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番外編 勇者、プレゼントを配る 後編
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「という事があったのよ」
転移魔法で自分の部屋へと逃げ帰った俺は、急いで元の服に着替え何食わぬ顔でエアリア達と合流した。
そして同じくやってきたサリア達と共に事のあらましを聞いている最中だ。
ちなみにサリア達がやって来たのを物陰に隠れて確認してから転移魔法で彼女達の部屋へと侵入し、プレゼントを置いてから最後に到着したので、もしもここに名探偵が居たら俺が犯人とバレてしまうかも知れない。
だがここに名探偵はいない。彼女達はサンタさんからのプレゼントに心ときめかせる事だろう。ふぅーはははっ!!
「なるほどねぇ」
「一体何者だったのかしら?」
訝しむエアリア達。この様子だとプレゼントの存在にはまだ気づいていないみたいだな。
「もしかしてサンタクロースだったのかもな」
「サンタクロース?」
わざとらしく声をあげた俺に、エアリア達の視線が注目する。
「サンタクロースってのは、クリスマスの夜に良い子の枕元にプレゼントを置いていってくれる謎のお爺さんの事さ」
「なにそれ気持ち悪い」
あれ?
「一体なんのメリットがあってそんな事をするのでしょうか?」
いやメリットって。
「なんらかのアピールでしょうか?」
何のだよ。
「単純な善意とは思えんな。何か思惑があるのだろう」
まって、そんな複雑に考えないで。
「だとすれば一体どのような意味が? プレゼントという事は悪意はないと思いたいのですが」
無いよ! 善意100%だよ!
しかし、エアリア達はサンタの行動を不振がり、プレゼントという言葉に心を弾ませる素振りすら見せなかった。むしろ危険物扱いである。
いやまぁ、確かに普通に考えりゃ住居不法侵入ですからねぇ。
「……はっ!? 待って! それってとんでもない事なんじゃないの!?」
とそこでエアリアが驚きの声をあげる。
なんだい? ようやくサンタさんのステキさに気付いたのかね少女よ?
「何がですかエアリアさん?」
ミューラ達もエアリアの発言に耳を傾ける。
「だってサンタクロースはトウヤの世界の住人なんでしょ? なんでそんなヤツがこの世界に居るのよ!?」
「「「「あっ」」」」
しまった! そこに気づいてしまったか!!
「もしかしてサンタクロースは、異世界を転移できる力を持っているんじゃないかしら?」
「はい?」
いかん、思わず変な声が出た。
「だってそうでしょ? 異世界に居るトウヤの家にサンタクロースが来たのよ。って事は相手はトウヤがこの世界に居る事に気づいて次元を超えてやってきたのよ! それっととんでもない事だわ!!」
「……ウンソウダネ」
やべー、とてもヤバイ事になってきた。
このままではサンタクロースが次元移動能力を持つ超人になってしまう。
「という事は、サンタクロースさんにお会いできればトウヤさんを元の世界に戻す方法が見つかるという事ですか!?」
お会いしようと考えないでください!
「それどころか、二つの世界を自由に行き来する方法が見つかるかも知れないわ!」
見つからないで!
「それに気づくなんて凄いですエアリアさん!」
いかん、皆がエアリアを賞賛し始めた。
これは非常に不味い事態だ。
「ふふ、まぁね。ともあれこれでトウヤを元の世界に戻す希望が見えてきたわ! さっそくサンタの捜索を再開するわよ!」
いかん! このままではプレゼントを配るどころじゃなくるぞ! なんとかしてサンタの存在を守らねば!
