勇者のその後~地球に帰れなくなったので自分の為に異世界を住み良くしました~

十一屋 翠

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連載

第106話 勇者、国際問題を目撃する

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本編の前にご報告です。

6/26日に発売いたしました本作【勇者のその後】ですが、おかげさまで重版が決定致しました。
それもひとえに皆さんの応援のお陰でございます。

また、掲載ペースに関してですが、これまでは不定期だったところを、3日おきのペースでの掲載とする予定です。業務の都合で多少変わる事はあると思いますが、なるべくこのペースを守るつもりですので宜しくお願い致します。

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「ボ、ボクを誰だと思っている! ハジメデ王国第三王子ファブリズだぞ!」

 バラサの町の大通り、そのど真ん中でファブリズは声を張り上げた。
 その手に赤く染まった剣を手にして。

 ファブリズはしてやったといわんばかりのドヤ顔をしているが、相手の男の周りに居る恐らくは従者達は驚きで固まっている。
 それはファブリズの地位に対してではない。
 自分達の主を切りつける愚か者が居るなんてという意味での驚きだ。
 驚いているのは彼等だけではない。
 ファブリズの家臣達もまた顔面を蒼白にしていた。

 当然だ。相手の服装を見るに彼等は明らかに貴族。
 ファブリズが知らない相手という事は高い確率で他国の貴族なのは言うまでも無い。
 つまりファブリズは、自分の結婚式を祝いにやって来た貴族に襲い掛かったのだ。

 ◇


 事の始まりは数分前の事だった。
 結婚式の延期によって暇をもてあましたファブリズは、今日も町をブラブラと歩き回り、その度に騒動を起こしていた。
 他人の迷惑を考えないその行いは、老若男女を問わず迷惑をかけ続けていた。

 誰かは知らないが、貴族なのは一目瞭然の男の横暴、衛兵達もヤツの横暴は見て見ぬフリだ。
 そんな状況なのだから、市民のファブリズへの潜在的な不満は溜まり続けていた。 
 だが相手は貴族、領主様の結婚式が終わるまでの辛抱だと町の住民は耐え続けていた。
 小さいけれど必至に頑張り続けてきた領主様の為に。

 だと言うのに、このバカは彼等の我慢を自分が偉いからだと勘違いした。
 確かに貴族であるが故に手を出さなかったのは事実だろう。
 だがそれはあくまでも生まれの問題、本人の資質には何の関係もなかった。

 それ故に、同じ貴族にとっては見過ごす事のできない醜悪さとして、その場に居合わせた彼の目には映った。

「いい加減にしたまえ」

 彼は若い貴族だった。
 身なりは良く、声は通り、何より見目麗しい。
 絵に描いたような貴族の青年だった。
 その場に居た女性達がほぅと熱い溜息を吐く。

「何だお前はぁ!?」

 ファブリズは赤い顔をして若い貴族に噛み付く。
 自分に無礼な物言いをする不敬者が居たからだけではない、ファブリズは真昼間から酒を飲んで酔っ払っていたからでもあった。

「仮にも貴族ともあろう者が、民の規範とならずにその横暴ぶりは何だ!」

 若い貴族はファブリズを恐れる事無く正論でファブリズを非難する。

「貴族ならば、民を導く者としてそれに相応しい振る舞いをするべきだろう!」

 凄いな。本心なのか平民へのリップサービスなのかは分からないが、大勢の人々が見ている前で臆する事なくここまではっきりとものを言えるのは大したもんだ。
 なんと言うか、まるで物語に出てくるような立派な貴族じゃないか。
 町の住人達も同じ事を思ったのだろう。
 皆口々に若い貴族の応援を始めた。

