勇者のその後~地球に帰れなくなったので自分の為に異世界を住み良くしました~

十一屋 翠

文字の大きさ
88 / 105
連載

第138話 勇者、屋敷に潜入する

しおりを挟む
「姫君が拉致されたのは……あのユキ姫様のお屋敷だ」

 バ、ババァァァァァァァァァァァァァァァァ!!
 なんと生き残った姫はババァの元にいる事が判明した。
 あのババァ、マジで何考えてんだ!?
 自分の親戚を拉致とか何してくれてるんだよ。

「ただ問題は姫君がどこに囚われているのか分からないということだ」

 え?

「あれ? キュウさんの部下が調査に行ったんじゃないんですか」

「うむ、我が隠密衆がユキ姫様の屋敷を徹底的に調査したのだが、姫君が囚われている部屋はついに見つけられなんだのだ」

 キュウさんの話では、屋敷の隅々まで探っても皇族と思しき女性の姿は見当たらず、屋敷の間取りから隠し部屋が無いかを探ったりもしたが、地下室すら見つからなかったとの事だ。

「囚われの姫は閉じ込められている訳ではないって事ですか?」、

「おそらくな。だが送り込んだ隠密からユキ姫がそれらしい事を言っていたとの報告があった。あの方が関わっている事は間違いないだろう」

 おのれババァめ!

「屋敷で働いている人間の大半は身元の確かな者達を使っているので姫である可能性は無い。となると考えられるのは下女として不浄の仕事などでこき使われている者達だが、いくら何でも皇族をそのような仕事に付かせるとは思えんしなぁ」

 いやいやー、寧ろあのババァなら何をしてもおかしくない位の気持ちでいた方が良いですよー。
 かつて魔王を倒す為の旅で、俺は人間の醜さを嫌という程味わった。
 そしてその旅の中で、人間は常に理性や利益を考慮した理知的な判断が出来るわけではないと言う事も理解していた。
 極限状態の人間ほど、理性より感情を優先するのだと。

 そして裕福な環境で甘やかされて育った人間には感情を優先する者が多い事も、多くの貴族と接触して理解していた。
 当主として厳しく育てられた人間なら、悪党でも利益や外聞を気にして危険な真似はしないが、そう言った立場を気にしなくてよい貴族の子供などは、本当に酷いものだったのだ。
そこを行くとレイリィは幼いのにとても理性的な良い子だった。
 まぁあの子の場合は環境が大人にならざるを得ない状況だったので仕方ないのだが。
 うん。今度会いに行くときは沢山のオモチャやお菓子をお土産に持って行ってあげよう。

 ともあれ、ここからは俺の出番の様だ。

「では、ここからは俺が調査する事にします」

「何? だが勇者殿に隠密調査は……」

 はっはっはっ、何をおっしゃる。
 ウチの村の忍者娘を育成したのは俺ですよ?

「おかませください。それに俺には、姫を探す良いアテがありますので」

 そう言って、俺は祭壇に飾られていたミカガミノツルギを指さした。

 ◆

 夜、俺はキュウさんの部下に案内されてババァの屋敷へとやって来ていた。

「あー、やっぱり主様の腰に装備されるのは最高に心地良い気分です~」

 腰に佩いたミカガミノツルギが良く分からない感想を漏らす。

「調子に乗らないで貰えますかー? ご主人様は仕方なく貴方を連れて来た事をお忘れなくー」

 そして何故か反対側の腰に装備した聖剣フェルクシオンが対抗意識を燃やす。
 お前等俺の腰で口喧嘩するなよ。

「クスクスクス、それは仕方のない事です。この度の調査では私の必要が不可欠なのですから。貴女と違ってね」

「何ですってー!」

「良いから少し黙ってろお前等。今は隠密行動の最中なんだぞ」

 ホント勘弁してほしい。
 まさかこの二人、いや二刀? 二剣? がここまで仲が悪いとは。
 片刃と両刃が相性が悪いのだろうか?