「あー、でもだな。サンタはクリスマスの夜にしかやってこないんだ。つまりもうプレゼントを配り終えたのなら、この世界には居ないんじゃないのかな?」
という事にしておこう。
「何ですって!」
エアリアがショックで固まる。
「しまったわ、こんな事なら侵入した理由を聞くために手加減なんてせず、一撃で意識を失う程の攻撃で捕まえておけばよかったわ」
そうならなくて本当に良かったです。
「すみませんトウヤさん。私が至らないばかりに」
と、ミューラまで申し訳なさそうに誤ってくる。
「いやいや、二人とも悪くないから。気にしなくて良いから」
さすがに俺の嘘が原因で謝られても罪悪感が凄い。
「まだです皆さん。あきらめてはいけません」
とここでクロワさんが会話に加わってくる。
「どういう事クロワ?」
問いかけるエアリアにクロワさんが答える。
ヤバい、嫌な予感しかしない。
「まずサンタクロースが全員分のプレゼントを配り終えたかどうかを調べるべきでしょう。エアリアさんとミューラさんの部屋にきたのであれば、私達の部屋にも来る筈です」
甘いぜ! 既にお前達の部屋には転移魔法で移動済みだ!
「なるほど、確かにそうだ。もしかしたらまだサンタクロースがいるかもしれないからな。私はサンタクロースがまだ残っていた時の為に上空から監視を行う。逃げる不審者がいたら全力で攻撃を加えよう。私の部屋の確認は頼んだ」
と言ってシルファリアが窓から空に上がる。
ふっ、既にプレゼントは配り終えている。いまさらサンタは見つからないさ。
「では私達の部屋をチェックしましょう」
俺は内心ニヤリと笑いながらクロワさん達についていくのだった。
◆
「どうやら皆の部屋にもプレゼントは配り済みの様だな」
サリア、シルファリア、そしてクロワさんの部屋へとやってきたが、当然の事ながらサンタの姿はなく、替わりに枕元にプレゼントの入った箱が置かれていた。
「どうやら私達が集まっている隙に配られていたみたいですね」
サリアは残念ですと型を落とす。
良いんやで、そんなに落ち込まんでも。
「いえ、まだ最後の部屋が残っています」
へっ?
「最後……そうか! トウヤの部屋ね!」
はっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
「そうです! サンタクロースがトウヤさんの世界から来たのなら、当然トウヤさんにプレゼントを配ると考えるのが必然」
しまったぁぁぁぁぁぁぁ!! っつーか、自分用に偽装プレゼントなんて用意してねぇよぉぉぉぉぉぉ!!
やばい! 急いでなんか適当なモンを置かないと、いやプレゼント用のリボンも箱も無いし、そのまま品物が置かれてたらあからさまに怪しい! サンタ的には俺が本命って扱いなんだし。
やべー、どうする? どうする? 何か良いアイデアは無いか? せめて時間を稼げれば……
と、その時、俺の足を誰かが引っ張った。
「っ!?」
ってエアリア達は俺の前を歩いている。シルファリアは上空だし俺の足を掴むヤツなんて……マジで誰だよ!?
俺は慌てて足を掴んでいる犯人の姿を探す。
すると、そこには青みのかかった半透明の手が俺の足を掴んでいた。
「っっっ!?」
ゆ、幽霊!?
思わず叫びそうになった俺に、震える様な小さな声が聞こえてきた。
『……私にもプレゼントをくれるのでしたら、協力しますよサンタさん』
「っ!?」
俺がサンタの正体だとバレてる!?
