勇者のその後~地球に帰れなくなったので自分の為に異世界を住み良くしました~

十一屋 翠

文字の大きさ
表紙へ
49 / 105
連載

第101話 勇者、ょうじょの町へと帰ってくる

しおりを挟む
「トウヤ様、私レイリィちゃんに会ってみたいです」

 先日、嫁としてやって来たクロワさんと一夜を過ごした俺は、寝物語としてこれまでの冒険譚をせがまれた。
 なんだか子供に昔話をしている気分になりながら色々な話をした俺は、魔王を倒した直後の話としてレイリィとの出会いをクロワさんに話した。
 するとクロワさんはなにか思うところがあったのか、突然俺の胸に顔を埋めるとそのまま眠ってしまった。男の胸に顔を埋めても楽しくないと思うのだが。
 そして今朝になってこう言ってきた訳だ。

「なんでまた?」

「はい、トウヤ様からレイリィちゃんの事を聞いた時、私はその子が自分と同じだと思ったんです」

 成程、皇帝の成り手が居ないから無理やり皇帝に祭り上げられたクロワさんにとって、レイリィは自分と同じ望まずしてその地位に押し上げられた仲間に映った訳だ。

「その子が今何をして、なにを考えているのか、それが気になるんです」

 ふむ、そう言われるとレイリィの事は俺も気になるな。
 一応レイリィの事は派遣した忍者娘が監視しているので危険はないと思うが、それでも直接会っていない事は間違いない。
 たまには様子を見に行く事にしよう。

「分かりました。それじゃあレイリィに会いに行きますか」

「ありがとうございますライズ様!」

「あら、レイリィちゃんの所に行くの? だったら私もポーションを持っていくから待ってて」

「では私も教会の様子を見に行きますね」

「成長促進魔法で育てた畑が気になるので私もご一緒します」

「なんかわからんが私も行くぞ!」

 気が付けば全員集合になっていた。お前等皆ついてくるつもりかよ。

『……』

「っ⁉」

 気が付けば足元に無言の木箱が! いや木箱が無言なのは当然だがって、ホラー映画の呪いのアイテムかお前は!

『私も……』

 せめて文章で喋れ!
 なんか木箱がもぞもぞプルプルとしてるんですけどー!

 ◇

 という訳でバラサの町へとやってきた俺たちだったのだが……

「随分と繁栄してるわねー」

 そうなのだ、久しぶりにやってきたバラサの町は、以前の廃墟同然の光景が嘘のようににぎわっていた。
 町の外周は大きな壁に覆われ、廃墟となった家は全て取り壊されて新しい家になっていた。
 市場では市場には多くの野菜や肉が並べられまるで王都のような賑わいぶりだ。

「町の人間が頑張ったんだな」

 いまやバラサの町でうつむいている者はいない。誰も彼もが町の成長に追い付こうとがむしゃらに働いていた。

「それじゃあ俺達は領主の館に向かうけど、皆は見つからない様に変装を外さないでくれよ」

「はい、わかっています」

「あくまでもお忍びですよね」

「大丈夫だ、人間の町には頻繁に通っていたからな」

 自信満々に答えるミューラ達三人。
 そう、俺達は変装をしていた。
 以前の魔王就任式典で俺達は西側諸国から離脱する事を宣言した。
 その為俺達は人類の裏切り者にも等しい扱いを受けていたのだ。
 まぁその人類のくくりは西側諸国のみの人類の事ではあるけどね。
 南の獣人の領域や東の帝国とは友好関係を築いているし。
 ともあれ、ここは西側諸国の領域、そういう意味では俺についてきた皆も反逆者扱いだ。

「なにかあったら通信魔法で連絡してくれ。俺達はなんとかしてレイリィと会う方法を考えるから」

 まぁ間違いなく不法進入だけどな。

「わかりました。ト……『トール』さんもお気をつけて」

「ああ、行ってくる」

 この世界の住人では聞きなれない名前であるトウヤではすぐにばれてしまうので、俺だけが偽名を名乗る事になっていた。
 どこまで効果があるかは分からないがあとは黒髪が目立たない様にローブを着てフードを目深にかぶっている。
 これでたいていの人間は誤魔化せるだろう。

「それにしても人が多いわね。まるでお祭りみたいだわ」

 エアリアが言うとおりだった。
 バラサの町は人でごったがえしており、大通りの雰囲気もいつもと随分違う。露天の数もだいぶ多いし、人々は妙にテンションが高い。

「凄いですね、西側の国家はここまで繁栄しているのですか?」

 魔族との戦争や梅毒で落ち込んだ雰囲気の帝都しか見た事のないクロワさんが目を丸くして周囲を見るいる。
 傍から見るとおのぼりさん丸出しだ。

「いやー、以前来た時はこんなんじゃなかったんですけどね」

 にしてもこれは本当に何事だ?
 スパイとして配置している忍者娘達からの報告じゃ、西側諸国は俺が居なくなった事でそれぞれが独自に活動して、復興の速度が一気に低下したと聞いたんだが。
 ふむー、これは直接住人から聞いてみるか。

「クロワさんちょっと……」

「はい?」

 俺はクロワさんに耳打ちして町の状況について聞くように促す。
 いやだって俺はこの町の住人と顔見知りだし、顔を隠しているだけならいいけど会話したらバレかねない。

「すみませーん、ちょっと良いですか?」

「お、おう、何だい姉ちゃん?」

 突然美人のお姉さんに話しかけられ、露天のオヤジが顔を赤くして対応する。
 悪いなオヤジ、その女は俺のだ。

「ものすごく人が多いですけど、今日はお祭りでもあるんですか?」

 と、クロワさんの質問を聞いたオヤジは、一瞬考え込んだ後、そういう事かとなにやら納得した。

「姉ちゃん旅の人間だな。確かに今日はお祭りみたいなもんよ」

「みたい、ですか?」

「ああ、今日はな……」

 そして屋台のオヤジはとんでもないコトを口にした。

「領主のレイリィ様が第三王子のファブリズ様とご結婚される日なんだ」
しおりを挟む
表紙へ
感想 285

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。