勇者のその後~地球に帰れなくなったので自分の為に異世界を住み良くしました~

十一屋 翠

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2巻

2-2

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「その有様じゃもう反撃なんて出来ないだろう。大人しく降参しろ」

 気を取りなおしてシルファリアに投降を勧める。つーか降参してくれないと、俺の理性が持たなくなる。さすがに拷問ごうもんとかする訳にはいかないしなぁ。まぁ特に拷問する理由もないが。

「……くっ、殺せ!」
「っ!?」

 な、なんつー危険な台詞せりふを口にするんだ、このお姫様は!
 あれか? 魔王の娘だから姫騎士属性があるのか? いや、姫騎士属性ってなんだよ!?
 エロい属性なのか!? いや確かに最初からエロい格好してたけどさぁ!
 思わず「くっくっくっ、殺せだと? ふっ、そんな生易なまやさしい真似などせぬ。貴様には絶望を味わってもらうのだからなぁ!」とか言いたくなったわ! そんな事言ったら人として色々引き返せなくなるわ!

「えーと……そ、そうだ! 『貴様が勝ったら私を好きにするといい』って言っただろ! だったら、素直に負けを認めろ。負けを認めて生き残るのも王族の大事な使命だろうが!」

 我ながら良い事を言った! 言った気がする! このノリだと本当にエロい事をしてしまいかねん! したいけどね! だって目の前に半裸の美少女がいるんだよ! 褐色かっしょくはだもいいよね!

「……ふん、ここまではずかしめられた上に戦いに敗れた魔王の娘など、誰が支配者のうつわと思う? いや、支配者の器どころか、女としてももはや取り返しがつかんわ。さあ、私を好きにするがいい」

 いや、だってねぇ。ほらノリというかなんと言うか、貴様が勝ったら私を好きにするといいなんて言われたら、ツイツイ張り切っちゃうに決まってるじゃないか。
 しかし抵抗出来ない相手を無理やりというのは、さすがにやらないよ。俺がスルのはあくまでお互いに合意の上で、相手が望んでいる時だけだ。

「望まない相手とする気はないよ。あいにくとそこまで飢えてないんでな」

 それは本当だ。今の俺には、望めば相手をしてくれる女の子が数百人単位でいる。わざわざ勇者としての名声を捨ててまで無理やり襲うメリットがない。

「なら、私が望めば抱くというのか? 世界を支配しようとした魔王の娘であるこの私も?」

 ややもすれば自嘲じちょう気味にも聞こえる感じでシルファリアが質問してくる。女として自信がないのかな? いや、それとも勇者との戦いに負けた事で、自分には価値がなくなったと思っているのか? 魔族といえば力こそが全てだ。そういう考えが魔族的には普通なのかもしれない。

「ああ、君が本気で俺に抱かれたいと思うのなら俺も遠慮なく抱くぞ」
「……」

 まさかそう来るとは思わなかったのか、シルファリアが目を丸くする。

「勇者というのは、清廉潔白せいれんけっぱくな人間だと思っていたのだが、意外とぞくなんだな」
「清廉潔白だったさ、勇者として戦っていた時はね。今はもう勇者として戦う必要もなくなったからな。もらえるお礼や好意は素直に頂く事にしたんだ」

 厳密に言えば、以前は貰っている暇すらなかったというのが正しい。

「ふ、ふふふ、ふははははは!」

 シルファリアが豪快に笑いだす。だが、半裸で拘束台に固定されたままのシルファリアが笑うと、その素晴らしいおっぱいがバルンバルンと揺れて目の毒というか猛毒状態だ。
 俺の理性のゲージが凄い勢いで減っていく。むしろ早くゼロになれ。

「ならば私を抱いてくれ。魔王の姫である私を抱いてお前の子を授けてくれ。私は敗者としてお前に身も心もささげる。だからお前も勝者として私の身も心も抱いてくれ。これが魔族の姫である私からの勇者への敬意だ!」
「よし分かった! 正直もう限界だったのでありがたくいただきます!」

 俺はピョーンとジャンプして臨戦態勢に入った。地上には人形の輪郭をたもった俺の服が立っている。

「だがその前にこの拘束を……って!?」

 シルファリアが何かを言ったような気がしたが、いい加減我慢の限界だった俺にはよく聞こえなかった。
 だって金髪褐色の美女の裸だぜ? しかも魔族娘は初めての相手だし。

「ちょ、ま、だから拘束を……」

 拘束された女の子と合意で楽しむのも、なんだかそういうプレイって感じがしていいよね。外せって言わなかったし、外す必要もないよね!

