勇者のその後~地球に帰れなくなったので自分の為に異世界を住み良くしました~

十一屋 翠

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第102話 勇者、ょうじょの花嫁姿を見る

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 本編の前にご報告です。

 既にご存知の方もいらっしゃるとは思いますが、
 本作「勇者のその後~地球に帰れなくなったので自分の為に異世界を住み良くしました~」
 がアルファポリス様より書籍化が決定となりました。
 
 発売日は6月下旬に決定、書き下ろし要素も多少ありますので書店に立ち寄った際はお手に取って頂けると幸いです。

 アルファポリス様よりご許可を頂いたのでここに宣伝させていただきました。

 以上宣伝でした。

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「大変なことになった」

 レイリィがこの国の王子と結婚する事になったと聞いて、俺は慌てて仲間達を呼び戻した。

「レイリィ様が結婚……ですか? さすがに少々早いかと」

「そうですね、いくらなんてもあんな幼い子を結婚させる理由がありません。一体この国の王族は何を考えているのでしょうか」

 ミューラもサリアもレイリィが王子と結婚すると聞いて困惑している。
 確かに貴族なら年の差で政略結婚させられる事は珍しくないらしいが、魔王が倒されて平和になった世界でそこまで急ぐ理由もないだろう。

 というかだ、レイリィの周辺を警護していた忍者娘は何をしていたんだよ!
 こんな重大情報を報告しないなんて怠慢にも程がある!

 という訳で忍者娘に連絡したらこんな事言われたよ。

『え? 貴族が政略結婚するのって普通なんでしょ?』

『いやお前さ、警護を依頼したんだぜ。普通はなにかあったら情報を寄越すだろ』

『けど相手は子供だし、トウヤの恋人って訳でも無いんでしょ? 私が受けたのはその子に危険が及んだら報告しろだし』

 ……うん、まぁそうなんだけどね。
 そっかー、この世界の平民にとって政略結婚は異常事態にカウントされないかー。
 まぁ雲の上の話だしなぁ。

『あー、わかった。これからは政略結婚の話が出たら教えてくれ』

『はーい、了解ねー』

 ……はぁ、なんか疲れた。

 ◆

「ともかく、これは問題だ。何とかしてレイリィとコンタクトを取って真意を問わないと」

「具体的には?」

 エアリアが具体案を要求してくる。

「窓から忍び込んでレイリィと会う」

 幸いレイリィの部屋は分かってるしな。
 西側諸国と袂を分かった以上、表から会う訳にはいかない。ミューラ誘拐の罪を着せられている以上、最悪牢屋に入れられかねないからな。多少後ろ暗い面会方法になるのはしょうがないだろう。

「分かったわ。そうなると私は後方で控えておいた方が良さそうね。いざとなったら転移魔法で逃げなさい。私達の回収は後でいいから」

「分かった」

 たとえ置き去りにされても魔王との戦いを耐え抜いた歴戦のつわものであるエアリア達を捉える事の出来る者などそうは居ないだろう。

 ◆

 という訳で俺は領主の館の敷地内への侵入に成功していた。
 勇者としてのスキルをフル活用すれば普通の人間の警護の目をかいくぐるなんて余裕ですよ。

「しかし、領主の館も結構改装されていたんだな」

 以前来た時は半壊していた領主の館だったが、久しぶりに来てみればすっかり改装されて新築同然になっていた。
 館の塀はコンクリートで作られており、そこかしこに芸術家が掘ったと思しき模様などが彫りこまれている。

「レイリィの部屋はあそこか」

 俺は監視の目を盗んで二階の窓に跳躍し、ヤモリよろしく壁に張り付いた。
 実際には凸凹の部分とかに手足をひっかけているんだよ。

 そして俺は窓から部屋の中を覗き見る。

 そこには、純白の衣装をまとった美しいょうじょが居た。

「なんだ天使か」

「だれですか?」

 しまった、思わず本音が口に出てしまった。
 俺は即座に窓から離れると、気配を消して耳を澄ます。

「きのせいでしょうか?」

 どうやら空耳と思ってくれたらしい。
 そしてしばらく耳を澄ませ気配を探っていたが、部屋の中にはレイリィの気配しかしない。
 これなら彼女と話が出来そうだ。
 俺はもう一度窓に近づくと、そっと窓を開けて中に入る。
 そしてレイリィが大きな声を出さない様に近くまで寄ってからレイリィに囁いた。