一体何者だと俺は腕の先を見ると、そこには見覚えのある木箱がポツンと置かれていた。
『協力は、必要ですか?』
「あっはい」
名探偵、居たわ。
◆
「居た!」
屋敷の廊下を歩いていた俺達の前に、真っ赤な衣装の後ろ姿が見える。
だがその姿はすぐに突き当たりを曲がって姿を消してしまう。
「待ちなさい!」
エアリアが駆け出し、ミューラ達が後を追う。
そして俺だけが一人ポツンと置き去りにされた。
「よし今のうちだ!」
俺はエアリア達とサンタを追う事をせず、自分の部屋に向かって走ってゆく。
そして魔法の袋の中からプレゼントに使えそうな箱と布を取り出し、適当に赤い布をカットしてリボンの替わりにする。
「ええと、プレゼントは……この辺で良いだろ!」
適当に取り出した貴重なポーションを更に適当に箱に詰めていく。
宝石でもいいかと思ったんだが、勇者に宝石ってのもおかしいし、なにより俺は金に困っていないのでまぁ命を救うポーションの方が善意を感じるだろう。
ただこのポーション、貴重だったのは確かなんだが、どんな効能だったのかまでは思い出せない。
品物を良く見れば思い出せると思うんだが今はその時間も惜しい。
適当に梱包材として布をスキマに入れておき、フタをしたら布を来るんでリボンで仕上げをする。
よし、これでOKだ。
あとは皆と合流すればと思った時、部屋のドアが勢い良く開かれる。
「観念なさいサンタクロース!!」
やってきたのはエアリア達だ。
「ってトウヤ!? なにやってんのよ!?」
「何ってここは俺の部屋だから俺がいるのは当然だろ。皆がサンタを追いかけたから、俺は部屋にプレゼントが置かれてないか確かめに着たんだ。もしまだ置かれてないなら待ち構ればいいからな」
「そっか、でもプレゼントは……」
とエアリアは俺のそばに置かれているプレゼントを見る。
「ああ、もう既に置かれていた。そっちは?」
といっても、ここに来る時点で答えはわかりきっているんだが。
「見失ったわ。だからトウヤの部屋に来たんだけど、どうやら無駄足だったみたいね」
エアリアがガックリと肩を落とす。
「気にするな。サンタを捕まえるのは至難の業なんだ。むしろ捕まえられないのが普通さ」
などと適当な事を言いながらエアリアを慰める為に抱きしめる。
そして俺は、その後ろに隠れていた木箱の姿を確認した。
木箱から伸びた半透明の手は親指を上に上げてサムズアップする。
そう、そうなのだ。
あの木箱こそ、エアリア達が追いかけたサンタクロースの正体。
ウォーターゴーレムが偽装したニセサンタだったのだ。
アイツにエアリア達の注意を引きつけさせ、そのスキに俺が自分へのプレゼントを偽装する。
ふぅー、うまくいったぜ。
「サンタは捕まらなかったけど、プレゼントを貰えたんだからよしとしようぜ」
あとはうやむやのうちに全てを終わらせるだけだ。
俺は通信魔法で上空のシルファリアに作戦が失敗したので戻ってくるように伝える。
「そうですね」
と、ここでクロワさんも同意してくれる。さすがに元皇帝だけあって、切り替えが早い。
「サンタクロースはクリスマスの夜にのみ来る存在。ならば来年のクリスマスにやってくるであろうサンタクロースを迎撃すればよいのですから」
はい?
「成る程! その通りだわ!」
「さすがですクロワ様! 今年がダメなら来年ですね!」
やめてぇぇぇぇぇ!! 迎撃しないでぇぇぇぇ!!
「ほう、それは良い考えだな。私も微力ながら手を貸そう。エアリア達の追撃を逃れたサンタクロースと是非とも戦ってみたい」
やめろぉぉぉぉぉ! お前は戦いたいだけだろシルファリアァァァァァ!!
「そういう事でしたら、私の生活魔法で許可なく家に侵入したサンタクロースさんを捕らえる魔法トラップを設置しましょう」
いやぁぁぁぁぁ! 止めて! ウチをトラップハウスにしないでぇぇぇぇぇぇぇ!!