「いっただっきまーす!!」
「だっ、まっ!?」

 こうして、俺は魔王の娘と和解。その直後に、合意の上、エロい事をしまくったのであった。その後、魔王の娘が一言。

「ううっ、変な趣味に目覚めてしまったらどうしてくれるんだ……」


 ◇


「という訳で、トウヤの愛人になったシルファリアだ。よろしく頼む」

 俺の腕に抱きつくシルファリアが、太ももまで俺に絡ませながらエアリア達に挨拶をする。
 俺は、まるで抱き枕のような状態である。

随分ずいぶんと仲が良くなったのね。そんなに情熱的に抱きつかれるほどに」

 冷たくそう言うエアリアの視線が痛い。視線に物理攻撃力があるのではないだろうか?

「私の体はもはやトウヤのもの。全身を拘束されて激しく愛されるのは、はっきり言って新しい世界が開けるぞ!」

 開けてはいけない扉を開けてしまったシルファリアが、息を荒くして俺の腕に頬ずりしてくる。やべぇ、エアリアがヒロインとは思えないような恐ろしい目つきで睨んでいる。

貴女あなた、魔王の娘なのに勇者の愛人になるってアリなの?」

 また聞きづらい事をズバリと聞くなぁ。

「ふ、魔族は力こそ全て。故にトウヤを恨む気持ちなどない。むしろトウヤの子供をはらんで次代の魔王にするつもりだ」

 お、おおう。おっとこ前な台詞でありながらも、自らのお腹を慈愛じあいに満ちた微笑で優しく撫でるシルファリア。そんな彼女からは母性さえ感じられたが、待って、まさか子孫繁栄魔法とか使ってないよね?

「……ですが、魔王の娘ですか」

 そうつぶやいて、ミューラが何とも言えない顔をする。
 平和主義者なミューラの事だからてっきり、生まれてくる子供が人間と魔族が仲良くなる橋渡しをしてくれる、とか言って喜んでくれると思ったんだが。

「何か問題でもあるのか?」
「大ありよ!」

 と叫んだのはエアリアである。
 ミューラが冷静に告げる。

「シルファリアさんは魔王の娘です。これまで魔王は魔族を率いて人間の国々を好き勝手に襲ってきたのですから、シルファリアさんがトウヤさんのそばに、いえ人間の領域にいる事にさえ、人々は良い顔をしないでしょう」

 坊主憎けりゃ袈裟けさまで憎い、いや親の因果いんがが子にむくうって訳か。
 それにもかかわらず、シルファリアがあっけらかんと言う。

「私は気にせんぞ。むしろ私としては、トウヤに魔王の座を継いでほしいとすら思っているからな」
「なっ!?」

 なんという事を……

「なんていう事を言うんですか、貴女は!」

 部屋の中に甲高い怒声どせいが響き渡った。

「サリア……」

 そう、今怒鳴ったのは、かつて魔族によって滅びた国、トゥカイマの王女であったサリアだった。

「トウヤ様は勇者です! 魔王になんてなりません! 魔王の親にもなりません!」

 サリアが凄い剣幕でシルファリアを怒鳴りつける。今までの物静かなサリアからは、とても考えられない激しさである。
 シルファリアがさらりと言葉を返す。

「そんな事を言ってもなぁ。私を愛人にすると決めたのはトウヤだ。そのあかしもたっぷりと貰ったぞ」

 自分のお腹を撫でてサリアを挑発するのはやめなさい。

「っ!!」

 まさに一触即発。だが、戦闘に向いていないサリアが挑んでも無駄死にするだけだろう。シルファリアもソレを分かっていてサリアを挑発したのか?
 部屋の中は、これまで考えもしなかったほどに殺伐さつばつとした空気になってしまった。どうしよう、これ何を言っても禍根かこんしか残らない流れだ。ああ、神よ、どうか我を救いたまえ。

「……」

 エアリアが「全部アンタが招いた事なんだから自分で何とかしなさい」と言っているかのような目で俺を見る。

「……」

 厳しいエアリアの視線から顔をそむけた俺は、ミューラに助けを求めるべく目で合図を送ると、ミューラは残念そうな顔をして目をそらした。一瞬合ったその目は「自業自得なので擁護不可能です。せっかく平和になった世界にいらぬ軋轢あつれきを生むのは間違いないので、ご自分の責任で話を纏めてください」と語っていた。
 ……仕方ない。こうなったら本当の意味で最後の手段だ。

