勇者のその後~地球に帰れなくなったので自分の為に異世界を住み良くしました~

十一屋 翠

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第111話 勇者、王国の侵略を薦められる。

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「私が想定するこの国の侵略者、それは……君だよ勇者トウヤ=ムラクモ」

 ハイジアン王子は俺の目をまっすぐ見つめながらそう断言した。

「凄い事を言いますね」

 この男、俺が何故西側諸国と縁を切ったのかを知らないわけじゃないだろうに。

「勇者様がそんな事をするとお思いですか?」

「だが利点は多い。この国は勇者召喚を始めて行った国だ。支配すれば勇者召喚の術式に関する資料を探すのに都合が良いだろう」

 この頭の回転の速さを考えれば、俺が以前逆召喚の術式やら何やらの資料を根こそぎ盗んだのは気付いているだろうに。
 いや、他の場所にも資料が隠されているって事か? まぁ気付いていないだけかもしれないが。

「ですが自分が戻る為だけに国を一つ滅ぼすとは思えませんよ?」

「どうかな? 元々我々は勇者を利用し、始末しようとしたのだ。ならば良い様に利用された勇者が怒り狂って新たな魔王になる事もなんらおかしくはあるまい」

 新たな魔王という言葉に、かつての魔王との会話が思い出される。
 いつかおれ自身が人間達にとって新たな魔王になるだろうと。
 それが嫌だから下の世界に帰りたかったんだがなぁ。
 だが今は、その帰る方法がないってんだから、世の中は上手くいかないな。

「勇者様は魔王にならないと決めたからこの国を離れた筈ですよ」

「考えが変わらないとも限らない」

 えらい食い下がってくるな。そんなにこの国を支配されたいのか? 仮にも王族なんだから、国が支配されたら困るのはお前だろうに。

「何故そこまで勇者に支配される事を望むのですか? 王族である貴方は、国が支配されたら困る立場でしょうに?」

 俺の質問に、ハイジアン王子はニヤリと笑った。

「勇者に私を雇ってもらうつもりだからだ」

「雇う?」

 俺が?

「そうだ。勇者がこの国を支配したとして、彼には政治のノウハウが無い。それでは周辺国との交渉などは不可能だろうし、周辺国も支配したとしても、貴族を全て滅ぼしては統治に手間が掛かりすぎる。最悪魔族や東の帝国に攻め入るスキを与えてしまう」

 まぁ妥当な意見か。

「故に、私を一官僚として雇い入れてもらいたい。勇者が統治する国家の宰相として。異界の知識を持つ勇者が治める国ならば、この世界にこれまで存在していたどの国よりも繁栄する事が出来るだろう! ならば王室の権威がどん底まで下がったこの国にしがみつく義理も無い。民もこぞって勇者という支配者を迎え入れる事だろう!」

 うーん、つまりこれから建て直すのがめっちゃ大変な王国よりも、勇者が支配する国の方が国民を従えるのが楽だし、旨みが多いよって事か?

「もしかして王子、自分の国が嫌いなんですか?」

 俺の質問にハイジアン王子はきっぱりと答える。

「合理的でないからな。異世界の知識を持ち、強大な力を有した勇者を召喚したというのに、その力を効率的に生かす方法をせずに副騎士団長と二人で魔王退治に向かわせるなど不合理の極みだ」

 あー、確かに。今思うとあれって、王様から100G与えられてさぁ魔王を退治するのだって言われるゲームの主人公の気分だったわ。

「じゃあ何で止めなかったんですか?」

 これまた当然の疑問だ。そこまで考えが及んでいたのなら、何故俺が旅に出る前に止めなかったのか。

「私は第二王子だからな。王の決定には逆らえん。それに国王に物申せるのは宰相か、辛うじて王位継承者の第一王子くらいだ。我々では王に意見する権利も無いのだよ」

 腹立たしげに語るハイジアン王子。
 成る程、成る程、中世的な王様による権力の一極集中社会だから、たとえ王子といっても自由な発現は出来ないわけか。

「無論私も兄上や大臣達を通して父上に進言するように進めた。だが、所詮はわが身が可愛い俗物よ。長期的な国家戦略よりも、今すぐ魔王を倒して身の安全を確保したいと無視されたわ!」

 うーわー。それは酷い。

「結果、勇者の知識を活用する事も無く君は魔王との戦いに赴いた。もし君が旅に出る前にバラサの町の白い城壁の作り方を教わっていたなら、王都、いや国の被害はもっと少なかっただろう」

 ああ、それは風のバーストンが行った魔界大儀式による魔物の凶暴化の事だな。
 あの儀式を阻止するのが間に合わなかったから、世界中の町や村で大きな被害が出た。
 今思い出しても苦々しい記憶だ。

「いやすまん。攻めている訳ではない。ただ、もう少し勇者から力以外の協力を得られていればというグチだ。今となっては無意味な言葉だがな」

 おや、ハイジアン王子は俺が魔界大儀式の事を思い出していた事に、俺が地球の知識を与えていればよかったと後悔していたと勘違いしたみたいだ。
 まぁ確かに後悔の感情が湧かなかったわけではないが、意外にこの王子は気配りが出来る人間なのかもしれない。
 少なくとも第三王子よりはマシな人間だろう。
 っていうか、本当に兄弟なのか? あと第一王子が影薄くて名前が思い出せん。多分会った事はあると思うんだが。 

