勇者のその後~地球に帰れなくなったので自分の為に異世界を住み良くしました~

十一屋 翠

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第122話 勇者、真の力に目覚めた(ようやく)

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「さぁ勇者よ、目覚めた魂の力を発揮して真なる魔王の呪いを打ち砕くが良い!」

 メルクリオは声高に俺の胸を指さす。
 そこには、真なる魔王となったシルファリエルに付けられた癒えない傷があった。

「具体的にはどうすればいいんだ?」

「そんな事も聞かないといけないとは情けない。魂の力を引き出してへばりついた蜘蛛の巣を取り除く気分ではがせばイケる」

 言い方にトゲはあるものの、ゴールドはちゃんと真なる魔王の呪いの解き方を教えてくれた。

「えっと……魂の力を引き出して、蜘蛛の巣を取り除く気分?」

 俺はメルクリオ達の教えられた魂の力の引き出し方を思い出す。
 途中エロい光景が脳裏に浮かんだが、必死で思い出さないようにしつつ魂の蓋を外す。

「っ!」

 体の内側から熱い液体があふれ出すイメージがする。
 その液体は俺の体を覆い、表面に膜を形成する。
 いや違うな、一箇所じゃない。
それは体全体の内側から溢れ、自身が水を含んだスポンジになった気分になる。
 俺は魂の力という水で満たされた手で、胸にこびりつく嫌な魔力を引きはがす。

 手にまるで炭酸飲料がハジけるような感覚が走るが、あくまでそれだけだ。
 ほんとうならこの魔力に触れるだけでダメージを受けていた筈だ。
 俺はそのまま剥がした魔力を掴み、魂の力で焼き尽くすイメージを描く。
 真なる魔王の魔力が白い炎によって燃え上がり、紙が燃え尽きるようにあっさりと消滅した。

「よーしよし、ちゃんと力を使いこなしておるようじゃな」

「おめでとうございます」
 
 今まで俺の治療を続けてくれていたウォーターゴーレムのエリーが、俺の全快を祝ってくれる。

「ありがとうエリー」

「個人的には私を服用して治ってほしかったのですが」

 まて、それはお前を飲めって事か?
 絵面的にかなりアレなんだが。

「ともあれ、これで真なる魔王と戦う事が出来……いや」

 そうじゃない、俺のするべき事は真なる魔王を倒すことじゃない。

「何?」

 ゴールドが問いかけてくる。真なる魔王を倒すのではないのかと。

「シルファリアを助けるにはどうすれば良い?」

 そうだ、真なる魔王を倒してはその寄り代となったシルファリアを殺す事になってしまう。
 逆召還術式でも同じだ。異世界に放り出しては彼女を救えない。

「無いのう」

「うん、無い」

 だがメルクリオ達は無慈悲な言葉を告げるのみだった。

「本当に無いのか!?」

「真なる魔王にのっとられた人間が元に戻ったという事例は今までない。というか試そうと思った者すらおらん」

「魔王の儀式は自ら魂を明け渡す事を認める儀式。本人が儀式の意図を知らず、またその意思が無くとも儀式が契約を代行してしまう」

 悪徳契約書にサインしちまったら同意とみなすみたいなもんかよ!

「……いや、違う」

 そうだ、違うぞ。

「何が違うのじゃ?」

「シルファリアは真なる魔王に抵抗して俺に逃げろといったんだ。完全に乗っ取られたのならそんな事を言うとは思えない」

「儀式の後に寄り代の自我が残っていた? それは前例に無い」

「たしか真なる魔王が言っていた。儀式を行わずに無理やり乗っ取ったって」

「ほう、それは面白い」

 メルクリオは愉快そうにケタケタと笑う。

「たぶん真なる魔王は魔族の姫を代理の寄り代に使ったと思われる」

「代理の寄り代?」

「そうじゃ、本来の工程を踏まずに儀式を行ったという事は、己の魂をこの世界に呼び出してさえしまえば、たとえ自分が倒されようとも新しい肉体に移動できるという事」

「おそらく逆召還が勇者を追い出す事に使われるようになったのも、本来の使用意図を人間が忘れる様にという魔族の謀略と思われる」

「逆召還の使い方を人間が忘れれば、自分を本当の意味でこの世界から追い出せなくなるって考えか」

「魔族もずいぶんと迂遠な手段を使うようになったものよ。おそらくは多種族と交わるようになった事で真なる魔王の血が薄れてきた事が原因かのう」

「血が薄れた?」

「ともあれ、それなら可能性は無きにしも非ず」

「何か方法があるのか!?」

 おお、希望がつながった!?