「サリア、シルファリア、付いてきてくれ」

 俺は、サリアとシルファリアを呼んで部屋を出る事にした。
 その前に振り返って一言。

「エアリア、ミューラ、数日ほど部屋に閉じもるけど、絶対に中を覗かないでくれ。絶対にだ」
「好きにすれば?」
「いってらっしゃい」

 そうして、俺達は四日の間、この世界から姿を消した。


 ◇


 五日目の朝、俺は屋敷のリビングへ姿を現す。

「あら、おかえ……!?」

 久しぶりに再会した俺の姿を見て、エアリアとミューラが驚いた表情をした。
 いや正確には、俺の両腕にしがみついているサリアとシルファリアを見て、だ。
 二人の間には数日前に漂っていた殺伐とした雰囲気など微塵もなく、よくなついたワンコのように俺の腕にしがみついて頬ずりしていた。

「トウヤ様~」
「トウヤ~」

 そこには、凛々りりしくも自信満々だった魔王の娘と、理知的だった王女の面影おもかげは、かけらもなくなっていた。
 エアリアが眉間みけんにしわを寄せて睨んでくる。

「な、何があった訳?」

 ナニがあったんですよ。

「サリアさんまで……」

 ミューラは信じられないといった感じでこちらを見ていた。まぁ以前のサリアの殺気だった様子を見ているのだから、信じられないのも無理はない。

「ねぇ、トウヤ、あんた一体二人に何をしたの?」

 だからナニをしたんですよ。
 つまり、地球産の仲良くなる方法を色々実践しただけなのである。なお、その方法はお子様には絶対に言えない内容なので割愛かつあいいたします。
 まぁ、殺し合いの憎み合いになるよりはエロエロの方がマシだろって事ですよ。エロは世界を救うのです。
 だが、そんなあいまいな説明ではエアリア達は納得しなかった。

「あとで私達もトウヤの部屋に籠もるわよ」
「水と食料を用意しておきますね」
「待って、待って……せめて数日休ませてからにしてください」

 本能的に全てを察したらしいエアリア達は、俺を部屋へと連行するのであった。
 それから地上に出るまでに掛かった日にちは、倍の八日でした。
 自分の部屋なのに心休まらないってどういう事⁉
 二人が声をそろえて言う。

「自業自得ね」
「自業自得です」



 第二話 勇者、警告される


「魔族が何かたくらんでいる?」

 サリア達を説得してから十数日後、すっかり我が家に居ついたシルファリアが俺に警告してきた。それにしてもホントこいつ馴染なじんでるな。ちゃっかり自分用のソファーを用意してゴロゴロしてる。

「うむ、今回の人魔大戦じんまたいせんでは魔王陣営が敗北した。だが、その戦いの中で動かなかった者達もいたのだ」
「人魔大戦?」

 俺は、聞き覚えのあるようなないようなその単語に違和感を覚えた。

「人間と魔族による戦争の事だ。様々な種族間で戦争は起こっているが、規模としては我等の争いが一番大きいな」
「この世界では、そんな頻繁に戦争をしているのか?」
「うむ、何せ勇者を召喚する魔法などというものがあるくらいだからな」

 言われてみればそうだ。めったに争いが起こらなければ、勇者召喚なんてピンポイントな魔法は必要ないだろうからな。

「あ、思い出した! 天竜族てんりゅうぞくよ! 人魔大戦って天竜族が言ってたじゃない。それで地上が壊滅寸前にまでなったって!」

 エアリアが声を上げた。
 天竜族。かつて地上に住んでいたが、地上でのおろかな戦いにうんざりして、雲の上の浮き島に移り住む事を選んだ種族。
 名前のとおり、彼等の見た目は人型のドラゴンだったが、なぜか女の子はつの、ヒレ、翼、尻尾しっぽえているだけの人間型だった。それも美少女ばかりで可愛い女の子が多かったなぁ。彼等が持っていた、魔王との戦いを終わらせるというアイテムを手に入れるために色々と苦労したんだ。何せ二〇〇〇年間鎖国していた種族だ。
 彼等はドが付くような閉鎖的な連中だった。そんな彼等の中にいた、外との交流を望む若者達を突破口にして、俺達は天竜族の長老達を納得させる事に成功したのだ。
 しかし天竜族か。確かに彼等はそんな話をしていた。自分達は二〇〇〇年前の人魔大戦を経験して地上を捨てたのだと。
 シルファリアが口を開く。

「天竜族とは古い名前だな。もはや魔族でも天竜族を覚えている者は少ないだろう。私ですら書物で知っているくらいだから、若い魔族は本物を見た事がないはずだ」

 どうやら天竜族の閉鎖性は筋金すじがね入りだったらしい。だからこそあんな事になった訳だが……
 まぁ今はその話はいい。

「それで話を戻すと、その人魔大戦だっけ? 人間との戦いに出てこなかった魔族がいて、何かしようとしてると。結局、そいつ等ってのは何なんだ?」
「厳密には戦争に出ていない訳ではない。魔王が直々じきじきに戦ったのだ、配下の貴族が兵を出さない訳にはいかないからな」

