婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!

志波 連

文字の大きさ
20 / 68

20 学生最後の一年

しおりを挟む
 学園に戻った私たちは、最後の一年を目いっぱい楽しむと誓い合いました。
 それはエヴァン様に言われた一言が大きかったと思います。

「長い人生の中で、勉強だけしていれば良いという学生時代はとても短くて貴重だ。何事にも全力で取り組んで、後悔の無い一年にしなさい」

 基本授業はララと一緒ですが、専攻科目は分かれていたので、寮に帰ってからその日にあったことなどを報告し合う日々が続いています。

 ララの選択した経理科目と家政科目は、既に婚約者のいる女生徒が多いようで、結婚後の社交にも役立ちそうだと言っていました。
 
 私の選択した教育課程は圧倒的に男子生徒が多いです。
 高位貴族の長男はさすがにいませんが、みんな卒業後は何かしらの爵位を継ぐ予定がある人ばかりです。

 エヴァン様は男子学生が多いことを少し心配されましたが、学ぶことが多すぎる授業内容についていくのがやっとの状態で、色恋沙汰など起きようもないほど忙しいです。

 前期の試験が終わり長期休暇が始まると、例によって私はララと一緒にドイル伯爵家にお世話になりました。
 以前はララの友人という立場でしたが、今回からはそれに加えてエヴァン様の婚約者扱いとなり、リリアナ夫人に連れられて何度かお茶会にも出席する予定です。

「母上、ロゼはまだ学生ですからね?あまりいろいろ連れまわさないでくださいよ」

 ちょくちょく帰ってくるようになったエヴァン様が、リリアナ夫人に少しだけ苦言を呈しました。

「あら?焼きもちかしら?まあ良いじゃない。牽制よ、牽制」

 そう言ってコロコロと笑っておられるリリアナ夫人は、エヴァン様を言葉だけでねじ伏せられる唯一の人です。

「そうそう、ロゼちゃん。できれば私のことをお義母様って呼んでね」

「は、はい。善処します」

 ララは笑っていますが、私としては少々深刻な悩みです。
 
「ロゼのところに行きたい」

 ジョアンは毎日私に強請ってきます。
 私のところとジョアンが言っているのは、ワンド地質調査研究所のことです。
 前回帰郷した時のお土産は大成功だったようで、ジョアンはあのサンプルケースを抱いて寝るほどです。

 屋敷の庭のあらゆるところを掘り返し、基本の十二種のどれに当てはまるかを検証しているようで、今のところ二種類の土をみつけているそうです。
 そのことをベック副所長に手紙で知らせたところ、早く連れてこいとの催促の返事がありました。

 その件はドイル伯爵にもリリアナ夫人にも伝えてはいますが、なかなか時間が取れ無いというのが現状です。

 私は毎日ほとんどの時間をララと一緒にジョアンと過ごします。
 ジョアンは私たちの勉強を邪魔することもなく、私の部屋の床で図鑑を眺めているか、土のサンプルケースをじっと観察しています。

「ねえ、ジョアン?毎日見ていて飽きないの?」

 ララがジョアンに聞きました。

「飽きない」

「変化があるの?」

「ある」

「へぇ~、例えば?」

「ララには無理」

「ロゼには?」

「ロゼにも無理」

 この会話は日課のように繰り返しています。

 治療教育という目標を立てましたが、ずっとジョアンを見ていた私は、少し方向を修正しようかと思い始めています。

 それは治療という言葉は的確ではないと気づいたからです。
 ジョアンは持って生まれた能力のほとんどを興味のあることに捧げているだけで、何かが欠落しているわけではないのですから、治療する必要は無いと思うのです。

 興味が無いことを徹底的に排除しているわけではなく、不要と分類しているだけで、ちゃんと食事の時間は守れますし、もう寝る時間だと言えばベッドに行きます。
 確かに社交的ではありませんが、それを矯正する必要は無いと考えれば、何も問題は無いのです。

 ジョアンは鋭い感性を持っています。
 人を気遣う心も人一倍持っているのです。
 なのに私たちと同じ貴族学園に行くことはできないでしょう。
 どうすればもっとジョアンの毎日を豊かにできるのでしょうか…と考えた私は、エヴァン様に相談しました。

