勇者仏滾る(ぶったぎる)~坊さん勇者は骨伝導お経を叩き込んで魔王を倒す~

十一屋 翠

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第1話 坊主異世界に立つ!

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それは坊主であった。
 頭に頭髪は一本たりとも無く。
 分厚くも飾り気のない黒と白の衣装は実用性の一点張り。
なにより、その体は修行によって鍛え上げられていた。

 「良くぞいらして下さいました勇者様!」

  坊主の前には赤いドレスをまとった金糸の髪の美しい少女が感激に身を震わせていた。

 「勇者? 拙僧の事を言っておられるのか?」

  坊主が問うと、少女は涙をこらえてうなずく。

 「その通りです。貴方様はわが国の魔法使い達が命を賭して召喚した勇者様なのです!」

  命を賭したとの言葉に坊主が視線をさまよわせる。
  なるほど確かの少女の言うとおり、自分の周囲には6人のローブを纏った男達が息絶えていた。

 「彼らは勇者様を呼ぶ為に、禁断の勇者召喚魔法を使ったのです。この魔法は6人の術者の魂を神への供物とする事で成立する犠牲の儀式。ですが彼らは自分達が死ぬとわかっていても自らの使命に殉じたのです!」

  少女の言っている事はほとんど理解できなかったが、それでも坊主に理解できる事があった。
  それはこの漢達が己の生き様を貫いたという事だ。
  生まれた国は違えども、男の生き様に貴賎は無い。
  坊主は男達の為に手を合わせた。

  鮮烈!

  少女は魔法使い達の為に祈りを捧げる坊主の姿に気高い戦士の誇りと共感を感じ取った。
  異世界から召喚された勇者は魔法使い達の殉死に報いてくれるのだと。
  少女は涙した。
  涙せずには居られなかった。
  これほど義理堅い心を持つ男が勇者なのだ。
  ならばこの国は、否、世界は救われると。
  ゆえに涙した。

 「勇者様、どうか魔王を倒してこの世界を救ってください!」

 「否、ソレは出来ぬ」

  坊主は即座に拒絶した。

 「っ!? っっっっっ!」

  あまりのショックに気絶しそうになった少女だったが、寸前でこらえた。
  なかなかタフである。

 「な、何故ですか!? 褒美ならば私に用意できるものであれば何でも用意いたします! 地位も、名誉も、財宝も! ……お、女が必要でしたらこの私も含めて何人でも用意いたします」

  やや顔を赤らめながらも少女は食い下がる。
  ちなみに坊主はなかなかの美丈夫であった。

 「否、そうではないのだ」

 「では何が不満なのでございますか!?」

 「うむ、拙僧坊主だからな! 勇者ではない!!」

 「きゅう」

  少女はこんどこそ気絶した。
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