「よーっし! それじゃあ来年こそトウヤの為にサンタを捕まえるわよぉぉぉっ!」
「「「「おーっ!!」」」」
こうして、俺を置き去りにして、異世界のとある村に世界最強のサンタクロース捕獲部隊が誕生したのだった。
「って、どうしてこうなったっっっ!!!」
その光景を見ながら、俺は思わず小声で叫ぶ。
マジ来年からプレゼントどうしよう。
『……来年も協力しますか?』
と、こっそり足元に寄って来ていた木箱が提案してくる。
「……よろしくお願いします」
サンタ捕獲戦線、は来年に続く……かも知れない。
◆
翌朝、朝食をとりながらエアリア達はサンタから何を貰ったと話をしていた。
「で、私の箱にはコレが入ってたのよ。丁度欲しかったドンピシャの品でビックリしたわ」
「あ、私もです。欲しいなって思ってた物が入ってました」
その時の驚きを表現しながらエアリア達はプレゼントについて語り合う。
ふふふ、そうなんやで。サンタさんここ数週間君らが欲しい物を徹底的に調査してたんやぞ。
「ところで、トウヤはサンタクロースから何を貰ったの?」
とそこでエアリアがこちらに話題を振ってくる。
「俺のプレゼントか?」
「そうそう、私達が欲しい物をもらったって事は、トウヤも何か欲しい物をもらったって事でしょ?」
まぁそういう設定になるか。
「俺がもらったのはこのポーションだよ。容器の表面にキレイなラベルが貼ってあるし、たぶん貴重なモンだとは思うんだが」
とそのポーションを見たエアリア達が突然驚いた様子で顔を赤くする。
「皆急にどうしたんだ?」
「いや、あんたこれが何か気付いてないの?」
「ポーションだろ?」
まぁ貴重品だったのは確かだが。
「これはね……」
と続けたエアリアの言葉に、俺は自分が青くなるのを感じた。
「精力剤よ。それもかなり強力な」
「ぉ、ぉう?」
な・ん・で・す・と?
俺は軋み音をあげながら動くからくり人形の様に、ゆっくりとビンのラベルを自分に向ける。
そこに書いてあったのは、『超精力増強ポーション』という文字だった。
「っ!?」
し、しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!
これ確か魔王を倒す旅をしてた時に助けた商人にお礼にってもらったヤツだ!
確かそんときエアリアとミューラを見ながら旦那も大変でしょう? って言いながら渡してきたヤツだよ!
その時はこんなもん誰が使うかって魔法の袋に放り込んでそのまま放置してたんだったぁぁぁぁ!!
だが時既に遅し。エアリア達は顔を真っ赤にしつつも顔を隠した手のスキマから俺をガン見している。
「トウヤが欲しがっているものがソレ……だったって事は」
エアリアが顔を真っ赤にしながら俺とポーションを交互に見る。
「ま、まぁ、トウヤの気持ちは分からないでもないわ。やっぱり、家族は欲しいものね」
待って、まだそこまでは……
「私は神に仕える身ですが、トウヤさん付きの聖女としてその覚悟は出来ていました」
まだ覚悟しなくて良いです!
「私はむしろ歓迎しますよ。家族が出来るのは、とても嬉しい事ですから」
サリアが言うと背景的に割と重いです!
「よし、分かった! 早速作るか!!」
めっちゃ嬉しそうだなシルファリアさんよぉ!!
「……」
クロワさんだけが無言だ。さすがにこのハレンチ天国に呆れ果てたか?
「トウヤさん」
「は、はい!」
お説教タイムですか!? いやある意味助かるが。
「優しくしてくださいね」
助からなかったぁぁぁぁぁぁぁ!! 結局恋人達の性夜オチかよぉぉぉぉ!!