「エヴァン様はジョアンを貴族学園に行かせたいと思われますか?」

「いや、私は無理に行かせる必要は無いと思っているよ。わざわざ嫌な思いをすることはないさ」

「そうですよね。でも私はもっとジョアンの興味の窓を開いてあげたいと思うのです」

「興味の窓?」

「はい、もう少し世界が広がっても良いかなって思うんです」

「なるほど。そう言えば以前にも話したけど、私の先輩がロゼと同じことを言ったんだ。もちろん彼はジョアンのことも良く知っているのだけれど、このままではジョアンの才能が開花しきれないというんだ」

「そうです。私もそう思うのです。ジョアンはジョアンのままで、もっとジョアンになってほしいって言うか?あれ?変なこと言ってます?」

「いや、良く分かる。一度会ってみるかい?そのうちに紹介するなんて言ったのに遅くなっちゃったけど」

「ぜひお願いします」

「では今週末の休暇の時にでも会えるように連絡してみるよ」

「忙しいのにすみません」

「愛する婚約者のためなら何でもするさ」

 相変わらずなエヴァン様です。

「それと、ジョアンをロゼの研究所に連れて行く件だけど、今年は無理そうだな。皇太子の婚約者候補が出そろってきたから、いろいろと忙しくなってくるんだ」

「まあ、皇太子殿下って婚約者がいなかったのですか?もっと幼いころから決まって居るのだと思っていました」

「ああ、あいつは早熟な奴だったから恋愛結婚に小さい頃から憧れていたんだ。弟のルーカスは政略結婚を受け入れたんだけど、カーティスは絶対拒否だもん。双子なのに全然性格が違うんだよね」

「ルーカス殿下はワイドル国の王配ですものね」

「うん。かなり仲の良い夫婦だよ。まあ女王陛下がものすごく大人だから成り立っているのかもしれないけど。ああ、ジョアン。そろそろ自分の部屋に帰りなさい。ララもね。お兄様の恋路を邪魔すると怖い夢を見るよ?」

「エヴァン、ロゼが好き?」

「うん大好きだ」

「僕もロゼ好き」

「そうか、一緒だね」

「おやすみなさい」

「ああ、おやすみジョアン」

 ララとジョアンはそれぞれの部屋に帰っていきました。
 エヴァン様と二人きりってとんでもなく緊張します。

「私は毎日は帰ってこられないし、帰ってきてもあいつらがロゼから離れないし。あいつらだけなら追い払うこともできるけど、最近では母上まで参戦してきたからなぁ。なかなかロゼを独占できない」

「独占って!」

「だめ?」

「っつ!エヴァン様その顔は少々…」

「少々なに?」

「刺激が強いというか」

「よかった!ちゃんと意識してくれているんだ」

「当たり前じゃないですか!心臓がもちません!」

「じゃあ今夜はこのくらいで許してあげようか」

 そう言うとエヴァン様は私のおでこにチュッとキスをして立ち上がりました。

「おやすみ、ロゼ」

「おやすみなさい、エヴァン様」

 エヴァン様が帰宅されるたびに繰り返されるこの行為に、いつか私は慣れるのでしょうか。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。 その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。 頭がお花畑の方々の発言が続きます。 すると、なぜが、私の名前が…… もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。 ついでに、独立宣言もしちゃいました。 主人公、めちゃくちゃ口悪いです。 成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

【完結】婚約者?勘違いも程々にして下さいませ

リリス
恋愛
公爵令嬢ヤスミーンには侯爵家三男のエグモントと言う婚約者がいた。 先日不慮の事故によりヤスミーンの両親が他界し女公爵として相続を前にエグモントと結婚式を三ヶ月後に控え前倒しで共に住む事となる。 エグモントが公爵家へ引越しした当日何故か彼の隣で、彼の腕に絡みつく様に引っ付いている女が一匹? 「僕の幼馴染で従妹なんだ。身体も弱くて余り外にも出られないんだ。今度僕が公爵になるって言えばね、是が非とも住んでいる所を見てみたいって言うから連れてきたんだよ。いいよねヤスミーンは僕の妻で公爵夫人なのだもん。公爵夫人ともなれば心は海の様に広い人でなければいけないよ」 はて、そこでヤスミーンは思案する。 何時から私が公爵夫人でエグモンドが公爵なのだろうかと。 また病気がちと言う従妹はヤスミーンの許可も取らず堂々と公爵邸で好き勝手に暮らし始める。 最初の間ヤスミーンは静かにその様子を見守っていた。 するとある変化が……。 ゆるふわ設定ざまああり?です。