 なるほど、あの戦いで俺が魔王に勝たなければ、後で魔王から「お前なんで援軍をよこさなかったんだ!」って責められるもんな。

「とはいえ、私は当時城にはいなかった。父上の命でいくさから遠ざけられていたからな。あくまでも生き残りの兵からうわさとして聞いた話なので確証もない」

 けど、噂に過ぎないという確証もないって訳か。

「分かったよ。誰かが何かを企んでいるかもしれないと、きもめいじておくよ」

 そこまで話を終えた俺はソファーにもたれかかる。ふんわりとした感触が俺を包み、体がゆっくりと沈み込んでいく。これ、人間を駄目にするわ。
 ちなみにこのソファー、中にヘブンフェニックスと呼ばれる超高級な鳥の羽をふんだんに詰め込んだ超絶高級品で、非常に座り心地がいと評判の逸品いっぴんである。エアリアが王都に注文していたものがつい先日届いたのだ。
 価格は金貨一〇〇枚はくだらないが、俺の財布から支払われたのは言うまでもない。この屋敷には、他にも俺の知らない超高級家具が数多く設置されていた。エアリアいわく、経済を活発にするためだとか。
 いやまぁ、細かい買い物を任せたのは俺なんだけどさ、財産があり余っているからといって、日本円で七けたの買い物とか平気でするのは勘弁してほしい。ちょっとした大貴族みたいな買い物の仕方なんだぜ。
 まぁ、エアリアも今までの旅で結構な財産を手に入れているはずだから、自分の金でも買い物しているとは思うが……してるよな?
 ふと思いついて、俺はシルファリアに声を掛ける。

「シルファリア、王都に行くから付いてきてくれ」
「うむ」

 俺の言葉に応え、シルファリアが立ち上がる。

「トウヤの望みだ、私はどこまでも付いていくぞ。勿論ベッドへもな」

 うっとりとした表情でそう言って、先ほどまでの真剣な雰囲気を台無しにしてくれた。

「さ、行くぞ」

 俺はシルファリアの発言を冗談と受け流し、その手を取って転移魔法で王都へ向かった。
 シルファリアがそっと呟く。

「つれない奴だ」


 ◇


「で、俺の所に来たと」

 やってきたのは、かつて共に魔王を倒す旅をした騎士、バルザックの屋敷だ。
 シルファリアを愛人にした俺は、その報告と、彼女から警告された敵の存在をバルザックに告げに来たのだ。

「お前なぁ……そりゃあ確かに世界中の女の子とよろしくしてこいとは言ったけどな。魔王の娘とまで仲良くしろとは言ってないぞ」

 呆れたように言うバルザック。まぁ俺も言われなかったからって好き勝手しすぎたとは……思わなくもない。

「トウヤには次代の魔王の父親になってもらうつもりだ。もしくはトウヤ自身に魔王の跡を継いでもらいたいと考えている。父上を倒したトウヤなら、他の有力魔族達も反対出来ないからな」

 シルファリアが誇らしげに宣言する。つーか、余計な事言うな。俺はそうなるのが嫌で、元の世界に帰る気満々だったんだぞ。

「あ、そういえば。元の世界に帰るための、逆召喚の術式の研究ってどうなったんだ?」

 ある意味ではそれが本命の目的なので、戻ってきたついでに聞いておく。

「そっちに関してはまだだな。勇者の強大な抵抗力に引っかからないように術式を起動させる方法の、目処めどが立っていないのが現状だ」

 なんという事だろう。俺が元の世界に帰るためには俺自身の力が邪魔しているのだという。
 うん、前に聞いたわ。

「そんな訳で、諦めてこの世界で暮らした方が良いんじゃないかというのが、研究者達の見解だ」

 それ研究するのを放棄してますやん。

「なぜ帰りたがるのだ? お前の力ならこの世界を支配する事すら容易だろうに」
「故郷に家族がいるんだよ。だからこの世界に残る訳にはいかない」
「やはり駄目か」

 バルザックは諦めたようにため息を吐く。

「だとすれば、年単位で待ってもらう事になるな。元々魔法の研究には時間が掛かるもんだ。勇者召喚関連は古い魔法な上に、国家機密として研究を禁じられていたからな」

 うむむ、仕方がないか。いくら強大な力を持っていたとしても、俺は魔法研究に関しては素人しろうと
 ここはプロの仕事を待つしかあるまい。


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