これは……覚悟を決めなければいけないのか……
全てを諦めた俺は、手にしたポーションの蓋を開ける。
そして、勢い良く飲み干した。
「こうなったらやってやらぁぁぁぁぁ!!!」
「「「「「キャー!!」」」」」
朝日の中、愛しい女達の黄色い歓声が上がる。
『お薬は用法用量を守って呑みましょう』
などと、部屋の片隅でプレゼントを楽しそうに眺めながら、木箱の中のウォーターゴーレムが締めるのであった。
転移魔法で自分の部屋へと逃げ帰った俺は、急いで元の服に着替え何食わぬ顔でエアリア達と合流した。
そして同じくやってきたサリア達と共に事のあらましを聞いている最中だ。
ちなみにサリア達がやって来たのを物陰に隠れて確認してから転移魔法で彼女達の部屋へと侵入し、プレゼントを置いてから最後に到着したので、もしもここに名探偵が居たら俺が犯人とバレてしまうかも知れない。
だがここに名探偵はいない。彼女達はサンタさんからのプレゼントに心ときめかせる事だろう。ふぅーはははっ!!
「なるほどねぇ」
「一体何者だったのかしら?」
訝しむエアリア達。この様子だとプレゼントの存在にはまだ気づいていないみたいだな。
「もしかしてサンタクロースだったのかもな」
「サンタクロース?」
わざとらしく声をあげた俺に、エアリア達の視線が注目する。
「サンタクロースってのは、クリスマスの夜に良い子の枕元にプレゼントを置いていってくれる謎のお爺さんの事さ」
「なにそれ気持ち悪い」
あれ?
「一体なんのメリットがあってそんな事をするのでしょうか?」
いやメリットって。
「なんらかのアピールでしょうか?」
何のだよ。
「単純な善意とは思えんな。何か思惑があるのだろう」
まって、そんな複雑に考えないで。
「だとすれば一体どのような意味が? プレゼントという事は悪意はないと思いたいのですが」
無いよ! 善意100%だよ!
しかし、エアリア達はサンタの行動を不振がり、プレゼントという言葉に心を弾ませる素振りすら見せなかった。むしろ危険物扱いである。
いやまぁ、確かに普通に考えりゃ住居不法侵入ですからねぇ。
「……はっ!? 待って! それってとんでもない事なんじゃないの!?」
とそこでエアリアが驚きの声をあげる。
なんだい? ようやくサンタさんのステキさに気付いたのかね少女よ?
「何がですかエアリアさん?」
ミューラ達もエアリアの発言に耳を傾ける。
「だってサンタクロースはトウヤの世界の住人なんでしょ? なんでそんなヤツがこの世界に居るのよ!?」
「「「「あっ」」」」
しまった! そこに気づいてしまったか!!
「もしかしてサンタクロースは、異世界を転移できる力を持っているんじゃないかしら?」
「はい?」
いかん、思わず変な声が出た。
「だってそうでしょ? 異世界に居るトウヤの家にサンタクロースが来たのよ。って事は相手はトウヤがこの世界に居る事に気づいて次元を超えてやってきたのよ! それっととんでもない事だわ!!」
「……ウンソウダネ」
やべー、とてもヤバイ事になってきた。
このままではサンタクロースが次元移動能力を持つ超人になってしまう。
「という事は、サンタクロースさんにお会いできればトウヤさんを元の世界に戻す方法が見つかるという事ですか!?」
お会いしようと考えないでください!
「それどころか、二つの世界を自由に行き来する方法が見つかるかも知れないわ!」
見つからないで!
「それに気づくなんて凄いですエアリアさん!」
いかん、皆がエアリアを賞賛し始めた。
これは非常に不味い事態だ。
「ふふ、まぁね。ともあれこれでトウヤを元の世界に戻す希望が見えてきたわ! さっそくサンタの捜索を再開するわよ!」
いかん! このままではプレゼントを配るどころじゃなくるぞ! なんとかしてサンタの存在を守らねば!