 案内してくれたキュウさんの部下に礼を言うと、俺は屋敷を囲う塀をジャンプで軽く飛び越えた。
 この国の屋敷の壁は低めなので、わざわざ魔法で飛び越えなくて済むので助かる。
 お国柄なのか、それとも過去にこの国に骨を埋めた勇者が伝えた建築様式なのか。
 もしかしたら、この国は俺と同じ日本出身の勇者が作った国なのではないだろうか。
 そう思わずにはいられない程にこの国はかつての日本によく似ていた。

「ミカガミ、姫の気配は感じるか?」

 俺はミカガミノツルギにババァ以外の姫の気配が無いかを問いかける。

「ええ、感じます。ユキ姫以外の皇族の気配がこの屋敷にはありますね」

 やはりか。ミカガミノツルギを連れてきて正解だった。
 皇族の気配を感じ取れるコイツなら、屋敷に姫の気配があるかをはっきりと感じ取れるのではないかと思ったのだ。
 つまりは皇族レーダーだ。

「これだけ近ければ皇族の気配もビンビン感じますよ。左奥に向かってください」

「分かった」

 俺はミカガミノツルギの案内に従って屋敷の中を進んでゆく。
 
「この先を左です」

 探索の途中見張りに遭遇しそうになったりもしたが、俺は天井に張り付いたり物陰に隠れたりしてやり過ごしていく。

「この先から皇族の反応を感じます」

 ミカガミノツルギの示した先には大きな部屋が見え、そこから灯りが漏れていた。

「まぁ仮にも王族だもんな。あのババァもそれなりの部屋を用意していたって訳か」

 ただそうなると、キュウさんの部下が調べた時に姫の存在が見つからなかった事が気になる。

「この役立たずが!」

 とその時、部屋の中から大きな声が聞こえて来た。
 というか今の声って……
 俺はそっと部屋に近づくと、そっと隙間から中を覗く。
 そこに居たのは……

「まったく、これだからお前は使えない! 本当に役に立たない子だねぇ!」

 見覚えがあり過ぎるババァの姿があった。
 ババァは使用人と思しきボロを着た女の子? を足蹴にして興奮していた。

 っていうかここ、もしかしてババァの部屋じゃねぇの!
 室内を見ると、外の和風建築とは裏腹に内装は妙に西洋チックだった。
 具体的には畳の上にソファーを置いて西洋風の棚なんかが部屋の隅に配置したる。
 はっきり言ってアンバランス!
 あと自分の肖像画を飾るな! しかもシワの数めっちゃ控えめだぞ!
 
「はー、お前の顔を醜い顔を見ていると気が滅入るわ。さっさと出て行きなさい」

 そう言ってババァが足をあげると、足蹴にされていた使用人はヨロヨロと立ち上がり、部屋を出る為にこちらに向かって歩いてくる。

「っ!?」

 急いで逃げなければいけないと思った俺だったが、その使用人の顔を見た瞬間、ビクリと体が硬直してしまう。

「なんだありゃ……」

 その使用人の顔は、お世辞にも美人とは言えなかった。
 寧ろ不細工、いやそんな言葉では言い表せないような姿だ。
 衣装から女である事は分かったが、顔だけ見れば人間と気付く事すら出来ないのではないかという不気味さである。
 あえていうならば、映画の特殊メイクを施された化け物役の様な外見といった感じだろうか。
 仮にも皇族が雇うとは、とても思えない容姿の持ち主だ。

「主様、早く隠れて!」

「っ!? ああ」

 器用にも小声で叫んだミカガミノツルギのおかげで俺は平静を取り戻し、慌てて物陰に隠れる。
 そして部屋から出た使用人がノソノソと痛むのであろう己の体を抱きしめながら屋敷の闇へと消えていく。
 その目から涙を流しながら。

「……」

「主様」

 何ともいえない気持ちで使用人を見送っていた俺に、ミカガミノツルギが告げて来る。

「何だ?」

 だが、ミカガミノツルギの言葉は俺の感傷を軽く吹き飛ばすとんでもない内容だった。

「……今の娘から、皇族の気配を感じました」

 ......マジですか!?
しおりを挟む
感想 285

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。