良いものは全部ヒトのもの

猫枕
恋愛
会うたびにミリアム容姿のことを貶しまくる婚約者のクロード。 ある日我慢の限界に達したミリアムはクロードを顔面グーパンして婚約破棄となる。 翌日からは学園でブスゴリラと渾名されるようになる。 一人っ子のミリアムは婿養子を探さなければならない。 『またすぐ別の婚約者候補が現れて、私の顔を見た瞬間にがっかりされるんだろうな』 憂鬱な気分のミリアムに両親は無理に結婚しなくても好きに生きていい、と言う。 自分の望む人生のあり方を模索しはじめるミリアムであったが。

完結 女性に興味が無い侯爵様 私は自由に生きます。

ヴァンドール
恋愛
私は絵を描いて暮らせるならそれだけで幸せ! そんな私に好都合な相手が。 女性に興味が無く仕事一筋で冷徹と噂の侯爵様との縁談が。 ただ面倒くさい従妹という令嬢がもれなく付いてきました。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

婚約破棄された私は、号泣しながらケーキを食べた~限界に達したので、これからは自分の幸せのために生きることにしました~

キョウキョウ
恋愛
 幼い頃から辛くて苦しい妃教育に耐えてきたオリヴィア。厳しい授業と課題に、何度も心が折れそうになった。特に辛かったのは、王妃にふさわしい体型維持のために食事制限を命じられたこと。  とても頑張った。お腹いっぱいに食べたいのを我慢して、必死で痩せて、体型を整えて。でも、その努力は無駄になった。  婚約相手のマルク王子から、無慈悲に告げられた別れの言葉。唐突に、婚約を破棄すると言われたオリヴィア。  アイリーンという令嬢をイジメたという、いわれのない罪で責められて限界に達した。もう無理。これ以上は耐えられない。  そしてオリヴィアは、会場のテーブルに置いてあったデザートのケーキを手づかみで食べた。食べながら泣いた。空腹の辛さから解放された気持ちよさと、ケーキの美味しさに涙が出たのだった。 ※本作品は、少し前に連載していた試作の完成版です。大まかな展開や設定は、ほぼ変わりません。加筆修正して、完成版として連載します。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

【完結】すり替えられた公爵令嬢

鈴蘭
恋愛
帝国から嫁いで来た正妻キャサリンと離縁したあと、キャサリンとの間に出来た娘を捨てて、元婚約者アマンダとの間に出来た娘を嫡子として第一王子の婚約者に差し出したオルターナ公爵。 しかし王家は帝国との繋がりを求め、キャサリンの血を引く娘を欲していた。 妹が入れ替わった事に気付いた兄のルーカスは、事実を親友でもある第一王子のアルフレッドに告げるが、幼い二人にはどうする事も出来ず時間だけが流れて行く。 本来なら庶子として育つ筈だったマルゲリーターは公爵と後妻に溺愛されており、自身の中に高貴な血が流れていると信じて疑いもしていない、我儘で自分勝手な公女として育っていた。 完璧だと思われていた娘の入れ替えは、捨てた娘が学園に入学して来た事で、綻びを見せて行く。 視点がコロコロかわるので、ナレーション形式にしてみました。 お話が長いので、主要な登場人物を紹介します。 ロイズ王国 エレイン・フルール男爵令嬢 15歳 ルーカス・オルターナ公爵令息 17歳 アルフレッド・ロイズ第一王子 17歳 マルゲリーター・オルターナ公爵令嬢 15歳 マルゲリーターの母 アマンダ・オルターナ エレインたちの父親 シルベス・オルターナ  パトリシア・アンバタサー エレインのクラスメイト アルフレッドの側近 カシュー・イーシヤ 18歳 ダニエル・ウイロー 16歳 マシュー・イーシヤ 15歳 帝国 エレインとルーカスの母 キャサリン帝国の侯爵令嬢(前皇帝の姪) キャサリンの再婚相手 アンドレイ(キャサリンの従兄妹) 隣国ルタオー王国 バーバラ王女

処理中です...