「あー、でもだな。サンタはクリスマスの夜にしかやってこないんだ。つまりもうプレゼントを配り終えたのなら、この世界には居ないんじゃないのかな?」
という事にしておこう。
「何ですって!」
エアリアがショックで固まる。
「しまったわ、こんな事なら侵入した理由を聞くために手加減なんてせず、一撃で意識を失う程の攻撃で捕まえておけばよかったわ」
そうならなくて本当に良かったです。
「すみませんトウヤさん。私が至らないばかりに」
と、ミューラまで申し訳なさそうに誤ってくる。
「いやいや、二人とも悪くないから。気にしなくて良いから」
さすがに俺の嘘が原因で謝られても罪悪感が凄い。
「まだです皆さん。あきらめてはいけません」
とここでクロワさんが会話に加わってくる。
「どういう事クロワ?」
問いかけるエアリアにクロワさんが答える。
ヤバい、嫌な予感しかしない。
「まずサンタクロースが全員分のプレゼントを配り終えたかどうかを調べるべきでしょう。エアリアさんとミューラさんの部屋にきたのであれば、私達の部屋にも来る筈です」
甘いぜ! 既にお前達の部屋には転移魔法で移動済みだ!
「なるほど、確かにそうだ。もしかしたらまだサンタクロースがいるかもしれないからな。私はサンタクロースがまだ残っていた時の為に上空から監視を行う。逃げる不審者がいたら全力で攻撃を加えよう。私の部屋の確認は頼んだ」
と言ってシルファリアが窓から空に上がる。
ふっ、既にプレゼントは配り終えている。いまさらサンタは見つからないさ。
「では私達の部屋をチェックしましょう」
俺は内心ニヤリと笑いながらクロワさん達についていくのだった。
◆
「どうやら皆の部屋にもプレゼントは配り済みの様だな」
サリア、シルファリア、そしてクロワさんの部屋へとやってきたが、当然の事ながらサンタの姿はなく、替わりに枕元にプレゼントの入った箱が置かれていた。
「どうやら私達が集まっている隙に配られていたみたいですね」
サリアは残念ですと型を落とす。
良いんやで、そんなに落ち込まんでも。
「いえ、まだ最後の部屋が残っています」
へっ?
「最後……そうか! トウヤの部屋ね!」
はっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
「そうです! サンタクロースがトウヤさんの世界から来たのなら、当然トウヤさんにプレゼントを配ると考えるのが必然」
しまったぁぁぁぁぁぁぁ!! っつーか、自分用に偽装プレゼントなんて用意してねぇよぉぉぉぉぉぉ!!
やばい! 急いでなんか適当なモンを置かないと、いやプレゼント用のリボンも箱も無いし、そのまま品物が置かれてたらあからさまに怪しい! サンタ的には俺が本命って扱いなんだし。
やべー、どうする? どうする? 何か良いアイデアは無いか? せめて時間を稼げれば……
と、その時、俺の足を誰かが引っ張った。
「っ!?」
ってエアリア達は俺の前を歩いている。シルファリアは上空だし俺の足を掴むヤツなんて……マジで誰だよ!?
俺は慌てて足を掴んでいる犯人の姿を探す。
すると、そこには青みのかかった半透明の手が俺の足を掴んでいた。
「っっっ!?」
ゆ、幽霊!?
思わず叫びそうになった俺に、震える様な小さな声が聞こえてきた。
『……私にもプレゼントをくれるのでしたら、協力しますよサンタさん』
「っ!?」
俺がサンタの正体だとバレてる!?