「うむ、魔族の姫が完全に乗っ取られておらぬのなら、可能性はある」

「それで、どうすれば良いんだ!?」

 俺の言葉に、メルクリオ達が姿勢を正す。

「エリクサーじゃ」

「エリクサー?」

「私ですか?」

 さっきまで俺の治療の為についてきていたエリーが自分を指差す。

「違う。まがい物ではなく、本物の霊薬」

 そうか、エリーはエリクサーを目指して作られた薬を飲んだだけだからな。

「じゃが本物のエリクサーを作るのは並大抵のことではないぞ」

「エリクサーを作るには、最も清き器である聖杯、万物に変じる賢者の石、日光と月光を浴び続けた霊峰の湧き水、そしてそれらの素材を生み出す為の安定した地脈の地が必要となる」

「それも魔族の姫が完全に乗っ取られる前にじゃ」

 つまりすべてのアイテムを一から探す必要があるって事か。

「時間との勝負って訳だな」

 これは俺だけじゃだめだな。
 皆の力を借りないと。

 ◆

「賢者の石ならあるわよ」

「マジで!?」

 その後、帰ってきたエアリア達に傷の全快の報告と共に、シルファリアを基に戻す為
エリクサーの材料が必要な事を説明した。
 そしたら開口一番エアリアがそんな事を言ってきたのだ。

「あの、私も聖杯を所持しています」

「はい?」

 今度はミューラかよ。

「霊峰の水も私にアテがありますね」

 更にクロワさんまで!?
 俺はまさかと思ってサリアを見る。
 するとサリアもあははと乾いた笑いを浮かべながらこういった。

「地脈の地なら私の故郷にありますね」

「なんと!?」

「偶然にしては出来すぎている」

 これにはメルクリオとゴールドも驚いていた。
 数千年を生きた合法ロリババァ達が驚くのだから大したものだ。

「天誅じゃ!!」

「不敬」

 俺の両脇に二人の肘鉄が叩き込まれる。
 小さな体だと言うのに、まるで鋼鉄の塊が突っ込んできたかのような衝撃を感じる。
 今ならわかるが、こいつらツッコミに魂の力使ってやがる。

「っていうか、何も言ってないのに」

「気配でわかるのじゃ!」

「お姉さんを敬わない子はお仕置きされる」

 やべぇ、意識が遠くなってきた。

「そこで私の擬似エリクサーで回復です」

 エリーが俺に密着して舌を絡ませてくる。

「ちょっ!? あんたナニしてんのよ!?」

 突然舌を絡ませてきたエリーにエアリア達が色めき立つ。

「いえ、私の一部を取り込んでもらって痛みを緩和させたのですが。何せ今の私は擬似エリクサーですので」

 そうか、そういえばエリーに治療されたことで多少なりとも真なる魔王の魔力を中和されたんだっけ。
 確かに両脇の痛みは和らいできた。

「でもキスをする必要は無いでしょ! なんなら指を入れて舐めさせるとか……」

 それはそれでなかなかに背徳的な光景だな。

「まぁビジュアル面を重視しました」

 コイツいい性格してるわ。

「今後キスで治療するのは禁止―!」

「了解しました。キス『は』緊急時以外禁止します」

 コイツ絶対キス以外の『方法』にこだわる気だ。

「ともあれ、これならエリクサーを作る事が出来そうだな」

 いかなる偶然か、エリクサーを無事作れそうな事が判明して俺は安堵するのだった。
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