「そういえば、ファブリズ王子は一体なんであんな風に育ってしまったんですか? 仮にも御兄弟でしょうに」

 俺が質問すると、ハイジアン王子は視線をわずかに逸らせて溜息を吐いた。

「まぁ、アレはな。なんと言うか……腹違いだからな」

 腹違い、つまり別の王妃様の息子という訳か。

「アレの母は平民だ。父がお忍びで王都を出歩いていた時に見初めた娘を側室として迎え入れたのだ」

 おお、平民の嫁! なんというか、お約束展開だな。物語的には主人公の母親ポジだけど。

「だが平民の息子では王位の継承は無理だ。仮に我々が事故で死のうとも、母親が貴族であるほかの弟や妹が優先して王位を継ぐ」

「生まれた順番は関係ないんですか?」

 こういう時代だと、生まれ順は大事だと思うんだが。

「生まれより優先されるのは、血だよ」

 大体分かった。つまりファブリズは王族の中で一番王位継承権が低いんだろう。
 つまりお飾りの王子だ。しかも平民の血を引いているので他の貴族達からの評価も低いんだろうなぁ。
 そんな理由があって性格が捻じ曲がってしまったんだろう。

「アレもせめて有能ならば良かったのだがな……」

 あ、血だけの問題じゃないんですね。

「……ともあれ、今の王国のあり様では何かある度に勇者に縋りつく事しか出来ん。秘中の秘とされていた情報が漏れた以上、今後勇者を召喚しようとも、勇者はどこかで暴露された情報を手に入れるだろうさ。そうなれば真実を知った勇者が我々に協力してくれる事は無いだろうな」

 あー、そうか。俺が王都の民に聞こえる様に情報を暴露したから、それも今後の事に繋がってたんだ。
 そうかそうか、今後召喚される勇者の安全にも繋がっていたんだなぁ。……そこまでは想定外だったわ。

「もっと早くから勇者の知識を貪欲に取り込んでいけば、わが国は飛躍的に繁栄していただろうに」

 それはそれで別の問題が発生したと思います。

「と言う訳でだ、どうかね? この国を支配してみないか?」

 振り出しに戻った。
 つまるところ、この王子は他の人よりも先の事に意識を向ける事ができるのだろう。
 現代式に言うとベンチャー企業の社長タイプか。
 だが創業者一族の息子である彼が所属するハジメデ王国は大きくなって守りに入った大会社で、俺達勇者はよその企業からスカウトされた優秀な技術者。
 だが王国は俺達に新しい開発をさせる事無く、魔王退治という既存の技術だけを吸い上げたらそく逆召喚で首にしたと。

 あー、これ会社の評判が最悪になる上に根幹技術が理解できなくて結果最新技術が台頭したら衰退するフラグですわ。
 ハイジアン王子はそんな場当たり的な経営に嫌気が差して勇者に会社乗っ取りを提案してきたという訳だな。

「君が国を支配すれば、周辺国へのニラミを効かせる必要もなくなる。そうなればバラサの町の領主も結婚する必要はなくなるだろう」

 むむ、そうきたか。
 俺がこの国の王になればレイリィを守る事が出来る。
 レイリィは貴族としての勤めを果たす為に逃げる気は無いみたいだし、そう考えると王になるのは一つの選択肢ではあるんだろうな。

 けどなぁ……

「悪いが王になるのはナシだ」

「何故だ!? 王になれば君は自分を裏切った者達に一泡吹かせる事ができるんだぞ!? それにバラサの町の領主も救う事が出来る!」

 この王子は俺がレイリィを助けたい事を理解している。
 その気持ちと国難を乗り切る方法を良くこの短時間で思いついたもんだ。
 けどなぁ、それはアレだ。二度目なんだ。

「勇者が他の職業につくとその力を失う、だったっけ?」

「っ!?」

 そう、俺はかつて魔王になって魔族をけん制する役割を担って欲しいと頼まれた。
 そしてあの時判明したのが、勇者が他の職業につくと、その力を失うというものだ。
 となれば、俺がこの国を支配して王になれば、俺は勇者から王になって力を失う。
 つまり周辺国への抑止力を失うという事だ。

「……」

 ハイジアン王子がうな垂れる。
 実は俺の力を奪いたかったのか、はたまたそこまで考えが及んで居なかったのか、どちらにしても思惑通りいかなかったのは間違いないみたいだ。
 まさかとは思うが、俺を試したという事は無いよな?

 とはいえこれで交渉のほうもやり直しだ。
 王子を傷つけられたツギノ王国をどうやって黙らせるか。
 ハイジアン王子が言っていたが、この国にそこまでの財力は無い。
 だったら……いや、待てよ?
 これは、アリか?

「ハイジアン王子、かなりの力技ではありますが一つ提案があるのですが」

 モノは試し。一つ提案してみるか。

「提案? 何か良い策があるのかね?」

「ええ」

 俺は自分が思いついた策をハイジアン王子に告げる。

「いっそ貴方がこの国の乗っ取っては如何でしょうか?」
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