一体何者だと俺は腕の先を見ると、そこには見覚えのある木箱がポツンと置かれていた。
『協力は、必要ですか?』
「あっはい」
名探偵、居たわ。
◆
「居た!」
屋敷の廊下を歩いていた俺達の前に、真っ赤な衣装の後ろ姿が見える。
だがその姿はすぐに突き当たりを曲がって姿を消してしまう。
「待ちなさい!」
エアリアが駆け出し、ミューラ達が後を追う。
そして俺だけが一人ポツンと置き去りにされた。
「よし今のうちだ!」
俺はエアリア達とサンタを追う事をせず、自分の部屋に向かって走ってゆく。
そして魔法の袋の中からプレゼントに使えそうな箱と布を取り出し、適当に赤い布をカットしてリボンの替わりにする。
「ええと、プレゼントは……この辺で良いだろ!」
適当に取り出した貴重なポーションを更に適当に箱に詰めていく。
宝石でもいいかと思ったんだが、勇者に宝石ってのもおかしいし、なにより俺は金に困っていないのでまぁ命を救うポーションの方が善意を感じるだろう。
ただこのポーション、貴重だったのは確かなんだが、どんな効能だったのかまでは思い出せない。
品物を良く見れば思い出せると思うんだが今はその時間も惜しい。
適当に梱包材として布をスキマに入れておき、フタをしたら布を来るんでリボンで仕上げをする。
よし、これでOKだ。
あとは皆と合流すればと思った時、部屋のドアが勢い良く開かれる。
「観念なさいサンタクロース!!」
やってきたのはエアリア達だ。
「ってトウヤ!? なにやってんのよ!?」
「何ってここは俺の部屋だから俺がいるのは当然だろ。皆がサンタを追いかけたから、俺は部屋にプレゼントが置かれてないか確かめに着たんだ。もしまだ置かれてないなら待ち構ればいいからな」
「そっか、でもプレゼントは……」
とエアリアは俺のそばに置かれているプレゼントを見る。
「ああ、もう既に置かれていた。そっちは?」
といっても、ここに来る時点で答えはわかりきっているんだが。
「見失ったわ。だからトウヤの部屋に来たんだけど、どうやら無駄足だったみたいね」
エアリアがガックリと肩を落とす。
「気にするな。サンタを捕まえるのは至難の業なんだ。むしろ捕まえられないのが普通さ」
などと適当な事を言いながらエアリアを慰める為に抱きしめる。
そして俺は、その後ろに隠れていた木箱の姿を確認した。
木箱から伸びた半透明の手は親指を上に上げてサムズアップする。
そう、そうなのだ。
あの木箱こそ、エアリア達が追いかけたサンタクロースの正体。
ウォーターゴーレムが偽装したニセサンタだったのだ。
アイツにエアリア達の注意を引きつけさせ、そのスキに俺が自分へのプレゼントを偽装する。
ふぅー、うまくいったぜ。
「サンタは捕まらなかったけど、プレゼントを貰えたんだからよしとしようぜ」
あとはうやむやのうちに全てを終わらせるだけだ。
俺は通信魔法で上空のシルファリアに作戦が失敗したので戻ってくるように伝える。
「そうですね」
と、ここでクロワさんも同意してくれる。さすがに元皇帝だけあって、切り替えが早い。
「サンタクロースはクリスマスの夜にのみ来る存在。ならば来年のクリスマスにやってくるであろうサンタクロースを迎撃すればよいのですから」
はい?
「成る程! その通りだわ!」
「さすがですクロワ様! 今年がダメなら来年ですね!」
やめてぇぇぇぇぇ!! 迎撃しないでぇぇぇぇ!!
「ほう、それは良い考えだな。私も微力ながら手を貸そう。エアリア達の追撃を逃れたサンタクロースと是非とも戦ってみたい」
やめろぉぉぉぉぉ! お前は戦いたいだけだろシルファリアァァァァァ!!
「そういう事でしたら、私の生活魔法で許可なく家に侵入したサンタクロースさんを捕らえる魔法トラップを設置しましょう」
いやぁぁぁぁぁ! 止めて! ウチをトラップハウスにしないでぇぇぇぇぇぇぇ!!
