勇者のその後~地球に帰れなくなったので自分の為に異世界を住み良くしました~

十一屋 翠

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第148話 勇者、東の国を後にする

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「よかった。ちゃんと残ってた」

 オロチを倒した俺は、死骸を魔法の袋に突っ込むと、滝を下って地底湖へと戻って来た。
 ちょっとさっきの魔法の所為で地底湖の水位が下がった気がするが、上から降って来る滝の水があればいずれ水位も戻る事だろう。

「ところで霊水ってこの地底湖の水でいいのかねぇ?」

 念のため洞窟内を調べてみるが、やはり泉の様なものは見当たらないのでこの地底湖の水が霊水なのだろう。

「オロチが暮らしていた水だけど、大丈夫だよな?」

 多分大丈夫だろう。そう信じよう。
 おれは取り出した瓶に地底湖の水を汲む。

「霊水ゲットだぜ!」

 テレレレーンとアイテムゲット音が鳴りそうなポーズで霊水の入った瓶を掲げる。
 これでシルファリアを救う為のエリクサーを作る為の材料が全て集まったぜ!

「……さてっと」

 冷静になったら恥ずかしくなってきたのでそそくさと瓶を魔法の袋に入れる。
 うん、誰も居なくて良かったぜ。

「今のポーズに何か意味はあったんですか?」

「っっっ!?」

 腰から聞こえて来た声に俺の心臓が跳ね上がる。

「わかっていませんねぇ。殿方とはこういう時に恰好を付けたくなるものなのですよ」

「っっっ!!」
 
 反対側の腰からフォローになっていないフォローが聞こえて来る。

「成程、殿方の不思議というものですね」

「う、うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 しまったぁぁぁ! 聖剣と神剣が居る事を忘れてたぁぁぁぁ!!

 こうして、俺の新たな黒歴史が異世界に刻まれたのであった。
 頼むから忘れてくれっ!!

 ◆

 キュウさんの屋敷に戻って来た俺は、クロワさんとタンポポを連れて中庭に出ていた。
 目の前にはキュウさんとカンゾウさん、それに桜姫の姿があった。

「勇者殿にはまた世話になったな」

 とキュウさんは言うが、正直今回はこの国をかき回しただけなのではないかと反省している。
 勿論桜姫を救えたのは良い事だし、ババァが死んだのは自業自得だ。
 ただ、それらの過去を知るとなんというかやりきれない気持ちのなるんだよな。
 結局のところ、昔のババァは本人に落ち度があったのかもしれないが、婚約者に逃げられたのだから。
 それだけはババァも可哀そうだと言わざるを得ない。
 だから誰かが一方的に悪いとは言えないんだよなぁ。

「あんまり役に立ったとは思えませんけどね」

「そ、そんな事はありません!」

 しかしそんな俺の気持ち否定したのは桜姫だった。

「勇者様は私を救ってくださいました。あのまま醜い姿で下女として生涯を終える筈だった私に、こんな美しい姿を与えてくれただけでなく、お父様とお母様が誰なのか教えてくださいました。なにより、私に名前を与えてくださいました」

 そう言って、桜姫は深々と頭を下げる。

「ん、そうかな」

「そうです!」

 まぁ、それだけは良かったのかもな。
 本人に何の落ち度もないのに、物心つく前から辛い事を辛いと分からない境遇で育てられてきた桜姫。
 この子を救えた事だけは、間違いなく俺が来た意味があったと信じよう。

「桜姫は拙者が後見人となってお育てする。そして成人すると同時に帝の座を継いでいただくつもりだ」

 桜姫はミカガミノツルギとの裏取引もあって、家臣達みんなの前で神剣を抜く事に成功している。
 おかげで誰も桜姫の素性を疑う事はしないし、帝を継ぐ事に反対する者も居なかった。
 神剣様々である。
 異世界人である俺がミカドになるよりも皆よっぽど受け入れ安いだろう。

「勇者殿が神剣を返還してくれた事で新たな帝の選定が滞りなく行われた。勇者殿が居なければ我が国は帝不在の国としていつ再び戦国の世に戻るとも知れなかったからな。だが帝の血筋が維持できるのなら、我が国も安泰だ」

 うーん、そう考えると俺が、正しくはクロワさんがこの国に神剣を持ち込んだのか長期的に見れば国家の復興の助けとなっていたのだろうか?
 クロワさんグッジョブ?

横目で見るとクロワさんが満足げなドヤ顔でムフーっと鼻息が漏れている。
 淑女どこ行った。

「とはいえ、まだまだ調べる事も多いですが」

「調べる事?」

 カンゾウさんの言葉に俺達は首を傾げる。
 桜姫が見つかって帝候補を探す心配が無くなったのにまだ何か心配があるのか?

「神聖な霊域に住み着いたオロチという魔物、それに雪姫を唆して桜姫に呪いをかけた術者の正体も未だ分かっておりませぬ」

 むっ、確かにそれは気になる。

「確かに、普通神聖な場所に魔物は近づかないモンだからな」

「然り。そもそも我が国にオロチなどという魔物が存在したという記録はありませぬ」

「え? そうなの?」

 それは初耳。

「勇者殿に見せて頂いたオロチなる魔物、我が国の様々な資料を調べましたが、首が八つある大蛇などどの書物にも書かれておりませなんだ」

「じゃあどこか別の場所から連れてこられた?」

 別の場所からきた魔物と聞いて、俺はあの島程もある巨大な魚の魔物を思い出す。

「その可能性が高いかと。そしてそうなると誰が連れて来たのかという話しになりますな。あの様な巨体が無造作に動いていたなら、民に見つからない筈がない」

 むぅ確かにデッカイ大怪獣が歩いていたら遠くからでも見えるだろうしなぁ。
 しかもこの世界には高層ビルなんてない。平地で背の高いものと言えば精々が木くらいのモノだろう。

「それについては我々の方で調べる故。勇者殿は自らの使命に専念されるがよかろう」

 と、キュウさんが締める。

「そうですね。そちらはキュウさん達におまかせします」

 そうだな、俺が今する事はシルファリアを救う事だ。
 まずはそっちに専念だ。

「では参りましょう主様」

腰から聞こえて来た声に俺は応える。

「ああっ! ってそういやお前、ついて来て良いのか!?」

 よくよく考えたら、せっかくミカガミノツルギを返したのに、俺が持っていったら意味ないんじゃないのか?

「細かい事を気にしてはいけませんよ。ほら武器は使い手に使われてこそ華ですし」

 ホントに良いのかと俺はキュウさん達を見る。

「神の使いたる神剣が直々に言うのだ。我々はそれに従うしかあるまい」

「大丈夫です、何か言われたら次期帝の私が認めたと言いますので」

 キュウさんも桜姫の俺が神剣を持っていく事をあっさり受け入れた。

「さぁさぁ、そういう事ですから、行きましょう主様!」

 お前が仕切るなよ。

「分かったよじゃあ行こうか皆」

「「「「はい!」」」」

そのうち半分が腰から聞こえてくるの、本当に変な感覚だな。

クロワさんとタンポポの手を握り、俺は転移魔法を発動させる。

「勇者様! と、そこで桜姫が俺に声をかける」

「私が望まれて生まれて来た事を教えて下さって、本当にありがとうございました!!」

 少女の花の様な笑顔を背に、俺は極東の国から去るのだった。
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