退き料を私に渡してパン屋をやれって言ってくれたのよ」
シェリーだけが話し、トマスはバツが悪そうに聞いていた。
「最初は固辞したのだけれど、自分は稼げるからって……いずれ返すつもりで借りることにしたのよ。それに私にパン焼きを仕込んでくれたのはトマスのお母さんだったから、少しは恩返しにもなるかなって思って」
シェリーがワイングラスを手に取り、のどを潤した。
「トマスがいなくなって、私とサムは寂しかったけれど頑張って働いたわ。サムは頭が良くて読み書きも計算も得意だったから、中心部の商会に就職できたの。隣同士だったし、サムも独りぼっちになっていたから、母と私の家で暮らしていたようなものね。自分の家には寝に帰るだけって感じだ。そのうち私たちは……」
ララが代わりに行った。
「恋人になったのね? どうしてすぐに結婚しなかったの?」
シェリーが悲しそうな顔をした。
「そうよ。私たちは恋人同士になったの。とても幸せだったわ。パン屋も順調で、サムの家の一階を作業場にして店を大きくして。二階の壁を抜いて二軒分の広さにすれば、子供ができても困らないねって……そんな話をして……とても幸せで……」
シェリーがぽろぽろと涙を溢す。
その後はトマスが続けた。
「僕は王宮を挟んで北側にある貴族の屋敷に雇われて、騎士寮に入っていたよ。シェリーもサムもよく手紙をくれたから、二人が付き合い始めたのも、結婚を考えているのも知っていた。結婚祝い代わりに改装費を手伝ってやろうなんて考えてさ。休みもあまりとらないで働いていたんだ。金を稼ごうと思ったから……でも、あの頃に頻繫に帰っていればこんな事にはならなかったんだ」
悔しそうな顔でトマスが拳を握った。
少し落ち着きを取り戻したシェリーが、再び口を開く。
「サムはお給料のほとんどを貯めていて、私もできるだけ節約して、もう少しで改装費が準備できそうだったのに……サムを見染めた商会のお嬢さんが……結婚しないならうちの店に材料が入らないように圧力をかけるって脅したのよ」
「酷い話だ」
ウィスが憤っている。
「サムは断って商会も辞めるって言ってくれた。でも、彼はお嬢さんの罠に嵌ってしまったのよ。サムが売上金を抜いて私に渡している証拠が見つかったから訴えるって。嫌なら店を手放して弁済しろって弁護士って人が来たの。銀行の人も一緒だったわ」
ララが聞く。
「それって王都銀行?」
シェリーが頷いたと同時に、ティアナとララがニヤッと笑った。
「サムは商会に軟禁されていて、相談もできなかった。トマスに会いに行ったけれど、遠征に出ていると言われて……とにかくサムを犯罪者にするわけにはいかないと思って、私はお店を手放す覚悟を決めたわ。でも……」
「既成事実でも作られちゃった?」
シェリーがトマスの顔を驚いたように見た。
「何言ってんの。そんな第二から誘われたのに、蹴ったのは自分でしょう?」
ティアナが目を丸くした。
「え? トマスってキースと同じ第二に勧誘されるくらい優秀なの?」
苦笑いをするトマス。
「優秀かどうかは知らないけれど、確かに誘いは受けたよ。でも僕は平民だし出世の道は無いよ。それに第二に入ると遠征が多いんだ。僕はこの街が好きだからね、ここを守りたい」
ララが冷めた声を出す。
「シェリーさんと離れ難いって感じ?」
知ってるくせにわざと挑発的な発言をしたララ。
ティアナとウィスは顔を見合わせた。
「それは違うわ……違うって言うか、確かにトマスには守ってもらってる。でも理由が違うのよ……みんな好き勝手な噂をしていることは知ってるけれど、あなた達だけは、トマスを信じてやって。お願いだから」
ララがシェリーに言う。
「何か事情がありそうね。実は今日はそれを聞かせてもらいたくて招待したの。内容によっては助けることができるかもしれない」
シェリーが弾けるように顔を上げた。
「うん、わかった。全部話すね。でもそれは私が助けてほしいからじゃなくて、トマスを誤解して欲しくないからよ」
シェリーの空いたグラスにウィスがワインを注ぎ足した。
「トマスと私とサムの三人は、父親がいない子供で家も近所だったわ。幼馴染っていう関係ね。私たちは毎日教会に行って読み書きを教わったり、山に入って茸や木の実を拾うような毎日を送っていたの。トマスが一番お兄ちゃんで体も大きかったし力も強くて、私とサムはいつも守ってもらってた」
トマスらしいなとティアナは思った。
「私のお店があるでしょう?あそこは元々はサムの家があったの。私の家はその隣で、今は一階を作業場にして、二階にトマスが住んでるわ」
ここまではララの情報と一致していた。
「私たちが働く年になった頃、大通りの拡張工事が始まって、トマスの家は立ち退かなくてはいけなくなったの。トマスのお母さんは亡くなっていたから、トマスは立ち退きに応じたわ。自分は貴族の家で護衛騎士をやるから家はいらないんだって言って……立ち退き料を私に渡してパン屋をやれって言ってくれたのよ」
シェリーだけが話し、トマスはバツが悪そうに聞いていた。
「最初は固辞したのだけれど、自分は稼げるからって……いずれ返すつもりで借りることにしたのよ。それに私にパン焼きを仕込んでくれたのはトマスのお母さんだったから、少しは恩返しにもなるかなって思って」
シェリーがワイングラスを手に取り、のどを潤した。
「トマスがいなくなって、私とサムは寂しかったけれど頑張って働いたわ。サムは頭が良くて読み書きも計算も得意だったから、中心部の商会に就職できたの。隣同士だったし、サムも独りぼっちになっていたから、母と私の家で暮らしていたようなものね。自分の家には寝に帰るだけって感じだ。そのうち私たちは……」