「よーっし! それじゃあ来年こそトウヤの為にサンタを捕まえるわよぉぉぉっ!」
「「「「おーっ!!」」」」
こうして、俺を置き去りにして、異世界のとある村に世界最強のサンタクロース捕獲部隊が誕生したのだった。
「って、どうしてこうなったっっっ!!!」
その光景を見ながら、俺は思わず小声で叫ぶ。
マジ来年からプレゼントどうしよう。
『……来年も協力しますか?』
と、こっそり足元に寄って来ていた木箱が提案してくる。
「……よろしくお願いします」
サンタ捕獲戦線、は来年に続く……かも知れない。
◆
翌朝、朝食をとりながらエアリア達はサンタから何を貰ったと話をしていた。
「で、私の箱にはコレが入ってたのよ。丁度欲しかったドンピシャの品でビックリしたわ」
「あ、私もです。欲しいなって思ってた物が入ってました」
その時の驚きを表現しながらエアリア達はプレゼントについて語り合う。
ふふふ、そうなんやで。サンタさんここ数週間君らが欲しい物を徹底的に調査してたんやぞ。
「ところで、トウヤはサンタクロースから何を貰ったの?」
とそこでエアリアがこちらに話題を振ってくる。
「俺のプレゼントか?」
「そうそう、私達が欲しい物をもらったって事は、トウヤも何か欲しい物をもらったって事でしょ?」
まぁそういう設定になるか。
「俺がもらったのはこのポーションだよ。容器の表面にキレイなラベルが貼ってあるし、たぶん貴重なモンだとは思うんだが」
とそのポーションを見たエアリア達が突然驚いた様子で顔を赤くする。
「皆急にどうしたんだ?」
「いや、あんたこれが何か気付いてないの?」
「ポーションだろ?」
まぁ貴重品だったのは確かだが。
「これはね……」
と続けたエアリアの言葉に、俺は自分が青くなるのを感じた。
「精力剤よ。それもかなり強力な」
「ぉ、ぉう?」
な・ん・で・す・と?
俺は軋み音をあげながら動くからくり人形の様に、ゆっくりとビンのラベルを自分に向ける。
そこに書いてあったのは、『超精力増強ポーション』という文字だった。
「っ!?」
し、しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!
これ確か魔王を倒す旅をしてた時に助けた商人にお礼にってもらったヤツだ!
確かそんときエアリアとミューラを見ながら旦那も大変でしょう? って言いながら渡してきたヤツだよ!
その時はこんなもん誰が使うかって魔法の袋に放り込んでそのまま放置してたんだったぁぁぁぁ!!
だが時既に遅し。エアリア達は顔を真っ赤にしつつも顔を隠した手のスキマから俺をガン見している。
「トウヤが欲しがっているものがソレ……だったって事は」
エアリアが顔を真っ赤にしながら俺とポーションを交互に見る。
「ま、まぁ、トウヤの気持ちは分からないでもないわ。やっぱり、家族は欲しいものね」
待って、まだそこまでは……
「私は神に仕える身ですが、トウヤさん付きの聖女としてその覚悟は出来ていました」
まだ覚悟しなくて良いです!
「私はむしろ歓迎しますよ。家族が出来るのは、とても嬉しい事ですから」
サリアが言うと背景的に割と重いです!
「よし、分かった! 早速作るか!!」
めっちゃ嬉しそうだなシルファリアさんよぉ!!
「……」
クロワさんだけが無言だ。さすがにこのハレンチ天国に呆れ果てたか?
「トウヤさん」
「は、はい!」
お説教タイムですか!? いやある意味助かるが。
「優しくしてくださいね」
助からなかったぁぁぁぁぁぁぁ!! 結局恋人達の性夜オチかよぉぉぉぉ!!
これは……覚悟を決めなければいけないのか……
全てを諦めた俺は、手にしたポーションの蓋を開ける。
そして、勢い良く飲み干した。
「こうなったらやってやらぁぁぁぁぁ!!!」
「「「「「キャー!!」」」」」
朝日の中、愛しい女達の黄色い歓声が上がる。
『お薬は用法用量を守って呑みましょう』
などと、部屋の片隅でプレゼントを楽しそうに眺めながら、木箱の中のウォーターゴーレムが締めるのであった。
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これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
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◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
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※カクヨムとなろうにも投稿しています
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