「レイリィ様」

「ひゃっ、ムグッ!?」

 驚いて叫びそうになったレイリィの口をふさぐ。
 下手したら誘拐犯に間違えられそうな光景だ。

「俺だよ」

 耳元で再び囁くと、レイリィは視線を動かして俺の姿を見る。

「っ!?」

「今は隠れて動いてるから、こっそり入って来たんだ。だから静かにね」

「……」

 レイリィがコクリと頷くと俺はそっと手を放した。

「久しぶり」

「……おひさしぶりですトウヤさま」

 良かった。人を呼ばれたらどうしようかと思ったがそんな事はなかったぜ。

「いままでどこにいっていたのですか? おうとのししゃはトウヤさまがせいじょさまをゆうかいしてわるいことをたくらんでいるといっていました」

 やっぱ王都の連中がニセの情報を流してやがったか。

「それは嘘だよ。俺は西側諸国の貴族達に騙されて酷い目にあわされそうになったんだ。だから俺を陥れようとしたこの国と袂を分かったんだ。ミューラはそんな俺についてきてくれたんだ。誘拐なんてしていないよ」

 どこまで信じてもらえるかわからないが、それでも俺は自らの無実を訴える。

「……よかった。やっぱりトウヤさまはわるいことをしていなかったのですね」

 どうやらレイリィは俺を信じていてくれたみたいだ。やっぱりょうじょは最高だなぁ。

「それで、レイリィは何でこんな事になってるんだ? 町の人達の話じゃ王子と結婚するって聞いたけど」

「……」

 するとレイリィは顔を伏せて黙りこくってしまった。
 この反応、やはり意に沿わない政略結婚か。

「レイリィが嫌なら、俺はレイリィに協力するよ」

 優しく抱き寄せながらレイリィに囁いた俺だが、当のレイリィは俺の手を振りほどいて離れる。

「……すみません、わたしはトウヤさまのおよめさんになるとやくそくしたのにそれをやぶってしまいました」

「いや、それはレイリィの所為じゃないだろう」

 悪いのはレイリィに結婚を強要した王家の連中だ。

「わたしはきぞくです。きぞくだから、たみをまもるためにおうじさまとけっこんしないといけないのです」

 毅然とした顔で告げるレイリィ。
 それはかつて見た領主としての顔だった。

「わがりょうちはトウヤさまとこんいであったため、おうけからはんぎゃくのいしをうたがわれました。サリアおねえちゃんからおそわったしょくぶつせいちょうまほうで、くにゆうすうのこくそうちたいとしてせいちょうしつつあるわがりょうちは、トウヤさまとてをくんでくにをのっとるつもりなのではないかといわれたのです」

 言いがかりにも程がある。
 いや実際言いがかりなのだろう。レイリィの言葉を信じるのなら、国有数の食料生産量を誇るようになったバラサの町周辺の領地を一貴族の自由にさせるのではなく、王族と結婚させる事で王家の意思に従うようにしたのだ。
 つまりは王家の権力を維持する為に。

 多分だが、それも俺が西側諸国と袂を分かった事が原因なのだろう。
 自分達が召還した勇者が人類と敵対する存在になったと周辺国から攻められ、ソレが原因で国内の求心力の低下を招いたのではないか?

 だとすれば俺にも責任はある。
 だがそのしわ寄せがレイリィに向くのは納得がいかんにも程がある!
 なんとかしてレイリィを救わねば!

 と、そんな時だった。

『レ~イリ~ィちゃ~ん』

「っ!? トウヤさま、かくれて!」

 部屋の外から聞こえた声にレイリィが強い反応を見せて俺をクローゼットへと押し込んだ。
 その慌てぶりはとてもょうじょの力とは思えない力強さだ。
 そして俺がクローゼットに詰め込まれた直後、そいつはノックもなしに部屋へと乱入してきた。

「お着替えはもう終わったかなレイリィちゃ~ん」

 それは、年のころなら30~40代、はちきれんばかりのボディを純白の衣装で拘束したボンレスハムだった。

「……ファブリズさま」

 何?

「おお~! さすがはボクのお嫁さん! とっても可愛いよ~!」

 コレがファブリズ? この国の第三王子!? このチャーシューハムが!?

 ファブリズと呼ばれたハムはノタノタとレイリィに近づいてゆき、彼女を抱きしめた。

「とうとう結婚だね~! 式を挙げたらい~~~~~っっぱい可愛がってあげるからねぇぇぇぇ」

「ぶっ殺してぇ」

 本気で嫌がるレイリィの姿を見た俺は、クローゼットの中で結婚式を全力で阻止する事を決意するのだった。
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