「いいぞ貴族様ー!」

「もっと言ってやれー!」

「素敵ー! 愛人にしてー!」

 見た目も発言もカッコいいイケメン貴族と横暴なオッサン貴族では、どう考えても若い貴族の方に人気が出るのは仕方が無い。
 っていうか俺だって応援する。

「町の皆も同じ気持ちのようだぞ?」

「そうだそうだー!」

「好き勝手しやがってー!」

 若い貴族の言葉に呼応して町の住人達もファブリズをののしり始める。
 知らないというのは幸せな事だ。

「き、貴様等ぁぁぁっ!!」

 貴族として、王族として傅かれる事に慣れきっていたファブリズにとって、支配されるために生まれた平民から拒絶の言葉を受けるというのは初めての体験だった事だろう。
 

「ボ、ボクを誰だと思っている! ボクは貴様等ごとき下賎の民が見る事すらおこがましい至上の存在なんだぞ!」

 いやー、さすがにそれは言い過ぎじゃね?
 若い貴族も呆れた様子でファブリズを見ている。

「ならばそれに相応しい態度を取ったらどうだい? ここは君の国ではない。部外者は部外者らしくおとなしく部屋でじっとしているべきだろう」

 若い貴族の挑発に、ファブリズが顔を更に赤くする。
 いや、なんだか様子がおかしいような気が……

「き、貴様、貴様もボクをぉぉぉ・・・・・・」

 ファブリズの様子がおかしい事に気付いて若い貴族も訝しげな目でヤツを見る。

「で、殿下、ここは引きましょう。これ以上騒ぎを起こすのはよろしくありません」

 ファブリズの護衛がこれ以上の騒ぎが広がる事を恐れて屋敷に帰る様に進言する。
 だが、ここで進言したのが護衛だったのが不味かった。

「その通りだ。貴族に相応しくない者はおとなしく帰りたまえ!!」

「そうだそうだ! さっさと帰れ!」

「帰れ帰れー!」

 更に若い貴族と町の住人が追い討ちをかけたのも不味かった。

 ファブリズの護衛がヤツの肩に手をかける。


「ええい放せ!」

 護衛がファブリズの肩に手をかける。
 だがファブリズは鬼気迫った顔で手を払いのけ、護衛を突き飛ばす。
 そして若い貴族に向き直るファブリズ。
 その手には護衛が腰に付けていた剣が握られていた。

「?」

 最初若い貴族はファブリズが何を持っているのか理解出来なかった。
 この場でそんな物を手にする理由が無かったからだ。
 正しくは手にする訳が無いと思ったからだ。 

 ファブリズが剣を突き出して若い貴族に走り出す。
 そこでようやく若い貴族が危険を感じる。
 護衛が状況を理解して前に出ようとするが遅かった。
 ファブリズの護衛は尻餅をついているので制止はとても間に合わない。

 結果、ファブリズが手にした凶刃は若い貴族のわき腹深くに突き刺さった。


「……う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 刺された後、一瞬遅れて自分が突き刺されたと認識した若い貴族。


「で、殿下ぁぁぁぁ!!」

 叫んだのはファブリズの家臣ではない。
 若い貴族の家臣だ。
 彼等は自分達の主を殿下と呼んだ。

「ふ、ふははは。ボ、ボクを誰だと思っている! ハジメデ王国第三王子ファブリズだぞ!」

 そう言ってファブリズは手を離して一歩、二歩と後ろに後ずさる。

「ボクがレイリィちゃんの夫になる男であり! この国の時期国王なんだぞぉぉぉぉぉ!!」

 狂乱、まさにその言葉がしっくりと似合う様子でファブリズは叫んだ。

「う、嘘だろ? あれが領主様の結婚相手?」

「いや、それよりも血、血が出てるよ。ヤバイよアレ」

「衛兵を、衛兵を呼ばないと!?」

「でもどうするんだよ? アイツがホントに王子なら衛兵を呼んでも無駄だろ!?」

 ファブリズが行った突然の凶行に町の住人は大混乱だ。

「き、貴様! 何という事を!」

 しかし事態はそこで終わりはしなかった。

「このお方を誰と心得る! ツギノ王国第二王子ジンク様であるぞ!!」

 何と、ファブリズが襲い掛かった相手は隣国ツギノ王国の王子様であった。
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