ララが代わりに行った。
「恋人になったのね? どうしてすぐに結婚しなかったの?」
シェリーが悲しそうな顔をした。
「そうよ。私たちは恋人同士になったの。とても幸せだったわ。パン屋も順調で、サムの家の一階を作業場にして店を大きくして。二階の壁を抜いて二軒分の広さにすれば、子供ができても困らないねって……そんな話をして……とても幸せで……」
シェリーがぽろぽろと涙を溢す。
その後はトマスが続けた。
「僕は王宮を挟んで北側にある貴族の屋敷に雇われて、騎士寮に入っていたよ。シェリーもサムもよく手紙をくれたから、二人が付き合い始めたのも、結婚を考えているのも知っていた。結婚祝い代わりに改装費を手伝ってやろうなんて考えてさ。休みもあまりとらないで働いていたんだ。金を稼ごうと思ったから……でも、あの頃に頻繫に帰っていればこんな事にはならなかったんだ」
悔しそうな顔でトマスが拳を握った。
少し落ち着きを取り戻したシェリーが、再び口を開く。
「サムはお給料のほとんどを貯めていて、私もできるだけ節約して、もう少しで改装費が準備できそうだったのに……サムを見染めた商会のお嬢さんが……結婚しないならうちの店に材料が入らないように圧力をかけるって脅したのよ」
「酷い話だ」
ウィスが憤っている。
「サムは断って商会も辞めるって言ってくれた。でも、彼はお嬢さんの罠に嵌ってしまったのよ。サムが売上金を抜いて私に渡している証拠が見つかったから訴えるって。嫌なら店を手放して弁済しろって弁護士って人が来たの。銀行の人も一緒だったわ」
ララが聞く。
「それって王都銀行?」
シェリーが頷いたと同時に、ティアナとララがニヤッと笑った。
「サムは商会に軟禁されていて、相談もできなかった。トマスに会いに行ったけれど、遠征に出ていると言われて……とにかくサムを犯罪者にするわけにはいかないと思って、私はお店を手放す覚悟を決めたわ。でも……」
「既成事実でも作られちゃった?」
15
あなたにおすすめの小説
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
勇者様がお望みなのはどうやら王女様ではないようです
ララ
恋愛
大好きな幼馴染で恋人のアレン。
彼は5年ほど前に神託によって勇者に選ばれた。
先日、ようやく魔王討伐を終えて帰ってきた。
帰還を祝うパーティーで見た彼は以前よりもさらにかっこよく、魅力的になっていた。
ずっと待ってた。
帰ってくるって言った言葉を信じて。
あの日のプロポーズを信じて。
でも帰ってきた彼からはなんの連絡もない。
それどころか街中勇者と王女の密やかな恋の話で大盛り上がり。
なんで‥‥どうして?
私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。
でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。
もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……?
表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。
全年齢作品です。
ベリーズカフェ公開日 2022/09/21
アルファポリス公開日 2025/06/19
作品の無断転載はご遠慮ください。
溺愛のフリから2年後は。
橘しづき
恋愛
岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。
そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。
でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?
ある公爵令嬢の死に様
鈴木 桜
恋愛
彼女は生まれた時から死ぬことが決まっていた。
まもなく迎える18歳の誕生日、国を守るために神にささげられる生贄となる。
だが、彼女は言った。
「私は、死にたくないの。
──悪いけど、付き合ってもらうわよ」
かくして始まった、強引で無茶な逃亡劇。
生真面目な騎士と、死にたくない令嬢が、少しずつ心を通わせながら
自分たちの運命と世界の秘密に向き合っていく──。
白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
瀬月 ゆな
恋愛
ロゼリエッタは三歳年上の婚約者クロードに恋をしている。
だけど、その恋は決して叶わないものだと知っていた。
異性に対する愛情じゃないのだとしても、妹のような存在に対する感情なのだとしても、いつかは結婚して幸せな家庭を築ける。それだけを心の支えにしていたある日、クロードから一方的に婚約の解消を告げられてしまう。
失意に沈むロゼリエッタに、クロードが隣国で行方知れずになったと兄が告げる。
けれど賓客として訪れた隣国の王太子に付き従う仮面の騎士は過去も姿形も捨てて、別人として振る舞うクロードだった。
愛していると言えなかった騎士と、愛してくれているのか聞けなかった令嬢の、すれ違う初恋の物語。
他サイト様でも公開しております。
イラスト 灰梅 由雪(https://twitter.com/haiumeyoshiyuki)様
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる